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番外編
城編 18
しおりを挟む授業を受けるべく、図書館の隣にある個室部屋に入るとニコニコ笑顔のマナー教師、イグルがいた。
「こんにちは、ジン様」
「……こん、にちは」
向かい合わせにテーブルに座ると俺の目の前に1枚の紙が置かれた。
うわ……。
紙にはぎっしりと授業リストが書かれてあった。
「今日の授業内容ですが、どれがいいですか?」
仕方なしに目を通して見ると、『外で出会った時の貴族同士の挨拶』、『言ってはいけない言葉とその対応』、『紳士淑女の基本マナー』、『プロトコールについて』等、20個ほど書かれてあった。
どうしよう……どれが一番イグルとの触れ合いが少ないだろうか。
「じゃぁ、『プロトコール』?で」
「わかりました。では、『プロトコール』とは何かご存じですか?」
「知らない……です」
「『プロトコール』とは、簡単に言うと国際基準のマナーやルールのことです。各国には、国や地域の文化によって、マナーやルールが違います。なので、失礼にならないよう、各国で話し合い、国際基準のマナーを決めました。さて、プロトコールと同時に各国のマナーを覚えましょう。こちらをご覧ください」
さっと分厚い本を目の前に出され、思わず引いた。
何この厚さ……15センチぐらいあるのだが、無理だろコレ。
パラパラとめくっていると、付箋がついてあった。そのページを見てみると卑猥なイラストが見え思わず閉じる。
「何かありましたか?」
目を細め、ニヤと笑っているイグルにイラッとした。絶対わざとだ。こいつは先生になる器ではない。
イグルの授業はこれで2回目だが、講義に関係なく本当に気持ち悪い。
前回はどこまでマナーを知っているか実施テストをやらされた。お辞儀の角度が違うとか、笑顔の角度がどうとか必要以上に身体を触られた……顔や肩や腰に。
気のせいかと思っていたが、帰りの挨拶の時、姿勢がよくないねと言いながらお尻を撫でられ、ニヤニヤ笑っていたので、気のせいではないと確信した。
はぁ……スウェンか前の教師の授業がいいな。
前は良いマナー教師が見つからないからと、スウェンが忙しくとも合間をぬってやってくれた。
そして、授業を初めて3週間後。スウェンが呼び寄せたマナー教師が来たのだが、家庭の事情で2回目でやめた。代わりにとその教師が紹介したのがイグルなのだが……はっきり言って間違いじゃないのか?
「ジン様?」
考えにふけっていると、イグルに名を呼ばれ我に返った。どうやら黙っていたせいで怯えたと思われているらしい。イグルがニヤニヤと笑いながら俺の肩に手を置く。
気持ち悪ぃ……我慢の限界だ!
バンッとテーブルを手で叩きつけながら立ち上がると、目を細め、魔力を体に纏わせる。
「……お前、大概にしろよ」
「へっ?」
イグルは口をポカンと、何が起きたかわからないといった表情で俺を見た。そして、キョロキョロと周りを見渡し俺を見る。
「えっと、今の声はジン様……ですか?」
「これ以上、名で呼ぶな。俺は許可していない」
王族の名を呼んでいいのは、専属の使用人と爵位の高い者、そして、許可された者だけだ。イグルの爵位は男爵で、王族の名を呼ぶ資格はない。
「えっ、どう言うことですか?」
「はぁ……そんなこともわからないとは……。マナー教師失格だな」
意味がわからないと首を傾げるイグルに、ふと疑問を抱く。
もしかして、こいつ、俺の事知らないのか?。
そんなまさかのことを思った瞬間、バン!と勢いよく扉が開いた。
「あの男を捕えろ」
スウェンがイグルを指差した瞬間、騎士達が瞬時に部屋に入り捕縛した。
「何をするんですか!」
「前マナー教師であるヴィヴィ様が、殿下の教師を変わるようお前に卑劣極まりないやり方で脅迫されたと訴えられてきた」
「えっ?殿下?ジン様が?」
「無礼者!殿下の名を口にするな!」
「まっ、待ってくれ!殿下だなんて知らなかったんだ!」
「問答無用。王族侮辱罪及び脅迫罪で拘置する」
騎士達が暴れ喚くイグルの口を塞ぐと、あっという間に素早く外へ連れ去っていった。
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