ネット上の情報を鵜呑みにする困った爺さん:トンデモ×トンデモ=マトモ?

蓮實長治

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ネット上の情報を鵜呑みにする困った爺さん:トンデモ×トンデモ=マトモ?

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「あ……ありがとうございます。どうか、息子夫婦と孫をよろしくお願いします」
 夫の父親は、そう言いながら……我が家の月収数ヶ月分の金が入っているであろう厚さの封筒を、その気味の悪い笑顔が顔に貼り付いた男に渡した。
「お任せ下さい。我々『シン親子学会』が、お孫さんをマトモに戻して差し上げますよ」
「お……親父、何をやって……」
 家の事は私に任せっきりの旦那も、自分の父親が連れてきた謎の連中に拘束されると云う理不尽な状況には反応せざるを得ないようだ。
「がんばって、ちゃんとした親になって戻って来てくれ……研修は1週間だそうだ」
 その「学会」の名には聞き覚えが有った。
 「発達障害を治す」と称しているインチキ新興宗教モドキだった。
 文部科学大臣経験者や与党の大物政治家の中にも、この団体の「信者」が何人か居るらしいと云う話をSNSで見た時は、困ったモノだと思ったが……まだ、あの頃は甘かった。
 そんなのは他人事だと思っていたのだ。

『だから、今、流行はやってるあの病気のワクチンが危険なんじゃないッ‼ あらゆるワクチンが危険なんだッ‼ あんたは自分の息子を(差別用語につき一部自粛)にする気かッ‼』
 朝一で夫の父親から支離滅裂な電話がかかって来た。
 あの伝染病のワクチンを子供にも打った方がいい、と云う状況になって、今日、息子をワクチン接種に連れて行く事になった。
 その事を昨日の晩、夫が母親に何かのついでに話したらしい。
 その結果がこれだ。
 おいおい、あたしの夫の父親は、この状況になってるのに、まだワクチン打ってなかったのか?
 しかも、それでピンピンしてる。
 夫の父親が言ってる事は完全にトンデモだ。
 しかし、この不条理な状況に置かれ続けると、いずれ、あたしが「あの伝染病は頭がマトモな人間ほど罹患しやすくて重症化しやすい」と云うトンデモを信じてしまうんじゃなかろ~か?
「あ……あの……どう云う事でしょうか?」
『ワクチンを打つと自閉症になる。昔から言われてるだろ。知らんのか?』
「知りません」
『若いのに、ネットも見てないのか? よく、それで社会生活が送れるな。到る所に詳しく書かれてるぞ』
「どこにですか?」
 夫の父親が言ったのは……おい、大手SNSに大手動画サイト、何で、こんな阿呆な状況を放置してる?
「い……いえ、ですが、その……」
「何を口籠ってる。ああ、そうか。反論出来ないんだな。いいかい、女ってのは論理的でも知的でもないのは生物学的な事実なんだから、女は男に従うべきだろ?」
 あ……あのなぁ……。
「あんたからも、お義父さんに何か言ってよッ‼」
「え~、でも、親父は昔から、あ~だから、今更言っても聞きやしないよ」
 仕方ない。
「でも、この状況ですよ。例の伝染病に罹るリスクとワクチンを打って自閉症になるリスクを比べれば……」
「何を言ってる? 俺はワクチンを打ってなくても平気だぞ。はい、論破ァッ‼ ガッハッハ」
「ですが、その……学校からワクチンを打たないと登校を認めないって言われてて……」
「ちょ……ちょっと待て。そんな……そんな無茶な学校が有るかッ‼ 抗議しろッ‼」
 もちろん大嘘だが、我ながら、とっさに思い付いたにしては良い嘘だ。
「すいません。お義父さんが言われた理由で抗議出来ません」
「へっ?」
「担任、学年主任、教頭、校長、PTA会長、全員男です。女は男に従うべきなんですよね?」

 夫の休みの筈なのに、結局、息子をワクチン接種に連れて行ったのは私だった。
 共働きなんだから、少しは家の事もやってくれよ。
 義父からの電話で時間を浪費し、出るのが遅れたせいで、接種が終って家に戻れたのは午後になってからで……ん?
「おか~さん、ど~したの?」
「う……うん、何でもないよ」
 変だ。
 夫も私も、家に居る時でも玄関に鍵をかける習慣が有るのに……鍵がかかってない。
 嫌な予感がして、玄関のドアをゆっくり開け……。
「逃げろ~ッ‼ 逃げて、警察に連絡を~ッ‼ ぐええええッ‼」
 夫の悲鳴。
 な……なんだ?
 何が起きてるのか判らぬまま……混乱で足がすくみ……我が家の奥からは……夫の父親と気味の悪い笑みが顔に貼り付いたような男が出て来た。
「もう、この子は……ワクチンのせいで自閉症になってしまったんだな……」
「ええ……かわいそうですが……」
 夫の父と謎の男は、意味が判らぬ会話を交す。
「ですが、自閉症は治療出来ます。我々、『シン親子学会』には、自閉症治療の為の一〇〇%確実な手段が有ります」

 そして、あたしたちいっかは、いっしゅうかんのけんしゅうとのうしゅじゅつをおえました。
 あたしのだんなさまも、うちのぼうやも、すてきなえがおをうかべています。
 あたしのかおにも、きっと、えがおが……。
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