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三章 王都滞在中

22話 騎士様とお出かけ

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翌朝の目覚めは、そこそこ爽快だった。

 ――いつの間に寝たの、私?

 自分でベッドの入った記憶のないパレットは首を傾げる。
ジーンと一緒に酒を飲んだことは覚えているのだが。

「みぃ」

パレットが起きた気配に気づいたのか、一緒にベッドの上で丸くなっていたミィが挨拶するように鳴いた。

「おはよう、ミィ」

もうすぐ朝食の時間になる頃合いだ。
パレットは手早く身支度をして食堂に向かった。

「パレットさん、おはよう!」

食堂に入ると、アニタが元気よく挨拶してきた。

「おはよう、アニタ」

パレットも挨拶を返すと、アニタがまじまじとパレットの顔をのぞき込む。

「パレットさん、元気?」

昨日心配してくれたというアニタにパレットは微笑んだ。

「ええ、ぐっすり寝たからとても元気よ」
「みゃ!」

自分も! と言うようにミィが鳴いた。
その様子にアニタが笑う

「ならよかった!
 猫ちゃんもおはよう、すぐご飯だよ」

食卓にはすでに料理が並べられていた。
食堂に来たのはパレットが最後のようで、ジーンはすでの食卓の席に着いていた。
ジーンは一瞬ちらりとパレットを見たが、口を開いてはなにも言わない。

 ――二人でお酒を飲んだ後、どうなったのか聞きたいんだけど

 ちゃんと布団に入っていたところからすると、自分で寝たのであろう。
ジーンなら酔っ払って寝ても、そのまま放置しそうだからだ。
だがジーン相手にいろいろと愚痴を言った覚えはある。
酒の勢いだろうが、酔っ払いの愚痴に付き合ってくれたことは感謝しようと思う。
 パレットは朝食を終えてからはのんびりと過ごす。

「ミィは散歩に行っておいで」
「みぃ!」

部屋の窓を開くと、ミィがひらりと外へ飛び出した。
パレットは昨日出かけた先であんなことがあったので、今日は屋敷でじっとしていようと決めていた。
 だがそんなパレットを、兵士との訓練から戻ったジーンが訪ねてきた。

「出かけるぞ」

パレットの顔を見るなりそう言うジーンの服装は、純白の騎士服ではなく普段着に剣だけ身につけている恰好だ。
パレットは首を傾げる。

「ジーンあなた仕事は?」

いつもの今頃ならば、ジーンは王城に出かけている時間である。

「今日は休暇だ」

パレットの疑問に、ジーンは短く答えた。

「早くしろ」

そう言ってジーンはドアの外の壁にもたれかかる。
そこでパレットの支度を待つつもりらしい。

 ――というより、本当に出かけるの?

 突然のことに戸惑うも、無言で急かすジーンに負け、パレットはドアを閉めて手早く室内着から着替える。
 ジーンがパレットと出かけるのはすでに決まっていたようで、玄関口でみんなに見送られた。

「楽しんでらっしゃい」

そう言って笑顔のエミリさんに弁当を渡され、手を振られた。
 こうしてジーンに連れられて向かったのは馬小屋だった。
そこでは、散歩に出かけたと思っていたミィが待っていた。

「ミィ、ここにいたの」

ミィはフロストの側に敷いてある藁で、隠れたり脱出したりを繰り返して遊んでいた。
フロストはミィが邪魔ではないのだろうか。

「みぃ!」

ミィはパレットを見ると元気に鳴いて、馬小屋に繋がれたフロストの背中にひらりと乗る。
どこに行くのかパレットも知らないというのに、ミィは一緒に行く気満々だ。

「この屋敷に引っ越してよかったことは、フロストを手元に置いておけることだな」

ジーンがフロストを馬小屋の外に出しながら言った。
以前のフロストは兵舎の馬小屋に入れられており、満足に世話をしてやれなかったのだそうだ。

「王都から出るんですか?」

パレットはジーンに尋ねる。
王都内を散策するだけなら、馬は使わないだろう。

「ああ、ちょっとな」

だがジーンはまだ行き先を告げない。
パレットはフロストに乗せてもらう。
その間フロストはいつものように無反応だ。
 ジーンと相乗りして、パレットは大通りを進む。
馬上からの眺めは、いつもと違う視界で新鮮だ。
しかしパレットから景色がよく見えるということは、通りを行く人たちからも良く見えるということでもある。

「きゃあ、ジーン!
 今日はお休みなの?」

馬上のジーンの姿に、大通りを行く若い女性たちが歓声を上げた。
王城の騎士様は人気者のようだ。
同時に、パレットを見てひそひそと話す姿も見受けられた。

「ねぇ、誰かしらあれ」

女性たちがパレットに刺々しい視線を向ける。

 ――見目麗しい騎士様にパッとしない女がひっついてたら、普通こういう反応になるわね

 パレットはそれを十分承知しているので、彼女たちのことはまるっと無視である。
 彼女たちにいちいちにこやかに返事をするジーンと共に門まで来ると、今度は兵士に声を掛けられた。

「ジーンじゃないか、久しぶりだな」

ジーンが兵士をしていた頃の知り合いだろう、一人が親しそうに話しかけてきた。

「そっちも、元気そうだな」

ジーンも若干砕けた話し方で応じる。
兵士はジーンと一緒にいるパレットをちらりと見た。
おそらくここでも、パッとしない女を連れていると思われているに違いない。
パレットは軽く会釈するに止めた。
 兵士はすぐにパレットから視線を外し、ジーンに質問する。

「出かけるのか?」

「すぐそこだ、夕刻前には戻ってくるさ」

ここでもジーンは行き先を告げない。
一体どこに行くのだろう。

「そうか、気をつけてな」

兵士から通行証を持っていることを確認される。
出て行くのに通行証はいらないのだが、入る時に必要になるからだ。
ジーンが注意事項を聞いている間、パレットは少し離れたところにいる兵士たちの会話が耳に入った。

「へっ、お偉い騎士様のお通りだとよ」
「女連れかよ、かっこつけやがって」
「顔がいいってのは得だな」

なんだか良くない雰囲気の兵士たちが、嫌な目でパレットたちを見ていた。

 ――ジーンは兵士なのに、飛びぬけて出世したんだものね

 普通兵士が騎士になるなんて、ありえない話だ。
妬むのも当然なのだろうが、それを受ける方は気持ちのいいことではない。

「放っておけ」

ジーンも聞こえていたのだろう、小声でパレットに言った。
 騎士様になったことは、いいことばかりではないようだ。
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