フリークス・ブルース

はいか

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死の淵で輝く

23 開戦

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 第一圏中央域。この地に根付く人間が結集し、対ヴァンプールの敵対者として常に最前線に立ってきた狩人たちの会合談義である通称《逆円卓》。複数圏域に跨った広大な専制域と支配領邦を展開した巨大な組織であり、外界とのパイプを持つPOP財団という莫大な資金源を内包したプラグ・S内においては、彼らは人類の中央主権的な機関の象徴としての意味合いを持つまでの大きな存在だった。

 逆円卓に座るのに特別な資格は必要がない。而して用意された席は最大で十五席。これはイル・バージスタに原初として征服旗を掲げた一世紀近く以前の最初の十五人の簒奪者たちに由来するとされている。イーネという対ヴァンプール機関が発足したのは時点としてそれより十数年を経た後のことではあるが、何より人間側の勝利を渇望する見果てぬ侵略戦争の舞台であるプラグ・Sにおいての象徴の意味合いを重視したこの十五という数字は、この地に棲む殆どの人間たちが知る由もない秘された逆円卓という部隊においても粛々を受け継がれてきたものだった。
 
 資格はなくとも彼らが有するのは無数の肩書と責務。そして称号に恥じない実力であった。それぞれがどういう形であれ各々に一目を置き、どれほど険悪な間柄であろうともその在り方には誰一人として人目をはばからずに拍手を送くらんばかりに讃えられる。総員が顔を合わせれば賞賛と嫉妬を燃やし、傍から見るにはどうみてもいがみあってすらいるようなものすら存在する妙連な不和の空間において、彼らは互い背を向けてその貌を拝むことなく粛々と合議を果たすのだ。

 白い監獄塔における指折りの高名人たるフーシ・リンカンが口火を切る。トライクラギ・ガラデックスの退席に伴う沈黙はどこか厚いものがあったが、それを意図もしない飄々たる口ぶりだった。

「ところで、ガラデックス。これは逆円卓としての立場もそうだが、単純に一人の友人としてこの場を以て質問しても良いかな?」
「ああ」
 そこでガラデックスがにやりとほほ笑む。
「腹を割って話そうじゃないか」
「んん。結構。―――さっきの話の続きになってしまってもうしわけないね。僕は君との付き合いはそれなりに長いだろう?だからこそ、あの王種の女とのやり取りの内容が気になる。いや、仔細を聞かせろというわけじゃない。君の口ぶりは大抵において含みがあって凡人には聞き取り辛いものがあるからね。だからこそ、友として一つ確認したい」
「ああ」

 対角において背を向け合う二人。方や不適な笑みを浮かべ。方や先細りするような神妙さを孕んでいた。

「君は弱った獲物を逃がすような真似はしない。君が留めを刺さずに能力を使わせようとしたアミヤナによってあの場にいたのは君を含めて四人。カテゴリー5のヴァンプールであるアミヤナ。得体のしれない男グラン・カニシカ。外界からの来訪者コルデロ君。君は弁論や言い分を聞く懐の深さがあるから、すぐに殺さないのは納得できる。しかし、最期まで攻撃しなかったのは理解できない。…そこを無理やり理解しようとするのなら、君のいう彼らにも逃げられたという見解に終着する。君はあの場に三人が集まった時点でから攻撃できなかったんだ。そして、あとから首を突っ込んできた王種の女と対峙してなおも逃げられたということは…つまり」

 そこでバーソロミューは溜まらんとばかりに噴き出した。渇いた笑いが逆円卓の舞台に反響し、彼を起点に円卓が揺れるほどだった。

「お前には隠し事は出来ねぇなぁ!……ああ。そうだとも、俺はわけだ。逃げたというのはあくまで痛み分けって話だ。あの場からは俺も相手も逃げ出した。だが、勝敗でいえば完膚なきまでに叩きのめされたのは俺のほうだよ」

 その発言により顔を見ずとその場に居合わせた逆円卓の錚々たる面々が一様に眉を顰めたのが誰であれ感じ取ることができた。ある者は耳を疑い、ある者は感嘆のうめきすらあげるその意外性のある告発は何であれこの逆円卓においてこれまでにない不和を生じさせたのは確かだった。
 というのも、逆円卓を含めたイーネと呼ばれる組織においては対ヴァンプール戦線における重要度、つまりはその個人の与えうる影響度の度合いとして暗黙の了解的に彼という存在に《最強》という概念が当てはめられていたからである。
 基本的な対ヴァンプールの戦闘構築を集団戦と優れた計画攻撃にあるとされるイーネにおいて、単身でヴァンプールを屠ることが出来る人間はそう多くない。特に秀でた恵能力の操作で凡人とは乖離した実力者であっても、単身での戦闘は自殺行為と目されるまでに人類とヴァンプールの間には絶望的な力量の差が存在する。変身能力や群集体系、さらには法則を棚上げした空中戦までを可能とする脅威の生命に対し、一定以上の勝率を維持することは根本的に困難であり、周到に画策して練り上げられた戦略が全ての第一前提とされるのがこの異種族間の戦いの常であった。
 しかし、イーネの保有する戦力には彼を筆頭とした別格の闘争性能を誇る人間が存在し、中でもバーソロミュー・ガラデックスは全人類において比肩する存在が生じ得ないと断言されるまでの実力者として声高に叫ばれるほどだった。他の恵能と比較した時、特に操作精度と命中率が高く空間への圧力干渉が大きいとされる《撃墜》の恵能を保有する彼は、その身一つを以て射程内の空間において雷を操ることが可能とされ、その火力はもはや敵対者の時空事焼き尽くさんばかりに異次元の性能を持っており、これは人間での対抗がヴァンプールより難しいとされるマキナ・ヴェッラと複数対峙しても遅れをとらないまでのものであった。
 基本的な思考能力、戦闘への執着と積極的な鍛錬。磨かれた体術と一分の隙すら見逃さない集中力により無情にも迫りくる自由自在な大雷霆の攻撃。あまりに莫大すぎるエネルギーは敵対者の全ての攻撃を遮断し、長引くほどに熾烈さを増す彼の周囲には移動も飛行も許さず、果ては立つことも叶わないような烈風が巻き起こってそもそもほぼ全ての生命体は勝負とすることも出来ないという。
 引き換えに彼が本気を出した際の民間や建造物への被害は著しく、出力を上げる程に周辺環境は焦土と直喩されるものだった。基本的に単身でのヴァンプール討伐を可能とする彼は白の監獄塔の構成員でありながらもイル・バージスタ圏外の第一圏全域の遊撃が認可されており、特にその実力を誇るが故のが唯一可能としていることも彼が一目置かれる理由だった。

 イル・バージスタの全機関が総力をもって対処を強いられるカテゴリー5級の高位ヴァンプールに単身勝利を収めた実績を持つのはイーネが発足されて以来から現在まで彼ただ一人であり、カテゴリー5級を目される人間は複数存在すれども、やはり彼を最強するのが認識としての当たり前であったのだ。


「負けたですって?」
 黒の監視塔/総合情報技術部部長のアンジェリカ・ドンソンが訊ねる。この事実に信用を置いていないのか、そもそものバーソロミューへの相性の悪さからなのか、少なくとも彼が敗北したという事実を信じてはいないような口調だった。

「負けた。人間とヴァンプールのミックスである王種が雑種強勢で何らかの強化の恩恵を被ってる可能性もあるかもしれねぇが、奴の基本性能は大したもんだ。親株が悪食王の《捕食》なだけに悪食王の程じゃないが、あの捕食の口の増殖は脅威だ。次いでになんか《撃墜》も持ってるみたいで見事に後れを取った。不覚と言えばそうだが、あの場で全力を出すことを選択できなかった俺の落ち度であることには変わりねぇわな」
「相手を甘く見積もって敗れたと?」
「ああ。その通りだぜ。俺も奴の腹に風穴を開けてみたが、代わりに俺は首の九割を食い千切られた。今は虚数エネルギーでうまく空間と体を騙してるんですぐに死ぬことはねぇが、文字通り首の皮一枚繋がってるっていう瀕死には変わりねぇ。ま、要は相手が思ったより強かったから殺されかけた。それだけだ」

 そこで赤の冠征塔/最高戦略室長であるツヴァイ・アンカーが寡黙な口を挟んだ。
「それが許されないのが貴様という存在なのだよ。なぁ、特別運用顧問よ。貴様の生み出す雷のエネルギーは仕組みは知らぬが白の監獄塔の光の檻を運用するうえでの必要不可欠な電力供給減なのだろう?であらば、その時その王種の娘との戦いに万が一にも敗北という結果があれば、現状我らが長年にわたり拘束を成し遂げてきた監獄塔の怪物どもの拘束が弱まり、事もあろうにこのイル・バージスタに複数体の上位ヴァンプールを解き放つことになるわけだ」
 ツヴァイは指の先で円卓を突く。
「お前の生死により今後の我らの展望に変化があるというのは業腹だが、お前の分け与える電力がなくては我らの在り方がご破算するのが現状だ。同じような役割であった嘗ての運用顧問の齎していた電力では既に立ち行かなるまでの要求値が常に貴様には求められている。嗚呼、カテゴリー5に対して単身で勝負を仕掛けることが出来るその力量には紛れもない賛美を送るが、貴様がその背に何を抱えているのかを忘れて貰っては困る」

 すると、ガラデックスの周囲の空間が僅かな光を帯びる。彼が切れ掛けの電球のように僅かな明滅を始めると、小さな稲妻のようなものが逆円卓を伝って貌を背け合っているツヴァイの指を電気で弾いた。

「ッ!!?」
「んなこたぁわかってんだよ、老いぼれ。捕まえた怪物どもが動き出すのが嫌なら端からその首を飛ばせばいいだけのこと。自分らでは勝てないものを斃させ、剰えその管理まで押し付けてるその傲岸不遜はこっちから見りゃ滑稽なもんだぜ」
「やめるんだ、ガラデックス」
 フーシがぴしゃりと嗜める。

「近年大した実績をあげられてねぇお飾りの第一圏の赤の皆さんに対して一つ今後の方針を指南してやろう。いいか、俺らがまず何とかしなきゃいけねぇのは王種の女じゃなくて人間二人だ。最重要駆逐対象はグラン・カニシカ、その時点でセノフォンテ・コルデロだ。グランとかいう男はそれなりに頭が切れる、こちらが考えあぐねているうちに寝首を掻くようなことをされれば俺らの負けだ」
 そこでアンジェリカが訊ねる。
「グラン・カニシカの目的が判明しているとでも言うのですか?」
「さぁな。ただ、行動の原理に一貫性って奴を求めるんだとすれば、奴は外界進出がしたいっていうのが根幹にあるはずだ。そんでその手段に用いようとしているのは、おそらくこの世界の大王降臨の儀式に纏わる何かだ。恐らくはグランは大王降臨に関係するなんらかな抜け道でも見つけ出して、それを今実行しようとしている。コルデロを徒党を組んだのも何か利用価値があるからだろう」
「大王降臨の儀式だって?」

「大王の抑止力として存在する俺らの至上命題として、こういう馬鹿をやる人間を何とかするのが仕事だわな。グランがもし儀式を利用しようとするなら、伝承からして手に入れなきゃいけないものが幾つかある。この第一圏でそれを持っているのが暴虐卿エデと悪食王ラン・インツイ。嘗てあった大戦争である《春季終末》に関わったこの二人の保有する《瑕疵の羅針》《炎の棺》《災厄の壺》三つだ。うち二つは自由の身にあるエデが持っている。トライクラギが奴の元に向かっているというのはあいつの勘の良さもあるんだろうが、まぁ大正解ってところだ。どういう順序で奴らが動くのかは知らねぇが、エデの元にはグランかコルデロかのどっちからが現れると見ていい筈だ」
「…………」
「で、ラン・インツイの方だが、こっちもまぁ何とか死守しなきゃいけない状況が生じる。これまで白の監獄塔を狙ったヴァンプールはそれなりにいる。収監されたヴァンプールを解放されれば事態の全てが悪化する以上、俺らはここに戦力を集中させる必要を強いられる。あの悪食王がぽっとでの人間に自由を与えられたとして従属するとは思えねぇが、アレが自由になればそもそも俺らは全戦力を投入しなきゃ抑えることも難しいだろうな」

 そこでフーシが意見を出す。
「なら、猶の事王種の娘の駆逐を優先すべきじゃないだろうか。現状の不確定要素として彼女の影響力は多大だ。今後は我々の動きにより洗練された計画と連携が求められる以上、それを瓦解し得る勢力である彼女を殺すことが我々の行動保証に繋がるはずだ」
「いいや。あの王種の女は暫定カテゴリーとして5を制定し、しばらくこちら側からの干渉は徹底して避けるようにする。アレを斃すにはエリゼが必要だ。エリゼの回復を待ち、その間にグランとコルデロの殺害を貫徹する」
「テロリストたちをあくまで優先するってことかい?」
「ああ。だが、これは極めて困難を極めるだろうな。問題はアミヤナが奴らについている可能性が高いってことだ。空間転移を可能とする奴が手を出してくるのなら、下手をすればどちらとも殺せない可能性すらある。で、もっと最悪のケースってのがあってだな」

 ガラデックスはどこか面白そうに次の言葉を言おうとした。
 だが、その発言はあまりにも慌ただしい足音と突如として飛び込んできた伝令役の必死の訴えにより掻き消された。

「敵襲!!!敵襲確認せり!!!
―――― 今より三分前を以てイル・バージスタ内部に複数のマキナ・ヴェッラの侵入を確認!!十五体に及ぶマキナ・ヴェッラがただいま白の監獄塔を取り囲むようにして陣形を展開し、周囲にて警戒と排除を試みた警備保安官たちはたちまちに壊滅!!!白の監獄塔が襲撃を受けています!!!!」


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