謝罪って言っても形だけですよ

蓮實長治

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謝罪って言っても形だけですよ

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「なるほど……これが准教授あなたがtwitterで『いいね』したtweetですか……。何を考えてんですか?」
 勤務先である大学が雇った「炎上対策アドバイザー」に呼び出されて、そう、責められる羽目になった。
 何で……俺より10以上若いヤツに怒られて……しかも怒鳴り返す事も出来ないのだ?
「いや……でも……その……」
 俺は……twitter上で、俺の「失言」を擁護してくれたいわゆる「ネット論客」によるtweetを見付けて……「いいね」してしまったのだ。
「twitterの『いいね』は他の人も見る事が出来て、センセをフォローしてる人のTLにも表示される、って事は知ってますよね」
「は……はぁ……でも……」
「あのね……『形だけの謝罪』ってのを舐めてませんか?『形だけの謝罪で済ませたい』ってのは、センセの御希望でしたよね? センセが私の指示に従わず自分の御希望に反するような真似をして『再炎上』しても、大学がウチに払う金は変んない、って契約なんですよ」
 何だよ……「心理カウンセラーの資格も持ってる」筈なのに、何で、こいつは圧迫面接みたいな真似をするんだ?
「センセ……改めて、御希望を伺います?本当に『形だけの謝罪』で済ませたいんですか? それとも『本心から反省』する方が楽だと判断されますか? 前者の場合、SNSやめますか? それとも、大学に請求する金額が上がりますが……私の許可なくtweetもRTも『お気に入り』も出来ないようにしますか?」

 始まりは他人が起こした炎上だった。
 ある与党政治家……まぁ、そろそろ閣僚になってもおかしくない人で、選挙区以外でも、結構、名が知られてる……が、さる女性お笑いタレントを「デブ」と呼んだ事だった。……まず、これが炎上した。
 続いて、ある女子アナが、TVの昼のバラエティー番組で、司会者が「失言」をした政治家を擁護しようとしていたのに、場の空気を読まずに、政治家を厳しく批判した。そして……「失言」した政治家を火達磨にした連中とは逆の意見の連中の間で、この女子アナを火達磨にすべき、と云う考えが広まった。
 そして……幸か不幸か……私がtwitterでフォローしてる人達は、政治家の「失言」は「失言」って程か? 例の女子アナの発言や番組での態度こそ「正義の暴走」「立場をわきまえていない」モノじゃないのか? と云う意見の人が多く……はっきり言えば、私も似たような意見だった。
 そして、その場のノリで……思わず……tweetしてしまったのだ……。
「男にモてないブスだから、あんな事を言うようなフェミ婆ァになったんだよ」

「センパイ……マズいですよ。批判するのは『表現の自由』の範囲内でしょうが……肝心の番組観てないでしょ」
 どうやら、俺のtweetがプチ炎上してるらしく、学生時代に同じ研究室の後輩だったヤツから、そんなDMが送られてきた。
 しまった……そうだった……。
 たしかに迂闊だった。
 そして、俺は、Youtubeにアップされてた問題の番組を見付け……。
 その時、自分の間違いに気付いたと錯覚してしまった。
 女子アナになれたと云う事は……つまり……。
 いや……後輩は「批判するなら、相手の言ってる事を聞いた上で批判しろ」と言いたかったのだろうが……俺は二度目の失敗をしてしまった。
「すいません。あの女子アナを『男にモてないブス』と呼んだ事を謝罪します。でも、何であんな美人がフェミ婆ァみたいな事を言うのか、さっぱり判らない」

「先生……何、考えてんですか?」
「えっと……あの……」
 気付いた時には俺も火達磨になっていた。
 そして、勤務先である大学の総務に呼び出された。
「すいません……電凸か何か有ったんでしょうか?」
「あのね……こんな御時世なんで、この大学に勤務してる先生達がSNS上でどう云う言動をしてるか、総務の方でチェックしてるんです」
「は……はぁ……」
 総務のヤツは溜息を付いて、こう言った。
「大学の方で『炎上対策アドバイザー』を雇いました。今後はその方の指示に従って下さい」
「えっ……えっと……」
「大学の予算で雇った事を忘れないで下さいね」

「私は心理カウンセラーの資格も持っています。そして、これは、表向きはネット上で『炎上』を起してしまった方への心理面でのアドバイスと云うていを取っています」
 「炎上対策アドバイザー」を名乗る、その若造は、まず、そう言った。
「は……はぁ……」
「ですので、私には守秘義務が有ります。仮に、ここで先生が言われた事を私が外に漏らしたら……先生と先生の勤務先の大学には、私を訴える権利が有り、ほぼ、確実に私が裁判で負ける事になるでしょう。なので、正直に言って下さい」
 そう言って「炎上対策アドバイザー」は紙を渡した。
 その紙には、こう書かれていた。
-----------------------------------------
□SNSをやめてもよい
□どうしてもSNSを続けたい
□心からの反省と謝罪をしたいので、どうすれば「心からの反省と謝罪」になるか知りたい
□あくまで、形だけの謝罪で済ませたいので、アドバイスが欲しい
-----------------------------------------
 そして、俺は、三度目の失敗をした。
 「どうしてもSNSを続けたい」「あくまで、形だけの謝罪で済ませたいので、アドバイスが欲しい」にチェックを入れてしまったのだ。
 地獄への道は善意ではなく「安易な選択」により舗装されていた。

 気付いた時には「炎上対策アドバイザー」のせいで、かなりの人数の人達をフォローから外し、俺を擁護してくれた人達や一連の「連続炎上」について俺に近い意見の人達をミュートする羽目になった。
 俺のTLには……俺の「失言」を擁護する意見は、ほとんど表示されなくなっていた。
「あの……これで、ご満足で……その本……何ですか?」
 何回目かの「炎上対策アドバイザー」との面談で、奴は……学術書を読み慣れてる俺からしてもブ厚めに見える本を何冊も取り出した。
 全てフェミニズム関係の専門書だった。
「『形だけの謝罪』をしたければ、『形』が判ってないと、どうしようも無いですよね。これを読んでレポートを書いて下さい。センセが学生に『この本の内容をレポートしろ』と言った時に期待するような内容のモノをね。つまり、本の内容の要約と、センセ独自の考察です」
「は……はぁ……」
「ただし、私も念の為、内容をチェックしますが、レポートには……センセの身元が特定されるような事は書かないで下さい」
「えっ? どう云う事です?」
「センセが書いたレポートを第三者に見せるからですよ」
「へっ?」
「レポートの内容をフェミニズム関係の複数の研究者にチェックしてもらって、添削してもらいます。それを見れば、SNSでどう振舞えば『形だけの謝罪』になるか御理解頂けるでしょう」

「あの……センセ……一体全体、何を考えてるんですか?」
 それが「炎上対策アドバイザー」との最後の面談になる筈だった。
 しかし……その直前に、俺のやらかしがバレてしまったのだ……。
「い……いや……その……」
「別アカ作った上で、以前より酷い事をtweetしてる、って何考えてんですか?」
「バレないと思って……」
「いい齢して、何、コンビニで万引きしたのがバレた中学生みたいな事を言ってるんですか? とっくにSNSではセンセの別アカだと晒されてますよ」
「恐かったんですよ……ッ‼」
「はぁっ?」
「『形だけの謝罪』のフリをし続けてる内に……『形』の方が俺の『本心』を侵食してるような気がしてきて……だから……どこかに本物の『本心』を書き続けないと……俺が俺じゃなくなるような気がして……」
 そうだ……気付いた時には……俺は……例えば女性を「ブス」「デブ」と呼ぶ意見を目にすると、反射的に嫌悪感を感じるようになっていた。「形」だけの筈なのに……その「形」が俺の第二の本能と化しつつあった。
 「炎上対策アドバイザー」は、やれやれ、と言った感じで……。
「わかりました……。最初から、この手を使えば良かったかも知れませんが……」

「なんで……こうなるんだよ……」
 俺は40過ぎて、この大学の教員にも関わらず……20前の学生達と共に……1年生向けの共通科目「ネットリテラシー」の受講を命じられた。
 しかも、試験を受けて、合格しないと……馘になった挙句、ヤクザの破門状よろしく、他の大学にも「こいつを雇うのはリスクが有るので注意しろ」と云う通達が行くらしかった。
 そして……講義の開始予定時刻より少し早く……他の学部の教授だが、たまに一緒に飲みに行く間柄の人が教室に入って来て……あれ? この人、この講義の担当だったっけ?
 そして……その教授は、俺の横の席に座った。
「えっ?」
「いや……この齢になって、1年生向けの講義を受けろと言われて……気が重かったんだが……君も一緒か……。少しは気が楽になったよ。時に、君は何をやらかしたんだね?」
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