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その11 濡れ場?
しおりを挟む「アナタたち、何をやってるの!」
静江はそう叫ぶと口をつぐんだ。
下で眠っている夫が起き出し、この陽介の醜態、穢らわしい姿を見たら?
静江は落ち着こうと深呼吸した。
そして、孝介に向って静かに言った。
「孝介! 自分の部屋に戻りなさい」
孝介が隣の部屋に戻るのを確認すると静江は陽介に向き直った。
「陽介、、どうしちゃったの? そんないやらしい下着はすぐ脱いで、化粧を落として早く寝なさい...」
とにかく、静江としては頭が混乱してそう言うしかなかった。
これ以上、目の前の陽介を見ていれば冷静さを失い興奮で大声を上げかねない。(夫に知られたら大変だ...)
大変なことになった。
度々、深夜に二階から物音が聞こえてくるのを不審に思っていた。
そして、今夜階下から上を覗き見ていると陽介の部屋から孝介が出てきた。
(こんな深夜に何してるの?)
静江は駆け上がり、孝介を押し退けると陽介の部屋に飛び込んだ。
そこで見たものは、、、。
娼婦のようにケバい化粧をした女が、いやらしい下着を身に着け、まるで濡れ場を演じたあとのアダルト女優のようにベッドの上にいた。ウィッグだろうけど、長い髪が乱れ快楽の後を思わせるような表情は恍惚としていた。
一瞬(誰なの?)と思ったが、いくら淫らな女に化身していようとも自分のお腹を痛めて産んだ子、母の目はごまかせない。息子の陽介だった。
そんな風俗女のように化けた陽介の部屋から、兄である孝介が周囲を確かめながら用心深く出てきた。
親が寝静まる深夜にふたりして何をしていたのだろう? その状況から、それは容易に想像出来る。
ずっとおかしいと思っていた。
陽介の部屋からセーラー服が出てきた時に問い詰めると「文化祭で使用する衣装」だと言っていたが、孝介も一緒になって言い訳をしていた。
正月に静江の弟義也がやって来た時、
義也は「陽介の部屋から色っぽい女が出てきた...」と笑ったが、ならば、その夜、孝介は色っぽい女の正体を知っていたことになる。
孝介は「おじさんも、野暮なこと言うなぁ、、黙っててと言ったのに...」と弟を庇っていた。
色っぽい女は陽介自身だったのね?
陽介は幼い頃から女の子っぽくて心配していた。色白で華奢、その容姿から女の子に間違われることもしばしば。
セーラー服を彼の部屋で見つけたときは(女装趣味かしら?)と思った。
文化祭の衣装と言い訳されても、静江は納得していたわけではない。
趣味の範囲であれば、見てみぬフリをしていよう。こういう時代だから人様に迷惑さえかけなければ黙認しよう。
そうやって自分を納得させていた。
陽介の女装は単なる趣味じゃない...。
だって兄の孝介が部屋から出てきた。
何をしていたの?
行為のあとの女を思わせるような陽介の恍惚とした表情。そして、濡れ場を目撃された男のように真っ青な顔で立ち尽くしていた孝介。
それが全てを物語っている。
ああ~!
ふたりは男同士なのに、、しかも私が産んだ実の兄と弟なのよ。
畜生道にも劣る神への冒涜よ。
静江はそう考えると朝まで眠れなかった。隣で夫はすやすや眠っている。
翌朝。
陽介はまんじりともせず朝を迎えた。
(お母さんに見られてしまった...)
夢のようなひとときだった。
陽介は兄を受け入れた。
大きくなった兄の男性器が入って来たときは、自分が女になったような気がした。そして、激しく突かれると、これ以上ないぐらいの快感が襲った。
コンドームにたまった大量の兄の精液を見た時、陽介は感動で涙が出た。
(ああ、、お兄ちゃんは女になった僕を見てアソコをエレクトさせ抱いてくれたんだ。興奮して射精したんだ。僕を性欲対象の女として扱ってくれた。僕はお兄ちゃんの女になった..)
そんな余韻に浸っていると、突然母が飛び込んできて目が合った。
もう言い逃れは出来ない。
ど、どうしよう。。。
恐る恐るリビングに入ると、両親も兄も既に仕事に出かけていた。
陽介はあることを考えていた。
(もう、開き直るしか方法はない)
その頃、孝介は会社に向かう電車に揺られながら頭を悩ませていた。
(弟とのことを母さんに見られてしまった。行為の最中ではないけど、状況証拠から何をやっていたか? 誰の目にも明らかだな、、合わせる顔がない)
孝介はこのまま仕事にも行かず、家にも帰らず蒸発してしまいたい気分。
男同士があんなことをするだけでも罪悪?なのに、相手は血の繋がった弟。
(家に帰るのが怖い。母に合わす顔がない。父に話してしまうだろうか?)
両親に合わす顔のない孝介は、その日の仕事帰りに同僚と焼き鳥屋に寄ってしこたま飲んだ。
半千鳥足状態で家に戻ったのは午前零時になろうとしていた。
母と顔を合わせるかもしれないと思うと酔が覚めるような気分だ。
そのままそっと靴を脱ぐと洗面所に向かおうとした時だった。
リビングから父が出てきた。
父はチラッと孝介の顔を見ると、何も言わず怖い顔のまま寝室に入った。
ど、どうしたんだ?
様子がおかしいぞ。
あのことを母は父に話したのか?
洗顔を済ますと孝介はそのまま自分の部屋に入ろうと階段を上がる。
「孝介! リビングに入りなさい」
母の声だった。
孝介はもう観念した。
(もう、なるようにしかならない...)
恐る恐るリビングを覗く。
母と若い女が対面で座っている。
女は孝介を見て「お兄ちゃん」と言って立ち上がった。
「よ、陽介。お、おまえ、、」
デニムのミニスカートに白シャツがよく似合っていた。
あの夜の娼婦を思わせるメイクと違ってナチュラルで爽やかだ。
ミニスカートからスラッと伸びる弟の美脚に兄は息を呑んだ。
母は怖い顔で息子ふたりの顔を見比べると長男に顔を向け言った。
「全部聞いたわよ...」
「お兄ちゃんごめん。でも、こうするしかなかったの」
孝介は事態が飲み込めなかった。
カミングアウト?
なぜ、陽介は両親の前で女装を?
陽介はどこまで話したのだろうか?
「今夜、食事の時に陽介がいきなりこの格好で降りてきたの。お父さんがいる前でよ、、そして、僕は性同一性障害だから、女の子の格好でいることを認めてほしいって」
「お父さんはなんて?」
「何も言わず黙ったまま。本当に怒るとお父さんは黙ってしまうのよ」
そこに、陽介が口を挟む。
「お母さんは、僕とお兄ちゃんのことを疑ってる。何か変な関係があるんじゃないかって? お兄ちゃんは僕の女装を見て感想を言ってただけだって説明しても信用してくれない。僕とお兄ちゃんは兄弟だよね。そんなことあるはずないのに信用してくれないんだ」
「お母さん、陽介の言うとおりです。
お母さんが考えているようなことは絶対にありえません」
母は息子ふたりの言い訳を、黙って疑わしそうな目で聞いていた。
いくら言い訳をしても、あの時の陽介の下着は淫らに乱れていた。悩ましく恍惚とした表情は性行為でエクスタシーを味わったあとの目だ。
どんな言い訳も説得力がない。
「アナタたちの言い分は信用できないけど、陽介の女装は認めます。お父さんも憮然とした表情だったけど、女装は家の中だけにしなさい。と言ってたからね。今日はふたりとも寝なさい。
夜中に変なことしないでよ」
そう言うと母はリビングを出た。
孝介、陽介兄弟の関係はエスカレートしどんどん堕ちてゆくことになる。
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