109 / 121
番外編
城編 19
しおりを挟む部屋には俺とスウェンの2人。
スウェンは眉間に皺を寄せたまま、深く頭を下げる。
「ジン殿下、申し訳ありませんでした。私の調査不足であんなヤツを殿下に……何か嫌なことはされませんでしたか?」
あー、されたけど言っていいのかな?まぁ、軽く触られたくらいだけど。
「些細なことでもかまいません」
「あー、ボディータッチされたぐらい……かな」
「何てことを!すぐに殺ってきます」
「へ?ちょっ!」
今すぐ部屋から出ていこうとするスウェンの腕を捕まえ引っ張る。
「スウェン!殺らなくていいから!」
ゆっくりと振り返ったスウェンの目には光がなかった。
「どうして止めるのです?あぁ、大丈夫ですよ。アレ程度なら私でも簡単に処理ができます。ご安心を」
「違う!そうじゃなくて、俺は別に気にしてないから!これっぽっちも!」
俺が強めにそう言うとスウェンの瞳にうっすらと光が戻る。そして、眉がへにょと下がり、悲しそうな表情で「残念です」と呟いた。
えっ、それはどう言う意味の残念!?殺れなくて残念じゃないよね?
ゾクッと寒気を感じ腕を擦っているとスウェンがはっとした表情で俺を見た。
「ジン殿下、気付かず申し訳ございません。すぐに湯船を用意致します。ヤミ」
「はい、すぐに」
いつの間にかいたヤミが返事を返す。スウェンがパチンと指を鳴らしたと同時に、ゆらりと景色が揺れ、俺の部屋にいた。
「へ?」
一瞬にして部屋についた。
えっ、風魔法『指瞬転移』は城に結界が貼られてあるので使えないはず。なら、少量の魔力で転移したのか?しかも呪文を言わずに?そんなことが可能なのか?
そんなことを考えながら握った拳を口許に当て俯いていたので、スウェンが気分が悪いのかと心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫ですか?ソファーに座りましょう」
「大丈夫。気分が悪いわけじゃないから」
「それでも一度座りませんか?」
「ん」
スウェンがそっと背中に触れる。そして、じっと見つめられたので、何だろう?と首を傾げたら、スウェンは優しく微笑みながら「何でもないです」と首を左右に振った。
よくわからないが、大したことじゃないのだろう。
スウェンのエスコートでソファーに座ると、またパチンと指を鳴らす。
「っ!」
突然、テーブルの前に紅茶とクッキーが現れた。
これってインベントリからだよな?
先ほどと同じように呪文を言わず、指を鳴らしただけで出できた。通常はスクリーン(透明な板)を表示させてタッチするか、声に出さないとインベントリから出てこないはずだ。
まぁ、俺も指パッチンで壊したものを直せる。だがアレは魔力で包んだ物を数分前まで戻せる『時空回復』だ。光の精霊王シロと契約し、やり方を教えてもらったからこそ使えるようになった。
もしかして、スウェンも精霊と契約しているとか?でも契約するには精霊が見えないといけないのでは?
何かが引っ掛かる。答えが喉のところまで来ている気がするのに。こうなったら本人に聞こう。
「スウェン、この紅茶インベントリからだよね?でも、呪文が聞こえなかったし、スクリーンを操作してもいなかった。どうやったの?」
「ふふ、知りたいですか?」
「ん、知りたい」
俺は正直に頷いた。するとスウェンはにっこり笑うと唇に指し指を持っていった。
「秘密です」
「えー!」
「さっ、紅茶が冷めない内にどうぞ」
俺は渋々紅茶に口をつけた。うまい。
雑談をしながら、隙あらばさっきのインベントリの出し方を教えてもらおうとスウェンに話を持っていくが綺麗にかわされる。くやしい。
「ジン殿下、この話しはまた後にしましょう」
スウェンがそう言うと、ヤミがいつの間にか後ろにいた。相変わらず気配が読めない。
「湯船の用意ができました」
「あぁ、ありがとう」
そう言えば、なぜスウェンはすぐヤミに気付いたのだろう?目線とか動いてなかったし、驚く様子もなかった。何かコツとかあるのかな?
「さぁ、ジン殿下。ゆっくりと入ってきてください」
「ん。あっ、スウェン、俺がお風呂から上がるまで待ってて」
俺の言葉にスウェンはなぜかキョトンとした表情をしていた。
「私がいて、いいのですか?」
「当たり前!教えてくれるまで帰さないからね」
ビシっと指を突きつけるとスウェンはふわりと優しく微笑んだ。
「お待ちしております」
「ん」
風呂から出たらインベントリの事とヤミの気配を掴むやり方を聞いてみよう。
282
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる