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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(58) 戦い終わって、、ダン・嶋原の笑顔。
しおりを挟む大晦日の格闘技戦を終え一夜明けると龍太と麻美が帰ってきた。
龍太はシルヴィア滝田、麻美はダン嶋原という強敵に勝利したとはいえ、どちらの姿も痛々しい。
佐知子は龍太は男の子だから仕方ないと諦めてはいるが、麻美の姿を見ると顔を背けた。
まだ高2女子だというのに顔面に殴打された跡、ミニスカートから覗くスラリと伸びる美脚が紫色に腫れ上がっている。なんていう娘だろう...と、佐知子は思うものの口には出せない。
「明けましておめでとう。昨日はふたりとも素晴らしいファイトだったね。
でも、あまりお母さんを心配させないようにしなくちゃな...」
継父の今井がふたりに声をかけた。
そして、お節料理を食べるのだった。
ふたりとも激戦の疲れのためか正月三ヶ日はよく眠り身体を癒やしていた。
トレーニング再開は1月6日からと決めているようだ。
そんな1月3日の午前中のこと。
玄関のチャイムが鳴った。
「はい、はい! どなたですか?」
「ボクです、ダンです!嶋原ですよ。奥さん久しぶり! 明けましておめでとうございます。源太郎さんの仏前にお線香をあげさせて下さい」
そこに立っていたのは、大晦日に麻美との大一番に敗れたダン嶋原だった。
一通りの挨拶のあと、嶋原は堂島源太郎の仏前に線香をあげた。終えると皆と一緒にお節料理を突いた。
「麻美ちゃん、本当に強くなったな。
まさか、あそこで反り投げにくるとは思わなかった。あんな技を食らったのは初めての経験で対処出来なかった。そのあとの飛び膝蹴りも強烈で半失神状態になってしまった...」
そう言うと、嶋原は麻美の腫れ上がった顔をジィーっと見つめ顔をしかめながら佐知子に向かって言った。
「奥さんの大切な娘さんの顔をこんなになるまで殴ってしまった。きれいな脚も蹴ってしまいまだ紫色で、、本当に申し訳ありませんでした」
「何を言ってるんですか嶋原さん。アナタだって麻美の攻撃で半失神状態だったって、、後遺症はなかったんですか? いくら試合だといっても女だてらに麻美は何て酷いことを...」
苦笑いしている嶋原を見て佐知子は口をつぐんだ。こんなことを言っても何の慰めにもならない。彼は17才の女の子に負けた。プライドが傷ついているだろう。それを押してこうして挨拶に来てくれたのだ。
それは恩がある源太郎の娘と試合したことで思うことがあり、こうして仏前に報告に来てくれたのだ。
麻美はいつものように明るくやさしい嶋原の顔を見て安心した。
リング上で対した時の目は鬼だった。その目には殺意さえ籠もっていた。
それが、遠い昔、幼い女の子だった麻美を抱きかかえ「高い、高い!」してくれたあのやさしい目に戻っている。
私だってリングの上では、大好きな嶋原さんを殺すつもりで戦った。
そんな私を、人は “豹の眼光” という。
しかし、リングを降りればいつも通りの関係に戻り、こうして笑顔で話すことが出来るのだ。
そこで、今井が嶋原に声をかけた。
「嶋原君、試合後、君は引退を仄めかしていると耳にしたんだが...」
「はい! もう決心しました。全てやり尽くしました。何も思い残すことはありません。麻美ちゃんとの試合がボクのラストマッチになりました」
その嶋原の明るい笑顔が逆に彼の強い意思を示しているようで、誰もその決意を止めることは出来ない。
今井は思う。
(嶋原は10年に1人という不世出のキックボクサーだった。NOZOMIと関わらなければ、タイに渡り本場ムエタイの王者も狙えただろう。そのまま伝説のキックボクサーとして後世に語り継がれる存在だった。しかし、彼の戦歴は決して汚されることはないが、女に負けたという事実はついてまわる。こんな偉大な男にKO勝ちした麻美ちゃんも尋常じゃない...)
龍太も麻美と嶋原を見較べながら思い出していた。総合ルールとはいっても妹が嶋原を倒した瞬間は自分の目を疑った。信じられなかった。
NOZOMIが父源太郎を倒したのは、現在の麻美と同じ17才の時だった。
しかし、父はピークを過ぎた35才のロートルだったのに対し、ダン嶋原はまだ30才の成熟期だった。
それに、嶋原と父とではキックボクサーとしての才能が全然違う。
父は努力家で不屈のキックボクサーではあったが凡才。嶋原はキック史に残る超天才。そんな嶋原を倒した麻美はあの頃のNOZOMI以上の天才なのかもしれない? 自分の妹ながら龍太は恐ろしくなり身震いした。
帰り際に嶋原が麻美に言った。
「麻美ちゃん。君はあり得ないほど身体にバネがあり、まるでゴムマリのようだった。身体の柔軟性は勿論のこと女子とは思えないほど背筋力も強い。それに相手の力を利用するタイミングは天才的だ。あの反り投げには驚いたよ。麻美ちゃんは女豹だ!」
運命の日は近づいてくる...。
春になると、龍太は大学三年、麻美は高校三年になった。
若者の成長は止まることを知らない。
この年からNLFSは自主興業も行うことになり、4月にそれは行われた。そこに龍太にもオファーがあった。
対戦相手は柔術マジシャン 奥村美沙子であった。同大会には麻美もリングに上がり相手はあのシルヴィア滝田と1勝1敗の強豪酒井篤。
打撃戦に課題のあった美沙子は、その対策のトレーニングをかなり積んできたのだろう。龍太の激しく厳しいパンチ、ローキックを巧みに避けると組み付いて密着攻撃。
龍太も当然その対策を練ってきた。絶対背後にまわられない。そうなったら蛇地獄に陥り厄介だからだ。
それに龍太は柔道のバックボーンもあり、それは決して柔術にも引けを取らない。龍太は自信を持って戦った。
177cm 69.5kg の龍太は70kg以下級であり、対する美沙子は 174cm 62.5kgの65Kg以下級。
性別だけでなく、階級も違う試合であり最後はパワーと重さの違いが出た。
スタンドから龍太のボディが決まり、
ダウンをとったところを馬乗りになりマウントパンチが数発決まると美沙子側からタオルが投げ込まれた。
蛇のようにしつこい美沙子の密着攻撃に苦戦はしたものの、内容的には龍太の完勝。しかし、美沙子も強かった。
麻美の相手は、シルヴィアと2度の戦いで1勝1敗の強豪酒井篤。
彼は70kg以下級で、植松拓哉を筆頭に堂島龍太、シルヴィアに次ぐMMA日本3位の実力者であり苦戦が予想されていたが、麻美は更に進化していた。
身長こそ174.5だが、体重は62.8kg。
自分より7kgも重い強豪男子相手に女豹のように躍動した。
“ 麻美ちゃんも天性のストライカー ”
継父の今井はそう言っていた。
龍太も麻美もあのど根性源太郎の遺伝子を継いでいる。それに、麻美は天才キックボクサー、ダン嶋原と戦った経験が大きかったのか?
レスリングだけでなく、打撃にも開眼したようだ。麻美も兄と一緒にKG会空手にも席を置いていたのだ。
最初から酒井に打撃戦を挑み圧倒。
しかし、後半になると経験と体重に勝る酒井のプレッシャーに押し込まれる局面が多くなってきた。
しかし...。
チャンスとばかりに飛び込んできた酒井の懐に組み付くと瞬時に後ろにまわり相手の力を利用した裏投げ。
低空でもの凄いスピードのそれは受け身が取れない。豹のように柔らかく全身バネのそれは鮮やかに決まると酒井は後頭部を強打した。
それでもフラフラと立ち上がろうとする酒井に麻美は容赦なく殴打蹴撃。
酒井は白目を剥いて倒れた。
麻美は覚醒した。
NOZOMIは堂島兄妹の戦いぶりを会場の片隅でジッと見ていた。
(もうシャレにならない...。堂島源太郎さんの子どもたち。ここまで急成長するなんて想定外だったわ。機は熟してきたのかもしれない)
NLFSの初めての自主興業は大成功だった。これにG主催の年2回の格闘技大会もあり所属選手は大変だろう。
大会が終わると、NOZOMIは堂島兄妹を別々に控室に呼んだ。
まずは龍太が向かった。
つづく。
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