インラグドシィル(ニシンの酢漬け)

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第3話 2月のホワイトクリスマス 

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船室の中央あたりに簡単な舞台が拵えてあり、その周りに人が集まっている。

船内の歓迎レセプションか何かだろうか。

私はなんとなく足を止めて様子を見ていた。
 
舞台では、ぴったりとした薄い緑色のスーツを身につけた、数人のバンドマンが、

手慣れた雰囲気で楽器の調整をしている。

ドラム、エレクトリックギター、サックス、トランペット、コントラバス・・

おそらく今からバンドの生演奏が始まるのだろう。

すっかり舞台の用意が出来上がると、ドラマーがステックを叩いて2つカウントをとった。








不意にラッパの音が鳴り響き、

ジャズのスタンダード曲「イン ザ ムード」が始まった。

「イン ザ ムード」は、中学の時、吹奏楽部でトランペットを吹いた曲だ。

長いソロパートに苦労した記憶がある。私は中学時代を懐かしく思い出した。

「イン ザ ムード」が終わると、

舞台の上の手から、長い金色の髪を後ろで束ねた、

男性歌手が、跳ねるようなステップで舞台に駆け上がってきた。







他の演奏者を同じように緑色のスーツを身につけているが、がっしりした体格のせいか、

首周りに巻かれたネクタイがきつそうに見えた。

右手を高く上げて、歌手が人差し指と親指で4つカウントをとると、

サックスのしっとりと優しい音色から、季節外れのホワイトクリスマスがはじまった。

もうとっくに年は明けて、今は2月だと言うのに。


歌手は、筋肉質でがっしりとした身体を揺らしながら、

バンドの演奏に合わせて

気持ちよさそうに、ホワイトクリスマスを歌っている。

歌手が顔にかかった長い髪をかきあげると、そこには驚くほど幼くて人懐っこい瞳が現れた。

歌手の姿から、私は目を逸らすことができなくなっていた。

体格も背丈もまったく違うのに、彼の優しそうであったかい声が

私のよく知っている人にとても似ていたから。







去年のクリスマスは、

私にとってとても喜べる日ではなかった。

だが、それは幸福なバンド演奏とは関係ない話だ。

バンドはスイングしながら楽しそうにおよそ30分ほど、クリスマスソングを次々と演奏して、

観客の大きな拍手と共に、演奏を終えた。

とても幸せで、濃密な30分間だった。

演奏が終わると、バンドメンバーは楽器を持って舞台を降りた。

まわりで見ていた人たちが離れていくのと一緒に、私もその場を離れようとした時、

半ズボンに履き替えた歌手が、パイプ椅子を2つ引きずって再びステージに現れた。








私は咄嗟に瞼を閉じた。

これ以上、彼の姿を見るといろんな悲しい思い出が湧き上がってきて、

きっと辛くなる。

もう二度と彼の姿を見ないで、そのまま、部屋に戻ろう、と思ったけれど、

どうしても無理だった。

舞台の前を離れることができなかった。

私は恐る恐る目を開いた。

舞台の上では、歌手が後ろで束ねた長い髪を解き、

きつそうなネクタイを外し、

緑のジャケットとシャツを脱ぎ捨てて、

半ズボンとタンクトップだけになる姿が見えた。

がっしりと太い腕に、青い血管が浮き上がっている。

その姿にどきりとして、私は体が熱くなるのを感じていた。







しばらくして、栗色の長い髪をしたギタリストが、

エレキギターをアコーステックギターに持ち替えて、ステージに上がり、用意されたパイプ椅子に座った。

さっきから見物していた観客が、一人、また一人と、舞台の前をさっていく。

気がつくと、舞台を見ているのは私一人になっていた。

立ち去ることができなかった。

私は、ただ動けずに舞台を見ていた。







ギタリストと歌手はパイプ椅子に並んで座り

観客がいないと言うことなど、微塵も気にならない様子で

二人ステージ上で目配せしてから、

突然に音楽が始まった。







シンプルで、味わい深いギターに乗ってのびやかで、少しハスキーな歌声が船内に響いた。

言葉の意味はわからないが、恋の歌のように思える。

彼がどんなに愛情深く女性に語りかけても、彼女は振り向いてくれない。

そんな物語を連想するような歌声だった。

ギタリストのギターが美しいハーモニーをかき鳴らし、歌手はそれに答えるように声を出す。

こんな素晴らしい音楽が演奏されていて、

見ているのはたった一人、私しかいない。

私は今素晴らしい体験をしている。

音楽の中にいる。

なのに、気持ちとはうらはらに私の身体は強張っていった。

素晴らしい音楽に合わせて踊りたいとも歌いたいとも思ったが

かなしばりにあったように、体が動かない。

かつての私はそうではなかった。

もっと素直に歌うことも、踊ることもできたのに、

思えば思うほど体が思うように動かない。







悲しいことが多すぎると

人の感情は傷つきにくくなるのかもしれない。

でもそれは強くなったってわけじゃない。

他人の痛みにも、自分の傷にも

ただ、無神経になっただけ。

そうしないと生きていけなかったのかもしれない。

それが大人になると言うことなのかもしれない。

けれど、そのために

音楽を聴いて踊り出したくなる衝動も、

大好きな人に、大好きと伝える勇気も

なくなってしまったとしたら、

生きてるって言えるのだろうか。









今から心を取り戻そうとしても

もう遅いね。

痛みから逃げるために、

私が自分で、自分の心を殺したのだから。

もう私の心はすっかり萎んでしまって、

感情の奥底にある井戸が枯れ果ててしまって

一滴の水も残っていない。

それを大人になるって言うならば

自分自身、ずっと子供のままでいたかった。







ギターが優しく、暖かいソロパートを弾き、曲は終盤に向かった。

やがて、ぴんっというハーモニクス音を最後に音楽は終わった。

私の体は固まったまま、無表情のままだった。

心の中では一生懸命拍手したかった。

やがて

ギタリストも、歌手も椅子を片付け始めた。

私はそれでも呆然と立っていた。

そのままバカみたいにつっ立っていた。

自分で壊した家族のことが思い出された。

何もしなかった、何も出来なかった。

ただ、壊れるのを見てるしかなかった。

見開いた右目から一筋涙が流れた。






ふと前を見ると、いなくなった筈の歌手が舞台に立っていた。

傍らではギタリストが音程の調整をしている。

やがてつぎつぎとバンドメンバーが舞台に戻って来た。

少しメンバー間でやりとりがあった後、ドラマーがカウントして曲が始まった。





それは、ゆったりとしたミドルテンポのとても甘い、

聞き覚えのあるメロディーだった。

歌手がタンクトップのまま、歌いだしたのは

私の国の言葉だった。

「シャララだ!」

それは、好きだったあの人が、カラオケに行くと必ず歌う日本のポップス。

サザンオールスターズのシャララだった。





シャララに繋がるすべての景色がが、心の奥から湧き上がってきた。

私がギターで演奏できるただ一つの楽曲、

シャララ。

出ていった夫が好きだった音楽、

子供と一緒に歌った曲。

こんな場所で出会うなんて。






歌手はウェーヴした、金髪の長い髪を揺らしながら

シャララを歌った。


彼の歌は、クリスマスソングを歌っても、ロックを歌っても、日本のポップスを歌っても同じように、

誰かに語りかけるように優しい、

しかしどことなく脆さと危うさを秘めている。

その危うさが心を捉える。

あの人もそんな歌い方をした。


Em Am7  D7  G


ギターフレットの上をギタリストの指が柔らかく動く。


Let me try  to  be Back to  this place  anyday


歌手が美しくサビを歌いあげた。






私は、誰もいない観客席で大声を出していた。

周りの人が私を不思議な目で見ていく。

でも止めることができなかった。

勝手に口から音が漏れ出した。

歌わずにはいられなかった。

心の堤防が崩壊して、溜まりに溜まった音楽がそこから流れ出した。

止めることなんてできなかった。

両目から涙がどくどくと流れた。

そうだ。私・・歌いたかったんだ・・

ただそれだけだったのかも・・。きっと。








今まで集めたすべてのレコードやCDを焼き尽くして、

形あるすべての物が目の前から消えてしまっても、

自分の記憶の中にある、音楽までは焼くことはできなかった。

心からすべての記憶を消し去ろうと、逃げて、逃げて北欧まできたけれども、

やっぱり逃げきれなかった。

私の心がからからに干からびても、

ずっと音楽は鳴り続けていたんだ。





第八章 風の音で、何も聞こえない 


俺は、小西ユウキ。俺たちは、相変わらず甲板で酒を飲んでいた。

「ユウキ、なんか知っている歌が聞こえてこないか?」

豊は言った。

俺は耳をすましてみた。

何も聞こえない。

「風の音で、何も聞こえない」

俺は言った。

豊は風の音に負けないよう、今度はありったけの大声で言った。

「みかちゃん、好きよー!!」

普段は、クールで、もの静かな優等生の豊が、考えられないような大声で叫んだ。

「なんだって?聞こえない」

俺は聞こえていたが、わざと聞こえないふりをした。

豊が珍しく真面目な表情をして俺を見た。

「俺には、みかちゃんという恋人がいる。大学を出た結婚する約束をしている。でも、

俺は、航空機の学校の一時試験に合格した。ずっと迷っていたんだ」

「それでどうするんだ?」

「飛びたいと思っている」

俺たちは、風の音が大きいのをいいことに、

お互い勝手な事を叫びつづけた。









第九章 2022年4月26日 イタリア、イモラ・サーキット



豊は、その後航空機のパイロットになった。

そして、

きちんとみかちゃんと結婚した。欲張りなあいつらしい。

結局、望んだものはすべて手に入れる。

幸せな人間だ。

俺は、今、再びイタリア、フォーミュラーワン

第4戦、エミリア・ロマーニャグランプリ

イモラサーキットの観客席にいる。

天候は雨。

この雨の中、濡れた道路の上を反時計周りで

一周4909メートルのイモラ・サーキットを

世界最高のドライバーたちが21設定されたコーナーをクリアしながら

63周も車を走らせる。








雨天のイモラ・サーキット。

目の前を車が通り過ぎるたびに、後ろから巨大な霧のスクリーンを巻き上げている。

聞いた話では、雨が降ると、低い位置に設定されたレーシングカーの座席からは、

水煙でほとんど前が見えないらしい。

ほとんど視界のない、氷の上より滑りやすい濡れた路面を、

超高速で車を走らせるドライバーたちは、

ミリ以下の精度で車をコントーロールして、

他の車と順位を競う。











俺は、何にもなれなかったけれど、生きていれば、こ

うして生でレースを見ることもできる

生きていれば、人生なんて、なんとでもなるものかもしれない。

何度でもチャンスはやってくるものなのかもしれない。

今、俺は最高にいい気分だ。

最高にいい気分の最高度は、毎回更新されていくものらしい。

きっとこの先もっと最高にいい気分の瞬間がやってくるに違いない。

自分にとって史上最高の瞬間を更新していくことが、生きるということなのかな

などと考えてみたりする。









1991年、当時フィンランドのホテルでみた、23歳のフィンランド人F1ドライバー

ミカ・ハッキネンは、その後フライングフィンと称され、

二度のワードチャンピオンに輝き、史上最高のドライバーの一人とされている。

アイルトン・セナ、ローランド・ラッツェンバーガーの事故、

悲しい出来事もイモラ・サーキットで起こった。

しかしF1は続いている。

世界は終わらない。

きっと今、イモラ・サーキットのスターティンググリットに並ぶ20人の選ばれし世界最高のドライバーたちも、

この先、もっと、もっと自身にとって最高の瞬間を更新し続けていくはずだ。











第10章 1991年 2月


私は、清水カヨ。舞台は片付けられて、

本当に現実なのか疑いたくなる時間はすぎて

今は誰もいない。

私は、一人でふかふかの赤い絨毯を敷き詰められた床ににしゃがみ込んでいた。

人々は何事もなかったかのように、

おしゃべりや、ショッピングを楽しんでいる。




床で丸まっていた私の肩を、

トントンと叩く手があった。

顔をあげると、

朝、フィンランドのホテルオリンピアの食堂で会った、サラだった。

隣に息子のレニもいる。





「もしよろしければ、いっしょに夕食どうですか」

サラは美しい日本語で私に向かってそういうと、にっこりと微笑んだ。

私は、泣き腫らした目を、両手で擦ったが、

いまさら、取り繕ったところでどうにもならないと思い、

涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、こくりと頷いた。







レニは笑って私に小さな手を差し出した。

ふと、小さな違和感が生まれた、

レニってこんなに笑ったっけ。

小さな違和感だけれど、それは嬉しい違和感だった。

私がレニの手を取ると、レニは私の手を引いて、

レストランまで連れて行ってくれた。









第十一章 レストラン



真っ白なクロスが敷き詰められたテーブルには、

綺麗に焦げ目のついたサーモン&クリーム、

ニシンの酢漬け、

ポテトサラダ、パン、

ベリージャムの添えられたミートボールが並べられてた。

グラスに注がれたロンケロというお酒も並んだ。

とても美味しかったロンケロというお酒は、

ジンの入ったロングドリンクという名前のお酒だと知った。





「夜が明けたらストックホルムです。

スウェーデンの伝統料理と一緒に、

インラグドシィル(ニシンの酢漬け)を食べて乾杯しましょう。

私はスウェーデン生まれなので、乾杯はスコールといいます」

サラの「スコール」という乾杯を言葉を合図に、

私たちはグラスをかちんと合わせて乾杯した 。



 私とサラはアルコールの入ったロングドリンク、レニはぶどうジュース。

「サンタクロースには、会えたのですか?」私は尋ねた。

「ええ、会えました。この子より、私の方が嬉しかったかも。

私の方がサンタクロースの魔法にかかってしまいました。

もう一度サンタクロースを信じてみようと思っています。

この子はサンタクロースから、お手紙をもらったのよ」


レニは便箋を嬉しそうに私に見せてくれた。










サラは、レニに目配せして、

サンタクロースからの手紙を読み上げた。

「僕たちは、

誰かの命を食べないと生きていけないんだよ。

だから、命に感謝して。

なんでも食べよう。

最後まで残さず食べよう」











レニは、相変わらずニシンの酢漬けばかりを食べている。

私は、朝の仕返しに綺麗に焦げ目のついたサーモンのステーキを半分、レニの皿においた。

何事もなかったかのように、美味しそうにサーモンを食べているレニに、

サラは、驚いた表情をしていた。

ニシンの酢漬けを一枚貰って、口に入れてみると、

朝とは違って、とても美味しく感じた。

大袈裟かもしれないが、バルト海の海水がぎゅっと詰まったような芳醇な味がした。

慣れるとまた食べたくなる味だ。

ハマるかもしれない。









私は、

今日初めて会ったばかりのスウェーデン生まれのサラに

誰にも話していない事を話した。

「あのね、実は私、以前結婚していたの。

でも私が原因で家族は崩壊して、

子供と夫は家を出ていった。

その時、

もう二度と、誰も愛さないと心に誓った。





私が誰かを愛すると、必ず不幸が起きるの。

私は、誰も愛しちゃいけないの。

だから、努力して、努力して、

ようやく過去を忘れて一人で生きていけそうだった。










でも、また気になる人が現れた。

私は、好きという気持ちを心に封じ込めて毎日暮らしていた。

でも去年のクリスマスの夜、

街で彼と女友達が腕を組んで歩いているところを見てしまった。

その様子を見た途端、

今まで穏やかな性格だと思っていた自分から、恐ろしい嫉妬の気持ちがわき起こって、

怖くなってここまで逃げてきたの

いくら努力しても、私は私のまま

私は何も変わっていない。

誰かを傷つけて、自分も傷つくのは

もういや。

前と同じことがもう一度起こったら

私は多分今度こそは耐えられない。

だから、自分の心を守るためにここまで逃げてきたの

嘘ついて、ごめんなさい。

私は、スナフキンみたいな自由な旅人じゃない。

嫉妬と、恨みと、妬みに塗れた

ただの汚れた弱い人間なんです」

サラは微笑んだ。

「この子がね・・お姉ちゃんがふられて良かった。

そのおかげで僕はお姉ちゃんに出会えたから。

僕が大人になったら、お姉ちゃんを迎えに行くんだ、だって」

私の心の奥で誰かが鈴を鳴らした。

「カヨさん、

あなたはあなたのまま、変わる必要なんてないと思うけれど

あなたが、もし辛くて変わりたいのなら、応援します。

でも、今のあなたがどんな気持ちであれ

あなたと出会ったことで、

救われた人間、私とレニがここにいることを、伝えたいです」

サラは、ターコイズブルーのマニキュアが施された。美しい指先を見つめながらゆっくりと話した。








「あのね。私もあなたと同じ。

嫉妬と悲しみで心の中が張り裂けそうでした。

消えてしまいたいとさえ思っていたわ。

昨夜ホテル オリンピアで眠る時、

”こんやが最後の夜”

と思って眠りにつきました。







夫が家を出て、レニと二人っきりになってしまったの。

お金もなく頼る人もなく、家もなくなり

ただただ周りの世界を恨んでフィンランドまできたの。

そして最後の朝はやってきた。








朝が来ると、何も知らないレニは

珍しく朝食が食べたいと言ったの。

いつもは、朝食なんて食べないのに。

そこで、朝食を食べにレストランに行ったら

そこにカヨがいたの。

髪の毛の色は違うのに

まるで私のうつし鏡を見ているようなあなたに出会ったの。








自分ではわからなかったかもしれないけれど、

レストランでのカヨはとっても楽しそうだった。

一人で、ジュースの前で独り言を言いながら悩んだり

オリンピックを見ているおじさまたちを見て

一人でニコニコしたりしてね。







レニがカヨを見て

『まるでお母さんみたいな人だね』

って言ったわ。

私もそう思った。

いろんなものをまっすぐ受け取りすぎるところも

たくさんのことをを諦めて生きてきたこともね。






カヨだって

人生を楽しむに値する、

素敵な女の子なのに

何かを心の奥に封じ込めて

心が固まってしまっている気がした。

そんなところも私に似てる気がした。

そう思ったら、あなたに声をかけずにはいられなくなったの。










もう最後の日だと決めていたはずなのに

あなたと話していて、

急に素敵なアイデアを思いついた。

最後にサンタクロースに会いに行こうって。

それからでも遅くないってね。






ロヴァニエミ村に向かう、列車の中で

目を輝かせながら、雪に埋もれた

窓の外を見てるレニを見ていて

久しぶりに元気なレニを見た気がした。

そこで気がついた。

今まで元気が無かったのはレニじゃなく、

私、だったんだって。

ロヴァニエミ村に向かう、列車の中

一番サンタクロースに会うのを楽しみにしていたのは

きっとこの私。

断言できる。

私、馬鹿みたいだけれど

サンタクロースに会いたくて、居ても立ってもいられなくて

心からワクワクしていた。







ロヴァニエミ村でサンタクロースにあって

半日もそこにはいられなかったけれど、

サンタクロースに会った日が

私の最後の日だなんて、サンタクロースに失礼じゃない?

私、そう考えちゃった。

『サンタクロースの次は、ミッキーマウスに会いたいね』

なんて、レニが言った。

もちろん、私だってミッキーマウスにも会いたい。

そう思ったら、

楽しくてなってきて、今夜も生きたい、

そう思ってしまった。

そうして、船に乗ったら、

また、カヨに会ってしまった。

そしたら、やっかいなことに

船が港に着くまで

明日まで、生きたいと思ってしまった。






もちろん世界はそれほど優しい世界じゃない。

生きることはとてつもなく難しい。

それでもなおかつ

人生は困難だけれども

生きるに値する気がするの。

私、単純でしょ」

私は、サラの告白をドキドキしながら聴いていた。

私の心の奥底が小刻みに振動していた。

良いとか悪いとか、を超えて

心の奥が振動して、心臓を熱が上昇し始めている。

サラは、私を抱きしめた。






「あなたのおかげで気がついた。

たとえ明日まででも

本当は私、消えたくなんてない

生きていたいんだって気がついた。






マイナスな感情は深い愛の裏返し。

あなた、家族を愛していたのね。

たとえ壊れてしまったとしても、少なくともあなたはトライした。

だって愛情のない相手には怒りも嫉妬も生まれないもの。

カヨの怒り、苦しみ、悲しみが、あなたを遠いこの北欧の土地まで連れてきたのでしょう。

カヨのおかげで、私は救われた。

私の怒りが一瞬で愛に裏返ったように、

カヨの怒りと悲しみもきっと愛に変わる時がくるわ」









私たちは、ロンケロの缶を何本も空けながら。

話をした。

ミッキーマウスの白黒アニメ、

蒸気船ウイリーの話しから、

トムとジェリーの話になり、

そこからムーミンのキャラクターになるなら誰がいいかという話になり、

ジブリの話になり、やっぱり紅の豚が最高という話になり、

ナウシカのメーヴェに乗って空を飛びたいと言う話になり、

その後夜半まで漫画やアニメの話で盛りあがった。

とてもとてもどうでもいい話たち。

だからこそ、最高に笑える楽しい。

楽しい話は心の栄養になる。

サラは、日本に行き、漫画家になりたかったので

日本語を学んだということも教えてくれた。








レストランがそろそろ終わる時間になったので、

ナプキンで口を拭いて、帰り支度をした。

レニはうとうとして眠そうな目をしている。








サラは体を乗り出して、私の瞳を覗いた。

笑うとサラの右頬には魅力的な小さなえくぼができる。

「カヨは、ストックホルムについたら、どうするの?」

「デンマークのコペンハーゲンまで列車で南下して、

海を渡りハンブルクからドイツに入ろうと思う。

そこからフランクフルトまで行って飛行機で日本に帰ろうと思います。

私にできることが、まだあるはずだから

サラみたいに、これからどうしたらいいのかなんて

まるでわからない。

けれど、今のまま、止まっているよりはいくらかマシだって

気がするんだ」

私はそう言った。


「そう・・ここでひとまずお別れね。

いつかまた、北欧に来てね。

ノルウエーにはオーロラの街があるの。

いつか一緒にオーロラを見にいきましょう」

サラは微笑んだ。

「あなたにこれをあげるわ。

ロヴァニエミ村で買った、トナカイのツノで作った

幸運のお守り」

サラは、小さくて白いツノのような、

尖った歯のようなトナカイのお守りを私にくれた。







日付が変わる頃、サラとレニは、

まだ少し興奮気味に、部屋に帰って行った。

近所のお店にある、たこ焼きのソース味が食べたくなって

帰りたくなった、というのが日本の帰りたくなった本当の理由だけどね。








一人になってから

私は、少し酔いを覚ましたくて、

部屋に戻る前に甲板に出た。時計はちょど午前2時22分、

魂の時間と呼ばれる時間だ。風は止んで、水面はとても穏やかだ。

北の地平線近くが少し明るい。白夜だろうか、それともオーロラだろうか、

サンタクロースが空を飛んでいるせいかもしれない。



 








第十二章 ストックホルム



俺は小西ユウキ。俺たちの船は明け方スウェーデンのストックホルムに到着した。

俺と豊は、船で知り合ったアルゼンチン人の兄弟、ロキとシラーと一緒にストックホルムから

すぐに列車に乗ってデンマークに向かった。

ストックホルムは通過しただけだ。コペンハーゲンに向かう列車の車窓から綺麗に整地されたどこまでも続く農園が

見えた。






俺は今、コペンハーゲンにある格安ホテルの六人部屋にいる。

夕食は野菜がたくさん用意された、“バイキングスタイル”の食事が出て、

腹がいっぱいになるまで食べた。

日本にいる時は、唐揚げや、カレーなど味の濃いものが大好きだったが、

数日間の旅行生活で、すっかり味覚が変わっていた。

肉や野菜より

眩しくらい鮮やかな、赤や緑の野菜の彩りに心が躍った。







シャワーは水しか出なかったが、

ベッドにはふかふかのマットレスに、清潔なシーツがが用意されていた。

格安ホテルには、たくさんの若者が、大きなリュックを抱えて宿泊していた。

いろんな国の言葉が飛び交う、とても活気がある場所だった。

自分はここでは何者でもない。

何をするにも自分で決めなければならない。

財布を盗まれそうになっても

コインロッカーの鍵が開かなくなっても

自分でなんとかしなければならない。

常に緊張していた気がする。


そのかわり

誰にもさしずされないし、

失敗を咎められることもない。

誰の顔色を伺うこともない。

生まれて初めて自由だと感じる瞬間もあった。

とてつもなく大変だったけれど。










俺は、食堂のテーブルでコーヒーを飲んでいた。

豊は、翌日に乗る列車のチケットを取るために、出かけていて、俺は一人だった。

いつも豊と一緒に行動していたので、数日ぶりの一人の時間を楽しんだ。

目の前を、ニット帽を深く被った、華奢で小柄な女性が

大きなスーツケースを引きながら俺の前を通り過ぎていく。

その姿は、俺はとても懐かしい気分を抱かせた。

前にどこかで会ったことがあるのだろうか。

いや、そんなはずはない。

「ハロー」

俺は思わず拙い英語で声をかけた。

「こんにちは」

日本語のあいさつが返ってきた。

俺が期待したのとは少し違う、ぶっきらぼうなトーン。

俺は声をかけたことを後悔した。しかしかけてしまったものは仕方ない。

逃げるわけにも行かない。

「これからどこに行かれますか?」

少し棘のあるイントネーションで彼女は答えた。

「ドイツのフランクフルトです、それが何か?」

「いえ、そうですか、それでは良いご旅行を、お気をつけて」

彼女は、右手の指先で、深く被ったニット帽のおでこ部分をあげた。

「あの・・・・あなたたち、探偵か何か?」

ニット帽の下から見えた、二重瞼の大きな瞳は、明らかに怒っていた。

俺は、その姿に怯んで一歩後ろにさがった。

「探偵?僕たちはただの貧乏学生です」

「あなた、行きの飛行機からずっと私のことつけてたでしょ?」

「え、どういうことですか?」

彼女の突然の言葉に俺は狼狽えて、しどろもどろになった。

俺には全く心当たりがない。ただ、豊と二人で旅をしていただけなのだから。

彼女は何か誤解している。けれど、言い訳したらもっと誤解を生むような気がして

弁解できなかった、そんな俺の姿を見て、彼女の表情が幾分か緩んだ。

「いや、気のせいかな?ごめん、忘れて」

彼女は、前を向くと再び重そうなスーツケースを引いて、

俺の目の前から遠ざかっていった。










彼女が去った後に、

何かの動物のツノか、歯のようなキーホルダーが一つ落ちていた。

彼女のものだろうか?

彼女とのやりとりを思い出してみたけれど、努力するまでなく、

簡単に彼女の姿を思い出すことができた。

そう、ニット帽の下から見えた瞳は、とてつもなく美しかった、

彼女に魅了されるのに1秒もいらない、一瞬で十分すぎるくらいだった。







ここは、デンマークのコペンハーゲンだぜ、

同じ国の人間を見つけて声をかけて何か不都合があるのか?

たとえ、虫の居所が良くなかったとしても、もう少し別の言い方があったんじゃないか?

ちょっと可愛いいからって・・・

俺は、自分が良くなかったのか、彼女が正しかったのか必死に考えたが、

いくら考えても答えは出なかった。そもそもそんなに大したことでもないのだ。

しかし、俺は大変にショックを受けていたのだ。

また、俺の誰にも嫌われたくない病が出ただけだ。

どっちが正しかったとしても、彼女はいなくなってしまっている。









その時、豊がガサツな足音を響かせて上機嫌な笑顔を作って走ってきた。

「チケット2枚取れた、明日の朝、始発列車で、ドイツに向かうぞ」

俺は、豊の姿を見て心底安心した。

「ああ、ありがとう、早起きしなきゃな」







朝、俺と豊は太陽が昇る前に起きた俺たちは、

窓の外はままだ真っ暗闇で真夜中の時間に

リュックに歯ブラシや、目覚まし時計を詰め込んで

宿を出発する準備をしていた。

文字どおり、朝1番の列車に乗り込んで、

ドイツに行くのだ。




六人部屋で自称旅人たちは、

思い思いの姿でまだぐっすり眠っている。

俺たち今から列車に乗りドイツのハンブルグにいく、

列車ごと船に乗せて、ドイツまで海をわたるらしい。

一緒にバルト海を渡ったロキとシラーは、六人部屋のベッドの上でまだ寝ている。

「こういうのを、ワンス、イン、ライフタイムチャンス、というのかもしれないな」

豊は、そう呟いた。

俺は、寝ている二人の肩を叩いて、日本語で

「行くよ」

と、言った。

二人は、半分目を閉じたまま、軽く片手をあげて、

また寝てしまった。

旅というのは、出会いと別れが超高速で行われる。

どんなに暖かい出会であっても、

その相手とその後の人生で、ほとんどの場合二度と会わない。

けれど、記憶は残る。

そういう特別な時間の中で出会った人の記憶は、

その人の生き方に大きな影響を与えるような気がしている。







俺はドイツのハンブルクに向かう船の上で、

今晩泊まる事ができるのか、

本当にドイツに入れるのか。

とにかく心配ばかりしていた。

ずっとパスポートと、

帰りの旅券は首から下げて、靴下の下に、本当にお金を入れて歩いていた。

日本にいるときは、後ろポケットから財布の半分を出して突っ込んで歩いていたのに。





イタリアのミラノで知らない人と追いかけ合いもした。

道に迷っても、無防備に立ち止まらなくなった。

日本ではあり得ない心配ばかりだ。

けれど、日本帰った後、

また旅に出たくて仕方なくなっていた。




豊が何を考えていたかはわからない。

フランクフルト空港の手荷物検査で、

豊の全身から合計六個の百円ライターが出てきたからだ。

合計6回金属探知機をくぐっていた。

よく帰国できたものだ。

俺は、豊がまたわからなくなった。






二週間、ずっと豊と一緒にいた。

何度も険悪な雰囲気になったけれど、

帰ってきた時、

伊丹空港で感極まって二人しっかり抱き合った。

俺たちの海外旅行はそうして終わった。







豊は大学卒業後、

パイロット候補生として街を離れた。

それから消息不明。

もっともあいつから見たら、

俺の方が消息不明だろう。

俺は、地元の介護施設で働いている。

とにかく無事に帰国できた。








第十三章 2022年5月


私は、清水カヨ。

日本に帰って来てから、動物の専門学校に入学して、

地元の水族園で働くことが出来ている。

何年もかかったけれど。

仕事に必要なのでスキューバーダイビングの免許も取ったが、

忙しすぎて珊瑚の海はまだ潜ったことはない。

毎日目が回るくらい忙しい。







いつか、もう一度北欧に行き、

サラとレニに案内してもらって、

ノルウェーまでオーロラを見に行く旅行をする予定。

約束を果たす日を楽しみに働いている。

その時、レニは私の事を覚えているだろうか?




 



私は、その日も、馴染みのバー「木馬」でお酒を飲んでいた。

「木馬」の女将さんは、バルト海の船旅で飲んだ、

ロンケロというお酒を店に置いてくれている。

私は「木馬」に来ると、

毎回、ロンケロを頼んで飲む。

「木馬」でロンロケを飲むために働いている、って冗談言えるくらいこのお店が大好きだ。

カヨちゃん、今日昔の常連さんが二人くるの。

ちょっと変な奴らだから、嫌だったら奥のテーブルにうつる?」

女将がオレンジのエプロンの皺を治しながら言った。

「いいよ。ここ私の定位置だもの。そいつらが、あっちに行けばいいんだよ」

「そうだね。もう来なくなってだいぶ経つからなぁ、

偉そうなおじさんになってるだろうなぁ」

女将はため息をついて、壁にかけられたアンティークな壁掛け時計で時間を確認した。


私の腕時計は、あの旅以来、8時間遅れている。日本とスウェーデンの時差八時間。

時計を見ればいつでもあの旅を思い出せる。そして次の旅立ちを思える。






私はロンケロを飲みながら、ドアの近くに備え付けられたテレビを見ていた。

民間会社が、宇宙ロケットの打ち上げに成功した映像だった。

女将は慌ててテレビのチャンネルを変えた。








第十四章  2022年4月  小西ユウキ 最終章



 

豊と会うのは何十年ぶりだろう、

俺は、本当に久しぶに「木馬」のドアを開けた。

時間が早いせいか、まだ豊は来ていない。

「いらっしゃいませ、お連れ様まだでよ」

女将さんは、俺をカウンター席に案内してくれた。

カウンターの中央に女性が既に座っていて、女将さんと親しげに話している。

「カヨちゃん、お豆腐食べる?美味しいのが入ったんだ」

「うん。食べる食べる。私、お豆腐だいすき」

俺は、自分のスマホを開いた。

そこには、豊からのメールが入っていて、30分ほど遅れるとのことだった。

「あっ、そのキーホルダー」

カウンターに座っていた女性が、俺のスマホについていたキーホルダーを見て

声を上げた。

「ああ。これは、北欧に旅行していた時に、誰かが落としたキーホルダーなんですよ」

俺は、女性に説明した。

「ほんとに?誰かから盗んだとかない?」

女性は初対面なのに、失礼なことを言う。





彼女は、ロンケロの缶をたくさん空にしながら、

俺のスマホを指差して言った。

「その、キーホルダー、私がコペンハーゲンで失くしたものとおんなじですわ」

俺はその大きな瞳に見覚えがあった。

というか、絶対に忘れない種類の瞳をした女性がそこにいた。


F I N












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感想 1

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みんなの感想(1件)

月影 流詩亜(旧 るしあん)

途中まで読みました。

欲をいえば 一話 3万文字は読み辛いので 1000から3000文字くらいで分割して貰えたら助かります。

わがままを言ってスミマセンでした。

続きは、時間のある時に読ませて頂きますね。

2022.05.02 にゃむ

るしあんさん。読んでいただきありがとうございます。本当に感謝です。分割するようにします。アドバイスありがとうございます。

解除

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