死んだ君が目の前に現れた

ぼの

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12 成仏?

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15分ほど歩いて母の教えてくれたルートを辿り、僕はさくらのいる場所にたどり着いた。

ちょうど夕暮れ時だっただろうか。

もう時間も時間なので、人は疎らだった。

僕は受付を済ませ、奥に並んでいた1番綺麗な花束を選んで先に進んだ。

綺麗な円形のアーチをくぐり、少し歩いてひとつの墓石の前に立つ。


ここにさくらが眠っている。


「久しぶり。さくら。」

まだ信じられないことが沢山ある。僕の前に、君は現れたじゃないか。

花立には最近誰も来てないことを暗示するかのように見えた。

僕は貸出の手桶とブラシを持ってきて隅々まで墓石を掃除した。

新品とは呼べないが、僕の磨いたあとが西日に照らされて淡く輝いていた。

何分くらい経ったのかわからなかったが、当たりはまだ夕方と呼べるほど明るかった。

綺麗にった花立に花束を添えた。


僕は線香に火をつける前に、さくらの墓石の前に座り込み、いつものように話し始めた。


「ずっと来れなくてごめんな。

家に来てくれて、改めてありがとう。


途中からずっと考えてたんだけど、


僕、さくらがいなくなっても大丈夫だよ。


たくさん話して、全部理解出来たんだ。


本当にありがとう。

先に向こうで待っててください。

僕もいつか、さくらの元に行くから。」


僕は線香に火をつけ、天高く昇っていく煙を見ながら、手を合わせて深く祈った。

その時、右肩をトントンと誰かが叩いたような気がした。


気のせいだろう。
線香の煙と花が風に揺れた。

僕は立ち上がって、さくらに背を向けて歩き出した。

さくらに別れを告げた。

出口の少し手前で僕は振り返った時、まだ線香の煙が空に昇っていくのを見た。

僕は再びアーチをくぐった時、辺りが薄暗くなっていることに気づいた。


「どうだった? さくらちゃんに会えたかい?」

と母が言う。

「多分会えたと思う。ちゃんとお別れを伝えてきたんだ。」

僕は家に帰って再び家族の時間を過ごしていた。

「優希が突然帰ってくるからね、久しぶりに優希の大好きなハンバーグ作っといたよ」

「わあ!ありがとう!」

「いくつになっても母さんの料理は上手いからなあ」

丸テーブルを三人で囲んで夕食を食べるのは、本当にいつぶりだろう。

僕は昔から母のつくるこのハンバーグが大好きで、いつもお腹を空かせて家に帰ったものだ。

中学の頃に母にこのハンバーグの作り方を教わって、何回も失敗したけど何とか近い味に作ることが出来たんだっけ。

父が口を開く。

「一人暮らしになっても、飯はちゃんと食ってるのか?」

「うん、ちゃんと作ってるよ」

「優希の手料理、さくらちゃんも食べたかったでしょうねぇ」

「うん、そうだね」

そんなことを夢見ながら、僕は母から料理を教わったんだ。

僕がいない間に、父も母も記憶の中にいる二人ではないことに気づいていた。

想像の中にある存在と、現実とではかなり相違点がある。

「中学の時、これを作ってさくらちゃんにご馳走するんだって言ってたものね」

ああ。母には全てお見通しだった。

初めて作れるようになった料理。
そして、僕の一番大好きな料理だから。

「優希、明日にはもう帰っちゃうのかい?」

「うん、昼前に出れば夜には向こうに着くだろうし、また定期的に帰ってくるよ」

「あら、それは嬉しいわね」

無言の父もどこか少し、嬉しそうな表情をしていた。

食べ終えた食器を片付ける。

「洗い物やっておくよ」

「いいのよ、荷物部屋に運んでおいたから、久しぶりにゆっくりしてなさい」


僕は母の言う通りにしようと思って、早めに風呂を済まし自分の部屋に入った。

やはり家のお風呂は一番落ち着くことに驚いた。

そして僕の部屋はあの頃と全く変わっていなかった。

この部屋に机を運んで、さくらと二人で勉強した時を思い出す。

埃の積もっていない机を見ると、母が定期的に掃除してくれているのだなと思う。 

本棚には引っ越す前に置いてきた本がそのまま並んでいて、びっしり計算式で埋まったノートと、英単語帳がしまってあった。

久しぶりに寝転んだベッドはとても懐かしくてなかなか寝付けなかった。

どこが狭いベッド、そして暗い天井と窓から薄ら差し込む街頭の光。

一人、静寂の流れる空間で目をつぶっても、心がどこか落ち着かなかった。

さくらと二人で寝た初めての夜も、こんな感じだった。

僕はしばらく天井を見ながら、さくらのことを考えていた。




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