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番外編
城編 17
しおりを挟む「はぁ……」
シーンと静かな部屋で聞こえるのは、俺の溜め息とパラパラと本を無意味にめくる音だけ。
今日の天気は雨。音は聞こえないが雨だとなぜか憂鬱な気分になる。外がいつもより暗いせいだろうか。
パタンと本を閉じ、机に頭を伏せた。
「はぁ……もう、いや、無理」
授業を初めて4週間経った。俺は今、メルゾーラ城内にある図書室にいる。原因は教養授業だ。
別にスウェンの授業で悩んでいるわけではない。スウェンの授業は分かりやすくとても楽しかった。
授業のやり方も俺の為に工夫され、無理だったダンスの練習も、練習相手がバルトになる事で出来るようになり、音楽もサックス案をスウェンに言うと、ちょっと目を泳がせたが、OKをもらい現在習っている。
ただ、貴族の音楽でサックスは習わないらしい。大抵習うのは、ピアノ、バイオリン、フルート。
では、なぜバルトはサックスを習ったのか。それは、バルトが夜に街をフラフラしている時、飲み屋でサックスを聞いてカッコよかったから……だそうだ。
先生方はそれはちょっと……と反対したが、『貴族なら国民の文化を知るべきだ』、『音楽は偏見を持ってはいけない』、『新しいことに挑戦することはいいことだ』とごり押し……説得をしたらしい。さすがバルト。
それはさておき、そう、スウェンの授業は俺に合っていた。ずっとスウェンに先生をやってほしかったのだが、この国の宰相、さすがに無理だった。
あれは、スウェンの授業を受けて3日後のことだ。スウェンの部下数名が泣きながらやってきた。
「無理です」
「助けてください」
「一生のお願いです」
と泣きながらスウェンの足にしがみついてきたのだ。スウェンは冷たく追い返そうとしたが、部下の方々が俺にすがるような目で見つめられ、頷くしかなかった。
そして、毎日スウェンに助けを求めてくるので、スウェンの機嫌が悪くなり、とうとうキレた。
部下達への長い説教後、長く深い溜め息をついたスウェンは、俺の両手で握りしめると、「ジン殿下、1日だけお休みをください」と可愛……うるうるした目で言われ俺は反射的に頷いたのだった。
それ以降部下達は来なくなったが、日を追うごとにスウェンの目の下のクマが酷くなっていった。
「スウェン、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
笑ってはいるが疲労の色が濃い。
元々スウェンの授業は、数日の予定だった。だが、教師がなかなか見つからず続行。
2週間経ってスウェンが呼び寄せた教師がやってきたのだが……うん、いつもにこにこと笑っているお爺ちゃん先生でマイペースに授業をする人だった。
話声が子守唄に聞こえ、ぶっちゃけ何度眠ったことか。それでも、怒られないのは、スウェンが何か言ったのだろう。
「はぁ……」
だからこうして図書室で復習をやっているのだが、全く頭に入ってこない。どうしよう。
俺はチラリと壁掛け時計を見て、深い溜め息をついた。
「20分後にはマナーの授業……」
マナーの教師は若い男性で、ちょっと変わった……変態だ。
「嫌だな……」
胸がキリキリと痛む。バルトに話しを聞いてもらいたい。だが、バルトは先週、3週間の騎士団総合練習の遠征に行っている。そこは通信機で話すには魔力量をバカ食いする距離だ。しかも、2週間以上森で過ごすらしい。そんな場所でもし強い魔物に襲われでもしたら……。うん、念のため魔力は保存して置いた方がいい。いざというときに魔力が少ないと危険すぎる。
そう、わかっているのだが……。
「……バルトに会いたい」
いっそうのこと瞬間移動で……いや、それはダメだろう。さすがの俺も迷惑だとわかっている。
「バル……」
無意識に指輪を撫でていると、暖かい何かに優しく包まれた気がした。それはよく知っているもので……。
「バルの魔力だ……」
バルトとおそろいのピアスと指輪が僅かだが熱い。
もしかしたら俺のバルトの思いに反応したのかもしれないな。
「ん、頑張ろ」
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