異世界で、もふもふライフ始めました。

黒辺あゆみ

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1巻

1-1

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   第一章 気を付けよう、キャンプ中の川の増水


 夜、とあるアパートの一室にて。

「……馬鹿だ、ほんっとうに反省しない馬鹿だ、私って。こうなるって分かっていたじゃないの」

 大泣きしながらぶつくさ文句を言っている女の名前は、加納美紀かのうみき。大手商社に勤めるOLだが、それも今日までの話。
 今朝、出社してすぐに退職願いを出し、ついでに残った有給休暇もブン捕った後、会社を飛び出したのだ。
 何故美紀が退職することにしたのか――それはつい一週間前まで付き合っていた男が原因だった。
 彼は同期入社の営業マンで、営業事務をしていた美紀とは共に仕事をする関係だった。やがて二人の仲は、プライベートで親密な付き合いをするまでに発展。恋人として三年付き合い、そろそろ結婚も視野に入れていたのだが――

『俺、美紀と別れてこのと付き合うことにしたから』

 彼に突然こう宣告され、紹介されたのは美紀が指導していた後輩だった。

『ごめんなさい、先輩。いけないことだと分かっていたんですけど、先輩のことで相談に乗っているうちに……』

 後輩は彼の背中に隠れてフルフルと震えながら、しかし目元はニンマリと笑っていた。そんな後輩の様子に気付かない彼は、力強く彼女を抱きしめる。

『お前は悪くない。ただ俺が、美紀のことを信用できなくなっただけだ』
『違うの、好きになった私が悪いの』
『いいや、何度でも言う。お前は悪くない』

 目の前で二人の世界を繰り広げられ、美紀は次第に怒りを突き抜けてむなしくなる。

『もう勝手にすれば?』

 抱き合う二人にそれだけ言い残し、その場を去った。
 美紀の破局のニュースは、その日のうちに社内を駆け巡った。社内のどこへ顔を出しても、興味本位の噂話にさらされる。噂の内容は、美紀が恋人と上手くいっていない八つ当たりに、後輩をいじめていたというものだった。
 噂の出所はあの後輩だ。あろうことか、彼女は以前から美紀を嫌っていた女子社員達にその話を持って行った。そして、格好のネタを掴んだ女子社員達は、『酷い女である美紀に正義の鉄拳を』という名目で嫌がらせを開始する。
 資料を隠したり、頼んだ仕事を聞いていないと突っぱねたりと、美紀の業務に支障の出る陰険な嫌がらせばかりだった。それでも仕事は仕事だと必死にこなしている美紀の横を、後輩と元恋人が腕を組んで楽しそうに帰って行く。
 そんなことを続けて一週間、いわれのない仕事の妨害行為にとうとう我慢ができなくなり、美紀は退職願いを出したのだった。
 上司は『引き継ぎはどうするんだ!?』と怒鳴っていたが、それに関しても抜かりはない。いつ堪忍袋の緒が切れてもいいように、完璧な引き継ぎ書類を作成してある。仮に足りない部分があっても、きっと後任となる後輩に、親切な男性社員が手取り足取りの付きっ切りで教えてくれるだろう。
 他人には『恋愛問題ごときで仕事を辞めるなんて!』と言われたが、ならばあの状況をアンタが味わってみろと言いたい。美紀はあんな針のむしろに座るような思いをしてまで、続けたくはなかった。元々、今の仕事は向いていないかもしれないと悩んでいたので、これを機に辞めることに躊躇ためらいなどない。
 こうして会社を辞めた美紀はコンビニで酒とツマミを購入して自宅アパートに帰り、一人でヤケ酒を飲んでいる。

「あー、また失恋、しかも略奪されての失恋。りないなぁ、私って」

 全てを捨てて一人になると、またフラれた怒りと悲しみが込み上げてくる。
 泣きすぎてれぼったくなっている目元を乱暴にぬぐい、魂まで抜けてしまうかのような深いため息を吐く。
 先ほどまでの美紀はシクシクなんて可愛いものじゃなく、ダバダバという勢いで涙を流していた。思い返せば、恋人をられるのはこれが初めてではない。中学の頃からいつも、恋人ができては誰かに奪われることの繰り返しだった。
 気持ちが離れる理由だっていつも一緒。

『君は俺が思っていたのと違っていて、なにを考えているのか分からなくなった』

 そう言われる原因は、恐らく美紀の見た目と内面のギャップだ。
 美紀は自分で言うのもなんだが、目鼻立ちが華やかな美人顔で、スタイルもモデル並みに良い。色々な男性に告白されていたせいで、恋愛面でも派手なのだろうと思われ、『男をはべらすハーレム女』とまで噂されていた。
 だが、美紀の内面はとても地味だ。休日は一人で家にこもって本を読んだりネットを見たりするのが好き。服だって仕事着とパジャマがあればよくて、あまりお洒落しゃれに気を使うのは好きじゃない。
 この内面が見た目に合わないと気付いたのは、中学生の時。この頃にはすでに容姿で目立っていた美紀は、集団の中心にいることが多かった。『なんでもデキる女』だと思われ、教師やクラスメイトからリーダーシップを発揮することを期待される。
 美紀は周りの期待に応えようと、見た目に合った振る舞いをした。
 だがそれは所詮嘘の自分。
 級長に推薦されても上手く立ち回れず、お洒落しゃれな女子達のグループに誘われても溶け込めない。

『加納は思っていたのと違うな』

 すぐに周りからそう言われるようになった。
 それが苦痛で、また嘘の自分を演じ始める。今までその繰り返しだった。
 たった一人だけでもいいから本当の自分を分かってくれる人が欲しいと、恋人を作ったりもした。しかし彼らも最後に周りと同じことを言い、見た目と中身が一致する(ように見える)女子に奪われるのだ。
 仕事のことだってそう。美紀は本当は、マッサージ師になりたかった。
 学生時代にマッサージにハマり、色々な関連本を買いあさって試したり、有名なマッサージ師の講習会に参加したりした。
 本気でマッサージ師になりたいと思った美紀が両親にそれを告げると、彼らは冗談を言うなと一笑に付した。

『それは大学を出てまでする仕事ではないだろう』

 あの頃の両親は周囲同様に、美紀は人の先頭に立つタイプだと思っていたらしい。そして仕事もリーダーシップを発揮するものを望んでいた。
『マッサージ師を目指すというのなら、学費や仕送り代を全て返せ』と理不尽なことを父に言われ、大喧嘩をしたのだ。
 それ以来家に帰らず、アルバイトとしてマッサージ店に勤めた美紀だったが、すぐに夢を追う難しさを知ることになった。
 正式にマッサージ師になるには、資格を取るための学校に行く必要がある。しかし、お金を稼ぎながら学校で勉強するのは体力的にも金銭的にも厳しく、挫折する者も多い。
 結局、美紀も夢を追うことを諦め、大学卒業後は無難な会社勤めにおさまってしまった。
 このように、美紀は外見のイメージと本来の自分とのギャップに悩んでばかりの人生だった。
 今回も、『この人なら……』と思って付き合ったが、結果はご覧の通りである。

「でももう、今度こそこんな恋をやめる! 自分に嘘をつかないわ!」

 美紀はそう決意して、泣くのをやめた。そして失恋後の恒例行事――気分転換のキャンプに行くため、リュックに荷物を詰めていく。
 この失恋キャンプは、大学時代に雑誌の特集に影響されて始めた。一人だと家にこもりがちな美紀は、自然の中で気持ちが洗われるような体験をし、それ以来癖になったのだ。
 今時のキャンプ場は、テントからバーベキューまで準備万端に整えてくれるという親切仕様になっている。また、今回行くのはこれまでに何度も行ったことのある慣れた場所であり、危険だなんて考えもしなかった。
 この認識が、間違いの始まりだとも知らずに。


 翌朝、リュックを背負った美紀は電車に乗った。最寄り駅からの送迎バスに乗ればキャンプ場はすぐだ。
 昨日のうちに予約を入れていたので、すんなりとテントへ入ることができた。最近は立派なテントにベッドが用意されているプランもあるが、美紀は昔ながらのテントで寝袋を使うスタイルが気に入っている。
 先日までずっと続いていた雨が嘘のような晴天になり、美紀の心も晴れ渡るようだ。

「やっぱり、来てよかった」

 キャンプ場が用意してくれた昼食を食べた美紀は、近くを散策しようと思い立つ。ちょっとの時間なので、荷物を置いて身軽な状態で出かけることにした。

「雨で川が増水してますので、近付かないでくださいね」

 そんな係員の注意に軽く頷き、遊歩道へ向かった。
 キャンプ場近くの遊歩道は綺麗に整備されているが、奥に行くと自然のままになっている。美紀は奥の方が自然を感じられて好きだ。
 遊歩道に沿って川が流れているのだが、進むにつれて水音がはげしくなってくる。木々の隙間から見える川の流れが荒々しい。
 この時ちょっとした好奇心が湧いて、美紀は川岸に近付いてみることにした。所々『危険!』という札が下がったロープが張られているが、少し川の流れを見たらすぐに戻るから危ないことなんてない――そんな軽い気持ちで。

「うわぁ、すごい水の流れ」

 ドドド、と音を立てて流れる水に、美紀は感心する。
 その時――
 ドォオン!
 川上の方で音がした。
 ――なに……?
 音の原因を探ろうと川上を仰ぐと、こちらへ押し寄せる鉄砲水てっぽうみずが見える。

「……っ!!」

 美紀は悲鳴すら上げられず鉄砲水てっぽうみずに流され、そのまま意識を失った。


 美紀がうっすらと目を開くと、木目調の天井が視界に入った。
 ――私、どうしたんだっけ……。確かキャンプに行って、散策して、鉄砲水てっぽうみずにあって……

「そうか、流されたんだ」

 今こうしているということは、どうやら鉄砲水てっぽうみずに巻き込まれつつも命は助かったらしい。
 首を動かして周りを見ると、自分がいるのは木目調の壁に囲まれた部屋だった。家具は寝かせられているダブルサイズのベッド以外にはなく、簡素な印象を受ける。ここはキャンプ場の施設の一つだろうか。
 現状の確認ができると、美紀の口から自然とため息がもれた。
 ――馬鹿だなぁ、私。
 係員に注意されたし、『危険!』という札もあったのに、スルーして興味本位に動いた結果がこれだ。
 何度か一人でキャンプをして、山を知った気でいたのかもしれない。こんな軽はずみなところが、『思っていたのと違う』と言われる要因の一つだ。
 とりあえずベッドから身を起こそうとすると、身体のあちらこちらが痛む。流される時、恐らく岩に当たったのだろう。それでもなんとか起き上がると、何故か上半身は裸で、かろうじてパンツだけ穿いていた。
 ――え、なんで裸?
 助けてくれた人が脱がしたのか。もしかしたら、流されている間に服が駄目になってしまったのかもしれないと思った、その時。
 ガタン!
 タイミング良くドアが開く。慌てて布団を手繰たぐり寄せてそちらを見た美紀だったが――

「グルルルル!」

 現れたのは、黄色い毛に黒のしま模様の大型猫科動物。
 そう、虎だった。
 ――なんで虎が!?
 驚きのあまり悲鳴すら出ない。そうしている間に虎はのっしのっしと歩いて来て、ベッドに前足を載せた。

「……っきゃーー!!」

 美紀は今度こそ、けたたましい悲鳴を上げた。

「グウッ!?」

 その声に驚いたのか、虎が慌ててドアから逃げていく。
 ――警察に通報しなきゃ……! でも、スマホは置いてきたし……!
 パニックになるあまり美紀が心臓をバクバクさせていると、再びドアが開く。今度現れたのは三十代後半くらいの背の高い女性だった。浅黒い肌に金の癖毛を背中まで流し、緑の瞳をしている。服装はカラフルな布を胸から巻きつけるような格好で、どこかの民族衣装っぽい。
 美紀は彼女に虎がいたことを訴えようとして、固まる。
 ――キャンプ場に、外国人?
 一瞬そう思ったが、どう見てもキャンプをする格好ではない。そしてキャンプ場に虎はいないはず。本当にここはキャンプ場なのか、そうでないとしたら今自分はどこにいるのかと、とてつもない不安に襲われた。

「あの、ここってキャンプ場ですよね?」

 恐る恐る尋ねる美紀に、彼女は困った顔をした。

「※※※※?」
「……え?」

 彼女が何事か尋ねてきたが、話す言葉が分からない。

「※※※※?」

 続けて質問されたようだが、やはり理解できない。今まで一度も聞いたことがない言語だった。
 どういうことかと眉をひそめた次の瞬間、美紀の視界を奇妙なものが横切った。それは黄色地に黒のしま模様が入った細長い棒状の物体で、先ほど部屋に入ってきた女性の腰のあたりでユラユラと揺れている。
 ――虎の、尻尾?
 驚き固まる美紀を、彼女がしゃがんで心配そうに覗き込む。すると、今度は彼女の頭の上に丸くて黄色い毛並みの耳を見つけた。
 ――え、なに、どういうこと?
 理解が追い付かずに呆然とする美紀を、彼女はそのままにして部屋から出て行った。
 彼女が去った後、美紀はしばらくぼうっとしていたが、疲れていたのか、いつの間にか寝てしまっていた。


 そして次に目がさめた時、美紀は状況を確認するべく、勇気を出して部屋から出た。

「……なによ、このジャングル」

 外はキャンプ場ではなかった。山というよりも密林を切り開いた土地に、簡素な小屋のような家がポツポツと立っているだけの集落といった感じだ。
 住民は皆、布を身体に巻き付ける格好をしており、昨日の女性と同じく背が高い。日本人女性としては高身長である美紀が、まるで子供サイズだ。それに、皆が皆、虎の耳と尻尾をつけている。
 そして住人に交じって、大きな虎が我が物顔で歩いていた。それも一匹ではなく複数だ。もしかして人よりも虎の方が多いかもしれない。
 ――どういうことよ、誰か教えてよ。
 外を見てさらにショックを受けた美紀は、元の部屋に戻る。本当に戻ってもいい場所なのか分からないが、今のところ居場所がそこしかないのだ。
 中に戻る際、家のドアが全部カウンター扉のように開け閉め自由な造りになっていることに気付く。もしかして、虎の出入りのためだろうか。
 改めて、ここは自分の知る場所ではないのだと思い知らされる。

「……私、一体どこにいるんだろう」

 美紀は深いため息を吐いた。
 それから二日くらい、美紀は虎がうろつく外が怖くて、部屋に閉じこもりっきりだった。その間、食事を持って来てくれたのは、最初に見たあの女性だ。
 元々着ていた服は駄目になったわけではなく、洗濯して綺麗な状態で返してくれた。しかし、それ一着しか服がないので、着替えとして大きな布を貰い、集落の女性にならって胸の上で巻いて留める。
 美紀は現在の状況が分からなくとも、彼女に保護されているらしいということは理解できた。

「あの、ありがとうございます」

 気持ちだけでも伝わればと思い礼を言うと、彼女はニコリと笑う。

「※※※、アルザ※※」

 なにをしゃべっているのかさっぱり分からないが、彼女自身を指しながら言っている単語だけは聞き取れた。彼女はアルザというらしい。

「あの、私は加納美紀、美紀です!」

 美紀という名前を繰り返すと、アルザは「ミキ、ミキ」と何度か言い直していた。どうやら呼びにくいらしい。
 美紀はその後も数日閉じこもっていたのだが、様子をうかがっているうちに、虎が住人を襲わないことを理解した。住人は虎と家族のように親しげに接している。ただ、それが分かったとしても、美紀にとって虎は大きくて怖いのだが。
 ――でもいいかげん、外に出るべきよね。
 保護してもらっている身で、閉じこもってばかりでは迷惑だろう。そう思いつつも、どこなのかも分からない外に出るのは勇気がいる。

「……はぁ」

 口から自然と深いため息が漏れる。言葉が分からない上に、外には虎がたくさんいる場所で、美紀は心細くなっていた。
 ――父さんや母さん、どうしてるかな?
 ふいにそんな思いが浮かぶ。
 マッサージ師になることを反対されたのをきっかけに疎遠になっていた両親とは、会社に就職してからも連絡を取っていない。キャンプに行くという話も、当然していない。けれど、もうそろそろ行方不明になった美紀のことが伝わっているだろう。
 心配しているに違いない両親を思い、美紀はほろ苦い気持ちになる。

「……私って親不孝だな」

 自慢の娘になれず、喧嘩別れをしたまま、こうして異郷の地に来てしまって心配をかけている。疎遠になっていた両親だが、やはり忘れることなんてできないのだと、しみじみ思った。
 ホームシックにおちいった美紀はベッドに横になり、グズグズと涙をこぼす。すると今までの悲しかった場面が次々と思い浮かんでしまい、やがて大きな声を上げて子供みたいに泣いたのだった。


 そして翌朝。

「……顔が痛い」

 美紀はれぼったい顔で起きた。だがそれとは裏腹に、心は晴れ晴れとしている。失恋であれだけ泣いたというのに、まだ泣き足りなかったらしい。
 ――いや、今までは悲しくて泣いてたんじゃなかったのかも。
 失恋の涙はどちらかというと略奪愛への悔し涙で、悲しいというより、怒りの気持ちが強かった。
 怒ることで前を向けるという人もいるかもしれないが、美紀の場合は怒っても後に残るのはむなしさだけ。だから、泣いても泣いても苦しみばかりがつのっていった。
 けれど昨日の涙はただひたすらに悲しい気持ちで流したもの。悲劇のヒロイン気分で、あれもこれも悲しかったとワンワン泣いた。涙と一緒にその気持ちも流れていったから、泣いてすっきりしたのだろう。
 気分が変わった美紀は、部屋に閉じこもるのをやめた。いつまでもこうしてはいられないと、やっと踏ん切りがついたのだ。

「よし、ちゃんと外に出よう」

 外に出て改めて集落を観察すると、密林を切りひらいているというよりも、偶然ひらけていた場所を上手く使って集落を作ったという方が正しいようだ。生えている木をそのまま残して家を建ててあるので、人工的な雰囲気がほとんどない。
 あえて言うならば川から水路を引いている点だが、それも近くに木を移植させることで上手く自然に溶け込ませている。
 集落のあちらこちらに大きな池があり、そこで虎達が水浴びしていた。ここの気候はじっとしていても汗をかくくらいだから、水浴びはさぞ気持ちいいだろう。
 そんなことを考えながらぼうっと見ていると、美紀を珍しがった虎があちらこちらから寄って来る。

「いや、来なくていいから! 水浴びしてていいから!」

 手を振りまわしながら後ずさるも、虎の集団に囲まれてしまう。

「グルル」
「グル?」
「ギャーウ」

 虎達がまるで会話するかのように鳴き合う。『ちょっと味見してみるか?』とか話し合っていたらどうしようと、美紀は顔が青くなる。

「※※※※!」

 その時、離れた場所から誰かが声をかけた。すると虎達はパッと散っていく。
 ――ああぁ、ドキドキした!
 虎から解放された美紀は、アルザを探す。彼女は集落の真ん中にある調理場で、他の住人達と一緒に食事を作っていた。

「おはようございます!」

 そう挨拶をすると、アルザはれて酷い顔をしている美紀に一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに笑って挨拶らしき言葉を返してきた。

「あの、なにか手伝います!」

 美紀は言葉が通じないなら行動で示そうと、横に積んであった汚れた鍋や皿を持つ。

「洗ってきますね!」

 そう言って指さした先には、水路で洗い物をしている住人達の姿がある。きっとあそこで洗えばいいのだろう。

「※※※※!」

 アルザがニコリと笑って手を振ったので、『よろしくね』とでも言われたのかもしれない。美紀もそれに笑顔を返して、水路に沿って座る住人達に交じる。
 水路で洗い物なんて原始的な行為だが、日本でだって一昔前まで似たような状態だったと聞く。そう思えば少しだけ引けていた腰も据わるというものだ。
 洗剤もないので水だけで洗うのかと思って周りを見ていたら、隣に座る女性からてのひらサイズの葉っぱを渡された。そして彼女がするようにそれで皿をなぞると、ヌルヌルとした液体が付着して、汚れが綺麗に落ちる。

「すごい、洗剤の葉っぱなのね!」

 葉っぱ一枚に感心する美紀に、周囲の者達が笑い声を上げる。そして、水路沿いに植えてある木を指さした。どうやらあの木の葉っぱらしい。洗剤の葉っぱを水路に沿って植えてあるとは、なかなか合理的に考えられている。


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