配属された魔王軍が平和過ぎる

hope

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第一章

誰か俺に説明を求厶

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 俺の名はシャルド。本日より、とある魔王軍に属する魔物となった。
 コツリコツリと、点々と蝋燭の灯る薄暗く長い廊下を、ヒールを鳴らしながら歩く。
 今日は、魔王様からの招集によりこれから大広間にて話し合いがあるらしい。きっと、近くまで迫っている冒険者や、勇者への”対応”をどうするかという話だろう。そう考え、釣り上がりそうになる口端を片手で抑えた。
──嗚呼、どう”対応”をしてやろう。魔王様は、一体どんな話をしてくれるのか。楽しみで仕方ない。
 コツリ。踵を一つ鳴らし、大きな大きな扉の前で足を止める。自分で言うのもアレだが、俺は高身長な方だ。しかし、この扉は……、そう、例えるのならば巨人用の物、と言った方が良いだろう。ここまで扉を大きくする必要はあったのだろうか、と疑問に思う所はあるが。
 扉に両手を掛け、ぐ、と力を込める。
 重音が廊下に響き、ゆっくりと扉が開いていく。さあ、魔王様は一体、どんな──……………………。

「そこ!! 列が乱れているぞ!!」
「はい! 申し訳ありません!」
「おい、ここの飾り付けをしたのは誰だ? 花の大きさがバラバラではないか!!」
「申し訳ありません! すぐに直します!」

 バタン。開きかけた扉を勢い良く閉じた。閉じざるを得なかった。なんなんだ、今のは。
 俺の見間違えでなければ、先日見た大広間とは大分印象が違っていた。以前来た時は、もっと薄暗くて、如何にもな雰囲気があった筈。
 それが、どうだ。天井に吊られたシャンデリアは煌々と輝き、紙で造られた花が飾ってあり、上にまで届くのではないかという位のどデカいケーキが中央に鎮座していて……? いや、きっと俺の見間違えに違いない。
 真正面の壁に「ようこそシャルドくん」と書かれたデカい横断幕が飾られていたのも、見間違えだ。
 そう自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をし、再びゆっくりと扉を開い────閉じた。見間違えじゃなかった。やはり、さっき見た景色がそのままある。

「……落ち着け。幻覚……、そうだこれは幻覚だ。もしや、俺は試されているのか? 幻を見せられる魔法にでも掛けられている……? そうか、分かったぞ! これは俺への試練だ。幻を見せられ、どう対処するのかを見られている。つまり、俺が使い物になるのかそうでないのかを見定める為の試練だ! 流石は魔王様。このような試練を用意して下さるとは。ならば話は早い。こんな幻なんぞには引っかからないという事を、見て頂かねば……。よし……」

 行くぞ!! と、気合を入れて扉へと向き直り、今度こそ勢い良くその重い扉を開け放った。
 ほら、やはりさっきのは幻覚────……、

「よしいいぞ! 飾り付けや、菓子の並びも完璧ではないか。流石だ」
「有難う御座います!!」
「最後はこの魔法式特大クラッカーで締めるんですよね!?」
「うむ! きっとシャルドの奴も驚くだろう」

 頭を、抱えたくなった。
 普通、本人がもう居るのに目の前で締めの話をするか? そもそも、魔王軍が何をしているんだ。なんのパーティだ。歓迎会か? ああ、俺のか。俺の歓迎会か。そうだよな、横断幕に「ようこそ」って書いてあるもんな。歓迎会だよな。誰の? 俺のだ。そう、そうだ。新人が入ったら先ずは歓迎会だもんな。うんうん。立派な飾り付けじゃないか。これなら、新人もきっと喜んで────…………。

「いや、そうはならないだろ!!!!」

 今日一の声量が出た。
 おかしい、おかしいぞ。なんなんだこの、アットホームな職場のようなノリは。魔王軍とは、もっと、他の者を恐怖のドン底に陥れるような、ましてや歓迎会等には一生縁がないと、そんなイメージがあったのだが。ああ、ダメだ、頭がパンクしてしまう。言葉が上手く繋がらない。
 俺の存在に気付いた魔王と、周りの部下が一斉に此方を見遣った。見るな。俺を見るな。
 他の誰よりも一回りも二回りも大きな体躯で、マントを靡かせながらズンズンと俺の方へと歩いてくるのは、

「よく来たな、シャルド!」
「ま、魔王様」

 動物の頭蓋骨を象った仮面の下で目を細める魔王様。目の前に立たれると、やはり威圧感がある。
 しかし、それを感じたのも一瞬で。

「ほれ、これはお前の分だ」

 ポン、と頭に乗せられた何か。そして、次に何か白い布を肩から掛けられた。
 見なくても分かる。これは、そう…………。

「今日はシャルドが主役だからな。光栄であろう!」
「……ウッス……」

 パーティ用の三角帽子に、「本日の主役」と書かれた襷。
 嗚呼、十数分前の俺へ。お前は期待に胸を膨らませているだろうが、十分後にはこうなるぞ。十数分後の俺より。……いや何でだよ。

「さあさあ、主役も登場した。今宵は歓迎会、宴だ! 皆の者、存分に楽しもうぞ!!」
「「おおッ!!!」」

 魔王様の掛け声に、片手を強く突き上げて吠えるように声を揃える大勢の魔物達。
 そんな魔物達を、ただ遠い目で見つめることしか出来ない俺。
 ここで、本当にこの先やっていけるのだろうか。早速心配になってきた。
 他の魔物達に歓迎の言葉を投げ掛けられながら(なんだこの状況は……)と考える。本当に何だこの状況は。これが本当に、あの魔王軍の本拠地なのか? 魔王軍とは、実際こんな感じなのか? 訳が分からない。既に俺の頭はキャパオーバーしている。誰か助けてくれ。
 グルグルと頭の中で、色々な考えを反芻させる。整理が全く追い付かない。俺は、魔王様に憧れを抱きここに来たというのに。
 自分の信念を曲げず、冒険者や勇者等にも屈することなく、自分が正しいと判断した事をやけに自信ありげに持ち続け、そして必要とあらば容赦無く仲間であろが切り捨てていく。世間から見れば魔王様は悪者側だろうが、俺にとっては寧ろ勇者側だ。
──だから、この魔王様について行こうと、思っていたのに……。
 目の前に立つ魔王様は、周りの魔物達に数回頷いた後に此方を見遣り、その大きな口元に笑みを浮かべた。

「改めて歓迎しよう、シャルド。お前の活躍、期待しているぞ」

 そう言って腕組みをし、少し弾み気味の声色で話す魔王様。
 ……正直、まだまだ状況を理解してはいない。だが、どちらにせよ俺はこの魔王軍で生きていくのだ。それならば、俺がすべき返答は一つ。

「はっ。必ずや、魔王様のお役に立ってみせましょう」

 片膝をつき、心臓にあたる部分に右手を添えながら忠誠を誓った。どんな所であろうが、俺は俺に出来る事をするだけである。
 今日からここが、俺の属する魔王軍なのだから。


「チョコレートプレートはシャルドの皿に盛り付けておいたぞ」
「あ、ウッス……」
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