夏の終わりに君が消えた

ぼの

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第9話 初デート

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僕と結衣さんが付き合った事が広まったのは、それから一週間を過ぎた頃だった。

「二人いつの間に付き合ったんだよ」

同じバドミントン部の春太が言う。

春太も僕と同じ、中学校からバドミントンをしている経験者で、部活の中では一番のライバルだ。

春太も同様に、彼女が出来たことを遠回しに喜んでくれた。

「俺も彼女欲しいぜ......」

どこか悔しそうな表情を見せる春太でも、とても良い奴だってことを僕は知ってる。


他にも、僕はあまりクラスで目立たない存在だったにも関わらず、話の的になっていた。

それでも、新しい話せる友達ができることは本当に嬉しい。

そして、結衣さんのことを話す事がとても嬉しい。

自分がこんなに幸せで良いものかと、あの日から何度思ったことか。

今月控えているテストに頑張れるその勇気も僕は結衣さんから貰っている。

しっかりいい点数をとって、安心して十一月を迎えるんだ。

付き合ったからには、もちろん二人でデートに行きたい。

その候補のひとつは、結衣さんとのLINEの中にある。

「私、クラゲ好きなんだよね」

その言葉。
春太を始め、色んな人にアプローチしている自分がいる。

初デートで重くない?

彼女が好きならいいんじゃないかな。

カフェとかでいいんじゃね。


特に役に立たない情報が平積みになる。

そんな僕の助けになるのは、あの人しかいない。



「え? 水族館に? 」

「うん......どうかな」

「いいんじゃない? 結衣ちゃんクラゲは特にそうだけど、水族館好きって言ってたし 」



結衣さんの情報を握りしめているのは僕ではなく小澤さんの方だ。

的確なアドバイスと、僕の知らない小澤さんから見た結衣さんの情報が僕の頭に流れ込む。

結衣さんに悟られないように、小澤さんは色んなことを僕に教えてくれた。

少し、結衣さんとのデートに関する考え方が変わった気がした。

結衣さんと一緒に帰るのは、週に二、三回だ。

お互い遅くまで部活があるし、待たせるのも悪いという理由でそこに行き着いた。

部活を終える頃は、外はすっかり暗くなっていて、時折吹く冷たい風に身震いするほどだ。

家に帰る時も、夕飯を食べる時も、お風呂に入る時も、頭の中の考え方だけはどこにも行かないし、変わることも無い。

ネットの検索履歴には同じような言葉が羅列して、余計に僕の頭を混乱させる。

「今度2人で水族館行かない?  」

「いいね! 行こう! 」

直接聞けばいいんだ。
ようやくたどり着いた方法がそれだ。

LINEだと相手の表情とか心情とか分からないから、僕は嫌いだ。

それでも淡々と話を進める中で、感嘆符を滅多に使わない結衣さんの返事に、僕は確信した。

このスマホの向こう側にいる結衣さんが笑顔を見せてくれているだろうか、そんなことを思いながら。

十一月から水族館の近くにある灯台がライトアップされる。

そのタイミングしかない。

僕の部活予定表と結衣さんの予定を確認し、二人で日にちを決めた。

そんな短い間でも、その幸せの中に僕はいる。


十一月四日。
お昼すぎに改札前。

LINEを終えたあとも、僕はシャーペンを手に取り、教科書を広げて机に向かった。

二人で作り上げるその将来を夢みながら。




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