仮病疑惑

蓮實長治

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仮病疑惑

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「なあ、K、お前、この前学校休んだの仮病だっただろ?」
「ち……違うよ」
「どうせ、お前ん家政婦メイドさんに、代りに宿題をやってもらってたのが親にバレたせいで、宿題が間に合わなくなって、学校休んだんだろ」
「な……なに、いってんだよ……。ちがうに決って……」
「なんで、いつも嘘ばっかり吐いてるお前の言う事を、今度だけ信じないといけないんだよ?」
「ちがう……ちがう……ちがう……ちがう……」

「うわああああああっっっっっ!!」
 何で、60過ぎにもなって、小学生の頃の嫌な思い出を夢で見る羽目になるんだ?
「あなた……どうしたの?」
 かなり大きな声で叫んでしまったらしい。横で寝ていた妻まで起してしまったようだ。
「い……いや……何でもない」

 自宅の居間のソファで愛犬の背を撫でながら今後の事を考え続けていた。
 回復したら仕事に復帰すべきか……それとも……もう齢なので引退すべきか……。
「ねぇ、あなた……」
 その時、妻が私に声をかけてきた。
「病気で休職してるのに、何で、ここ半月、病院に行ってないの?」
 ……妻よ……お前もか……。
「だから、大きな病院だと事前に予約してる日じゃないと診察してくれないの」
「へぇ、そんなものかしら……?」

「次の社長は今月中に決まる予定です。で、社長がもし復帰される場合は役員待遇になりますが、役職は……復帰が決ってから決定する予定です」
 私の自宅にやって来た総務部長は、そう説明した。
「あの……私の休職について、社内で何か言ってる人は居ますか?」
 嫌な答しか返って来ないのは判っていたが、私は、一応、気になっている事を聞いた。
「ああ……気分を害されるかも知れませんが……『社長が、また、仮病使って仕事を投げ出した』って言ってる人が結構……」
「困ったものですね。そう云う人達に負けないようにお願いしますよ」
「それと……診断書はまだですか?」
「えっ?」
「だから、社長の診断書ですよ。社長から内々に休職の御意志を伝えられた時に説明しましたよね? お医者さんに『休職した方が良い』って診断書を書いてもらって、会社に出して下さい」
「ちょっと待って下さい……前回、病気で休職した時には、そんなものは必要無かったですよね?」
「だから……その時のせいですよ」
「どう云う事ですか?」
「一般社員が病気で休職する時は、医者の診断書が要るのに、より責任が重い社長は例外だ、ってのはおかしい、って社内の意見が有りまして……前回、社長が休職されて復帰するまでの間に社内規則が変りました。早く出して下さい」
「じゃ……じゃあ……次に診察に行く時に、お医者さんに書いてもらいます……」
「いつですか?」
「そ……それは……」
 これから、当分、毎晩のように、小学校の頃の嫌な思い出を夢に見る事になりそうだ……。
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