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二章 王都トルデリア

12話 再会

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「どうしてここに?」

本気で驚いている純白の騎士服姿のジーンに、パレットは首を傾げる。
パレットの呼び出しに、ジーンは関りがないのだろうか。
 王城内の猫かぶりモードのジーンの声に、パレットの前を行く文官が足を止めた。

「騎士殿、こちらの方とはお知り合いですか?」
「ええ、そうです」

ジーンが頷くのに、文官は表情を変えずに続けた。

「であるならば、話は後でしてもらいたい。
私はこの者を、上の命令で連れて行く最中なのだ」

事務的は言い方に、ジーンは表情を険しくした。

「なにかしたのかい?」

ジーンがパレットを見るが、パレットは首を横に振るしかない。

「私も知らないわ。
領主様に言われて届け物をしに来たのよ。
王城から、何故か私を指名されたとかで」
「王城から?」

ジーンが考えるような仕草をするが、文官が冷たく言う。

「そのあたりの事情は私の預かり知らぬこと。
私は上の命令に従うのみ」

しかし文官のパレットを見る目は、明らかに罪人を見る目だ。
それを見て取ったジーンの表情が歪む。

「なにかの情報の行き違いで、あなたは誤解されているのではないでしょうか」

ジーンが意見したことに、文官が不快そうな顔をした時。

「魔獣だ!」

どこからか、悲鳴交じりの叫び声が聞こえた。

「なに?」

パレットはその不穏な叫びに、声がした方に視線をやるが、なにか見えるわけでもない。

「さぁ……」

ジーンが眉を顰めて、腰の剣に手をかける。
魔獣という言葉が聞こえたからだろう。

 ――魔獣って、あの魔獣?

 パレットは月の花の咲く森で見た、大きな魔獣を思い出す。
あんなものが王城に出たというのか。
しかしそれにしては、騒ぎが小さい気がする。
あれがここに出たとするなら、もっと大勢の逃げ惑う人がいてもいいはずだ。
それなのに、パレットの横を通り抜ける人々も、なんの騒ぎだろうと困惑顔である。

「ジーン、魔獣って……」
「なにかの間違いだろう。
魔獣はこんなところに降って湧くようなものじゃない」

そう言いつつも、ジーンは警戒する。
 その時。

「みぃ~……」

廊下の向こうから、パレットには見慣れた黒い毛玉が転がるように駆けてくる。
てってってとこちらに来ると、大きくジャンプしてパレットの胸元に飛び込んだ。

「ミィ!? どうしたのこんなところで」

庭を散歩していると思っていたミィが王城内にいる。
しかもミィを放した場所から、ここまではずいぶんと離れている。
迷い込んだのだろうか、とパレットが思っていると。

「それは?」

ジーンがミィを覗き込むので、パレットはジーンに向かって掲げで見せた。

「私の猫よ。
まだ小さい子供なの」
「みぃ!」

ミィが元気よく鳴いた。
 そんなことをしていると、ミィが駆けてきた廊下の向こうから、複数の足音が近づいてくる。

「なんだ?」

その騒々しい様子に、ジーンがさらに警戒する。
そうしているうちにこちらにやってきたのは、ジーンと同じくきらびやかな白い騎士服に身を包んだ男性たちだった。

「あそこだ!」
「ジーン!? あいつめ!」

口々に騒ぎたてる男性たちに、パレットとジーンは周囲を包囲された。
一緒にいた文官は、いつの間にか離れた場所に移動している。

「え、あの……」

何事だろうかと困惑するパレットに、目の前にいる騎士が唾を飛ばさんばかりに叫んだ。

「もう逃がさんぞ、魔獣め!」

そう言って、腰の剣を抜いてパレットに突きつけた。

「……はい?」

パレットは驚きのあまり口をぽかんと開けてしまう。
だが騎士は続けて叫んだ。

「魔獣を王城に連れ込んだのは、お前か女!」

騎士の持つ剣がミィに触れようとしたので、パレットは慌ててミィを抱いた腕を逸らす。

 ――魔獣って、ひょっとしてミィのことを言っているの!?

 混乱するパレットに構わず、他の騎士たちも剣を抜いていく。

「ジーンも一緒とは、貴様は下賤な反逆者なのだな!」
「こいつらをひっ捕らえるぞ!」

そう息巻く騎士たちに対して、ジーンはため息を漏らした。

「おいおい、正気か?」

呆れ顔なジーンの被った猫が、大きく剥がれかけている。
それだけジーンにとっての想定外な自体なのだろう。

「ねぇ、なんのこと?」
「知らん」

そう二人が囁き合っていると。

「愚か者の醜態は、滑稽を通り越して哀れだな」

その静かな声は、騎士たちの騒々しい叫び声の中でもよく通って聞こえた。
声を聞いた騎士たちは動きを止めた。

 ――今度は誰?

 パレットが声の主を探すと、騎士たちを割るようにして近づく人物がいた。
青い衣を纏った色白の若い男性で、ジーンよりも年上だろう。
長い黒髪を背に流し、細い銀縁眼鏡をかけた切れ長の瞳で周囲を睨みつけている。

「全く、お前らにはうっかり尋ね事もできんのか」
「オルレイン導師」

ジーンの言葉にパレットは驚く。
導師とは、王にに仕える魔法士の呼び名である。
その数は片手で足りるほどの人数しかいない。
まさしく国の魔法士の最高峰なのだ。
 そのオルレインは、パレットの方を見ると一つ頷いた。

「ああ、そこにいたか魔獣の子よ。
どうして王城にいたのか不思議だったが、そこの女が同行させたのか」

そう言って、オルレインはパレットに近寄ってきた。

「ジーンよ、その女は誰だ」

オルレインの質問に、ジーンが素直に答える。

「先だっての旅で、私が協力を求めたアカレアの街の文官です」
「なるほど、実際にあれを採取した者か」

二人で納得しているところ悪いが、パレットにはそれよりも大切なことがある。

「え、魔獣って、ミィが?」
「みぃ?」

ミィが不思議そうにパレットを見ていた。
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