お前らのせいだ!!

蓮實長治

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お前らのせいだ!!

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「こいつだ‼ こいつがSNSに例の書き込みをしたのを見た事が有るぞ‼」
「ちょ……ちょっと待てよ……」
 たしかにやった覚えは有る。
 でも、インターネットが使えなくなった今、それを証明する方法なんて有る訳が……。
 ああ、SNS中毒だった頃は、こんな事態になっても冷静かつ論理的に相手を論破出来る筈だと信じていた。
 ところが現実は……「俺はパニクって考えがまとまらない」「よくよく考えたらパニクってなくても、俺は、それほど頭は良くない」「ついでに向こうの方が数が圧倒的に多い上に頭に血が上ってる」の3連ガチャをやったら全部呪いのアイテムを引いたようなドン詰まり。
 だけど……だけど……だけど……。

「高校の数学で習ったベン図って有るでしょ? あれを描いてみりゃすぐに理解出来ると思うけど……」
 10年ぶりぐらいに正月の親戚の集まりに顔を出したね~ちゃんは、そう説明した。
 「姉ちゃん」つ~ても、従姉いとこだけど。
 偏差値50ぐらいの奴らばかりのウチの親類に何かの間違いで生まれた超天才で、どっかの大学でAIの研究をしてるらしい。
 あと、俺は、高校の時に習った筈の「ベン図」ってのが何だったか少しも思い出す事が出来なかった。
「『AならばB』って命題は、Aが常に間違っているなら、Bが何であれ常に正しくなってしまう訳よ、論理学的には」
「ちょっと待ってくれ。んだけど……」
「そ、そこがあたしが関わってる例のスーパーAIの問題点。例えば、あのAIは、ある文章が論理的かを判断するのに、
「どう言う事? じゃ、姉ちゃんが作ってるAIは、どうやって『それは非論理的ですぅ~』なんて言ってる訳?」

「はあ?」
「経験と勘だけで……人間の理性や論理的思考を真似してるだけ。あいつには理性は無い。あるのは学習データと……それを元にした『勘』だけ」
「なんか……俺みて~なのからすると……」
「思ってたAIのイメージと違う?」
「そうそう……」
「だから、そこがマズいんだよ。あのAIは、論理学的には正しいけど、SNS上なんかでは『非論理的』だと言われがちな文章を『非論理的』と判断しちゃう訳」

 ところが、生みの親の1人である姉ちゃんが「実は欠陥が有んだよ」と言ってた超AIは……どう云う訳か政府関係の大規模システムに使われるようになり……さらに……。
 あとの事は、御存知の通りだ。
 姉ちゃんが作ったAIを組み込んだ何の為のモノなのか俺の頭じゃ良く理解出来ない政府系の大規模システムは……映画の「ターミネーター」のスカイネットと化した。

「お前は……それをやった奴らの1人に過ぎない。でも、文明と多くの人命が失なわれた原因の1人だ」
 俺が、ようやく逃げ込む事が出来た残存人類の集落の長老は、俺に、そう言った。
「しかも、お前は、あの超AIの開発者の親類だそうだな? そいつから、あのAIの欠点を聞いていた可能性が高い…そうだな?」
「ああああ……」
「あの超AIの中には善も悪もない。有るとすれば『ネット上で善と見做す者が多い何かは善。その逆は悪』ぐらいだ。そして、あの超AIはネット上に有る文章や画像を理解出来るが……人間からするとあくまでも『どこかズレた理解』だ」
 で……でも……やったのは、俺だけじゃない。
 た……たすけて……。
「お前たちのせいだ。あのシステムが『スカイネット』と化したのは……。自分の中に正義も悪もなく、ただ、ネット上の多数意見だけが『正義』だったあの超AIは……お前たちが生み出したしょ~もない『多数意見せいぎ』を学習した結果……本当に『スカイネット』と化したのだ」
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