【完結済】七度目の転生、お腐れ令嬢は今度こそ幸せになりたい ~何度転生しても呪いのせいで最悪な人生でしたが七度目で溺愛され幸せになりました~

北城らんまる

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第三部 お腐れ令嬢

Episode65.決意

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 三日目の夕方、ロサミリスはテオドラから手袋を受け取った。

「前よりも刃物に強い生地を使用していますので、そう簡単に破られたり切り裂かれたりすることはないと思いますよ。二回目ですからね、術式もパワーアップしてますよ」
「ありがとうございます、テオドラ先生」

 黒い手袋を受け取り、両手に嵌める。
 ここ数か月間ずっと着用し続けているためか、手袋をはめるとしっくりくる。

「ささやかなのですが、お礼の品を受け取ってください」
「お、それは嬉しいですね。何をくれるんですか?」
「ふふっ、テオドラ先生が栄養失調で倒れないようにたくさんの食材を買い込みましたわ。日持ちするものを多めにして、倉庫に置いておきました。欠けたものがあったので食器類も新調しておきました」
「え、いつの間に?」
「ただ待っているだけだと申し訳ないので、ジーク様や護衛の方たちとも手伝っていただきました」

 ついでに倉庫の掃除もしておいたので、ピカピカになっている。
 後で、伯爵家として正式な礼をするつもりだけれど、今すぐ彼に何かお礼をしたかったのだ。
 ジークも率先して手伝ってくれた。
 
「何から何まで済まないね」
「寝る間も惜しんで写本の解読と手袋の作製を続けてくださったんですもの。これくらい当然ですわ」

 本当に彼には感謝してもしきれない。
 封印術のこと、手袋のこと。
 彼がいなければ、ロサミリスは誰にも呪いのことを打ち明けられず、一人で呪いをどうにかしようともがき続けていただろう。16歳になったタイミングで〈腐敗〉の呪いに侵され、誰にも触れないよう、見られないよう、家に閉じこもっていたかもしれない。きっと適当な理由をつけて、ジークとの婚約も解消していただろう。

「そのことなんですが、大切な話があります」

 テオドラが一冊の写本を取り出した。

「呪いはミラの感情そのものなんです。太古の昔、ミラはとても強大な神として、帝国……いや、このときは帝国はありませんでしたから、今の帝都がある場所を守っていました。しかし戦争が始まってしまい、ミラも戦うことになりました」

 人間に神を宿らせ、神の加護で国同士が戦争していた時代。
 神話時代だ。

「ミラの力は強大で、ミラの加護を受けた兵士たちは屈強な戦士になり、他国を圧倒し始めました。それに焦った他国は同盟を組み、ミラを倒そうとしました。ミラは一人で力を酷使し続け、やがて力尽きました。そして、他国に侵略されてしまいます」
「神話時代の終焉ですね」

 そう言ったのは、ジークだった。

「神を宿せるほどの器を持った人間が祀り上げられ、神殿で儀式を行い、神をおろしていた神話時代。でもその大戦のせいで古代人は疲弊し、神界に住まう神も人の住まう世界に干渉しなくなった。もう人間は神の加護を受けることも声も聞けなくなってしまった。自力で生きていくしかなくなった人が発展させたのが、魔法ですね」
「そう、魔導と帝国の誕生です。まぁ、これは帝国史の序章で語られる有名な話ですから、ジークフォルテン卿もロサミリス嬢も知っているでしょう。知られていないのが、なぜ“ミラ”だけが邪神と呼ばれるようになったのか、です」
「その理由が、ミラが世界から拒絶され、その悲しみと怒りで呪いを産み落としたという話に繋がるんですか?」
「はい。ミラが何らかの理由で邪神と呼ばれ、その悲しみと怒りで世界に呪いを産み落とした。呪いを浄化できるという話ですが、実際は浄化ではなく魂に沁みついてしまったミラの感情を引きはがす、という儀式になります」
「なるほど……」

 ロサミリスも、なぜミラが呪いというものをばら撒いたのか、とても気になっていた。
 呪いをまき散らしたいほど、人が憎かったのだろうか。
 知りたいと思ったけれど、今の時代、人は神の声を聞くことが出来ない。
 国教である神シズールも、人が一方的に祈りを捧げているだけで、神のお告げを聞いているわけではないのだ。

「ただ、その儀式の詳細な内容が、ここにある写本のどこにも書かれていないんです」

 儀式はある。
 歴史上に一人だけ呪いを祓い除けた人物もいる。
 ただその儀式のやり方が、ロサミリスが持ってきた写本には書かれていない。

「ロサが書庫室で写し取ったものは全て見せている。あるとすれば────」


「その本は、敬虔なる信徒ロドル・ゲマイン────正確にはドラクガナル・ソニバーツ侯爵が経典として大切に持っている、ということですわね。テオドラ先生」


 ロサミリスが唯一写し取れなかった本だ。

「私はそのソニバーツ侯爵という方のことはあまり存じておりませんが……」
「十二年前、皇宮書個室に侵入して禁忌棚から本を盗む手伝いをした嫌疑がかけられています。そして、敬虔なる信徒ロドル・ゲマインを復活させた張本人と言われていますわ」
「なるほど。ちなみにその本の著者は誰です?」
「ヨハネスだとお聞きいたしました」
「ああ、そういうことですね。おそらくその本は、故人ヨハネスが記述したミラに関する・・・・・・最初・・の本です」
「最初……」
「ここにある写本にも、参考にした著者の名前としてヨハネスを挙げています。敬虔なる信徒ロドル・ゲマインは、ミラを崇拝する組織。彼らはミラを愛し、ミラの心を広めるためには手段をいとわない組織ですから、その本が彼らの手中にあるのも何ら不思議ではありません」

 テオドラの言う通り、敬虔なる信徒ロドル・ゲマインは手段を選んでいない。
 ドラクガナル・ソニバーツは組織を大きくするために皇宮の金を横領した。
 信仰を広めるために帝都で宗教集会を開き、帝都の治安を悪化させた。
 悪い人間がミラの信者を名乗り、罪のない人々から献金と称した恐喝を行っている。
 その混乱に乗じて、危険な薬なども売買されていた。

「彼らは呪いを祝福だと讃え、人々に布教する。祝福の宿主を血眼になって探し出します」
「呪いが祝福? 冗談じゃありませんわ。神がどのような経緯で世界を悲しんだのかは知りませんが、これは呪いです。呪いがもたらす未来は破滅しかありません」
「ええ、本人にとってはそうでしょう。ですが信徒にとってはそう映るのです」
「じゃあ…………あのときソニバーツ侯爵から感じたあの違和感は……」

 ソニバーツにとって、呪いを宿したロサミリスは、まさに天界から降り立った女神のように映るのだろう。

「ちょっと待ってくださいテオドラ先生。宿主を探し出すって?」

 嫌悪感を露わにして、ジークがテオドラに詰め寄った。
 
「探し出して、どうするのです?」
「祀ると言われています。文献では、生きたまま石に固めるとか……」

 これには、ロサミリスも言葉を失った。
 生きたまま石にする?
 宿主を聖像にして、ミラに見立てて祈りを捧げるとでも言うのだろうか。

「ありがとうございますテオドラ先生。ここからは俺が何とかします。テオドラ先生はゆっくり休んでください」
「いや、もしかしたらまだ何か分かるかもしれませんから、写本の解読を続けます。ただ経典だけは、そうですね……ジークフォルテン卿に任せるしかありません。あの本が、最後の希望ですから」

 ロサミリスも礼をする。
 ジークとともに、ロサミリスはテオドラの山小屋から離れた。

(そう…………あの人はわたくしと会いたいのね)

 馬車の中で、ロサミリスは秘かに思う。

(奇遇ね。わたくしも会いたくなったわ)

 恐怖という感情はもうない。
 前々から、彼に対して言ってやりたいことがあった。
 理由が出来た。
 彼と会う確固たる理由。
 本を取り戻すという理由が出来たのだから、そのついでに彼に対する鬱憤を晴らしても、誰も文句は言わないだろう。

(カルロス皇弟殿下に直訴しましょう)


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