【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる

文字の大きさ
11 / 20
本編

11 お酒・後

しおりを挟む



 体が熱くて、頭がぽわぽわする。
 あまりお酒は得意ではないけれど、上機嫌なジルクス様につられて、ついお酒が進んでしまった。魔物討伐がどうだったか、どんな魔物がいて、ジルクス様がどんな活躍をされたのか。ジルクス様の部下の話などなど……。

(ジルクス様……本当に部下思いなのですね……)

 しきりに部下たちのことを褒めている。
 部下思いの、良き上司なのだろう。

「しまったな、少し飲ませ過ぎたか? レティシア、大丈夫か?」

 ジルクス様は私の顔を心配そうに覗き込んできた。頬に手を添えられて、少しびっくりする。

「は、い。まだなんとか……」
「無理はするな。気持ち悪くなったら言いなさい」

 ジルクス様は酔いが回っているのか、そのまま私の銀髪を手で遊び始めた。くるくる、と指を巻きつけたり、離したり。大きな手に頭を撫でられるたびに、不思議な心地よさが広がっていく。こんな感覚、生まれて初めて……。
 
(あ。…………眠く、なってきちゃった)

 ほわっとあくびを一つ。
 目の前にいるジルクス様が、クスクスと笑っている。

「酔ったら眠くなる性質たちか?」
「はい……でも、大丈夫です。私は侍女で……頑張って起き……ますから」
「今は無礼講と言っただろう? 毎日レティシアは頑張っているからな、今日は俺が肩を貸してやろう」
「でも……」

 ジルクス様の手が、私の体を引き寄せる。
 彼の体はとても大きくて、温かくて。
 
「ジルクス様…………」
「なんだ?」

 お酒も入って、酔いも回って、温かい人に優しい言葉をかけられて。
 私はつい、思ったことを口にしてしまう。

「いま、とっても幸せなんです」
「そうか………」
「ジルクス様は、幸せですか」
「今までに感じたことがないほどの、幸せを感じている」

 かぁあ……と、頬が赤くなるのが分かる。
 この体勢で本当に良かった。
 顔をジルクス様に見られたくない。酔いが回って、だらしなく表情が緩んでいるだろう。こんな顔を見られるのは恥ずかしい。
 
(私はただの侍女なのに……)

 ジルクス様のことを考えないようにすればするほど、ジルクス様の顔が目に浮かぶ。冴え冴えとした切れ長の目元、キリリとあがった凛々しい眉、蠱惑的な唇。
 
 ジルクス様のお声は、人によっては冷たく感じるらしい。けれど私にとっては、耳に心地よく、安心できる声だった。

「レティシア」
「はい……」
 
 名前を呼ばれると、どうしようもなく嬉しくなってしまう。

「俺は昔から、人を信用していなかった。銀髪だというだけで指をさされたこともあるし、中には笑ってくるものもいる。もちろん皆がみな、そうではないことくらい分かっているがな」

 その気持ちは、痛いほど分かる。
 生まれ持った髪で、お母様と同じ色で大好きだったはずの髪なのに、銀髪が嫌いになったこともある。

 でも私には、私を認めてくれる侍女たちや、お父様がいた。

「俺の家族に銀髪はいない。何代も前の公爵の近親者には銀髪がいたらしいがな」
「ルヴォンヒルテ公爵が黒髪ですよね」
「ああ。突然血が濃く出た、なんて話をされたが、俺にとってはいい迷惑だった。不義の子だと疑われたこともある。使用人はみな疑心暗鬼の目で俺を見てくるし、ほとんど辞めていった。この先、決して使用人をつけるものかとずっと思っていた」

 ジルクス様は、私の顔を見つめてきた。
 恥ずかしくなって、私は顔を手で覆ってしまう。

「レティシアだけだ。俺のそばにいてくれたのは」

 顔を隠していた手が、ジルクス様によって動かされてしまう。優しい光を宿した灰簾石タンザナイトの瞳が、私を見つめる。

「ありがとう」

 ちゅっ、と軽いリップ音が鳴る。
 私の唇からジルクス様のお顔が離れていくのを、私は呆けた顔で見ていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。 でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!! 超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。 しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。 ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。 いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——? 明るく楽しいラブコメ風です! 頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★ ※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。 ※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!! みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*) ※タイトル変更しました。 旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。 本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。 そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく―― 身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。 癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多
恋愛
 クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。  両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。  おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。  でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!  そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...