死んだ君が目の前に現れた

ぼの

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9 決断

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僕らは夕飯を食べ終え、後片付けをしていた。

久しぶりに少し多めの皿洗い、そして部屋にいるこの雰囲気にまだなれることの出来ない自分。

片付けが終わってリビングに戻ると当たり前のようにあるその背中。

さくらと別々にいる時間、ずっと過去のことを思い返していた。

それでもいまの僕の心に浮かぶこと。


「このままでいいのだろうか」

 なぜ心の中でこの気持ちが生まれたのかはわからない。でも何故か、この現実をまだ受け入れられない自分と、目の前の出来事に信じられない自分とが葛藤していた。

僕はその後ろ姿を横目にソファに座り一息。

「優希、なにか考え事してる」

その言葉に少し戸惑う。

「......なんでわかったの」

「昔から考え事する時首の後ろ触るよね」

そのことを指摘されたのもさくらが最初で最後だった。

自分では無意識にやっていることでも、周りにいる人からすればバレバレなのだろうか。

僕らの間でしか分からないことを口にされると、「どんな姿になってもさくらはさくらなんだ」と、心の中で思ってしまう。

「私には言えないことなの?」

「いや、自分でも悩んでいるのかまだ分からないんだ」

今の僕にはこれしか言うことが出来ない。それでもさくらは続ける。


「......言って欲しい。」


僕は拳を握り、そのまま流れ作業のようにテレビを消して静寂を作り出す。

さくらはきっと辛い思いをして僕にすべてを打ち明けてくれたのだから、僕も伝えなければ。

「僕達、このままでいいのかな」

「......どういうこと?」

さくらは少し黙って、また話す。

「やっとさくらの死を受け入れて、一人で過ごしてきたんだ。もちろんさくらと今こうして話していることはもちろん嬉しい。でもこのまま過ごすのにも抵抗はある。

僕らも、前に進まないといけないと思った。」


また、さくらが暗い顔をしたことに気づく。

長い間感じていなかった二人の間に流れる不穏な空気に、ちょっとした恐怖と、でもどこか懐かしい感じを思い出した。

「......そうだよね。 
でも、まだやり残したことある!」

「......え?」

どこかで聞いたセリフ。まだ残っていたのかと思う。

「優希あの日から一度も私たちの町に帰ってないでしょ。

私から逃げてた......独りになろうとしてた。だからもう一度会いに来て!」


さくらは震える声で言った。
きっとあの時みたいに涙を溢れさせながら。

僕はハッとして、一度天井を見上げて思い返した。確かに、あの日からずっと地元に戻っていない。

「年末くらい帰ってきなさいよ」

そう言った母の言葉に対しても、
心のどこかでさくらの死を受け入れていない自分がいた。

帰りたくない。一人でいたい。と自分のことしか考えずにいた僕に、さくらの言葉が響いた。

さくらの言葉にまた僕は心を動かされた。

「わかった。明日にでも帰ろう」

「え!? あっ明日!?」

「うん。準備しよう!」

いつかは帰らなければと思っていたことだ。自分で前に進まなければと行ったのだから、さくらに会いに行かなければ。

現実に目を向けなければならない。

僕は部屋に入って、一人分の荷造りをして、ネットで新幹線のチケットを予約した時、また頭の中を過る疑問。

「さくらはどうするの?」

僕は戻れるけれど、幽霊となったさくらはどうするのだ、まさか一緒についてくるのかと。

「んー......私は向こうで待ってる」

「? わかった。」

待ってるとはどういうことだろう。僕以外にも見えるということなのだろうか。

さすがにこのままずっと二人でいる訳には行かない。結末を読むことが不可能だと感じる。

僕は気になった質問をなげかける。

「さくらは、ずっとそばに居るのかな。」

「わからない、優希に私が必要なくなったらいなくなるんじゃないかな?」

頭の中で理解したが、これ以上考えるのを堪え、僕はその返答を頭の片隅に置いた。

準備がある程度終わった頃、僕は久しぶりに自分から母にメールを送った。

あの日以来母からのメールは一方通行で、返そうとも思わなかった。

「お母さん久しぶり。明日夜の新幹線に乗って地元に帰ります。明後日の午前中には着く予定です。」

何度も帰って来いと言った両親の願いを断ってきたのだ。荷物を送ってくれる時や、学費などについのことも、全て返信すらしていない。母との連絡は本当に久しぶりだった。

気づくと外は薄暗くなっていて、既に夕飯の時間だった。

「ピザでも取ろうか」

「いいね!デリバリー!」

僕らは三十分ほどして届いた出来たてのピザを食べながら、ずっと話しをしていた。

僕らはそのまま日付の変わる頃まで昔の話をして過ごした。

今まで何度も地元に帰ることを躊躇っていた僕にとって、こんなにも帰ろうと思う気持ちが強くなったのは、やっぱりさくらがいたからだろう。

「明日バイトなんだから、ほら早く寝るよー」

そう言ってさくらは僕をベッドの方へ誘導する。

なぜさくらは僕の情報を細かく知っているんだ。バイトのことも言っていないはずなのに。

「ほら、おやすみ。
また明日。」

「うん。おやすみ」

ベッドで、僕はいつもひとりになると体の内側から心配事がいくつも湧き出てくる。

その事を考えながら目をつぶっても、なかなか眠りにつくことは出来ない。

ぼくはその日、なかなか寝付けなかったのを覚えている。
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