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裏切りました1
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「ディングレイ!?てめぇ、またやりやがったなぁ!!」
パーティリーダーと他の仲間たちはご立腹な顔をしていた。戦っていたモンスターはバッファローだ。本来であればパーティリーダーがとどめを刺すはず、だったが、僕が倒してしまった。
そう、出しゃばった、いや裏切りか。事前に決めた約束を破ればそういうことになるだろう。
リーダーだけではなく仲間からも厳しい視線が飛んできた。
「俺がとどめを刺す予定だったんだぞ!それを横取りしやがって!」
リーダーはお冠だがこれは仕方がないと僕は考えていた。このパーティでは倒すことは不可能だと判断したからだ。倒せないくせに倒せるという馬鹿な考えを抱くのは冒険者の常。それを当然の権利だと信じている。そういう生き物だからだ。
「くそがっ!たかがランク1の『暗黒戦士』に倒せるぐらいならもっと気楽に戦えばよかったぜ」
ランク1、これはこの世界では一番レベルの実力しか持たない存在。それが僕だ。他のみんなはランク3以上であった。それなのになんで僕がランク1のままなのかというとこれ以上ランクアップできないからだ。
それが暗黒戦士というクラスの制約。
僕は自分の灰色の髪をぼりぼりしながら返答した。
「いや、あなた達じゃ倒せそうにないから」
『なんだとう!!』
さらに怒りの声が飛び出る。
有名どころということで金を払ったが中身はこれだ。無謀愚かであり相手とこちらの実力差がまるで分らないらしい。
暗黒戦士には【ステータス隠蔽】の固有能力があるため相手からは見えないのだ。淡々とした僕の態度に仲間らは限界を迎えた。
「テメェはパーティから追放だ!」
リーダーから宣言される。
僕はそれを平然としながら手を出す。
「報酬」
『ああんっ?』
「これまで働いた分」
『ふざけるなっ!』
これまで稼いだ分はちゃんと出す契約のはずだろうが、渡す気がないということはただ低賃金でこき使う気だったためだろう、結構な数のモンスターを倒したにもかかわらずこれだ。もういいや、さっさとどこかに行こう。バック一つ分の荷物をもってそのまま出ていく。
「はぁ…」
今回もまたやってしまったなぁ、これで何度目のパーティ追放だろうか。もう回数なんか覚えていない。
僕は幼い頃から戦うこと以外知らない。『死体の傍で育った』そういわれて物心ついた時から死体の傍から武器を拾い鍛えてきた。育ての親はとある傭兵団の古参組であり色々なことを教えてくれた。成長するにつれて戦いへの渇望と憧れを押さえられず冒険者になったのだ。
傭兵とか冒険者の区分は結構緩い。なもんでなること自体は簡単だった。その後は下積みが普通なのだが僕の場合は手当たり次第にモンスターを倒した。
ランク0から1に上がる時にクラスを選べる。その中で僕が選んだのが『暗黒戦士』だ。このクラスには先がないということで誰からも避けていられていた。だけど、なぜかこれを選んだ。
その後いくつかのパーティを渡り歩いたが結果はいつものとおり、裏切りによる追放だ。裏切りって言っても仲間を背後から襲ったり罠にかけたわけじゃない。味方が立てた予想を裏切ったためだ。このぐらいちょっとした事故じゃないか。
っと、自分語りは趣味じゃないのでこのへんで終了する。
さて、どこに行こうか。―――距離はあるけど王都で戦士の大量募集が行われるぅて噂が立ってるね。そっちに行ってみようか。そう考え懐から通貨の入った革袋を取りだす。
チャラチャラチャラ
全財産1259ユリックか。う~ん、馬車に乗るには手持ちが足りない。乗合馬車でも足りない、商人の護衛で行こうにもそんな商人もいない。仕方ない、保存食を買ってから行くか。もしこれで失敗したら路頭に迷うかもしれないが。
ま、なんとかなるでしょ!
そうして、皇都まで歩きで向かう。
草原を歩き森を進み湖を見ながら橋を渡り山道を何とか進んでようやく皇都までついた。
城門の前には長蛇の列が並んでいる商人やら旅人やら同業者やら一杯だ。1時間ほど並んでようやく自分の番が来た、入場代金を支払う。これで有り金はほとんどない状態。
中に入ると人々の喧騒が目に映る。
「さすがだねぇ~」
様々な品物が並んでいて目移りするがまずは冒険者ギルドで依頼を受けないと今日の宿代もない。人込みを縫って冒険者ギルドの建物まで向かう。中に入って仕事がないのかを聞く。
「依頼、ありませんか」
「クラスは?」
暗黒戦士だと答える。
「冗談?戦士系ツリーの中でも最弱の暗黒戦士を求めるパーティなんてどこにもないよ」
野盗の方がマシなんじゃないの、痛烈に無用だと断言された。チェッ、一体僕の何が悪いというの。
「山菜や薬草集めの仕事ぐらいが精々だと思うよ」
受け付けは明らかに僕のことを軽く見ている、慣れてるからそれでもいいがここは皇都で物価も高いからそれだけだと食費も宿代も払えないよね。他に何か良い稼ぎと言えば護衛とかだけど素性が分からない冒険者なんか採用してくれない。
他に良い仕事が転がってないか外を歩いてみる。
「さすが大都市、でも」
どこか影が差し込んでるような感じがする。
露店は活発だし人の動きも多い、多少の難民が居るがスラムを形成はしてないし特段困っていることはなさそうだ。でも、どこかに黒い闇がチラホラと出ている。行き交う人々はそれに気づかないが僕は気づく。どういうことだろう。戦争でも起きるのだろうか。
そうして繁華街をブラブラしていると、
『いい加減にしてください』
女性の声が聞こえた。
声の出所に行くと観衆が少なからず集まっている。
「何なのですか」
「ああいつもの光景だよ」
いつもの?人込みをかき分けてさらに進むと二人の女の子と数人の男性が口論していた。
男らは着飾った貴族の跡取りやその取り巻きという典型的なパターンだが女の方は違っていた、容姿は極上ではなく上等に入るが自分の魅力を引き出すことに熟知していて飾り物も最低限、だがその強いまなざしは相手に明確な印象を与えるだろう。
よくある貴族の求愛場面と言ったものだ。でも、いつものことって。
「なぜ私の愛を拒むんだい。君たちは公爵家の令嬢、私は侯爵家の跡取りだ、最高の相性じゃないか」
華美な外見の男は自己陶酔するかのように自分の高貴さを説明するが彼女は聞く耳を持とうとしない。まるで陳腐でくだらないお話を聞かされうんざりするかのようにしかめっ面をする。
そうして数分間男の独白が続く、ますます場が寒々しいものになる。
「そう、これは運命なのさ。神によって決められたね」
最後に「幸せにしてみせる」断言するが彼女らは自分を確立していた。そんな彼女らからすると先祖の功績に胡坐をかいているこの男は敵でしかない。
彼女らは一応相手のことを思って最後まで付き合っていたが、
「自分の御先祖の自慢話はもう終わりですか。それでは」
足早に去ろうとするが取り巻きが遮る。
「ご令嬢、我が主は真剣なのです。良い返事をいただきたい」
「いやよ、こんな何も苦労を知らない男を選ぶ気なんてないわ」
「そうよ。こいつ自身は何一つとして確固たる自分をもっていないわ」
あくまで拒否をするが男は諦めない。
「仕方ないね。返事は愛の巣で聞こうか」
『!!?』
さすがの二人も公然と誘拐を行おうとは思ってなかったのか恐怖が走る。ジリジリと追い詰める男らに僕は黙っていられなかった。
「そこまでにして」
『え?!』
貴族の男らもご令嬢も観客すらもこの状況で割り込む度胸がある存在などいないと思っていたのだろう。僕はいつもどおり穏やかで純粋な顔で相手を見る
「貴族の跡取り様、あなたがどれだげ御執心であろうとも脅迫紛いの手で相手を脅し公然と誘拐しようとすればお家の名に傷がつきますよ」
僕はあくまで正論を言うが相手は都合よく捻じ曲げる。その上僕のナリが貧相なこともありすぐさま暴言が飛び出す。
「貧民風情が貴族に逆らうか!これは真実の愛なのだ、ならば相手を連れて帰るのは当然ではないか!」
それが犯罪だということすら考えられないらしい。この手の相手に言葉は何も通らないことを知っている。
「では、どうされますか?」
最後の選択を迫る。
「騎士が悪漢に襲われている令嬢を助けるのは正道だな。みな、かかれ!」
なるほど、騎士の作法に則りこちらを悪とするか。なら、容赦はしない。そうして、男らは公然と武器を持ち出す。この人数ならば一人殺すことなど軽く馬鹿親の力で殺人は不問に出来ると確信しているのだろう。だが、僕からするとただの「群れ」でしかない。
取り巻き共はクラスも低く練度も低く努力すらしないクズな上実戦を知らない、死が迫る恐怖を知らずそれに抗う方法すらも学んでない。そんな連中が武器を抜こうとも僕には威嚇にすらならない。各々好き勝手に武器を振るい集団戦闘の方法すらも皆無ときては個別撃破はたやすい。
最初の一人は騎士剣を最上段から大振りしてきたので横に逸れて腹に一撃、二人目も同じ、3人目は横薙ぎだが速度が遅すぎて体当たりで突き飛ばす、4人目はちょっと考えてリーチのある突きをしてきたが狙いが甘すぎるので下から弾き上げると何もできずに後ろに下がる。あ、顔面を殴らないのは後で面倒になりそうだからだ。
こうなってくるとさすがに相手が厄介だと感じた取り巻きの動きが鈍る。
「まだやりますか」
余裕の態度を取ると相手の顔が紅潮するが歴然とした実力差に手の打ちようが無いと感じるとただただ武器を構えるしかなくなる。これじゃ観客と同じだというのに。
「役立たずどもめ!こうなったら俺様が相手をしてやる!」
業を煮やした総大将様の登場だ。それは下策なんだけどね。
「取り巻き共はあしらえたようだが偉大なクラスを受け継いでる俺様には勝てないぞ」
偉大…、ねぇ、それも持ち主次第だと思うんだけど。
「いくつですか」
「6だ!どうだ、驚いたか!」
あ、そう。ふーん。僕からすれば相手が何であろうと倒してしまえばそれだけなんだけどね。
「お前はなんだ?」
こちらのクラスを聞いてくる。それにより作戦を立て有利に運ぼうという魂胆だろう。
「1」
『は!?』
周りにいる全員が唖然する。
「クラスは1、暗黒戦士」
それを聞いた瞬間相手は勝利の雄たけびを上げる。観客もまた笑いを抑えられないようだ。相手になるはずがない、誰もが勝利の結果を思い浮かべる。だが、二人の女の子だけはなぜか希望に満ち満ちていた
「これはもう決闘だよね」
相手に最後の確認を取る。決闘という舞台となれば互いの生死は問われないことになる。
「そうだ!正統なる騎士が悪漢に奪われようとしている令嬢を助ける!そういう場面だ!」
相手から宣言を聞き出した以上躊躇う理由は無い。ちょっと粗悪そうで質の悪そうな剣を鞘から抜き出す、とは言うもののこの剣は生半可な方法で製作されてはいない。相手はいかにもという装飾がゴテゴテしており刀身は美しいが実用的ではないような気がした。
「死ねぇ!」
宣言も待たずに相手の方から切りかかってくる。さすがクラス6ともなると攻撃は強そうだが大振りなうえ狙いも甘く下半身が追いついてないので振るごとによろける始末だ。自力でクラス6まで辿り着ければこのようなスキなど愚の骨頂だが先祖から引き継いだクラスに胡坐をかき努力をせず戦場にもいかない者の典型的な攻撃パターンだった。
僕は幾度も無く戦場で強者と戦い続けていたので自分を高める努力に妥協はしない。大小のステップを繰り返して攻撃を回避し続ける。
「このっ!回避だけが上手い羽虫が!」
相手はこの短時間でもう息が上がっている。実戦での回避行動の重要性すら知らない馬鹿の極みだっだ。クラス6ならそこそこ行けると予想したがもうこれでは得るものが何もないことを確認したので仕留めにかかる。
ここは皇都で治療スキルの高い神官や治療師も多いだろう、何より大貴族の跡取り様を治療する機会に恵まれることを望んでいる者らもいるはずだ。
相手の最後の攻撃は清々しいほどの大上段からの攻撃。なんて都合のいいことだ、僕の狙いは右肩への袈裟斬りだ。相手はそれに気づかず攻撃を敢行しようとするがこちらの方が圧倒的に速い。
ブンっ ザシュッ
狙いは違わず右肩に刀身が食い込む。相手はまだ上段に武器を構えている上に自分が切られたことにすら認識できてないみたいだ。
「は…え…」
ほんのわずかな時間余裕を与えると自分の右肩から強烈な熱さと痛みと何かが食い込んだ質感を徐々に理解し始める。そして、それを認識してしまうとどうなるか。
「ああああああああ」
絶叫。
僕は肩に食い込ませた剣をゆっくり目に浮かせて相手の体から放すと赤い血がドロドロと噴き出してくる。
「あぐっあぐっ、なぜ、なぜぇ…」
相手は右肩を深めに切られたことを半分混乱しながらゴロゴロと痛みにのたうち回る。地面に赤い血がボタボタと落ちシミを作る。それでもなお醜くのたうち回る男。僕はそれを何の感情も持たず見下ろしていた。その幕引きは呆気無いものだった。
最後に剣を軽く振って血潮を振り払い鞘に納める。
観客も取り巻きも令嬢も皆現実を確認しながらも信じられないでいた。
『クラス6がクラス1に何もできずに負ける』
その事実こそがクラスこそが運命であり現実であり定められた道であるこの世界の現実から乖離したものなのだから。
「あぐぁ!ぐぅうう!げぇぇぇ!」
僕に袈裟斬りにされた貴族は味わったことのない痛みにひたすらのたうち回る。斬撃は肺まで届いては無いけど重症であることは間違いない。そんな主を呆然と見つめる取り巻き共。さっさと動けよ。
「おい」
「ひ、ひいっ!」
取り巻きの一人に声をかける。どうせこいつら主の力を後ろ盾に好き勝手やって来たのだろう。その主が容赦なく倒されたことに半ば現実を受け入れられないようだ。
「な、なななな、なんでも、なんでもいたします、いたしますからぁ」
同じ目に合わせないで欲しい。どいつもこいつも弱すぎて悪態を吐きたくなるね。
「さっさと主を治療院に連れていけ」
『は、はいぃ!』
奴らはそうして主を抱えながら逃げ出した。さて、これで終わりか…まったく、無駄なところで武器を振るったね。立ち去ろうと、
『わぁああ!!すげぇぜ!』
大歓声が上がった。
「すごいぜ!クラス6を何もさせずに倒しちまうなんて!」「いったいどこから来たんだい教えてくれよ」「所属はどこなんだい。まだ決めてないならうちに用心棒に来てくれないか!」
激しい歓声、それにお誘いの言葉も混じる。こんなに喜ばれたのは始めてだ。すると、人込みを掻き分けて二人のご令嬢が近づいてくる。諍いの原因になっていた二人だ。
『助けていただき心からお礼を申し上げます』
二人揃って頭を下げてくる。
「お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
名前…ねぇ。ま、それぐらいなら。あんまり貴族同士の諍いには関わらない性分なんだけど。
「ディングレイ」
名乗ると穏やかそうな二人の表情が一変する。
「”灰の体”ですって!?」
ん、確かに僕の名前の直訳だ。他にも「灰をもたらす」「灰を纏う」「灰を製造する」というのが呼び方としてあるがそれだけである。当別というわけではないし普通より遥か下の下。重労働者でもあまり使わない言葉だ。
驚きを隠せないまま二人は揃って僕の手を掴んだ。
「「仕事を探しておられるのならば是非我が家に!!」」
そうして、あれよあれよという間に二人にも持ち帰られた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「「お加減はどうでしょうか?」」
「悪くない、悪くないけど、これはちょっと…」
客間でご令嬢二人と話をする。この二人本物の高貴なご令嬢のようだ。姉は「スーベルレイ・アーバイン、シャルグナッハ」妹は「スイ―グリル・アーバイン・シャルグナッハ」と名乗った。
持ち帰られてすぐさま風呂に入れられ徹底的に体を洗ったあと着替え担当のメイド数人の手で無理矢理着替えさせられた。粗悪で異臭漂うボロ装備から一転し貴族の子息と見ても問題ないような格好をさせられている。
恩人とはいえこれは過分だと言ったが二人はどういう訳か聞く耳を待たず下にも置かぬもてなしを用意してくれていた。
「この屋敷の主であるお母様は国王の命令で外国に出ており私達が管理を任されているんですよ」
姉のスーべルレイは穏やかで気品あり如何にも高貴な令嬢という感じだった。
「国王って人使い悪いよね。国の重要な役目を担うお母さんを外国に出すなんて」
妹のスイ―グリルは活発で明るく行動的な強さが魅力の女の子だった。
「なので、私達に出来る限りのことをいたします」
何でも言って下さい。それはありがたいが窮地を救ったとはいえ過分のもてなしはいささか居心地が悪い。
「それにしてもあの騒動は痛快でしたよ。貴族家の跡取りでクラス6なのを後ろ盾に我が物顔で振舞っていたのにたった一度の実戦で無残な姿を晒して逃げ出したんですから」
「ホントホント。『高貴な家柄に生まれた者は戦場や決闘でこそ輝き賞賛される』って豪語してたのにいざやってみると足元にも及ばぬ強さで負けちゃうんだから」
二人はとてもご機嫌のようだ。
「さて、楽しい会話は盛り上がりますが」
「そうね。そろそろ本題よね」
二人は揃って態度を改める。
「ディングレイ。今我が家は表面上は平穏でございますが先の馬鹿共らのように実家を後ろ盾にしたり王族のコネを使い近づこうという輩が数多くおります。お母様は実力でそれらを抑え込んでおりましたが外国に出向いているため守りが薄くなっているのです」
「表向きは外国との国交と物流の調整だけど実際はお母さんを色々と邪魔に感じているのよ。それは王族貴族だけではなく異母兄弟たちも参加してるわ。奴らは男子を生んだ事実だけで正室であるお母さんや実家の足を引っ張っているの」
貴族は跡取りを残すのが最大の仕事。それを産んだ後は邪魔者は排除するか。この二人のことを信じるなら母親は決して恵まれてなどいなかったのだろう。だけども、ライバルを数多く出しぬいて公爵家の正妻を勝ち取った女傑だ。男子を望んだが生まれず夫は別に女を囲ってそっちに跡取りが生まれた。
貴族はとにかく家柄を誇る連中だ。下に生まれた者へはとにかく厳しく上に生まれていればとにかく媚を売る連中である。先の貴族がその典型なのだろう。家柄だけならばともかくクラスも高くては逆らえないわけだ。
事情は分かったが僕を保護する理由は何なのだろうか。
「お母様から聞いております。ディングレイは正主神教会の主神すら手に入れられなかった能力を有していると」
「!?」
なぜ、それを知っている…のだ…誰にも隠してたのに。
「誰からそれを聞いた?」
二人は隠す必要はないと決断した
二人は表向き正道教会に属しているが実はパーナ教団の教えを信じている事を明かした。パーナ教団とは裏切りの神パーナを崇めている集団だ。道化師のような恰好で芸を売りながら世界中を回っている。狂気思想や邪悪な思想を抱きがちだが中身はかなりまともで低下級の民に寄り添い営んでいる。局地的な活動を強いられているので規模は小さいがこの皇都にも秘かに教会があるそうだ
「その事実がバレたら異端審問されますよ」
そう、これは危険な話である。大貴族の令嬢が正主神教会の教えを信じてないなんて。
「異端審問?今の教会に正義なんてありません!いかに弱者から取り上げるかのみ腐心し善良な人達の営みに手をかさず堕落しております。それは国の決定すら取り換えてしまう。もうウンザリなんですよ!」
「そうよ!生まれたクラスが全てを決める、強く成ろうとすれば邪魔や妨害ばかりする。奴らは主神が決めたルールに準じるあまり強者の誕生を否定している。古の時代のしきたり、戦いの教えを冒涜してるわ!」
二人は止まらない。もうここで決断しなければ後がないと言わんばかり。気持ちは分かる、分かるが。二人の熱意は本物だ。弱い自分を捨て強い自分になりたいと貪欲に欲している。これならば問題は無いと思った。
「わかった。そこまでの決意があるならやってあげる。でも、それは」
既存の社会秩序を壊すことになりかねない事、その責任を持てるか。二人は無言で頷いた。そうして、禁断の秘術を二人に行う。
「じゃ、ここでやっちゃおう」
『カスタムデリート』
その名の通りある重要なことに関することを書き換え削除する能力。僕はそう呼んでいる
この世界は生まれ持ったクラスによってすべてが決められている、同じクラスで生まれても人は選ばなければならす無数にそれは分岐する。この時代では0を最下位、1~3を下位、4~6中位、7~9を上位とされている。そのルート分岐表は記録に残すことを許されず口伝のみで伝えられるだけだ。
だから同じクラスに生まれても途中で止まってしまい先に進めない場合が多い上に上位のクラスから組まれた子でも必ず優遇されているというわけではないのだ。
ただ、一つだけ例外があり王族貴族らだけに伝えられる秘術、それに限りクラスを引き継げることが出来るのだ。だけどもこれも一人を対象にしているだけで後継者だけしか引き継げないので残りは自力で強くなるしかない。戦乱の時代は強さを求める連中は無数に存在し命の価値は軽かった。
時代が進み王権が確立し国家体制が整備されると命を惜しまぬ強者は激減し安全を取る輩が貴族となる。貴族となった彼らは自分の地位を脅かす存在を徹底的に排除した。その結果クラスを引き継ぐ後継者と強さを求めない一族ばかりが増えていき後継者ですら戦場に出なくなった。後は言わなくてもいいだろう
中には自力で強く成ろうと考えても徹底した社会体制ではそのチャンスすらなく底辺を彷徨うしかなくなるのだ。
二人のクラスは2だった。一般市民としては上等だがこれで高位の貴族令嬢となると完全な力不足であり特筆すべきところが無いのも問題だ。
ここで本題に戻ろう。
スーベルレイとスイ―グリルのクラスは2。戦士としても魔術師としてもどっちつかずなうえに平均的過ぎる上に最大能力も特筆すべきところが無い。一般庶民から見れば高いがクラス自慢の貴族社会では何もできないだろう。この二人は母の言いつけ通り努力をかかさなかったがそれでも限界は低かった。
「何か希望はある」
せっかくなので希望は出来るだけ聞いておく。
「私は高名な魔術師になりたい。それも並ぶ者がないくらい」
スーベルレイはそう答えた
「わたしは勇猛な戦士になりたい。それも並ぶ者がないくらい」
スイ―グリルはそう答えた
表現は違うが答えは同じだった。これも似た者姉妹なのだろう。さて、秘術を行うにはあるモノが必要だった。二人に頼んで小さ目のコップを持ってこさせる。それが持ってくると僕はその上で手をグーにしてしばらく念じる。するとポロポロと何かが零れ落ちてくる。
それは『灰』だった。物心ついたころから念じると体から灰が出てくるのだ。その灰は普通のとは違い傷に塗ると瞬時に治ったりそれで武器を研ぐとどんなナマクラもピカピカになるのだ。
その生み出した灰をジュースに混ぜて二人に飲ませる。濁った色のジュースのコップを手に取った二人は意を決してそれを飲む。飲み終わるとケホケホと少しむせたが二人のクラスはスーベルレイは「ベリルマジシャン」スイーグリルは「ウェポンチャイルド」に変わった。
「生まれ変わってどうですか」
「すごい…本当リセットされてるしベリルマジシャンはかなりレナクラスだわ」
「うわぁ、すごいよよすごいよ。このクラスならかなり限界が高いよね」
二人は手を取り合いお互いを抱きしめ大喜びだ。
「二人は幸運にもレアクラスを引き当てましたが0であることに変わりありません。努力しなければその真価は発揮できないでしょう」
「そうよね。楽観視は出来ないですね。これから修行に励むのですが」
「そうだよね。私達を効率的に強くしてくれる師なんてそうそう」
二人はこちらをチラチラと視線を向ける。どうせほかに仕事なんて見つかりそうもないし一度関わったのだから一人で歩けるまで面倒を見てあげるか。
「それでは特訓を始めます」
「「はい!師匠」」
恩人から師匠に呼び方が変わったが何ということは無かった。二人は熱意を滾らせてこちらの言葉を待っている、服装もドレスから汚れたりしても問題ない運動着に着替えた。
「先に明言しておくけど。僕が教えられるのは古の戦いの摂理であり現代の優美な台本のようなものではないから」
遥か古の戦乱の時代の規律と秩序、力こそが真実であり暴力こそが正義を成すと認知されていた野蛮極まる時代、もはやどの文献にすらも無い「強さが正義だ、弱いは悪だ」と極論も極論という思想。命の価値はとても軽くて強者が跋扈してたそんな時代の摂理。それを二人に教える。
今の社会の成り立ちでは死んでも拒否されるだろうな。
「訓練内容は何ですか。走り込みですか」
「倒れるまで武器を振ったり気絶するほど追い込む、とか」
二人は大きな期待と少しばかりの不安を持っている。
「それも選択肢だけど耐えられるの?」
「「自信ないです…」」
二人は努力し待遇は悪いながらの貴族令嬢としてここまで育ってきた。いきなりハードな物は難しいだろう。手っとり早くいくならモンスター退治だが二人には危険な外出許可を得られない。となると、この運動場で出来ることに限られるか。二人は何もかも最低辺なのだから。
「まずは軽く反復運動から」
ここでコツを教えておく、おなかのあたりに暖かい火種があると思い浮かべで力を込めて軽めの運動をひたすら行ってもらう。お嬢様の二人にまずはこれから。二人はそれぐらいなら軽い、そう考えていたがしばらくとその意味を理解する。
「「ぜぇぜぇ…はぁはぁ…」」
二人は体中から玉のような汗を滴らせながら息が完全に上がった状態だ。
「こんな単純なことがこれほど重いなんて」「うわ~ん汗が止まらないよ」
貴族は汗なんて流すな、優雅であれ。その言葉を正反対にしたのが今の二人だ。僕は革袋の水筒を二人に渡す。生温く皮の匂いが付く水は二人がガブガブ飲む。
その後も同じことを繰り返し続けて夕方。
「本日の訓練は終わりです」
「「は、はぃぃいい。おつかれさまでした~」」
二人は完全にヘロヘロであり言葉にも力が入ってない。苦労したらその分だけご褒美は必要だよね。
「自分のクラスを確認してみて」
二人はしゃがみ込んで確認すると。
「え?うそ」
「ありえないよ、これ」
半日近くガッチリ鍛錬に励んだ二人のクラスは2「スペルソーサレス」「ウェポンソルジャー」へと変わっていたのだ。二人は感無量なのかひたすら自分が強くなったことに酔う。
「明日も訓練するよね?」
ちょっと意地悪に聞いてみる。二人は無言のまま激しく首を縦に振り続けた。その後水浴びを食事をする。
「え、これが公爵家の食事なの?」
僕はちょっと驚くしかなかった、出された食事は固くて人気が無い黒パン、薄いハムに濃度も薄いうえに具も少ないスープ、ドレッシングがかかってないサラダ、飲み物は井戸から組んできた水だった。
これが大貴族の令嬢の食事…おかしいよね?
「僕に合わせているわけじゃないよね」
「残念ながら」
「今のわたし達にはこれでも限界なの」
良く見渡してみると執事もおらずメイドも非常に少ないことに気づいた。
「なんでこんなことに」
それもこれも彼女の親族らが原因だそうだ。二人の母親は正妻だが取り立てて環境が良かったわけでもなく家格も低い、同年齢にはライバルが数多くいた。どういう訳かそれらを出し抜き妻になったので彼女らの嫉妬はすさまじく社交界には出禁状態。加えて夫の信念とも相性が悪かった。
『政治や金稼ぎは男に任せて女はつつましく家で編み物をしていなさい』
要するに金稼ぎや政治に関わる女は汚らわしいと明言したのだ。如何にも貴族主義な考えの典型だろう。結婚してもそれは変わらず執拗に命じる夫と行動的で金稼ぎに励む妻。破綻は最初から見えていた。さらに悪いのは生まれた子が女の子なのを理由に側室を貰ったこと。跡取りを残すためには仕方のない判断かもしれないがその女は以前から不倫の疑いがあって私を妻としたのはその悪い女の悪評を隠すためなのではないか?ますます不信感が募った。その女は願い通り男子を産みそれからすぐに妻の順位の入れ替えを夫に吹き込んだ。二人目も女の子だったので跡取りを生んだ自分の方が上と主張したのだ。夫も前の妻よりも後の妻の方に夢中で気を見て入れ替えを行う気でいた。それに気づいた母親は稼いだ金やコネを使い妻の序列を乱すなと裁判を起こした。色々な思惑があり難航したが判定勝ちを手に入れ妻の順位はそのままに決められたがますます家の中に寒い風が吹き込むようになる。
夫は生まれから言いなりにならない女は醜いと教えられて育ち最初こそ求めたがそれが違うと思うと別の女に手を出す浮気者だった。結局正妻を遠ざけ都合のいい女や相手ばかりを選ぶ愚か者であり浪費家だった。貴族の家格で仕事が決まるのため手取りはよく名誉だが能力が無いため窓際が定位置で後先考えないのですぐに金欠になり正妻に金を無心してくることが頻繁に起こる。それでも態度を改めず努力も苦労もしようとしない。
正妻は呆れ果て娘らを自力で育て教育するしかなかった。
「酷い話だね」
「ええ。高名な学園には行かせてもらってますがまともに小遣いを出してくれないんです」
「以前、成長の余地なしと判断されあわや退学という決定も出されそうになったけど残っているのはいかにみじめな現実を続けさせ心を折らせるという最悪な理由なのよ」
姉妹は心底怒りを見せる。それぐらい酷い状況なのだろうな。
「二人はそれに抗ってるんだよね」
「そうですよ!以前のままならいつか諦めさせられましたけど今はディングレイが傍に居ます。学校が再開するのは20日後、それまで貪欲に強くなって散々馬鹿にし続けたことを後悔させます」
二人の眼には強い意志が宿っている。さすがの僕でもその意思がない者を強くは出来ないからね。
次に教えたのはマナとスタミナの回復方法だった。
「それって重要なのですか」
「そうだよね。回復率よりも最大値を上げる方が良いと思うけど」
「最大値を上げれば上げるほど行動回数は増えるのは間違いない。けど、戦場で安全な場所で待機なんてできるかな?出来ないでしょ。戦いは数日間休みなしで続くこともあるぐらい厳しいし戦闘中でも継続できる回復率を上げる方が強くなれる」
僕の言葉に戦場の風景を思い浮かべる二人、なかなか決着がつかず長期戦ともなれば僅かに取れる時間の間にいかに回復できるかが生死を分けるからだ。その状況を思い浮かべた二人は「それならこちらの方が強い」と分かったようだ。
僕は両手を前に突き出し指と指を繋ぐように円を作り腰をゆったり目に下ろし足を肩幅まで広げる体勢をとる。
「この状態で腹に持っている火種が全身にゆっくり水のように行き渡り無数の糸で先端から根元まで繋がり巡らせることに意識を集中する」
二人はすぐさま僕と同じ体勢をとる。
「これが秘伝ですか」
「恰好はあまり良くないけど」
恥ずかしさを押さえながら二人はしばらくそれを維持してるとみるみる効果が出てきた。
「あ、すごい。みるみる数字が増えていく」
「うわぁー。すごい回復率だよ~」
前日の訓練の成果で最大値が結構上がっておりまだ最大まで回復してなかったためこれでいい。
「今はまだその体勢を取るのが一番手軽で分かりやすい。鍛錬を積めば自然体のまま同じことが可能だよ」
「こんなに重要なことなのに学園の誰もが知りませんわ」
「そうだよね~。こんな簡単なことなのにどうしてだろう」
二人にここでネタ晴らしをする。
「え?これって一般大衆に伝わる健康体操の中の一つなのですか」
「そう。形としては残ってるけど基本の基本、ちょっと足を運べば誰でも手に入るわけ」
「それが広まってないのはどうしてなの?」
「歴史の変化の中で戦士における基本体操よりも軍勢を整えて軍律を守らせることが重要度を増したこと、地味で時間がかかる訓練よりも促成的な勢力が強くなったこと、やり方が形だけになり中身の効果を実感しにくいこと、最後は…人前でやる恥ずかしさもあるかな」
時代の流れとは言えこんなに重要なことをほとんどの人が忘れようとしてるのは悲しいよね。
「悲しいことですね。これだけ有用なら再評価するべきだと思います」
「うん。学園のほとんどの生徒がマナやスタミナ切れで最後まで授業を受けられないのに」
一定の数字に達してないとすぐにへばるのはどこでも同じなようだ。授業にすらついて行けないとは、それでほんとにこの国は守れるのか不安になるな。
さて、これの重要性を確認したところでこれから行うのは古の戦士における基本体操。魔術師だろうが戦士だろうがこれを徹底的に叩き込むのが習わしだ。僕が見せる型をひたすら反復してもらう。基本体操の重要性を理解した二人の何も反論せず徹底的にそれを行う。
それを数日間みっちり行うと二人のクラスは4まで上昇した。うん、伸びは順調順調。
「残りは数日、目前の日は休養と準備に当てるからここからは実戦に近づいた訓練を行う」
「「お願いします師匠!」」
師匠と呼ばれることに少し気恥ずかしさがあるが二人が生き延びるためだ、僕の些細な感情など問題ではない。
「君たちの常識的な戦法では戦士には戦士をぶつけ魔術師には魔術師をぶつけるとあるけどこれは間違い。戦場では常に入れ替わり役割の差などない。下手に専門的に対策するより広い範囲に対応できる能力の方が望ましい。いくら武器で殴っても傷つかない戦士に戦士をぶつけても戦力の無駄遣いだし魔力抵抗で無効化する魔術師相手に魔術を撃ち続けることもまた同じ」
この相手に有効な手を打つ必要がある、どうするか。それを二人に問う。
「戦士には魔術師を、魔術師には戦士をぶつけるのが有効ですね」
僕はそれを模範的な回答と返した。
「私は戦士と魔術師が連携を組んで相手をするのがいいと思います」
僕はそれを戦術的な回答と答えた。
「他には?」
二人は考える
「う~ん。それなら製作される武器には魔力的な効果を有した物や魔術師でも装備可能なランクの物もあります。お互いにそれを持たせてみるというのは」
なるほど、それなら個人で対応できるね。お互い低いステータスで振るうためダメージは大きく下がるが相手の防御能力はかなり低くステータス次第だが十分勝算が見込める。
「大体の敵はそれでいいと思う。ただし、純戦士や純魔術師をダメージが通りづらいのに殴り勝たなければならない時もある」
相手はそういうタイプだと教えておく。
「そんな難敵が相手ですか。特訓の最後にふさわしいですね」
「戦場に出ればそんな相手とも殴り勝たなきゃならない。覚悟は出来てる」
でも、そんな都合のいい相手などどこに?二人は疑問がいっぱいだった。目の前にいるじゃないか。
「「師匠が!?」」
君たちはまだ暗黒戦士の本当の恐ろしさを知らないからね。ここはしっかり強いということは再確認してもらう。早速訓練を開始する。
「武器の刃は事前に削って丸めてあるけど当たり所次第では重症になるし魔術師だからと言って武器を使わなくていい場面もあり得ない。本気で殴り勝つ気で挑んできて」
「「は、はいっ!」」
最初の相手はスーベルレイだ。彼女は魔術師であり努力家でその素養も高い。しかしながらその華やかさと派手さに気をとられ基礎魔術の重要性をいささか軽く見ている節がある。すべてはその延長線上にありそれを怠ると高度な知識技術は効果が満足に発揮できない。
ここでは徹底的に基礎を固めてもらう。
数分後、一つ目の軟体動物が出来上がった。
「次!」
「はいぃぃ!」
次の相手はスイ―グリル。彼女は勇敢な戦士となり戦場で輝きたいと願っている。姉と同じだがどうも指揮官側的な立場から物事を考えがちな面が多い。それはそれで悪くないが軍勢と統率するというの頭だけではできないし追いつかない、自分で行動し単独状況を打破することもあり得る。指揮官というのは狙われることが多いのだから
数分後、二つ目の軟体動物が出来上がった。
それ以後一定の回復を待ってから軟体動物に変わるという行為を延々と繰り返す姉妹、この部分だけを切り取ると「美しい姉妹を屈服させている」などと妄想が捗るかもしれないが二人が求めているのは強さであり快楽ではない。何も苦労せず痛みを伴わずに得られるものもあるが戦場では死が待ち受けているだけだ。
貴族の令嬢としてはこんなにも屈辱的な目にあえば自分を見失う可能性もあるだろうがこの姉妹は逞しかった。何度同じ目に合おうとも悔しさに耐え苦痛の声を上げず成長を続ける自分を確認し前に進もうとする。よほど自分の育った環境に不満を抱いていたのだろうし周りの環境に屈折もしていた。それでも口をつぐんで耐えてきたわけだ。だからこそ彼女らは僕の訓練にひたすら耐え続ける。
そして、最終日。
「よし、これで終わり」
「「お疲れさまでした師匠!」」
二人揃って頭を下げてくる。
訓練の最後は二人揃って元気な笑顔を出す。最初はピクピク動く軟体動物に変わっていたが徐々にそれから脱皮し次への準備をいち早く完了させるために最大値と回復量をメキメキと増やし続けた。中頃からバテる回数も減り終わり頃にはクールダウンの時間を取れるほどに。
「明日は体にたまったアカと疲れを徹底的に洗い流すから一日中入浴すること」
「「はいっ」」
さて、二人のクラスは6まで進み「スペルプリンセス」「ウェポンジェネラル」に変化した、ここまで行けば侮られることはないだろう。
さて、これで一応仕事は完了だが二人はどうするつもりだろうか…
スーベルレイとスイ―グリル姉妹は二人で入るにはちょっと狭く簡素な浴場で石鹸で体の汚れを丁寧に洗い落しながら夢見心地であった。
「まさかこんなに強くなれるなんて」
「そうだよねー」
この世界はクラスのランクがも何よりも重視させる世界、強い者にはそれに見合うものが与えられる、数多くの物が望むがままだ。姉妹は助力こそあったが苦労し努力し上位貴族と比較しても何ら問題ないクラス6まで上がった、その喜びようはまさに天にも昇る気持ちだろう。
「古の野蛮な戦いの仕来たり、もう誰もが忘れ文献の端にも残らない正義の成し方、その世界で強くなるためには命はこの上なく軽い、なるほど。貴族の誰もが拒否するやり方ですがそれに忠実になり生き残ればこうなるわけですね」
「うん。貴族連中は華やかで優雅であれ、労苦を知るな、我らの命は高貴な物で死ぬことは許されない。なんて、声高に叫んでるけどあなたたちの先祖はそんな過酷な時代で戦ってきたのにね」
古の戦の仕来たりの乱暴さと純粋さに心を奪われた二人。野蛮でも構わない、強さが正義を手に入れ、弱さが滅びを受け取らされる。ゴテゴテした飾り物は一切無く鍛え上げた肉体を全てに見せつけて力を誇示するだけという分かりやすさもまた二人の心を放さない。ディングレイの教える強さは呆れるほど単純明快だった。
戦場で命を預けられるのは着飾った貴公子じゃなく野蛮で粗暴な屈強な存在ということだ。前者は理屈だけは立派だが劣勢になると正義を放棄する、後者は無知無学だが体だけを頼りとして大切にしてくれる主のために命を惜しまない。私達が欲しいのはもちろん後者だ。
スーベルレイは湯に貼った浴槽に体を沈めながら今後のことを考え始める。
「ディングレイの価値はお母様から聞いていた以上よ。あれを絶対手放してはいけないわ。まだ私達のランクは天井に達してないし教えを乞えるほどの先生らも学園にはいなさそうだし」
「そうだよね~。学園の先生は大半がランク3どまりだし何世代も学園に依存してきてるから教科書通りにしか教えられない上内容が薄すぎるよね。知恵を得るにしてもそれなら図書館に行けばいいだけみたいだし模擬訓練ですらわたし達相手には荷が勝ちすぎている」
二人もうすでに学園内最強クラスと呼んでも差し支えない程だった。学園で学ぶよりディングレイに頼る方が遥かに効率がいいのは分かり切っている。しかしながら二人はまがりなりにも公爵家の令嬢、退学処分は家の名を悪くするだろうし入学費用を出してくれた親族らの眼もある。
退学は駄目、でもディングレイを傍に置いておきたい。
スイ―グリルはこの時ひらめいた。
「そうよ!こうすればいいんだよ」
突然飛び上がった妹を見上げながらスーベルレイは内容を聞く。
「ディングレイに私達の従者になってもらう?そうだわ、いい考えじゃない。曲がりなりにも実家は公爵、従者の一人ぐらい傍にいてもおかしくないしその身分なら学園内へ出入りできるし」
「でしょ。問題は自由になるお金に乏しい私達が支払うもので納得してくれるかだけなんだけど」
姉妹の頭を悩ます問題、家格の高い家の生まれとは思えないほどに小遣いが少ないのだ。他の家では親の金で何人もの従者を引き連れている者すら多いのに。
とにもかくにも妙案を考え出した姉妹は風呂場で汚れを徹底的に洗い落とすことを大急ぎで行う、それからバスタオルで体を拭き簡素な下着をつけて普段着の姿になるとすぐにディングレイを私室に呼んだ。
「えっ?僕が二人の従者に?」
客間で待たされてきた僕に二人は突然そんなこと言いだした
「ディングレイ。あなたの教えは私たち姉妹を救いました。だから、一時的な師匠ではなくもっと長く深く教えを乞いたいのです」
「うん。世界を見渡してもディングレイほど戦に精通している存在はまず見つからない。だから、その」
今後は従者となって傍に居て欲しいと。二人はそうして目の前に一枚の書類を出す。それは従者としての正式な契約書だ。
『あなたと従者としての契約を交わします。ただしそれはスーベルレイ・アーバイン。シャルグナッハとスイ―グリル・アーバイン・シャルグナッハ個人としてでありシャルグナッハ公爵家の従者ではありません。生活に必要な物はすべてこちらもちであり給金の支払いに天井はもうけません。そして、今後の働き次第ではございますがお望みの褒美をご用意いたしましょう』
そんな内容だった。
「君たち、これは支配者の立場だからこそ許されるお誘いの仕方だって分かってるの」
「「もちろんです」」
二人の視線からすると本気のようだ。
「しかも公爵家としてではなく令嬢個人としてって」
従者というよりプライベートな付き人だ。しかも褒美や報酬は天井無し、破格の条件だが…。この二人にはそれらを守れる保証はどこにもないことは確認している。同情は出来るし理解も出来るが。戦場で雇われる連中は支払いが滞ると命令無視し戦闘放棄も起こることもある。二人が切実なのは分かっているがこちらもお金が乏しい身だ。
目を瞑ることしばし。
「どこに名前を書き印を押せばいい」
「「契約してくれるのですか」」
「君たちの本気に白旗を上げるよ」
早速契約書にインクとペンでサインし拇印を押す。これで正式に主と従者になった。
「これからよろしく、ご主人様」
「「よろしくおねがいします」」
さて、学園が開校するまで間もないがちょっとだけ楽しみなことになりそうだ。
学園開校日。
季節ごとの短期間を取ったお休みが終わり学園生が門を通っていく。ここに通うのは貴族の子息や令嬢ばかりであり一部資産家の商人の子らも混ざる。かなりの人数が徒歩だが共用馬車で数人集まって来たり中には専用馬車で横付けする者もいた。
スーベルレイとスイ―グリルは公爵家の正室の生まれなので馬車のはずだが、
「やっと入れますね」
「うん、お姉ちゃん」
なぜか徒歩だった。
さすがにこれはおかしいのだが父親は専用の馬車どころか共用馬車の代金すら渡さなかったからだ。さすがにおかしいだろと思うがそれくらい二人には無関心だということだ。そんな金を出すくらいなら愛人らに貢いだ方がマシという考え方で最低最悪な父親だと感じた。
そんな態度を見続ければ父親と距離を取ろうとする二人の気持ちもわかる。二人は誰よりも早く自立し実家とは縁を切りたいのだ。だが、学園という牢屋に送り込んで心をへし折り従順にした後都合よく馬鹿な男と結婚させ母親の持つ財産すらも奪い取る、そんな筋書きなのだろう。二人はそれを嫌と言うほど理解している。
抗うには力が必要でその努力を厭わなかったが限界が低く挫けそうで周りの態度もまた彼女らの恐怖だった。
『公爵家の令嬢のくせに凡人とは滑稽極まる。お前らはその程度なのだからさっさと消えろ』
そんな暴言すら口をつぐんで耐えるしかない。発言した本人は跡取りというだけで二人よりクラスは低いにも関わらず、だ。二人からすると親のクラスが高いだけで本人は最低なのになんでそんなに偉そうなんだ。引き継いだ後ならともかく今は私達より弱いくせに。そんなところだ
二人の不満はいつ爆発してもおかしくなかったがそれでも反論はしなかった。それをやると即座に追い出されるからだ。最悪な環境だが二人も高貴な令嬢として生まれてきたからには義務を背負っている。それを果たすためだと耐え続けた。近づいてくるのはクズだけだけであり理解者はいなかった。父親は学園に賄賂を送ってまで二人の心をへし折れとまで言っている噂さえあるくらいだ。
まぁ、それもちょっと前までのお話になるけど。
僕は二人の姉妹の隣に控えている。服装も戦闘服ではなく従者らしい綺麗で整った確かなものだ。他の従者らを見るとお金持ちなのか豪華な物も多いがこのシンプルさが好きだし何より綺麗で嫌な匂いがないというのがうれしい。
姉妹は乏しい資金で僕の服装を整えてくれたのだから。
3人で門をくぐると囁き声が聞こえてきた。
(あの姉妹いまだにここに来る勇気があるとは馬鹿だねぇ)(そうね。クラスは低いくせに座学が最優秀とはほんとずる賢いわ。母親の血ね)(どうせ公爵に泣きついて居残ってるんだろう。貴族の恥さらしだ)
蔑み中傷誹謗、人の嫌な感情が明確に表れている。
「気になさらないでください。あの者たちはご主人様の今の姿を知らないのですから」
元気づける。姉妹の表情は明るかった。
「分かっております。今の私達は強いのですから」
「少し先に行われる早期合同試験ではどちらが主席か競争しましょう」
「いいわね。結果は分かり切ってるけど譲らないから」
「分かってるってどーいうこと」
もう二人には会った時の暗い影はどこにもなかった。そうして、学園生活が始まる。
さて、貴族学園の生活だが休暇明け初日であり大半の生徒は課された物もなく実家のように少し気が抜け安心感のある者らが殆ど。親しい者らとグループを作り気楽な会話を楽しんでいた。少し先に早期合同試験があることを知っているが時間には余裕がある、
『後でも取り返せるさ』
そんな雰囲気だった。先生らもそれは同じく。生徒が帰ってきたことをちょっと確認したらほぼ自由時間となる。努力なんて後でも出来るし取り返すもの容易い。学園の平均的な成績を保てば問題ない生徒とみなさせるのであくせく点数稼ぎなどしなくてもいいじゃないか。ごく一部は低ランクから這い上がろうと動いているがどう学べばいいか分からないからありったけ詰め込もう。そういう生徒もいる。
目標と定めるべき姿形を描きそれに必要な物は何なのか、それすら不確かな影でしかなかった。二人の生徒を除いて。
「必要な本探してきました」
スーベルレイとスイ―グリル姉妹と従者のディングレイの僕は学園の図書館にいた。
「ご苦労様です」
「うしし、これよこれ」
島は目を輝かせて本を確認する。それは戦士や魔術師の長い長い戦いの歴史とその中で生み出された技術や知識や発想、戦いにおける有利不利の構築の仕方を描いた書物だった。それも何冊も。
残念ながら二人と僕とでは戦いが根本的違うため教え方には制限がある。先人に倣うべきだが先生は彼女たちに何も教えられない、ならもっと昔の先人を手本とするべきだろう。とはいえ、実力が足りないまま学ぶことも無意味。なので二人は僕を図書館に連れて来て必要な本を選んできて欲しいと頼んだ。
僕は図書館の蔵書の中身はよくわからないが彼女らに必要なものをよくわかっている。なので、現時点ですぐにでも手に入る必要な物を抜粋して運んできた。
「今はこんなところですね」
「以前だったら訳も分からないまま漁ってましたけど今の実力ならしっかり選ぶべきだと分かります」
「ホントそうだよね。戦いって結局のところカードバトルで殴り勝つだけだし」
戦いには様々な要素が絡むが役割のカードとして落とし込んだカードバトルだ。敵味方、その総数、陣形、地形、装備している武器や防具、攻撃回避防御援護という行動までカードに当てはめて戦うだけだ。リアルタイム進行というが結局状況に応じて有利なカードを出して相手を倒し次が現れても倒せば同じことだ。
一度出したカードは相手に確認されるがそれ一枚で全てなぎ倒してもルールには接触しない。有利不利など相手次第なのだから。
スーベルレイには「魔術師メリアルの戦術」「魔女カリーナの7つの切り札」「賢者マル―クの行動原理」スイ―グリルには「将軍ボストンに軍勢統率術」「策士ダミアンの奇計」「傭兵バランの生存術」それぞれ3冊。
二人はタイプこそ明確に分かれているが指揮官や統率者タイプに近く純粋な最大値まで到達するにはまだまだ時間と鍛錬、何よりも実戦が必要不可欠だ。学生の立場では戦時呼集でもないと実戦などに出られない。学園で学べることは少なく教えられる先生もいない。
もう先人の文献しか確認するものが無いのだ。
二人の描く未来を聞いている僕はそれをかなえたいがさすがに大軍を率いる方法を教えるのは今は無理であるため今学ばせたいのは戦闘におけるバトルの有利不利関係や相性、個々のカードの数字を増やすこと、状況を逆転できるカードの発見、山札の枚数の増加だ。
戦いは固有な能力を除けば単純に数字の強いを勝つため全体的なカードの数字を上げることは単純に強力だし自分しか使えないカードを手に入れれば初見の相手に大きなリードを得られる。山札を増やせば相手より多い枚数が引けるため長期戦に持ち込めるし相手に引き込めるカードを切れさせることも可能だ。
もっとも山札の中身は誰にも分からないしその総数は自分しか分からない、実際には戦いの最中に新たな手段も編み出さなくてはいけないこともある。まずは3点に絞り全体的な強さを増すことにしたのだ。
姉妹は黙々と僕が選んだ本を読みふける。合間合間に質問があったり図に書いたり整理しないとならないことも書かれていたがその都度僕なりに教えてあげる。
それらを読み終わると。
「フーっ。腐っていても学園ですね。まだこんな本が残っていたとは」
「うんっ。蔵書の中には他者を誹謗中傷し出世に使おうという口実で書かれたものもあるんだけど」
選んだ本の中身が健全で有意義に使える内容だということを確認できたようだ。
「すべてが使えるというわけではないけど入門用としては極上でしたわ」
「早く訓練で試したいですね」
「今の私達なら無策でやっても負けないだろうけど」
「そうですよねぇ。どこかに都合のいい罪人でも現れませんかねぇ」
発想が危ない方向へと飛躍しそうなので釘を刺す。
「それは選抜課程に入ることが確定するまで待って」
学園には軍人や戦士を育てる科と魔術師を育てる科の二つがあり基本学科と選抜学科がある。前者は普通の貴族の子が殆どだが後者は文字通りにエリートクラスだ。将校や幹部クラスに選出される可能性のある選ばれた存在…という建前だが中身は怪しいそうだ。
高度で幅広い教養と経験が無いと入れない、とされているがそこから落ちるのはほとんどないそうだ。一応平均点は高めだそうだが二人は「貴族社会の腐った派閥争いの縮小図」と言った。入れるのは高位貴族の跡取りかそれに準じる者ばかりだが彼らのほとんどはクラスを引き継いでおらずランク1にすら達してない者すらいるそうだ。努力も苦労もせず親からクラスを引き継ぐこと約束され胡坐をかき忠犬よろしくエサが出されるのを待っているだけ。これなら基本学科の方が活力があると言えるほどだ。
努力を惜しまずどぶ川を魚のように這いずり回る二人からすると「最低の連中が浅はかな考えを誇っている」だけだそうだ。二人からすると唾棄すべき対象である。そんな二人がなぜそこを目指しているのかといえば。
「選抜学科に入るって」
「はい」
従者としての契約済ませてすぐ彼女たちは本心を打ち明けた。
「今の私達の実力なら家を追い出されても自力でやっていけますが学園の連中を見返したいのです」
「学園では冷たい視線がそこら中から集まっていたからそんな奴らを見下ろしたい。下僕扱いにしたいの」
下僕扱いとは乱暴だがそれぐらい鬱憤が溜まってたのだろう。
「お母さま以前からこの家には未来が無いことを教えてました。だけども今のままで納得できないんです」
「お父さんではなくお母さんについていくけどその前に誰もが認める実績が欲しいんだよ」
実績が無いんじゃ無理だよね。貴族の家柄の生まれというだけでは誰も来ないか。よし、それなら二人のために特別な物を用意してあげようと考えた。
学園が再開する2日前まで時間を与えて欲しいと伝えた。二人は僕に何か考えがあるのだろうと確信し自由に使える時間を用意してくれた。
約束の時間がすぐにやってくる。
「おまたせ」
「「お帰りなさい」」
二人は相変わらず貴族の令嬢としては質素な外見で出迎えてくれた。僕は二人の眼の前にある物を差し出す。
それは、鈍い黒い輝きを放つ腕輪と簡素な鞘に収まった平均的な長さの剣だった。
「「これは」」
僕から生み出した灰を溶けた金属と融合させて型に流し込み形を整え飾り文字を彫り込んだものだ
腕輪には古の文字で「促成」「遅延」「待機」「増大」「格納」、剣には「必殺」「確率」「加速」「再生」「統率」の文字を彫り込んだ。材料を集め鍛冶場を借りて始めてやったがそこそこうまくいったと思う。
「二人は厳しい僕の訓練を耐えたんだからご」
「「わぁぁああああああああんん。でぃぃいいぐれぇえええいいい」」
ご褒美を。それを言い終わる前に二人は喜びの涙とくしゃくしゃの顔で抱き着いてきた、それは10分間も続いた。
しばらくして落ち着いた二人をそれを期待一杯で使う。
「うわぁ、なにこれなにこれ。魔術のあらゆる効果が比較にならないほど向上してるわ」
「すごいよこの剣。私の力でも丸太3本を纏めて輪切りに出来る上に抵抗感がほとんどない」
こんなの反則だズルだ卑怯だそんなのありなのか。ありったけの賛辞を武器に送る。
学園の生活に戻るが規則があるにもかかわらずかなりの生徒が自前の装飾品や武器を保持していたので彼女らも「どうせこんな状態だし私達もいいよね」理由付けして僕の渡した装備を身に着けている。他はもっと豪華で高そうなので素朴な二人の装備に関心払う者などいない。
図書館で欲しかったものを手に入れて満足な二人と共に学園を散策すると。
「ハァーイ。元気だった。これから熱く楽しい時間を楽しまないかい」
優男風のイケメン(ザコ)と数人の男子(モブ)が道を塞いだ。ご主人様二人はわずかに顔が引きつる。面識はあるが良い印象は得られなかっただろう。そいつらは明らかに進路妨害でありある意味包囲しようとしていた。
「まだこの学園にいたんだねぇ。まぁ、それが唯一の希望なんだろうけど」
相手はどうやら家庭事情について情報を得ておりお情けで通わされている、そう認識しているのだ。何か問題が起こればそれを理由として無理矢理追い出すことなど容易い。そして、延々と労苦を背負わせられる。そんな未来図を確信している。
そしてその運命に押し出すのは自分らだと考えていたようだ。ちょっと前までだったらそうなっただろう。そして彼らは都合の悪いことに何も確認しようとしなかった。
姉妹のクラスは現在6、それもレアリティの非常に高いスペシャルに入っても当然なクラスだ。そのためステータスの平均値は桁違いに高くクラスが上でも苦戦は免れないという状態だ。それに比べて相手のクラスは全員0である。一定以上のクラスになると「物理抵抗値」「魔術抵抗値」ステータスが開示され軽減率が設定される。
クラス0がどうあがこうと二人の抵抗値の前には何もできず近づくことさえできないだろう。そもそも武器は容赦なく弾き飛ばされるか砕け散るだけだ。クラス0でもおおよその数字は見えるだろうし二人はそもそも確認できるステータスを誤魔化すことすらしない。
ちょっと確認するだけなのにそれすら頭の中に無い。
『お前死にたいのか、他ならぬ自分自身の手で。こちらはそれを止めないぞ』
何もしなくても彼らの弾き飛ばされた武器や砕けた破片が自分に飛んできて傷を負う、当たり所によれば重傷だ。彼らは自分から死地に踏み込んできた。
「ハハハッ。怯えることはないさ。これからじっくりたっぷり女性であるということを教えてあげるから」
性的な欲求も混じった汚い言葉。二人は怯えてもおらず怒っておらずひたすら暗く冷たい輝きを瞳にもつだけ。憎悪とも怒りとも違う強者のみが待つ残酷で冷徹で誇り高い意志の表れだった。
これ以上は無駄だと悟り二人は抵抗の意思を示す。
「(ねぇ、ちょっと)」
二人の服の端を相手に見えないように掴み制止を促す。
「(分かっています。こいつらの命は奴隷より軽い。殺しはしませんわ)」
「(ただ現実を確認してもらうだけだから)」
殺人はしないという確認は取れたので二人に任せることにした。この手の輩はあまりにも多すぎて死刑執行官が過労死しかねない。それがのうのうとしていることが二人の逆鱗に触れたのだろう。
抵抗する意思を確認したイケメンと取り巻きは歪んだ笑みを浮かべつつ二人の体に遠慮なく、それも胸元に手を伸ばすがその手が空振る。イケメンは「気のせいか」そう思い再度手を伸ばすがまたも空振る。2度3度繰り返すが実体がつかめない。「光の加減か」そう思いさらに踏み込んで手を伸ばすがそれでも手は宙を彷徨う。相手はさらに「目にゴミが入ったか」目元を手でゴシゴシして再度挑むが結果は同じだった。
こうなってくると周りもこれはおかしいと考えだすが相手は微笑みを浮かべながら立っているだけ、据え膳食わぬは男の恥、そう考えた取り巻きらが勝手に行動を始める。スーベルレイもスイ―グリルも「抵抗しません」という態度で待ち構えている。だが、届かない。
よく見るとその現場を知った学生たちが徐々に集まり出す。彼らのお目当ては姉妹よりもイケメンと取り巻き達だ。そして、笑いがこみだす。
「大人数で少数の女性を脅すとかありえない」「相手が目の前にいるのに掴む手を空振るとか笑える」「こんなの道化師でも腹を抱えるよ」
観衆は「なぜ手が空振る」という事実を「わざと空振り笑いを取っている」と思い込んだ。姉妹が微笑みを絶やさず何も言わないので余計に真実味が出るわけだ。だが、それは相手からすれば笑いの種を売り歩くこと。貴族としては屈辱でしかない。
さすがに我慢の限界が来たのか彼らは一斉に腰の武器に手をかける。
「怪しげな術を解き自分らに従え」
姉妹らかすると呼吸をしているだけなのにそれを怪しげな術に頼っているとは頭の中身が最悪だと思ったようだ。堪りかねた相手は武器をいよいよ抜こうとするが「ビキッ」僅かな音が聞こえ抜いた武器は根元から折れてしまった【念刃】』という古の戦士の一人が編み出したアビリティだ。自分の意識を研ぎ澄まされた刃として不可視の状態なまま望み通りの場所に飛ばす力。先ほど本で見ただけのことをもう自分の物にしていたとは。
刀身が無い剣の柄を偉そうに誇るイケメンと取り巻きだがそれは最初だけで自慢の剣が根元から無くなっていることに驚愕する。そしてそれは周りに更なる笑いをもたらす。
「はぁ、あいつらあんな刀身のない剣がご自慢なのか」「あれだよ、騎士の名誉にかけて殺しをしないって精神だろ」「プププッ。だから実体のない剣が誇りなんだな。ますます笑える」
観客からすると令嬢の笑いを取るため誇りを捨てて道化に徹している、そんな構図だった。
ここまでくるともう事態を止められないと悟り連中は後ろを振り返らず逃げ出してしまった。奴らは後で徹底的に火種を消そうとするだろうが狭い学園の中なので絶対に不可能だろう。
騒動が終わり観客らは「いいもの見れた」ささやかに合図を送ってきて解散した。
「私達の対応、いかがでしたか」
「ちょっと危ういところもあったけど、どう」
「相手は貴族様だから傷を負う不名誉よりも、笑いの種になる不名誉の方が重いよね」
「「そうでしょうそうでしょう」」
二人はご満悦だった。
あれだけ自分の恐怖だった相手を手の中で操り人形にしたのだ。しかも絶対に消せない火種まで生み出すおまけ付き。奴らはもう二度と現れないどころかに似たような考えを持つ連中大きな釘を差し込んだのだ。これを喜ばすにはいられないだろう。
「そろそろ合間の軽食の時間になりますね。ランチルームに行きましょう」
二人はどういう訳か僕の両側に立ち手をつなぐように誘っていた。従者としては失格かもしれないが二人の笑顔が清々しくてうっかり手を握ってしまった。
「「えへへへー」」
何故か二人はさらに夢見心地のようになってしまった。
ランチルームに入るとそこそこ生徒はいたがまばらであり時間制限は緩いようだ。。列に並ぶとハムとレタスを挟んだサンドウィッチとじゃがバターが主食で、軽めのサラダと具がそこそこのスープ、熱したソーセージ数本が付くようだ。
貴族の学園としてはこれが普通なのから。とはいえ、日々の食事にありつくことも難しかった以前と比べれば大変恵まれた内容だ。
僕はありがたくいただくことにするが二人はどこか不満なようだ。
「どうしたの」
「内容にご不満でしょう」
「いや、これで十分だと思うけど」
「私達は成長期真っ盛りなんだよ」
学園では昼食と夕食の間に軽い食事とお菓子が出てくるそうだから量としては申し分ないように感じるけど。
「向こうを見て下さい」
スーベルレイが指をさすとその一角だけ大きな調理台があった。そしてそこで調理されているのはまごうことなき肉でありそれも分厚く食いがいがありそうだ。ジュージューと香ばしい音と肉汁がなんとも魅力的にみえる。
「規則では持ち込みは可能とされてますけどあそこまでやってるなら規則とはなんなのでしょうか」
「内容には『なるべく自力で』って曖昧だから苦労せず豪勢な食事を満喫してるんだよ」
そうか、そのぐらい曖昧なら都合がいい部分あるね。
「昼食も似たようなものなの」
「多少変わりますけどさしたる差は無いですね」
よし、二人はこの後授業に出ないとならないから別行動を余儀なくされるから都合がいいな。主を喜ばせるのは従者の務めなのだから。久しぶりに狩りをするか。
そして昼食の時間になる。
我が主である姉妹様は周囲からの鋭い視線を受けながら緊張した表情でテーブルに座っている。
「では、料理を持ってきますので」
「よ、よしなにおねがいします」
二人はそれだけしか言えずただただ言いなりとなる。
学園は広大な自然地区を有しており正式な代金を支払えば自力で見つけた物には税金を掛けない規則がある。なので、僕はありったけを使い熊や鹿や山菜などを取り漁り必要な分を残して換金し我が主の前に持ってきた。長い旅で自炊も多かったから荒っぽいけどそこそこ料理は出来る。
メインは大盛りのライスとステーキ。それも混じりものではなく純粋な精米がされたものだ、山菜のサラダと複数のキノコのバター炒め。具たっぷりコンソメスープに美味しいジュースも付ける。止めにお替り自由だ。
設備の整った調理場あるので思う存分出来た。
「お待たせしました」
ゴトッゴトッ
出された料理のボリュームは姉妹の限界を超えていたのかひたすら唾を飲み込む。
二人はしきりに「本当にいいのか食っていいのか」こちらを見るが「お好きなように」とだけ返事をした。
ナイフとフォークを二人は握り分厚いステーキに立ち向かう。一応ナイフで切れる範囲としたが二人からするとこれは未知の領域でありちょっと難儀していた。ようやく肉の一端を切り取ると憧れの眼差しを抱きつつ意を決して口に放りこむ二人。二人はすぐさまパラダイスに辿り着いた。
最初こそ躊躇いを出していたがそれが手の中にあると分かると止めようが無かった。姉妹はランチタイム時間ぎりぎりまで至福の時を過ごした。その表情がいかに幸福感に満たされたかなど思い描くのはたやすいだろう。
さすがにお菓子は無理なのでお休みとしたけど夕食は同じようにした。
メインは暖かい白パンでありお魚一匹を丸ごと焼きバターソースをたっぷり用意。上手いこと川を見つけ身が厚く締まった魚を釣り上げてきた。野生のフルーツも皿にたくさん用意してる
この学園では魚料理はまず出ないらしい。なもんで視線が痛い。二人は魚の身を上手く切り取る手順が分からないようで僕が切り分けてあげることにした。そしてパラダイスに再び到達することになる。
「「えへへへー」」
二人は至福の表情を浮かべながら僕の両脇を支配してしまう。就寝の時間が近づきそれぞれ指定された部屋に待機することになる。さすがに主人と従者とはいえ学園の規律から異性を同じ部屋にはおけないからね。
自分の部屋に戻った二人は嬉しさ一杯だった
「はーっ。よい鍛錬が出来ただけではなく怖かった相手を弄びあの食事、こんなに幸福感溢れる1日は始めてです」
「うんうん。周りの視線が明らかに変わったよね。私達に悪さをすると酷い目に合うってやつ」
姉妹なので二人部屋に配置されている二人の談笑を遮るものは誰もいない。
「奴らの顔は思い出すだけでニヤニヤが止まらないですね。あれだけ笑いの種にされたのだから当然ですけど」
「これで似たような連中が近づき難くなりますよね。いやぁー、クズを弄ぶのは本当に楽しいよ」
私達はここで虐める側と虐められる立場の側の優位性とその愉快さに気づいた。なるほど、こんな感覚に満たされるのなら一度覚えたらやめたくてもやめられないわけだ。
私達姉妹はニヤニヤするのを押さえることなくベッドに入り今後の学園生活が実に楽しいものであることを確信し眠りについた。
「おはようございますご主人様」
翌朝、眠りから覚め清々しい気持ちとカーテンの隙間から差し込む朝日の光の中学園の制服を着てディングレイを迎える。入口の門にはトレーがあってどうやら朝食を持ってきてくれたようだ。部屋には一応テーブルと椅子があるのでかなり早起きして料理人が作る物を部屋に運ぶことも出来るがそんなのをしている生徒などいない。
「大変だったでしょう」
私達はディングレイの苦労する姿を思い描いて目元が潤む。
「いえ、これも従者としての仕事ですから」
従者としての仕事だから、お褒めの言葉を貰えればそれだけでいい、ディングレイの求める答えはそれだけだった。
私達はすぐさま彼と彼の持ってきたトレーを部屋の中に入れる。
「どうぞお召し上がりください」
「「いただきまーす」」
朝食はパンとローストとサラダと水。ふっくら柔らかくジャムとバターの両方がありたっぷり塗れる上にローストの分厚く柔らかいこと、サラダにもちゃんとドレッシングがたっぷりかかっていた。それもこれも嬉しかったが合間合間に飲む水がキーンと冷えていた。冷蔵庫はあるがあまりにも高級品で調理人でさえも容易には使用できない。だから、綺麗な川から水を汲んできたと判断したがよくこの冷たさを保ったまま持ってこれたのだと。ひたすらに嬉しかった。
学生の身分どころか上級貴族でも難しい朝食を談笑しながら片付ける。ディングレイはトレーを借りてきたので先に戻すそうだ。恵まれた朝食の余韻を楽しみながら本格的な学園生活の開始だ。だが、その前に短い時間だがディングレイの鍛錬があるのだ。これが何よりも楽しみである。
学園が開始されて数日たつと自由時間は減り授業の時間が多くなる。生徒は不満を口にしつつ先生の教えることに目と耳を向ける。私達姉妹もそれは同じだがこの時間ですら訓練をかかさない。
「(相変わらず単調な授業ですわね。でも、今はそれがありがたいわ)」
ディングレイから教わった鍛錬に『複数の方向に視線と意識を向けつつ体は行動に移す』というものがある。生物は体の構成上視界の限界がある人類種はその中でも低いそうだ。そのため向いていない方向への攻撃には非常に弱い、でも視界というものは簡単には広がらない。では、どうするか。
ディングレイの説明では「一つの眼の中に複数の小さな眼を持つこと」でありそれは空を飛び交う肉食性昆虫が地上でもっとも優れているそうだ。本来追いつけない相手を瞬時に見つけ出し捕食する。そんな感覚を会得しろと。
で、実際にそれを手に入れると恐ろしくヤバいことだった。
「な、なにこれ。あまりにも世界が立体的で精密に、そして恐ろしく正確に見えます」
「うぇーん。視界から入ってくるものが多すぎて立ってられないよー」
二人揃って今までの世界が馬鹿げたほどぼやけていたことを思い知らされる。しばらくフラフラ状態となりまともに立ってられなかったほどだ。徐々にその状態になれるとその有用性を嫌と言うほどに理解できる。
「有用性は自覚できた」
ディングレイからの確認の言葉。これはとんでもない能力を会得したのだと姉妹そろって実感する。
「じゃ、ここからはそれをより磨く訓練」
ディングレイの隣には無数の石ころがある。これを無作為に宙に放り投げて地面に落ちる前に拾う訓練だ。落下点が予測できない石ころを確実につかむにはその影が現れた時に瞬時に反応できる能力と広く細やかな視界が必要だ。私達はひたすらその鍛錬に励む。たとえ掴み損ねてもいい、今はまだ体を慣らすのが先だと。
ディングレイは絶妙に私達が汗をかかないぐらいに調整してくれた。
その能力をより高めるため私達は努力をかかさない。
ディングレイは私達の後ろに従者として待機しているがこの時ですらも師匠だった。合間合間を見て細い人差し指を私達の首裏に付けようとしてくる。ゆっくりとしたり早かったりと緩急をつけて不注意を突こうとしてくる。それは軽いからかいの意味もあるだろう。
まったく…茶目っ気のある師匠ですね。
何も問題なく授業が進み合間の準備時間だが、
「公爵家のご令嬢様、少し時間を頂けないでしょうか」
前回よりちょっとだけハンサムな男性が近づいてきた。姉妹は「今度はこいつらか」という顔をするこの様子じゃ似たようなものなのだろう。
「受け取ってくれたたまえ」
机の上に出されたのは木枠と毛糸玉や布地と針糸など裁縫関係の物だけだった。
「これで僕のために織ってくれたまえ」
満足げな表情で男は去る。
「「……(あの野郎、次に同じ事したら体中縫い付けてあげます)」」
父親と同じことを言われて大反発している姉妹からすると最悪の贈り物だった。一応貴族社会なので受け取りはするが二人がこれを手に取ることは二度となさそうだった。
二人が授業を受けてる合間合間に山に出て山菜や川魚や獣を狩ったりしつつ姉妹の食事として出すとともに余りを学園に売って小遣い稼ぎをする。
うん、これはこれで悪くないけど戦場に出たい気分がどうも抜けなかった。
パーティリーダーと他の仲間たちはご立腹な顔をしていた。戦っていたモンスターはバッファローだ。本来であればパーティリーダーがとどめを刺すはず、だったが、僕が倒してしまった。
そう、出しゃばった、いや裏切りか。事前に決めた約束を破ればそういうことになるだろう。
リーダーだけではなく仲間からも厳しい視線が飛んできた。
「俺がとどめを刺す予定だったんだぞ!それを横取りしやがって!」
リーダーはお冠だがこれは仕方がないと僕は考えていた。このパーティでは倒すことは不可能だと判断したからだ。倒せないくせに倒せるという馬鹿な考えを抱くのは冒険者の常。それを当然の権利だと信じている。そういう生き物だからだ。
「くそがっ!たかがランク1の『暗黒戦士』に倒せるぐらいならもっと気楽に戦えばよかったぜ」
ランク1、これはこの世界では一番レベルの実力しか持たない存在。それが僕だ。他のみんなはランク3以上であった。それなのになんで僕がランク1のままなのかというとこれ以上ランクアップできないからだ。
それが暗黒戦士というクラスの制約。
僕は自分の灰色の髪をぼりぼりしながら返答した。
「いや、あなた達じゃ倒せそうにないから」
『なんだとう!!』
さらに怒りの声が飛び出る。
有名どころということで金を払ったが中身はこれだ。無謀愚かであり相手とこちらの実力差がまるで分らないらしい。
暗黒戦士には【ステータス隠蔽】の固有能力があるため相手からは見えないのだ。淡々とした僕の態度に仲間らは限界を迎えた。
「テメェはパーティから追放だ!」
リーダーから宣言される。
僕はそれを平然としながら手を出す。
「報酬」
『ああんっ?』
「これまで働いた分」
『ふざけるなっ!』
これまで稼いだ分はちゃんと出す契約のはずだろうが、渡す気がないということはただ低賃金でこき使う気だったためだろう、結構な数のモンスターを倒したにもかかわらずこれだ。もういいや、さっさとどこかに行こう。バック一つ分の荷物をもってそのまま出ていく。
「はぁ…」
今回もまたやってしまったなぁ、これで何度目のパーティ追放だろうか。もう回数なんか覚えていない。
僕は幼い頃から戦うこと以外知らない。『死体の傍で育った』そういわれて物心ついた時から死体の傍から武器を拾い鍛えてきた。育ての親はとある傭兵団の古参組であり色々なことを教えてくれた。成長するにつれて戦いへの渇望と憧れを押さえられず冒険者になったのだ。
傭兵とか冒険者の区分は結構緩い。なもんでなること自体は簡単だった。その後は下積みが普通なのだが僕の場合は手当たり次第にモンスターを倒した。
ランク0から1に上がる時にクラスを選べる。その中で僕が選んだのが『暗黒戦士』だ。このクラスには先がないということで誰からも避けていられていた。だけど、なぜかこれを選んだ。
その後いくつかのパーティを渡り歩いたが結果はいつものとおり、裏切りによる追放だ。裏切りって言っても仲間を背後から襲ったり罠にかけたわけじゃない。味方が立てた予想を裏切ったためだ。このぐらいちょっとした事故じゃないか。
っと、自分語りは趣味じゃないのでこのへんで終了する。
さて、どこに行こうか。―――距離はあるけど王都で戦士の大量募集が行われるぅて噂が立ってるね。そっちに行ってみようか。そう考え懐から通貨の入った革袋を取りだす。
チャラチャラチャラ
全財産1259ユリックか。う~ん、馬車に乗るには手持ちが足りない。乗合馬車でも足りない、商人の護衛で行こうにもそんな商人もいない。仕方ない、保存食を買ってから行くか。もしこれで失敗したら路頭に迷うかもしれないが。
ま、なんとかなるでしょ!
そうして、皇都まで歩きで向かう。
草原を歩き森を進み湖を見ながら橋を渡り山道を何とか進んでようやく皇都までついた。
城門の前には長蛇の列が並んでいる商人やら旅人やら同業者やら一杯だ。1時間ほど並んでようやく自分の番が来た、入場代金を支払う。これで有り金はほとんどない状態。
中に入ると人々の喧騒が目に映る。
「さすがだねぇ~」
様々な品物が並んでいて目移りするがまずは冒険者ギルドで依頼を受けないと今日の宿代もない。人込みを縫って冒険者ギルドの建物まで向かう。中に入って仕事がないのかを聞く。
「依頼、ありませんか」
「クラスは?」
暗黒戦士だと答える。
「冗談?戦士系ツリーの中でも最弱の暗黒戦士を求めるパーティなんてどこにもないよ」
野盗の方がマシなんじゃないの、痛烈に無用だと断言された。チェッ、一体僕の何が悪いというの。
「山菜や薬草集めの仕事ぐらいが精々だと思うよ」
受け付けは明らかに僕のことを軽く見ている、慣れてるからそれでもいいがここは皇都で物価も高いからそれだけだと食費も宿代も払えないよね。他に何か良い稼ぎと言えば護衛とかだけど素性が分からない冒険者なんか採用してくれない。
他に良い仕事が転がってないか外を歩いてみる。
「さすが大都市、でも」
どこか影が差し込んでるような感じがする。
露店は活発だし人の動きも多い、多少の難民が居るがスラムを形成はしてないし特段困っていることはなさそうだ。でも、どこかに黒い闇がチラホラと出ている。行き交う人々はそれに気づかないが僕は気づく。どういうことだろう。戦争でも起きるのだろうか。
そうして繁華街をブラブラしていると、
『いい加減にしてください』
女性の声が聞こえた。
声の出所に行くと観衆が少なからず集まっている。
「何なのですか」
「ああいつもの光景だよ」
いつもの?人込みをかき分けてさらに進むと二人の女の子と数人の男性が口論していた。
男らは着飾った貴族の跡取りやその取り巻きという典型的なパターンだが女の方は違っていた、容姿は極上ではなく上等に入るが自分の魅力を引き出すことに熟知していて飾り物も最低限、だがその強いまなざしは相手に明確な印象を与えるだろう。
よくある貴族の求愛場面と言ったものだ。でも、いつものことって。
「なぜ私の愛を拒むんだい。君たちは公爵家の令嬢、私は侯爵家の跡取りだ、最高の相性じゃないか」
華美な外見の男は自己陶酔するかのように自分の高貴さを説明するが彼女は聞く耳を持とうとしない。まるで陳腐でくだらないお話を聞かされうんざりするかのようにしかめっ面をする。
そうして数分間男の独白が続く、ますます場が寒々しいものになる。
「そう、これは運命なのさ。神によって決められたね」
最後に「幸せにしてみせる」断言するが彼女らは自分を確立していた。そんな彼女らからすると先祖の功績に胡坐をかいているこの男は敵でしかない。
彼女らは一応相手のことを思って最後まで付き合っていたが、
「自分の御先祖の自慢話はもう終わりですか。それでは」
足早に去ろうとするが取り巻きが遮る。
「ご令嬢、我が主は真剣なのです。良い返事をいただきたい」
「いやよ、こんな何も苦労を知らない男を選ぶ気なんてないわ」
「そうよ。こいつ自身は何一つとして確固たる自分をもっていないわ」
あくまで拒否をするが男は諦めない。
「仕方ないね。返事は愛の巣で聞こうか」
『!!?』
さすがの二人も公然と誘拐を行おうとは思ってなかったのか恐怖が走る。ジリジリと追い詰める男らに僕は黙っていられなかった。
「そこまでにして」
『え?!』
貴族の男らもご令嬢も観客すらもこの状況で割り込む度胸がある存在などいないと思っていたのだろう。僕はいつもどおり穏やかで純粋な顔で相手を見る
「貴族の跡取り様、あなたがどれだげ御執心であろうとも脅迫紛いの手で相手を脅し公然と誘拐しようとすればお家の名に傷がつきますよ」
僕はあくまで正論を言うが相手は都合よく捻じ曲げる。その上僕のナリが貧相なこともありすぐさま暴言が飛び出す。
「貧民風情が貴族に逆らうか!これは真実の愛なのだ、ならば相手を連れて帰るのは当然ではないか!」
それが犯罪だということすら考えられないらしい。この手の相手に言葉は何も通らないことを知っている。
「では、どうされますか?」
最後の選択を迫る。
「騎士が悪漢に襲われている令嬢を助けるのは正道だな。みな、かかれ!」
なるほど、騎士の作法に則りこちらを悪とするか。なら、容赦はしない。そうして、男らは公然と武器を持ち出す。この人数ならば一人殺すことなど軽く馬鹿親の力で殺人は不問に出来ると確信しているのだろう。だが、僕からするとただの「群れ」でしかない。
取り巻き共はクラスも低く練度も低く努力すらしないクズな上実戦を知らない、死が迫る恐怖を知らずそれに抗う方法すらも学んでない。そんな連中が武器を抜こうとも僕には威嚇にすらならない。各々好き勝手に武器を振るい集団戦闘の方法すらも皆無ときては個別撃破はたやすい。
最初の一人は騎士剣を最上段から大振りしてきたので横に逸れて腹に一撃、二人目も同じ、3人目は横薙ぎだが速度が遅すぎて体当たりで突き飛ばす、4人目はちょっと考えてリーチのある突きをしてきたが狙いが甘すぎるので下から弾き上げると何もできずに後ろに下がる。あ、顔面を殴らないのは後で面倒になりそうだからだ。
こうなってくるとさすがに相手が厄介だと感じた取り巻きの動きが鈍る。
「まだやりますか」
余裕の態度を取ると相手の顔が紅潮するが歴然とした実力差に手の打ちようが無いと感じるとただただ武器を構えるしかなくなる。これじゃ観客と同じだというのに。
「役立たずどもめ!こうなったら俺様が相手をしてやる!」
業を煮やした総大将様の登場だ。それは下策なんだけどね。
「取り巻き共はあしらえたようだが偉大なクラスを受け継いでる俺様には勝てないぞ」
偉大…、ねぇ、それも持ち主次第だと思うんだけど。
「いくつですか」
「6だ!どうだ、驚いたか!」
あ、そう。ふーん。僕からすれば相手が何であろうと倒してしまえばそれだけなんだけどね。
「お前はなんだ?」
こちらのクラスを聞いてくる。それにより作戦を立て有利に運ぼうという魂胆だろう。
「1」
『は!?』
周りにいる全員が唖然する。
「クラスは1、暗黒戦士」
それを聞いた瞬間相手は勝利の雄たけびを上げる。観客もまた笑いを抑えられないようだ。相手になるはずがない、誰もが勝利の結果を思い浮かべる。だが、二人の女の子だけはなぜか希望に満ち満ちていた
「これはもう決闘だよね」
相手に最後の確認を取る。決闘という舞台となれば互いの生死は問われないことになる。
「そうだ!正統なる騎士が悪漢に奪われようとしている令嬢を助ける!そういう場面だ!」
相手から宣言を聞き出した以上躊躇う理由は無い。ちょっと粗悪そうで質の悪そうな剣を鞘から抜き出す、とは言うもののこの剣は生半可な方法で製作されてはいない。相手はいかにもという装飾がゴテゴテしており刀身は美しいが実用的ではないような気がした。
「死ねぇ!」
宣言も待たずに相手の方から切りかかってくる。さすがクラス6ともなると攻撃は強そうだが大振りなうえ狙いも甘く下半身が追いついてないので振るごとによろける始末だ。自力でクラス6まで辿り着ければこのようなスキなど愚の骨頂だが先祖から引き継いだクラスに胡坐をかき努力をせず戦場にもいかない者の典型的な攻撃パターンだった。
僕は幾度も無く戦場で強者と戦い続けていたので自分を高める努力に妥協はしない。大小のステップを繰り返して攻撃を回避し続ける。
「このっ!回避だけが上手い羽虫が!」
相手はこの短時間でもう息が上がっている。実戦での回避行動の重要性すら知らない馬鹿の極みだっだ。クラス6ならそこそこ行けると予想したがもうこれでは得るものが何もないことを確認したので仕留めにかかる。
ここは皇都で治療スキルの高い神官や治療師も多いだろう、何より大貴族の跡取り様を治療する機会に恵まれることを望んでいる者らもいるはずだ。
相手の最後の攻撃は清々しいほどの大上段からの攻撃。なんて都合のいいことだ、僕の狙いは右肩への袈裟斬りだ。相手はそれに気づかず攻撃を敢行しようとするがこちらの方が圧倒的に速い。
ブンっ ザシュッ
狙いは違わず右肩に刀身が食い込む。相手はまだ上段に武器を構えている上に自分が切られたことにすら認識できてないみたいだ。
「は…え…」
ほんのわずかな時間余裕を与えると自分の右肩から強烈な熱さと痛みと何かが食い込んだ質感を徐々に理解し始める。そして、それを認識してしまうとどうなるか。
「ああああああああ」
絶叫。
僕は肩に食い込ませた剣をゆっくり目に浮かせて相手の体から放すと赤い血がドロドロと噴き出してくる。
「あぐっあぐっ、なぜ、なぜぇ…」
相手は右肩を深めに切られたことを半分混乱しながらゴロゴロと痛みにのたうち回る。地面に赤い血がボタボタと落ちシミを作る。それでもなお醜くのたうち回る男。僕はそれを何の感情も持たず見下ろしていた。その幕引きは呆気無いものだった。
最後に剣を軽く振って血潮を振り払い鞘に納める。
観客も取り巻きも令嬢も皆現実を確認しながらも信じられないでいた。
『クラス6がクラス1に何もできずに負ける』
その事実こそがクラスこそが運命であり現実であり定められた道であるこの世界の現実から乖離したものなのだから。
「あぐぁ!ぐぅうう!げぇぇぇ!」
僕に袈裟斬りにされた貴族は味わったことのない痛みにひたすらのたうち回る。斬撃は肺まで届いては無いけど重症であることは間違いない。そんな主を呆然と見つめる取り巻き共。さっさと動けよ。
「おい」
「ひ、ひいっ!」
取り巻きの一人に声をかける。どうせこいつら主の力を後ろ盾に好き勝手やって来たのだろう。その主が容赦なく倒されたことに半ば現実を受け入れられないようだ。
「な、なななな、なんでも、なんでもいたします、いたしますからぁ」
同じ目に合わせないで欲しい。どいつもこいつも弱すぎて悪態を吐きたくなるね。
「さっさと主を治療院に連れていけ」
『は、はいぃ!』
奴らはそうして主を抱えながら逃げ出した。さて、これで終わりか…まったく、無駄なところで武器を振るったね。立ち去ろうと、
『わぁああ!!すげぇぜ!』
大歓声が上がった。
「すごいぜ!クラス6を何もさせずに倒しちまうなんて!」「いったいどこから来たんだい教えてくれよ」「所属はどこなんだい。まだ決めてないならうちに用心棒に来てくれないか!」
激しい歓声、それにお誘いの言葉も混じる。こんなに喜ばれたのは始めてだ。すると、人込みを掻き分けて二人のご令嬢が近づいてくる。諍いの原因になっていた二人だ。
『助けていただき心からお礼を申し上げます』
二人揃って頭を下げてくる。
「お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
名前…ねぇ。ま、それぐらいなら。あんまり貴族同士の諍いには関わらない性分なんだけど。
「ディングレイ」
名乗ると穏やかそうな二人の表情が一変する。
「”灰の体”ですって!?」
ん、確かに僕の名前の直訳だ。他にも「灰をもたらす」「灰を纏う」「灰を製造する」というのが呼び方としてあるがそれだけである。当別というわけではないし普通より遥か下の下。重労働者でもあまり使わない言葉だ。
驚きを隠せないまま二人は揃って僕の手を掴んだ。
「「仕事を探しておられるのならば是非我が家に!!」」
そうして、あれよあれよという間に二人にも持ち帰られた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「「お加減はどうでしょうか?」」
「悪くない、悪くないけど、これはちょっと…」
客間でご令嬢二人と話をする。この二人本物の高貴なご令嬢のようだ。姉は「スーベルレイ・アーバイン、シャルグナッハ」妹は「スイ―グリル・アーバイン・シャルグナッハ」と名乗った。
持ち帰られてすぐさま風呂に入れられ徹底的に体を洗ったあと着替え担当のメイド数人の手で無理矢理着替えさせられた。粗悪で異臭漂うボロ装備から一転し貴族の子息と見ても問題ないような格好をさせられている。
恩人とはいえこれは過分だと言ったが二人はどういう訳か聞く耳を待たず下にも置かぬもてなしを用意してくれていた。
「この屋敷の主であるお母様は国王の命令で外国に出ており私達が管理を任されているんですよ」
姉のスーべルレイは穏やかで気品あり如何にも高貴な令嬢という感じだった。
「国王って人使い悪いよね。国の重要な役目を担うお母さんを外国に出すなんて」
妹のスイ―グリルは活発で明るく行動的な強さが魅力の女の子だった。
「なので、私達に出来る限りのことをいたします」
何でも言って下さい。それはありがたいが窮地を救ったとはいえ過分のもてなしはいささか居心地が悪い。
「それにしてもあの騒動は痛快でしたよ。貴族家の跡取りでクラス6なのを後ろ盾に我が物顔で振舞っていたのにたった一度の実戦で無残な姿を晒して逃げ出したんですから」
「ホントホント。『高貴な家柄に生まれた者は戦場や決闘でこそ輝き賞賛される』って豪語してたのにいざやってみると足元にも及ばぬ強さで負けちゃうんだから」
二人はとてもご機嫌のようだ。
「さて、楽しい会話は盛り上がりますが」
「そうね。そろそろ本題よね」
二人は揃って態度を改める。
「ディングレイ。今我が家は表面上は平穏でございますが先の馬鹿共らのように実家を後ろ盾にしたり王族のコネを使い近づこうという輩が数多くおります。お母様は実力でそれらを抑え込んでおりましたが外国に出向いているため守りが薄くなっているのです」
「表向きは外国との国交と物流の調整だけど実際はお母さんを色々と邪魔に感じているのよ。それは王族貴族だけではなく異母兄弟たちも参加してるわ。奴らは男子を生んだ事実だけで正室であるお母さんや実家の足を引っ張っているの」
貴族は跡取りを残すのが最大の仕事。それを産んだ後は邪魔者は排除するか。この二人のことを信じるなら母親は決して恵まれてなどいなかったのだろう。だけども、ライバルを数多く出しぬいて公爵家の正妻を勝ち取った女傑だ。男子を望んだが生まれず夫は別に女を囲ってそっちに跡取りが生まれた。
貴族はとにかく家柄を誇る連中だ。下に生まれた者へはとにかく厳しく上に生まれていればとにかく媚を売る連中である。先の貴族がその典型なのだろう。家柄だけならばともかくクラスも高くては逆らえないわけだ。
事情は分かったが僕を保護する理由は何なのだろうか。
「お母様から聞いております。ディングレイは正主神教会の主神すら手に入れられなかった能力を有していると」
「!?」
なぜ、それを知っている…のだ…誰にも隠してたのに。
「誰からそれを聞いた?」
二人は隠す必要はないと決断した
二人は表向き正道教会に属しているが実はパーナ教団の教えを信じている事を明かした。パーナ教団とは裏切りの神パーナを崇めている集団だ。道化師のような恰好で芸を売りながら世界中を回っている。狂気思想や邪悪な思想を抱きがちだが中身はかなりまともで低下級の民に寄り添い営んでいる。局地的な活動を強いられているので規模は小さいがこの皇都にも秘かに教会があるそうだ
「その事実がバレたら異端審問されますよ」
そう、これは危険な話である。大貴族の令嬢が正主神教会の教えを信じてないなんて。
「異端審問?今の教会に正義なんてありません!いかに弱者から取り上げるかのみ腐心し善良な人達の営みに手をかさず堕落しております。それは国の決定すら取り換えてしまう。もうウンザリなんですよ!」
「そうよ!生まれたクラスが全てを決める、強く成ろうとすれば邪魔や妨害ばかりする。奴らは主神が決めたルールに準じるあまり強者の誕生を否定している。古の時代のしきたり、戦いの教えを冒涜してるわ!」
二人は止まらない。もうここで決断しなければ後がないと言わんばかり。気持ちは分かる、分かるが。二人の熱意は本物だ。弱い自分を捨て強い自分になりたいと貪欲に欲している。これならば問題は無いと思った。
「わかった。そこまでの決意があるならやってあげる。でも、それは」
既存の社会秩序を壊すことになりかねない事、その責任を持てるか。二人は無言で頷いた。そうして、禁断の秘術を二人に行う。
「じゃ、ここでやっちゃおう」
『カスタムデリート』
その名の通りある重要なことに関することを書き換え削除する能力。僕はそう呼んでいる
この世界は生まれ持ったクラスによってすべてが決められている、同じクラスで生まれても人は選ばなければならす無数にそれは分岐する。この時代では0を最下位、1~3を下位、4~6中位、7~9を上位とされている。そのルート分岐表は記録に残すことを許されず口伝のみで伝えられるだけだ。
だから同じクラスに生まれても途中で止まってしまい先に進めない場合が多い上に上位のクラスから組まれた子でも必ず優遇されているというわけではないのだ。
ただ、一つだけ例外があり王族貴族らだけに伝えられる秘術、それに限りクラスを引き継げることが出来るのだ。だけどもこれも一人を対象にしているだけで後継者だけしか引き継げないので残りは自力で強くなるしかない。戦乱の時代は強さを求める連中は無数に存在し命の価値は軽かった。
時代が進み王権が確立し国家体制が整備されると命を惜しまぬ強者は激減し安全を取る輩が貴族となる。貴族となった彼らは自分の地位を脅かす存在を徹底的に排除した。その結果クラスを引き継ぐ後継者と強さを求めない一族ばかりが増えていき後継者ですら戦場に出なくなった。後は言わなくてもいいだろう
中には自力で強く成ろうと考えても徹底した社会体制ではそのチャンスすらなく底辺を彷徨うしかなくなるのだ。
二人のクラスは2だった。一般市民としては上等だがこれで高位の貴族令嬢となると完全な力不足であり特筆すべきところが無いのも問題だ。
ここで本題に戻ろう。
スーベルレイとスイ―グリルのクラスは2。戦士としても魔術師としてもどっちつかずなうえに平均的過ぎる上に最大能力も特筆すべきところが無い。一般庶民から見れば高いがクラス自慢の貴族社会では何もできないだろう。この二人は母の言いつけ通り努力をかかさなかったがそれでも限界は低かった。
「何か希望はある」
せっかくなので希望は出来るだけ聞いておく。
「私は高名な魔術師になりたい。それも並ぶ者がないくらい」
スーベルレイはそう答えた
「わたしは勇猛な戦士になりたい。それも並ぶ者がないくらい」
スイ―グリルはそう答えた
表現は違うが答えは同じだった。これも似た者姉妹なのだろう。さて、秘術を行うにはあるモノが必要だった。二人に頼んで小さ目のコップを持ってこさせる。それが持ってくると僕はその上で手をグーにしてしばらく念じる。するとポロポロと何かが零れ落ちてくる。
それは『灰』だった。物心ついたころから念じると体から灰が出てくるのだ。その灰は普通のとは違い傷に塗ると瞬時に治ったりそれで武器を研ぐとどんなナマクラもピカピカになるのだ。
その生み出した灰をジュースに混ぜて二人に飲ませる。濁った色のジュースのコップを手に取った二人は意を決してそれを飲む。飲み終わるとケホケホと少しむせたが二人のクラスはスーベルレイは「ベリルマジシャン」スイーグリルは「ウェポンチャイルド」に変わった。
「生まれ変わってどうですか」
「すごい…本当リセットされてるしベリルマジシャンはかなりレナクラスだわ」
「うわぁ、すごいよよすごいよ。このクラスならかなり限界が高いよね」
二人は手を取り合いお互いを抱きしめ大喜びだ。
「二人は幸運にもレアクラスを引き当てましたが0であることに変わりありません。努力しなければその真価は発揮できないでしょう」
「そうよね。楽観視は出来ないですね。これから修行に励むのですが」
「そうだよね。私達を効率的に強くしてくれる師なんてそうそう」
二人はこちらをチラチラと視線を向ける。どうせほかに仕事なんて見つかりそうもないし一度関わったのだから一人で歩けるまで面倒を見てあげるか。
「それでは特訓を始めます」
「「はい!師匠」」
恩人から師匠に呼び方が変わったが何ということは無かった。二人は熱意を滾らせてこちらの言葉を待っている、服装もドレスから汚れたりしても問題ない運動着に着替えた。
「先に明言しておくけど。僕が教えられるのは古の戦いの摂理であり現代の優美な台本のようなものではないから」
遥か古の戦乱の時代の規律と秩序、力こそが真実であり暴力こそが正義を成すと認知されていた野蛮極まる時代、もはやどの文献にすらも無い「強さが正義だ、弱いは悪だ」と極論も極論という思想。命の価値はとても軽くて強者が跋扈してたそんな時代の摂理。それを二人に教える。
今の社会の成り立ちでは死んでも拒否されるだろうな。
「訓練内容は何ですか。走り込みですか」
「倒れるまで武器を振ったり気絶するほど追い込む、とか」
二人は大きな期待と少しばかりの不安を持っている。
「それも選択肢だけど耐えられるの?」
「「自信ないです…」」
二人は努力し待遇は悪いながらの貴族令嬢としてここまで育ってきた。いきなりハードな物は難しいだろう。手っとり早くいくならモンスター退治だが二人には危険な外出許可を得られない。となると、この運動場で出来ることに限られるか。二人は何もかも最低辺なのだから。
「まずは軽く反復運動から」
ここでコツを教えておく、おなかのあたりに暖かい火種があると思い浮かべで力を込めて軽めの運動をひたすら行ってもらう。お嬢様の二人にまずはこれから。二人はそれぐらいなら軽い、そう考えていたがしばらくとその意味を理解する。
「「ぜぇぜぇ…はぁはぁ…」」
二人は体中から玉のような汗を滴らせながら息が完全に上がった状態だ。
「こんな単純なことがこれほど重いなんて」「うわ~ん汗が止まらないよ」
貴族は汗なんて流すな、優雅であれ。その言葉を正反対にしたのが今の二人だ。僕は革袋の水筒を二人に渡す。生温く皮の匂いが付く水は二人がガブガブ飲む。
その後も同じことを繰り返し続けて夕方。
「本日の訓練は終わりです」
「「は、はぃぃいい。おつかれさまでした~」」
二人は完全にヘロヘロであり言葉にも力が入ってない。苦労したらその分だけご褒美は必要だよね。
「自分のクラスを確認してみて」
二人はしゃがみ込んで確認すると。
「え?うそ」
「ありえないよ、これ」
半日近くガッチリ鍛錬に励んだ二人のクラスは2「スペルソーサレス」「ウェポンソルジャー」へと変わっていたのだ。二人は感無量なのかひたすら自分が強くなったことに酔う。
「明日も訓練するよね?」
ちょっと意地悪に聞いてみる。二人は無言のまま激しく首を縦に振り続けた。その後水浴びを食事をする。
「え、これが公爵家の食事なの?」
僕はちょっと驚くしかなかった、出された食事は固くて人気が無い黒パン、薄いハムに濃度も薄いうえに具も少ないスープ、ドレッシングがかかってないサラダ、飲み物は井戸から組んできた水だった。
これが大貴族の令嬢の食事…おかしいよね?
「僕に合わせているわけじゃないよね」
「残念ながら」
「今のわたし達にはこれでも限界なの」
良く見渡してみると執事もおらずメイドも非常に少ないことに気づいた。
「なんでこんなことに」
それもこれも彼女の親族らが原因だそうだ。二人の母親は正妻だが取り立てて環境が良かったわけでもなく家格も低い、同年齢にはライバルが数多くいた。どういう訳かそれらを出し抜き妻になったので彼女らの嫉妬はすさまじく社交界には出禁状態。加えて夫の信念とも相性が悪かった。
『政治や金稼ぎは男に任せて女はつつましく家で編み物をしていなさい』
要するに金稼ぎや政治に関わる女は汚らわしいと明言したのだ。如何にも貴族主義な考えの典型だろう。結婚してもそれは変わらず執拗に命じる夫と行動的で金稼ぎに励む妻。破綻は最初から見えていた。さらに悪いのは生まれた子が女の子なのを理由に側室を貰ったこと。跡取りを残すためには仕方のない判断かもしれないがその女は以前から不倫の疑いがあって私を妻としたのはその悪い女の悪評を隠すためなのではないか?ますます不信感が募った。その女は願い通り男子を産みそれからすぐに妻の順位の入れ替えを夫に吹き込んだ。二人目も女の子だったので跡取りを生んだ自分の方が上と主張したのだ。夫も前の妻よりも後の妻の方に夢中で気を見て入れ替えを行う気でいた。それに気づいた母親は稼いだ金やコネを使い妻の序列を乱すなと裁判を起こした。色々な思惑があり難航したが判定勝ちを手に入れ妻の順位はそのままに決められたがますます家の中に寒い風が吹き込むようになる。
夫は生まれから言いなりにならない女は醜いと教えられて育ち最初こそ求めたがそれが違うと思うと別の女に手を出す浮気者だった。結局正妻を遠ざけ都合のいい女や相手ばかりを選ぶ愚か者であり浪費家だった。貴族の家格で仕事が決まるのため手取りはよく名誉だが能力が無いため窓際が定位置で後先考えないのですぐに金欠になり正妻に金を無心してくることが頻繁に起こる。それでも態度を改めず努力も苦労もしようとしない。
正妻は呆れ果て娘らを自力で育て教育するしかなかった。
「酷い話だね」
「ええ。高名な学園には行かせてもらってますがまともに小遣いを出してくれないんです」
「以前、成長の余地なしと判断されあわや退学という決定も出されそうになったけど残っているのはいかにみじめな現実を続けさせ心を折らせるという最悪な理由なのよ」
姉妹は心底怒りを見せる。それぐらい酷い状況なのだろうな。
「二人はそれに抗ってるんだよね」
「そうですよ!以前のままならいつか諦めさせられましたけど今はディングレイが傍に居ます。学校が再開するのは20日後、それまで貪欲に強くなって散々馬鹿にし続けたことを後悔させます」
二人の眼には強い意志が宿っている。さすがの僕でもその意思がない者を強くは出来ないからね。
次に教えたのはマナとスタミナの回復方法だった。
「それって重要なのですか」
「そうだよね。回復率よりも最大値を上げる方が良いと思うけど」
「最大値を上げれば上げるほど行動回数は増えるのは間違いない。けど、戦場で安全な場所で待機なんてできるかな?出来ないでしょ。戦いは数日間休みなしで続くこともあるぐらい厳しいし戦闘中でも継続できる回復率を上げる方が強くなれる」
僕の言葉に戦場の風景を思い浮かべる二人、なかなか決着がつかず長期戦ともなれば僅かに取れる時間の間にいかに回復できるかが生死を分けるからだ。その状況を思い浮かべた二人は「それならこちらの方が強い」と分かったようだ。
僕は両手を前に突き出し指と指を繋ぐように円を作り腰をゆったり目に下ろし足を肩幅まで広げる体勢をとる。
「この状態で腹に持っている火種が全身にゆっくり水のように行き渡り無数の糸で先端から根元まで繋がり巡らせることに意識を集中する」
二人はすぐさま僕と同じ体勢をとる。
「これが秘伝ですか」
「恰好はあまり良くないけど」
恥ずかしさを押さえながら二人はしばらくそれを維持してるとみるみる効果が出てきた。
「あ、すごい。みるみる数字が増えていく」
「うわぁー。すごい回復率だよ~」
前日の訓練の成果で最大値が結構上がっておりまだ最大まで回復してなかったためこれでいい。
「今はまだその体勢を取るのが一番手軽で分かりやすい。鍛錬を積めば自然体のまま同じことが可能だよ」
「こんなに重要なことなのに学園の誰もが知りませんわ」
「そうだよね~。こんな簡単なことなのにどうしてだろう」
二人にここでネタ晴らしをする。
「え?これって一般大衆に伝わる健康体操の中の一つなのですか」
「そう。形としては残ってるけど基本の基本、ちょっと足を運べば誰でも手に入るわけ」
「それが広まってないのはどうしてなの?」
「歴史の変化の中で戦士における基本体操よりも軍勢を整えて軍律を守らせることが重要度を増したこと、地味で時間がかかる訓練よりも促成的な勢力が強くなったこと、やり方が形だけになり中身の効果を実感しにくいこと、最後は…人前でやる恥ずかしさもあるかな」
時代の流れとは言えこんなに重要なことをほとんどの人が忘れようとしてるのは悲しいよね。
「悲しいことですね。これだけ有用なら再評価するべきだと思います」
「うん。学園のほとんどの生徒がマナやスタミナ切れで最後まで授業を受けられないのに」
一定の数字に達してないとすぐにへばるのはどこでも同じなようだ。授業にすらついて行けないとは、それでほんとにこの国は守れるのか不安になるな。
さて、これの重要性を確認したところでこれから行うのは古の戦士における基本体操。魔術師だろうが戦士だろうがこれを徹底的に叩き込むのが習わしだ。僕が見せる型をひたすら反復してもらう。基本体操の重要性を理解した二人の何も反論せず徹底的にそれを行う。
それを数日間みっちり行うと二人のクラスは4まで上昇した。うん、伸びは順調順調。
「残りは数日、目前の日は休養と準備に当てるからここからは実戦に近づいた訓練を行う」
「「お願いします師匠!」」
師匠と呼ばれることに少し気恥ずかしさがあるが二人が生き延びるためだ、僕の些細な感情など問題ではない。
「君たちの常識的な戦法では戦士には戦士をぶつけ魔術師には魔術師をぶつけるとあるけどこれは間違い。戦場では常に入れ替わり役割の差などない。下手に専門的に対策するより広い範囲に対応できる能力の方が望ましい。いくら武器で殴っても傷つかない戦士に戦士をぶつけても戦力の無駄遣いだし魔力抵抗で無効化する魔術師相手に魔術を撃ち続けることもまた同じ」
この相手に有効な手を打つ必要がある、どうするか。それを二人に問う。
「戦士には魔術師を、魔術師には戦士をぶつけるのが有効ですね」
僕はそれを模範的な回答と返した。
「私は戦士と魔術師が連携を組んで相手をするのがいいと思います」
僕はそれを戦術的な回答と答えた。
「他には?」
二人は考える
「う~ん。それなら製作される武器には魔力的な効果を有した物や魔術師でも装備可能なランクの物もあります。お互いにそれを持たせてみるというのは」
なるほど、それなら個人で対応できるね。お互い低いステータスで振るうためダメージは大きく下がるが相手の防御能力はかなり低くステータス次第だが十分勝算が見込める。
「大体の敵はそれでいいと思う。ただし、純戦士や純魔術師をダメージが通りづらいのに殴り勝たなければならない時もある」
相手はそういうタイプだと教えておく。
「そんな難敵が相手ですか。特訓の最後にふさわしいですね」
「戦場に出ればそんな相手とも殴り勝たなきゃならない。覚悟は出来てる」
でも、そんな都合のいい相手などどこに?二人は疑問がいっぱいだった。目の前にいるじゃないか。
「「師匠が!?」」
君たちはまだ暗黒戦士の本当の恐ろしさを知らないからね。ここはしっかり強いということは再確認してもらう。早速訓練を開始する。
「武器の刃は事前に削って丸めてあるけど当たり所次第では重症になるし魔術師だからと言って武器を使わなくていい場面もあり得ない。本気で殴り勝つ気で挑んできて」
「「は、はいっ!」」
最初の相手はスーベルレイだ。彼女は魔術師であり努力家でその素養も高い。しかしながらその華やかさと派手さに気をとられ基礎魔術の重要性をいささか軽く見ている節がある。すべてはその延長線上にありそれを怠ると高度な知識技術は効果が満足に発揮できない。
ここでは徹底的に基礎を固めてもらう。
数分後、一つ目の軟体動物が出来上がった。
「次!」
「はいぃぃ!」
次の相手はスイ―グリル。彼女は勇敢な戦士となり戦場で輝きたいと願っている。姉と同じだがどうも指揮官側的な立場から物事を考えがちな面が多い。それはそれで悪くないが軍勢と統率するというの頭だけではできないし追いつかない、自分で行動し単独状況を打破することもあり得る。指揮官というのは狙われることが多いのだから
数分後、二つ目の軟体動物が出来上がった。
それ以後一定の回復を待ってから軟体動物に変わるという行為を延々と繰り返す姉妹、この部分だけを切り取ると「美しい姉妹を屈服させている」などと妄想が捗るかもしれないが二人が求めているのは強さであり快楽ではない。何も苦労せず痛みを伴わずに得られるものもあるが戦場では死が待ち受けているだけだ。
貴族の令嬢としてはこんなにも屈辱的な目にあえば自分を見失う可能性もあるだろうがこの姉妹は逞しかった。何度同じ目に合おうとも悔しさに耐え苦痛の声を上げず成長を続ける自分を確認し前に進もうとする。よほど自分の育った環境に不満を抱いていたのだろうし周りの環境に屈折もしていた。それでも口をつぐんで耐えてきたわけだ。だからこそ彼女らは僕の訓練にひたすら耐え続ける。
そして、最終日。
「よし、これで終わり」
「「お疲れさまでした師匠!」」
二人揃って頭を下げてくる。
訓練の最後は二人揃って元気な笑顔を出す。最初はピクピク動く軟体動物に変わっていたが徐々にそれから脱皮し次への準備をいち早く完了させるために最大値と回復量をメキメキと増やし続けた。中頃からバテる回数も減り終わり頃にはクールダウンの時間を取れるほどに。
「明日は体にたまったアカと疲れを徹底的に洗い流すから一日中入浴すること」
「「はいっ」」
さて、二人のクラスは6まで進み「スペルプリンセス」「ウェポンジェネラル」に変化した、ここまで行けば侮られることはないだろう。
さて、これで一応仕事は完了だが二人はどうするつもりだろうか…
スーベルレイとスイ―グリル姉妹は二人で入るにはちょっと狭く簡素な浴場で石鹸で体の汚れを丁寧に洗い落しながら夢見心地であった。
「まさかこんなに強くなれるなんて」
「そうだよねー」
この世界はクラスのランクがも何よりも重視させる世界、強い者にはそれに見合うものが与えられる、数多くの物が望むがままだ。姉妹は助力こそあったが苦労し努力し上位貴族と比較しても何ら問題ないクラス6まで上がった、その喜びようはまさに天にも昇る気持ちだろう。
「古の野蛮な戦いの仕来たり、もう誰もが忘れ文献の端にも残らない正義の成し方、その世界で強くなるためには命はこの上なく軽い、なるほど。貴族の誰もが拒否するやり方ですがそれに忠実になり生き残ればこうなるわけですね」
「うん。貴族連中は華やかで優雅であれ、労苦を知るな、我らの命は高貴な物で死ぬことは許されない。なんて、声高に叫んでるけどあなたたちの先祖はそんな過酷な時代で戦ってきたのにね」
古の戦の仕来たりの乱暴さと純粋さに心を奪われた二人。野蛮でも構わない、強さが正義を手に入れ、弱さが滅びを受け取らされる。ゴテゴテした飾り物は一切無く鍛え上げた肉体を全てに見せつけて力を誇示するだけという分かりやすさもまた二人の心を放さない。ディングレイの教える強さは呆れるほど単純明快だった。
戦場で命を預けられるのは着飾った貴公子じゃなく野蛮で粗暴な屈強な存在ということだ。前者は理屈だけは立派だが劣勢になると正義を放棄する、後者は無知無学だが体だけを頼りとして大切にしてくれる主のために命を惜しまない。私達が欲しいのはもちろん後者だ。
スーベルレイは湯に貼った浴槽に体を沈めながら今後のことを考え始める。
「ディングレイの価値はお母様から聞いていた以上よ。あれを絶対手放してはいけないわ。まだ私達のランクは天井に達してないし教えを乞えるほどの先生らも学園にはいなさそうだし」
「そうだよね~。学園の先生は大半がランク3どまりだし何世代も学園に依存してきてるから教科書通りにしか教えられない上内容が薄すぎるよね。知恵を得るにしてもそれなら図書館に行けばいいだけみたいだし模擬訓練ですらわたし達相手には荷が勝ちすぎている」
二人もうすでに学園内最強クラスと呼んでも差し支えない程だった。学園で学ぶよりディングレイに頼る方が遥かに効率がいいのは分かり切っている。しかしながら二人はまがりなりにも公爵家の令嬢、退学処分は家の名を悪くするだろうし入学費用を出してくれた親族らの眼もある。
退学は駄目、でもディングレイを傍に置いておきたい。
スイ―グリルはこの時ひらめいた。
「そうよ!こうすればいいんだよ」
突然飛び上がった妹を見上げながらスーベルレイは内容を聞く。
「ディングレイに私達の従者になってもらう?そうだわ、いい考えじゃない。曲がりなりにも実家は公爵、従者の一人ぐらい傍にいてもおかしくないしその身分なら学園内へ出入りできるし」
「でしょ。問題は自由になるお金に乏しい私達が支払うもので納得してくれるかだけなんだけど」
姉妹の頭を悩ます問題、家格の高い家の生まれとは思えないほどに小遣いが少ないのだ。他の家では親の金で何人もの従者を引き連れている者すら多いのに。
とにもかくにも妙案を考え出した姉妹は風呂場で汚れを徹底的に洗い落とすことを大急ぎで行う、それからバスタオルで体を拭き簡素な下着をつけて普段着の姿になるとすぐにディングレイを私室に呼んだ。
「えっ?僕が二人の従者に?」
客間で待たされてきた僕に二人は突然そんなこと言いだした
「ディングレイ。あなたの教えは私たち姉妹を救いました。だから、一時的な師匠ではなくもっと長く深く教えを乞いたいのです」
「うん。世界を見渡してもディングレイほど戦に精通している存在はまず見つからない。だから、その」
今後は従者となって傍に居て欲しいと。二人はそうして目の前に一枚の書類を出す。それは従者としての正式な契約書だ。
『あなたと従者としての契約を交わします。ただしそれはスーベルレイ・アーバイン。シャルグナッハとスイ―グリル・アーバイン・シャルグナッハ個人としてでありシャルグナッハ公爵家の従者ではありません。生活に必要な物はすべてこちらもちであり給金の支払いに天井はもうけません。そして、今後の働き次第ではございますがお望みの褒美をご用意いたしましょう』
そんな内容だった。
「君たち、これは支配者の立場だからこそ許されるお誘いの仕方だって分かってるの」
「「もちろんです」」
二人の視線からすると本気のようだ。
「しかも公爵家としてではなく令嬢個人としてって」
従者というよりプライベートな付き人だ。しかも褒美や報酬は天井無し、破格の条件だが…。この二人にはそれらを守れる保証はどこにもないことは確認している。同情は出来るし理解も出来るが。戦場で雇われる連中は支払いが滞ると命令無視し戦闘放棄も起こることもある。二人が切実なのは分かっているがこちらもお金が乏しい身だ。
目を瞑ることしばし。
「どこに名前を書き印を押せばいい」
「「契約してくれるのですか」」
「君たちの本気に白旗を上げるよ」
早速契約書にインクとペンでサインし拇印を押す。これで正式に主と従者になった。
「これからよろしく、ご主人様」
「「よろしくおねがいします」」
さて、学園が開校するまで間もないがちょっとだけ楽しみなことになりそうだ。
学園開校日。
季節ごとの短期間を取ったお休みが終わり学園生が門を通っていく。ここに通うのは貴族の子息や令嬢ばかりであり一部資産家の商人の子らも混ざる。かなりの人数が徒歩だが共用馬車で数人集まって来たり中には専用馬車で横付けする者もいた。
スーベルレイとスイ―グリルは公爵家の正室の生まれなので馬車のはずだが、
「やっと入れますね」
「うん、お姉ちゃん」
なぜか徒歩だった。
さすがにこれはおかしいのだが父親は専用の馬車どころか共用馬車の代金すら渡さなかったからだ。さすがにおかしいだろと思うがそれくらい二人には無関心だということだ。そんな金を出すくらいなら愛人らに貢いだ方がマシという考え方で最低最悪な父親だと感じた。
そんな態度を見続ければ父親と距離を取ろうとする二人の気持ちもわかる。二人は誰よりも早く自立し実家とは縁を切りたいのだ。だが、学園という牢屋に送り込んで心をへし折り従順にした後都合よく馬鹿な男と結婚させ母親の持つ財産すらも奪い取る、そんな筋書きなのだろう。二人はそれを嫌と言うほど理解している。
抗うには力が必要でその努力を厭わなかったが限界が低く挫けそうで周りの態度もまた彼女らの恐怖だった。
『公爵家の令嬢のくせに凡人とは滑稽極まる。お前らはその程度なのだからさっさと消えろ』
そんな暴言すら口をつぐんで耐えるしかない。発言した本人は跡取りというだけで二人よりクラスは低いにも関わらず、だ。二人からすると親のクラスが高いだけで本人は最低なのになんでそんなに偉そうなんだ。引き継いだ後ならともかく今は私達より弱いくせに。そんなところだ
二人の不満はいつ爆発してもおかしくなかったがそれでも反論はしなかった。それをやると即座に追い出されるからだ。最悪な環境だが二人も高貴な令嬢として生まれてきたからには義務を背負っている。それを果たすためだと耐え続けた。近づいてくるのはクズだけだけであり理解者はいなかった。父親は学園に賄賂を送ってまで二人の心をへし折れとまで言っている噂さえあるくらいだ。
まぁ、それもちょっと前までのお話になるけど。
僕は二人の姉妹の隣に控えている。服装も戦闘服ではなく従者らしい綺麗で整った確かなものだ。他の従者らを見るとお金持ちなのか豪華な物も多いがこのシンプルさが好きだし何より綺麗で嫌な匂いがないというのがうれしい。
姉妹は乏しい資金で僕の服装を整えてくれたのだから。
3人で門をくぐると囁き声が聞こえてきた。
(あの姉妹いまだにここに来る勇気があるとは馬鹿だねぇ)(そうね。クラスは低いくせに座学が最優秀とはほんとずる賢いわ。母親の血ね)(どうせ公爵に泣きついて居残ってるんだろう。貴族の恥さらしだ)
蔑み中傷誹謗、人の嫌な感情が明確に表れている。
「気になさらないでください。あの者たちはご主人様の今の姿を知らないのですから」
元気づける。姉妹の表情は明るかった。
「分かっております。今の私達は強いのですから」
「少し先に行われる早期合同試験ではどちらが主席か競争しましょう」
「いいわね。結果は分かり切ってるけど譲らないから」
「分かってるってどーいうこと」
もう二人には会った時の暗い影はどこにもなかった。そうして、学園生活が始まる。
さて、貴族学園の生活だが休暇明け初日であり大半の生徒は課された物もなく実家のように少し気が抜け安心感のある者らが殆ど。親しい者らとグループを作り気楽な会話を楽しんでいた。少し先に早期合同試験があることを知っているが時間には余裕がある、
『後でも取り返せるさ』
そんな雰囲気だった。先生らもそれは同じく。生徒が帰ってきたことをちょっと確認したらほぼ自由時間となる。努力なんて後でも出来るし取り返すもの容易い。学園の平均的な成績を保てば問題ない生徒とみなさせるのであくせく点数稼ぎなどしなくてもいいじゃないか。ごく一部は低ランクから這い上がろうと動いているがどう学べばいいか分からないからありったけ詰め込もう。そういう生徒もいる。
目標と定めるべき姿形を描きそれに必要な物は何なのか、それすら不確かな影でしかなかった。二人の生徒を除いて。
「必要な本探してきました」
スーベルレイとスイ―グリル姉妹と従者のディングレイの僕は学園の図書館にいた。
「ご苦労様です」
「うしし、これよこれ」
島は目を輝かせて本を確認する。それは戦士や魔術師の長い長い戦いの歴史とその中で生み出された技術や知識や発想、戦いにおける有利不利の構築の仕方を描いた書物だった。それも何冊も。
残念ながら二人と僕とでは戦いが根本的違うため教え方には制限がある。先人に倣うべきだが先生は彼女たちに何も教えられない、ならもっと昔の先人を手本とするべきだろう。とはいえ、実力が足りないまま学ぶことも無意味。なので二人は僕を図書館に連れて来て必要な本を選んできて欲しいと頼んだ。
僕は図書館の蔵書の中身はよくわからないが彼女らに必要なものをよくわかっている。なので、現時点ですぐにでも手に入る必要な物を抜粋して運んできた。
「今はこんなところですね」
「以前だったら訳も分からないまま漁ってましたけど今の実力ならしっかり選ぶべきだと分かります」
「ホントそうだよね。戦いって結局のところカードバトルで殴り勝つだけだし」
戦いには様々な要素が絡むが役割のカードとして落とし込んだカードバトルだ。敵味方、その総数、陣形、地形、装備している武器や防具、攻撃回避防御援護という行動までカードに当てはめて戦うだけだ。リアルタイム進行というが結局状況に応じて有利なカードを出して相手を倒し次が現れても倒せば同じことだ。
一度出したカードは相手に確認されるがそれ一枚で全てなぎ倒してもルールには接触しない。有利不利など相手次第なのだから。
スーベルレイには「魔術師メリアルの戦術」「魔女カリーナの7つの切り札」「賢者マル―クの行動原理」スイ―グリルには「将軍ボストンに軍勢統率術」「策士ダミアンの奇計」「傭兵バランの生存術」それぞれ3冊。
二人はタイプこそ明確に分かれているが指揮官や統率者タイプに近く純粋な最大値まで到達するにはまだまだ時間と鍛錬、何よりも実戦が必要不可欠だ。学生の立場では戦時呼集でもないと実戦などに出られない。学園で学べることは少なく教えられる先生もいない。
もう先人の文献しか確認するものが無いのだ。
二人の描く未来を聞いている僕はそれをかなえたいがさすがに大軍を率いる方法を教えるのは今は無理であるため今学ばせたいのは戦闘におけるバトルの有利不利関係や相性、個々のカードの数字を増やすこと、状況を逆転できるカードの発見、山札の枚数の増加だ。
戦いは固有な能力を除けば単純に数字の強いを勝つため全体的なカードの数字を上げることは単純に強力だし自分しか使えないカードを手に入れれば初見の相手に大きなリードを得られる。山札を増やせば相手より多い枚数が引けるため長期戦に持ち込めるし相手に引き込めるカードを切れさせることも可能だ。
もっとも山札の中身は誰にも分からないしその総数は自分しか分からない、実際には戦いの最中に新たな手段も編み出さなくてはいけないこともある。まずは3点に絞り全体的な強さを増すことにしたのだ。
姉妹は黙々と僕が選んだ本を読みふける。合間合間に質問があったり図に書いたり整理しないとならないことも書かれていたがその都度僕なりに教えてあげる。
それらを読み終わると。
「フーっ。腐っていても学園ですね。まだこんな本が残っていたとは」
「うんっ。蔵書の中には他者を誹謗中傷し出世に使おうという口実で書かれたものもあるんだけど」
選んだ本の中身が健全で有意義に使える内容だということを確認できたようだ。
「すべてが使えるというわけではないけど入門用としては極上でしたわ」
「早く訓練で試したいですね」
「今の私達なら無策でやっても負けないだろうけど」
「そうですよねぇ。どこかに都合のいい罪人でも現れませんかねぇ」
発想が危ない方向へと飛躍しそうなので釘を刺す。
「それは選抜課程に入ることが確定するまで待って」
学園には軍人や戦士を育てる科と魔術師を育てる科の二つがあり基本学科と選抜学科がある。前者は普通の貴族の子が殆どだが後者は文字通りにエリートクラスだ。将校や幹部クラスに選出される可能性のある選ばれた存在…という建前だが中身は怪しいそうだ。
高度で幅広い教養と経験が無いと入れない、とされているがそこから落ちるのはほとんどないそうだ。一応平均点は高めだそうだが二人は「貴族社会の腐った派閥争いの縮小図」と言った。入れるのは高位貴族の跡取りかそれに準じる者ばかりだが彼らのほとんどはクラスを引き継いでおらずランク1にすら達してない者すらいるそうだ。努力も苦労もせず親からクラスを引き継ぐこと約束され胡坐をかき忠犬よろしくエサが出されるのを待っているだけ。これなら基本学科の方が活力があると言えるほどだ。
努力を惜しまずどぶ川を魚のように這いずり回る二人からすると「最低の連中が浅はかな考えを誇っている」だけだそうだ。二人からすると唾棄すべき対象である。そんな二人がなぜそこを目指しているのかといえば。
「選抜学科に入るって」
「はい」
従者としての契約済ませてすぐ彼女たちは本心を打ち明けた。
「今の私達の実力なら家を追い出されても自力でやっていけますが学園の連中を見返したいのです」
「学園では冷たい視線がそこら中から集まっていたからそんな奴らを見下ろしたい。下僕扱いにしたいの」
下僕扱いとは乱暴だがそれぐらい鬱憤が溜まってたのだろう。
「お母さま以前からこの家には未来が無いことを教えてました。だけども今のままで納得できないんです」
「お父さんではなくお母さんについていくけどその前に誰もが認める実績が欲しいんだよ」
実績が無いんじゃ無理だよね。貴族の家柄の生まれというだけでは誰も来ないか。よし、それなら二人のために特別な物を用意してあげようと考えた。
学園が再開する2日前まで時間を与えて欲しいと伝えた。二人は僕に何か考えがあるのだろうと確信し自由に使える時間を用意してくれた。
約束の時間がすぐにやってくる。
「おまたせ」
「「お帰りなさい」」
二人は相変わらず貴族の令嬢としては質素な外見で出迎えてくれた。僕は二人の眼の前にある物を差し出す。
それは、鈍い黒い輝きを放つ腕輪と簡素な鞘に収まった平均的な長さの剣だった。
「「これは」」
僕から生み出した灰を溶けた金属と融合させて型に流し込み形を整え飾り文字を彫り込んだものだ
腕輪には古の文字で「促成」「遅延」「待機」「増大」「格納」、剣には「必殺」「確率」「加速」「再生」「統率」の文字を彫り込んだ。材料を集め鍛冶場を借りて始めてやったがそこそこうまくいったと思う。
「二人は厳しい僕の訓練を耐えたんだからご」
「「わぁぁああああああああんん。でぃぃいいぐれぇえええいいい」」
ご褒美を。それを言い終わる前に二人は喜びの涙とくしゃくしゃの顔で抱き着いてきた、それは10分間も続いた。
しばらくして落ち着いた二人をそれを期待一杯で使う。
「うわぁ、なにこれなにこれ。魔術のあらゆる効果が比較にならないほど向上してるわ」
「すごいよこの剣。私の力でも丸太3本を纏めて輪切りに出来る上に抵抗感がほとんどない」
こんなの反則だズルだ卑怯だそんなのありなのか。ありったけの賛辞を武器に送る。
学園の生活に戻るが規則があるにもかかわらずかなりの生徒が自前の装飾品や武器を保持していたので彼女らも「どうせこんな状態だし私達もいいよね」理由付けして僕の渡した装備を身に着けている。他はもっと豪華で高そうなので素朴な二人の装備に関心払う者などいない。
図書館で欲しかったものを手に入れて満足な二人と共に学園を散策すると。
「ハァーイ。元気だった。これから熱く楽しい時間を楽しまないかい」
優男風のイケメン(ザコ)と数人の男子(モブ)が道を塞いだ。ご主人様二人はわずかに顔が引きつる。面識はあるが良い印象は得られなかっただろう。そいつらは明らかに進路妨害でありある意味包囲しようとしていた。
「まだこの学園にいたんだねぇ。まぁ、それが唯一の希望なんだろうけど」
相手はどうやら家庭事情について情報を得ておりお情けで通わされている、そう認識しているのだ。何か問題が起こればそれを理由として無理矢理追い出すことなど容易い。そして、延々と労苦を背負わせられる。そんな未来図を確信している。
そしてその運命に押し出すのは自分らだと考えていたようだ。ちょっと前までだったらそうなっただろう。そして彼らは都合の悪いことに何も確認しようとしなかった。
姉妹のクラスは現在6、それもレアリティの非常に高いスペシャルに入っても当然なクラスだ。そのためステータスの平均値は桁違いに高くクラスが上でも苦戦は免れないという状態だ。それに比べて相手のクラスは全員0である。一定以上のクラスになると「物理抵抗値」「魔術抵抗値」ステータスが開示され軽減率が設定される。
クラス0がどうあがこうと二人の抵抗値の前には何もできず近づくことさえできないだろう。そもそも武器は容赦なく弾き飛ばされるか砕け散るだけだ。クラス0でもおおよその数字は見えるだろうし二人はそもそも確認できるステータスを誤魔化すことすらしない。
ちょっと確認するだけなのにそれすら頭の中に無い。
『お前死にたいのか、他ならぬ自分自身の手で。こちらはそれを止めないぞ』
何もしなくても彼らの弾き飛ばされた武器や砕けた破片が自分に飛んできて傷を負う、当たり所によれば重傷だ。彼らは自分から死地に踏み込んできた。
「ハハハッ。怯えることはないさ。これからじっくりたっぷり女性であるということを教えてあげるから」
性的な欲求も混じった汚い言葉。二人は怯えてもおらず怒っておらずひたすら暗く冷たい輝きを瞳にもつだけ。憎悪とも怒りとも違う強者のみが待つ残酷で冷徹で誇り高い意志の表れだった。
これ以上は無駄だと悟り二人は抵抗の意思を示す。
「(ねぇ、ちょっと)」
二人の服の端を相手に見えないように掴み制止を促す。
「(分かっています。こいつらの命は奴隷より軽い。殺しはしませんわ)」
「(ただ現実を確認してもらうだけだから)」
殺人はしないという確認は取れたので二人に任せることにした。この手の輩はあまりにも多すぎて死刑執行官が過労死しかねない。それがのうのうとしていることが二人の逆鱗に触れたのだろう。
抵抗する意思を確認したイケメンと取り巻きは歪んだ笑みを浮かべつつ二人の体に遠慮なく、それも胸元に手を伸ばすがその手が空振る。イケメンは「気のせいか」そう思い再度手を伸ばすがまたも空振る。2度3度繰り返すが実体がつかめない。「光の加減か」そう思いさらに踏み込んで手を伸ばすがそれでも手は宙を彷徨う。相手はさらに「目にゴミが入ったか」目元を手でゴシゴシして再度挑むが結果は同じだった。
こうなってくると周りもこれはおかしいと考えだすが相手は微笑みを浮かべながら立っているだけ、据え膳食わぬは男の恥、そう考えた取り巻きらが勝手に行動を始める。スーベルレイもスイ―グリルも「抵抗しません」という態度で待ち構えている。だが、届かない。
よく見るとその現場を知った学生たちが徐々に集まり出す。彼らのお目当ては姉妹よりもイケメンと取り巻き達だ。そして、笑いがこみだす。
「大人数で少数の女性を脅すとかありえない」「相手が目の前にいるのに掴む手を空振るとか笑える」「こんなの道化師でも腹を抱えるよ」
観衆は「なぜ手が空振る」という事実を「わざと空振り笑いを取っている」と思い込んだ。姉妹が微笑みを絶やさず何も言わないので余計に真実味が出るわけだ。だが、それは相手からすれば笑いの種を売り歩くこと。貴族としては屈辱でしかない。
さすがに我慢の限界が来たのか彼らは一斉に腰の武器に手をかける。
「怪しげな術を解き自分らに従え」
姉妹らかすると呼吸をしているだけなのにそれを怪しげな術に頼っているとは頭の中身が最悪だと思ったようだ。堪りかねた相手は武器をいよいよ抜こうとするが「ビキッ」僅かな音が聞こえ抜いた武器は根元から折れてしまった【念刃】』という古の戦士の一人が編み出したアビリティだ。自分の意識を研ぎ澄まされた刃として不可視の状態なまま望み通りの場所に飛ばす力。先ほど本で見ただけのことをもう自分の物にしていたとは。
刀身が無い剣の柄を偉そうに誇るイケメンと取り巻きだがそれは最初だけで自慢の剣が根元から無くなっていることに驚愕する。そしてそれは周りに更なる笑いをもたらす。
「はぁ、あいつらあんな刀身のない剣がご自慢なのか」「あれだよ、騎士の名誉にかけて殺しをしないって精神だろ」「プププッ。だから実体のない剣が誇りなんだな。ますます笑える」
観客からすると令嬢の笑いを取るため誇りを捨てて道化に徹している、そんな構図だった。
ここまでくるともう事態を止められないと悟り連中は後ろを振り返らず逃げ出してしまった。奴らは後で徹底的に火種を消そうとするだろうが狭い学園の中なので絶対に不可能だろう。
騒動が終わり観客らは「いいもの見れた」ささやかに合図を送ってきて解散した。
「私達の対応、いかがでしたか」
「ちょっと危ういところもあったけど、どう」
「相手は貴族様だから傷を負う不名誉よりも、笑いの種になる不名誉の方が重いよね」
「「そうでしょうそうでしょう」」
二人はご満悦だった。
あれだけ自分の恐怖だった相手を手の中で操り人形にしたのだ。しかも絶対に消せない火種まで生み出すおまけ付き。奴らはもう二度と現れないどころかに似たような考えを持つ連中大きな釘を差し込んだのだ。これを喜ばすにはいられないだろう。
「そろそろ合間の軽食の時間になりますね。ランチルームに行きましょう」
二人はどういう訳か僕の両側に立ち手をつなぐように誘っていた。従者としては失格かもしれないが二人の笑顔が清々しくてうっかり手を握ってしまった。
「「えへへへー」」
何故か二人はさらに夢見心地のようになってしまった。
ランチルームに入るとそこそこ生徒はいたがまばらであり時間制限は緩いようだ。。列に並ぶとハムとレタスを挟んだサンドウィッチとじゃがバターが主食で、軽めのサラダと具がそこそこのスープ、熱したソーセージ数本が付くようだ。
貴族の学園としてはこれが普通なのから。とはいえ、日々の食事にありつくことも難しかった以前と比べれば大変恵まれた内容だ。
僕はありがたくいただくことにするが二人はどこか不満なようだ。
「どうしたの」
「内容にご不満でしょう」
「いや、これで十分だと思うけど」
「私達は成長期真っ盛りなんだよ」
学園では昼食と夕食の間に軽い食事とお菓子が出てくるそうだから量としては申し分ないように感じるけど。
「向こうを見て下さい」
スーベルレイが指をさすとその一角だけ大きな調理台があった。そしてそこで調理されているのはまごうことなき肉でありそれも分厚く食いがいがありそうだ。ジュージューと香ばしい音と肉汁がなんとも魅力的にみえる。
「規則では持ち込みは可能とされてますけどあそこまでやってるなら規則とはなんなのでしょうか」
「内容には『なるべく自力で』って曖昧だから苦労せず豪勢な食事を満喫してるんだよ」
そうか、そのぐらい曖昧なら都合がいい部分あるね。
「昼食も似たようなものなの」
「多少変わりますけどさしたる差は無いですね」
よし、二人はこの後授業に出ないとならないから別行動を余儀なくされるから都合がいいな。主を喜ばせるのは従者の務めなのだから。久しぶりに狩りをするか。
そして昼食の時間になる。
我が主である姉妹様は周囲からの鋭い視線を受けながら緊張した表情でテーブルに座っている。
「では、料理を持ってきますので」
「よ、よしなにおねがいします」
二人はそれだけしか言えずただただ言いなりとなる。
学園は広大な自然地区を有しており正式な代金を支払えば自力で見つけた物には税金を掛けない規則がある。なので、僕はありったけを使い熊や鹿や山菜などを取り漁り必要な分を残して換金し我が主の前に持ってきた。長い旅で自炊も多かったから荒っぽいけどそこそこ料理は出来る。
メインは大盛りのライスとステーキ。それも混じりものではなく純粋な精米がされたものだ、山菜のサラダと複数のキノコのバター炒め。具たっぷりコンソメスープに美味しいジュースも付ける。止めにお替り自由だ。
設備の整った調理場あるので思う存分出来た。
「お待たせしました」
ゴトッゴトッ
出された料理のボリュームは姉妹の限界を超えていたのかひたすら唾を飲み込む。
二人はしきりに「本当にいいのか食っていいのか」こちらを見るが「お好きなように」とだけ返事をした。
ナイフとフォークを二人は握り分厚いステーキに立ち向かう。一応ナイフで切れる範囲としたが二人からするとこれは未知の領域でありちょっと難儀していた。ようやく肉の一端を切り取ると憧れの眼差しを抱きつつ意を決して口に放りこむ二人。二人はすぐさまパラダイスに辿り着いた。
最初こそ躊躇いを出していたがそれが手の中にあると分かると止めようが無かった。姉妹はランチタイム時間ぎりぎりまで至福の時を過ごした。その表情がいかに幸福感に満たされたかなど思い描くのはたやすいだろう。
さすがにお菓子は無理なのでお休みとしたけど夕食は同じようにした。
メインは暖かい白パンでありお魚一匹を丸ごと焼きバターソースをたっぷり用意。上手いこと川を見つけ身が厚く締まった魚を釣り上げてきた。野生のフルーツも皿にたくさん用意してる
この学園では魚料理はまず出ないらしい。なもんで視線が痛い。二人は魚の身を上手く切り取る手順が分からないようで僕が切り分けてあげることにした。そしてパラダイスに再び到達することになる。
「「えへへへー」」
二人は至福の表情を浮かべながら僕の両脇を支配してしまう。就寝の時間が近づきそれぞれ指定された部屋に待機することになる。さすがに主人と従者とはいえ学園の規律から異性を同じ部屋にはおけないからね。
自分の部屋に戻った二人は嬉しさ一杯だった
「はーっ。よい鍛錬が出来ただけではなく怖かった相手を弄びあの食事、こんなに幸福感溢れる1日は始めてです」
「うんうん。周りの視線が明らかに変わったよね。私達に悪さをすると酷い目に合うってやつ」
姉妹なので二人部屋に配置されている二人の談笑を遮るものは誰もいない。
「奴らの顔は思い出すだけでニヤニヤが止まらないですね。あれだけ笑いの種にされたのだから当然ですけど」
「これで似たような連中が近づき難くなりますよね。いやぁー、クズを弄ぶのは本当に楽しいよ」
私達はここで虐める側と虐められる立場の側の優位性とその愉快さに気づいた。なるほど、こんな感覚に満たされるのなら一度覚えたらやめたくてもやめられないわけだ。
私達姉妹はニヤニヤするのを押さえることなくベッドに入り今後の学園生活が実に楽しいものであることを確信し眠りについた。
「おはようございますご主人様」
翌朝、眠りから覚め清々しい気持ちとカーテンの隙間から差し込む朝日の光の中学園の制服を着てディングレイを迎える。入口の門にはトレーがあってどうやら朝食を持ってきてくれたようだ。部屋には一応テーブルと椅子があるのでかなり早起きして料理人が作る物を部屋に運ぶことも出来るがそんなのをしている生徒などいない。
「大変だったでしょう」
私達はディングレイの苦労する姿を思い描いて目元が潤む。
「いえ、これも従者としての仕事ですから」
従者としての仕事だから、お褒めの言葉を貰えればそれだけでいい、ディングレイの求める答えはそれだけだった。
私達はすぐさま彼と彼の持ってきたトレーを部屋の中に入れる。
「どうぞお召し上がりください」
「「いただきまーす」」
朝食はパンとローストとサラダと水。ふっくら柔らかくジャムとバターの両方がありたっぷり塗れる上にローストの分厚く柔らかいこと、サラダにもちゃんとドレッシングがたっぷりかかっていた。それもこれも嬉しかったが合間合間に飲む水がキーンと冷えていた。冷蔵庫はあるがあまりにも高級品で調理人でさえも容易には使用できない。だから、綺麗な川から水を汲んできたと判断したがよくこの冷たさを保ったまま持ってこれたのだと。ひたすらに嬉しかった。
学生の身分どころか上級貴族でも難しい朝食を談笑しながら片付ける。ディングレイはトレーを借りてきたので先に戻すそうだ。恵まれた朝食の余韻を楽しみながら本格的な学園生活の開始だ。だが、その前に短い時間だがディングレイの鍛錬があるのだ。これが何よりも楽しみである。
学園が開始されて数日たつと自由時間は減り授業の時間が多くなる。生徒は不満を口にしつつ先生の教えることに目と耳を向ける。私達姉妹もそれは同じだがこの時間ですら訓練をかかさない。
「(相変わらず単調な授業ですわね。でも、今はそれがありがたいわ)」
ディングレイから教わった鍛錬に『複数の方向に視線と意識を向けつつ体は行動に移す』というものがある。生物は体の構成上視界の限界がある人類種はその中でも低いそうだ。そのため向いていない方向への攻撃には非常に弱い、でも視界というものは簡単には広がらない。では、どうするか。
ディングレイの説明では「一つの眼の中に複数の小さな眼を持つこと」でありそれは空を飛び交う肉食性昆虫が地上でもっとも優れているそうだ。本来追いつけない相手を瞬時に見つけ出し捕食する。そんな感覚を会得しろと。
で、実際にそれを手に入れると恐ろしくヤバいことだった。
「な、なにこれ。あまりにも世界が立体的で精密に、そして恐ろしく正確に見えます」
「うぇーん。視界から入ってくるものが多すぎて立ってられないよー」
二人揃って今までの世界が馬鹿げたほどぼやけていたことを思い知らされる。しばらくフラフラ状態となりまともに立ってられなかったほどだ。徐々にその状態になれるとその有用性を嫌と言うほどに理解できる。
「有用性は自覚できた」
ディングレイからの確認の言葉。これはとんでもない能力を会得したのだと姉妹そろって実感する。
「じゃ、ここからはそれをより磨く訓練」
ディングレイの隣には無数の石ころがある。これを無作為に宙に放り投げて地面に落ちる前に拾う訓練だ。落下点が予測できない石ころを確実につかむにはその影が現れた時に瞬時に反応できる能力と広く細やかな視界が必要だ。私達はひたすらその鍛錬に励む。たとえ掴み損ねてもいい、今はまだ体を慣らすのが先だと。
ディングレイは絶妙に私達が汗をかかないぐらいに調整してくれた。
その能力をより高めるため私達は努力をかかさない。
ディングレイは私達の後ろに従者として待機しているがこの時ですらも師匠だった。合間合間を見て細い人差し指を私達の首裏に付けようとしてくる。ゆっくりとしたり早かったりと緩急をつけて不注意を突こうとしてくる。それは軽いからかいの意味もあるだろう。
まったく…茶目っ気のある師匠ですね。
何も問題なく授業が進み合間の準備時間だが、
「公爵家のご令嬢様、少し時間を頂けないでしょうか」
前回よりちょっとだけハンサムな男性が近づいてきた。姉妹は「今度はこいつらか」という顔をするこの様子じゃ似たようなものなのだろう。
「受け取ってくれたたまえ」
机の上に出されたのは木枠と毛糸玉や布地と針糸など裁縫関係の物だけだった。
「これで僕のために織ってくれたまえ」
満足げな表情で男は去る。
「「……(あの野郎、次に同じ事したら体中縫い付けてあげます)」」
父親と同じことを言われて大反発している姉妹からすると最悪の贈り物だった。一応貴族社会なので受け取りはするが二人がこれを手に取ることは二度となさそうだった。
二人が授業を受けてる合間合間に山に出て山菜や川魚や獣を狩ったりしつつ姉妹の食事として出すとともに余りを学園に売って小遣い稼ぎをする。
うん、これはこれで悪くないけど戦場に出たい気分がどうも抜けなかった。
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