最弱ステータスからの英雄譚 〜死に戻りスキルで世界を救う〜

蒼月

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王都ロクレア——ラグナリエ最大の都市であり、勇者たちが拠点としている場所。
 召喚直後、ユウトが“無能”と判定され、放逐された場所でもある。

 そこに今、フードを被ったひとりの青年が、ゆっくりと足を踏み入れていた。

 道行く者の誰も、その青年が“かつて追放された最弱の男”であるとは気づかなかった。
 彼のステータスは、今や隠蔽され、死王スキルの影響で一切の鑑定に映らない。

 「次の出陣命令か……?」

 「魔王軍の侵攻が速すぎる。もう北の要塞が陥落したそうだ」

 町のあちこちで、人々は不安に満ちた声を交わしていた。

 異世界に召喚された勇者たちは、各地に配属され、国を守るために戦っている。
 しかしその戦果は思わしくなかった。

 中でも、ユウトのクラスメイトで「Sランク前衛」と評された桐谷レイジが率いる部隊は、魔族との激突で深刻な損耗を出していた。

 ユウトは、王都中央の聖堂へと向かう。

 かつて、神官アラドによって追放を命じられた場所。

 今、そこでは勇者選抜組が集められ、緊急会議が開かれていた。

「……もうすぐだ。奴らは今夜、南門から襲撃を仕掛けてくる」

 レイジが険しい表情で言った。

「俺たちが持ちこたえなきゃ、王都は終わる」

 ユウトは、その場に現れる。

 誰にも気づかれぬまま、彼は歩みを進め——会議室の扉を叩いた。

 「失礼。ひとつ、忠告がある」

 その声に、全員が振り返った。

「なッ……貴様……!」

 アラド神官が目を見開いた。

「一ノ瀬……! なぜ貴様がここに……生きていたのか……!」

 レイジも、立ち上がった。

 「ふざけんな……死んだと思ってたのに……!」

「死んだよ。何百回もな」

 静かな声。だがその言葉には、全員が本能的に“何かが違う”と察知する重みがあった。

 ユウトはフードを外し、ゆっくりとステータスを展開する。

【名前】:一ノ瀬ユウト
【称号】:《死王》、竜殺し、反復者
【レベル】:???
【スキル】:???

——※ステータスは対象者のレベルが一定以上でないと閲覧不可です。

 「な……表示できない……?」

 「いや、これは……鑑定不能スキル……?」

 アラド神官が震えながら後ずさる。

 「まさか、貴様が……《禁忌》の領域に……!」

 ユウトは無言で歩み寄った。背後には、王都兵の姿が次々と見える。

 が、その誰もが——彼のただならぬ気配に、武器を抜くことさえできなかった。

「俺を追放したよな。無能と決めつけて。……でも、俺はな、死を越えてきた」

 ユウトは静かに手を伸ばす。

 その瞬間、アラド神官が激しく息を呑んだ。

 視界に、彼自身の“未来”が一瞬だけ、投影された。

——焼かれる神殿、蹂躙される王都、自らの断末魔。

「……っ、な……なぜ……!」

「これが、《死王》の力だ」

 ユウトは告げる。

「南門じゃない。奴らは《東の下水道》から侵入してくる。今夜、真夜中だ」

 その言葉に、会議室内がざわめいた。

 「そんな情報、どこから……!」

 「俺は499回死んで、この世界の“未来”を見てきた」

 誰も、言い返せなかった。

 そして——その夜、ユウトの言葉どおり、魔族の奇襲は“東”から始まった。

 ユウトは、かつての仲間と共闘することを拒んだ。

 「俺はもう勇者じゃない。俺は……死王だ」

 彼は、単独で戦場に立つ。

 《死還》による巻き戻りの猶予は、現在——72時間。

 その力を最大限に活かすべく、戦場を“試行回数”として制圧していく。

 ユウトはその夜、一人で魔族の精鋭部隊を壊滅させた。

 翌朝、王都は守られた。

 人々は「黒衣の英雄」の名をささやき始めたが、彼が名乗ることはなかった。

 ただ、廃墟の城壁の上に佇むその影だけが、人々の記憶に焼き付いた。
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