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第二話 噂の「ハルカ」
36 妹VS会長
しおりを挟む「どーも、お久しぶりです」
顔だけ向けて挨拶してくる春香を見て、新開会長は眉をひそめて言う。
「お店の手伝いってわけじゃなさそうだけど、それじゃいけないわ。赤の他人を雇うより、あなたに手伝ってもらった方が家族も安心できるに決まってるじゃない。妹だからって、いつまでも甘えていないで、もう来年は高校生なんだから自立しないと」
春香の格好などで、店の手伝いでここにいる風ではないと思ったのか。それにしても人気モデルとしてそこそこの稼ぎのあるであろう春香に、自立を説くとは新開会長もなかなか剛毅である。
稼いでいるイコール自立しているとはならないのかもしれないが、春香がカチンとくる言い方なのは確かだ。しかも「赤の他人」の部分を強調した。
――アンタが店を手伝っていれば、私みたいなのが店に入り込んで、近藤に近付くことはなかったんだと言いたいのか。
要は、由紀への当てつけに使われた形である春香が、顔を赤くして声を荒げる。
「なんでアンタにそんなことを言われなきゃなんないのよ!」
「そんなことなんて、年長者のアドバイスじゃない」
だが新開会長はそう言い張る。今日はずいぶんと攻撃的な新開会長だが、ちなみにここまでの間に一切由紀を視界に入れようとしない。
こうしてお姉さん顔をして説教する新開会長、それに反発する春香、空気の由紀という微妙なトライアングルが形成されようとしていた。
――入り口でバトルしようとしないで欲しいんだけど。
ここは個人宅の玄関先ではなく店の入り口なのだから、営業妨害にも程がある。由紀が「どうしようかな」と考えていると。
「おい、春香」
すぐ逃げた近藤が、嫌そうな顔で厨房から出て来た。
「それ食ったら家に戻ってろ」
「はぁい」
近藤の言葉に、春香は素直に頷く。これ以上ここにいても楽しくないどころか面倒が起こりそうなので、正しい選択だろう。
「弘樹、あのね」
一方で、新開会長が嬉しそうな顔をして近藤に話しかけようとする。言葉上では近藤が春香を窘めたように聞こえたからだろう。
しかし――
「アンタも、喧嘩を売るようならここへ来るな。それにここは俺だけがいるわけじゃない」
近藤はぴしゃりと新開会長に釘を刺す。
「弘樹、私……」
近藤に叱られた新開会長がなにかを言おうとしたが、あちらはまたさっさと厨房へ引っ込む。春香も残りの焼きそばを一気にかきこむと、入り口から店を出て行った。
一人取り残された形になった新開会長は、さっと表情を強張らせたが、無言で開いているカウンター席に座る。そこへ、由紀はススッと近寄って行く。
「ご注文は?」
迷惑な客だろうと、座ったからには注文を聞かねばならない。伝票を構える由紀を見て、新開会長はあからさまに嫌そうな表情をした。
「……あなたじゃないくて、弘樹に」
「何度も言いますが、仕事ですから。彼も別の仕事があって忙しいんです」
由紀のいつもの台詞に、新開会長が黙り込む。なにせドリンクを食後に頼む客が多いので、近藤はこれからが忙しいのだ。
――新開会長って、こんな人だったっけ?
由紀だって学年の違う彼女のことにそう詳しいわけではない。けれど学校の生徒会長でカリスマがあって、みんなに慕われている人物。それが由紀が知っていた新開会長だった。
けれど彼女は連日の近藤に執着を見せる行動で、正直店で浮いていた。ここはホストクラブではないし、近藤もホストではない。なのにあんなに「弘樹」を連呼して呼び寄せようとしたら、その場違いさのあまり周囲の客から忌避されるのも当然だ。
あんな行動ばかりとっていると噂になってしまう。この手の噂は広まるのが早い。住んでいる地域が違っても、店に来る客に新開会長の近所の人がいないとも限らないのだ。
少々気になった由紀は、視線が厨房に固定されている新開会長を、そうっと眼鏡をずらして見た。
――色が、混じってる。
以前見た時は濃い紫とピンクに分かれていた色が、混じり合って濁っている。さらに、黒い色が陽炎のようにその中で揺らめいていた。
顔だけ向けて挨拶してくる春香を見て、新開会長は眉をひそめて言う。
「お店の手伝いってわけじゃなさそうだけど、それじゃいけないわ。赤の他人を雇うより、あなたに手伝ってもらった方が家族も安心できるに決まってるじゃない。妹だからって、いつまでも甘えていないで、もう来年は高校生なんだから自立しないと」
春香の格好などで、店の手伝いでここにいる風ではないと思ったのか。それにしても人気モデルとしてそこそこの稼ぎのあるであろう春香に、自立を説くとは新開会長もなかなか剛毅である。
稼いでいるイコール自立しているとはならないのかもしれないが、春香がカチンとくる言い方なのは確かだ。しかも「赤の他人」の部分を強調した。
――アンタが店を手伝っていれば、私みたいなのが店に入り込んで、近藤に近付くことはなかったんだと言いたいのか。
要は、由紀への当てつけに使われた形である春香が、顔を赤くして声を荒げる。
「なんでアンタにそんなことを言われなきゃなんないのよ!」
「そんなことなんて、年長者のアドバイスじゃない」
だが新開会長はそう言い張る。今日はずいぶんと攻撃的な新開会長だが、ちなみにここまでの間に一切由紀を視界に入れようとしない。
こうしてお姉さん顔をして説教する新開会長、それに反発する春香、空気の由紀という微妙なトライアングルが形成されようとしていた。
――入り口でバトルしようとしないで欲しいんだけど。
ここは個人宅の玄関先ではなく店の入り口なのだから、営業妨害にも程がある。由紀が「どうしようかな」と考えていると。
「おい、春香」
すぐ逃げた近藤が、嫌そうな顔で厨房から出て来た。
「それ食ったら家に戻ってろ」
「はぁい」
近藤の言葉に、春香は素直に頷く。これ以上ここにいても楽しくないどころか面倒が起こりそうなので、正しい選択だろう。
「弘樹、あのね」
一方で、新開会長が嬉しそうな顔をして近藤に話しかけようとする。言葉上では近藤が春香を窘めたように聞こえたからだろう。
しかし――
「アンタも、喧嘩を売るようならここへ来るな。それにここは俺だけがいるわけじゃない」
近藤はぴしゃりと新開会長に釘を刺す。
「弘樹、私……」
近藤に叱られた新開会長がなにかを言おうとしたが、あちらはまたさっさと厨房へ引っ込む。春香も残りの焼きそばを一気にかきこむと、入り口から店を出て行った。
一人取り残された形になった新開会長は、さっと表情を強張らせたが、無言で開いているカウンター席に座る。そこへ、由紀はススッと近寄って行く。
「ご注文は?」
迷惑な客だろうと、座ったからには注文を聞かねばならない。伝票を構える由紀を見て、新開会長はあからさまに嫌そうな表情をした。
「……あなたじゃないくて、弘樹に」
「何度も言いますが、仕事ですから。彼も別の仕事があって忙しいんです」
由紀のいつもの台詞に、新開会長が黙り込む。なにせドリンクを食後に頼む客が多いので、近藤はこれからが忙しいのだ。
――新開会長って、こんな人だったっけ?
由紀だって学年の違う彼女のことにそう詳しいわけではない。けれど学校の生徒会長でカリスマがあって、みんなに慕われている人物。それが由紀が知っていた新開会長だった。
けれど彼女は連日の近藤に執着を見せる行動で、正直店で浮いていた。ここはホストクラブではないし、近藤もホストではない。なのにあんなに「弘樹」を連呼して呼び寄せようとしたら、その場違いさのあまり周囲の客から忌避されるのも当然だ。
あんな行動ばかりとっていると噂になってしまう。この手の噂は広まるのが早い。住んでいる地域が違っても、店に来る客に新開会長の近所の人がいないとも限らないのだ。
少々気になった由紀は、視線が厨房に固定されている新開会長を、そうっと眼鏡をずらして見た。
――色が、混じってる。
以前見た時は濃い紫とピンクに分かれていた色が、混じり合って濁っている。さらに、黒い色が陽炎のようにその中で揺らめいていた。
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