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5.リディアの専属侍女
しおりを挟む剣術を始めてから、半年が経とうとしていた。
最初の頃は、兄上達に凄い勢いで反対されたのだけど、兄上達の事が嫌いになると言ったら、渋々ながら了承してくれた。チョロい。
剣術の先生は、屋敷の使用人ディールが教えてくれている。何故ディールかと言うと、ディールは王都の騎士団並みの腕前らしく、何故ごく普通の使用人が剣を扱えるのかが不思議で一度聞いてみたら、なんか誤魔化された。
いろいろと疑問は残るものの、剣術の方は心配する兄上達をよそにディール曰く、私は筋が良いらしく飲み込みが早くて、ぐんぐんと上達していた。
剣もだけど、新しく教えてもらっている暗器に至っては、私と相性が良くて、兄上達よりも上手だと言われるまでになった。
何故か、ディールは父上にこっ酷く叱られたらしい。説教が終わって戻って来た時には顔面蒼白だったのはちょっと可哀想だった。
今のところは、母上もちゃんと淑女としてのお勉強も怠らないのならと許しをもらっている。
そんな充実した毎日を送っていたある日の事だった。
昼食を終えて、剣術の時間まで時間あったので、部屋で読書をしていた時だった。
父上が一週間の遠征を終えて帰宅すると、一人の少女を一緒に連れて帰って来て、私の部屋へやって来た。
「今日からリディアの専属侍女になるユラだ。侍女としての仕事もそうだが、礼儀作法なども全く出来ないから、お前と一緒に学びながら侍女として働いてもらう」
「ほ、本日からリディアお嬢様のお世話をし、させて頂きます。ユラです。よろしくお願いしま、いたします。」
「リディア・ローレンスです。よろしくお願い致しますね」
父上の背後から現れたユラと呼ばれた侍女の服を着た少女は、私と同い年くらいの子で綺麗な青みがかった黒髪を後ろで一つに束ねて、切れ長で深みのある青いの目をしたクールな印象の子だった。
ぎこちなく覚えたばかりであろう自己紹介を私にすると、深々と頭を下げてお辞儀をした。私はニッコリと微笑みながら、淑女風に頑張ってみた。
ユラはこの部屋に入ってから一度も表情が変わらない。緊張している様子もなく、顔はずっと無表情のままだった。
ユラは孤児らしく遠征先の町外れで倒れている所を父上が見つけて連れて帰って来たらしい。
もしかして、孤児で今まで壮絶な人生を送って来ていて、人生に絶望して笑う事を忘れてしまったとか?と、勝手にユラの今までの生き様を妄想していると、いつの間にかユラの顔をガン見していたみたいで、ユラは私の視線に気付いた。
「お嬢様、申し訳ございません。私は生まれつき感情を表に出すのが苦手みたいで、これでも凄く緊張しています。ちなみに孤児の生活は大変でしたが、それなりに充実はしていたので」
「あら。そうなの?」
私の勝手に妄想していたユラの壮大な人生は、一瞬で砕け散っていった。私は思っていた事を言い当てられて、驚いた顔をすると、ユラは怪訝そうな顔をしていた。
仲良くしなさいと父上は一言言うとその場を後にした。
ユラはずっと無言で何も言わないし、とりあえず、ユラには私を知ってもらおうと思い、私の日課に付き合わせる事にした。
「日課…ですか?」
「そう!私は毎日、午前中は早朝から身体を鍛えて、その後にマナーのお勉強と読書、午後から剣術を学んでからまた身体を鍛えて、読書かな」
ユラは私の日課を聞いて、首を傾げてまた怪訝そうな表情を見せる。
よく見たら、無表情の割にはちゃんと感情を表に出せてるじゃない。まあ、笑った顔はまだ見てないけれどね。ははは。
「失礼ですが、お嬢様は何故男の様に身体を鍛えていらっしゃるのでしょうか?あと、剣術も学んでいらっしゃるのですか?」
「身体を鍛えるのが好きなの。まだ、子どもだからあまり大したことはしていないのだけどね」
「はぁ。お嬢様は変わっておられますね。あっ、無礼な発言をしてしまい大変申し訳ございません」
「良いのよ。それにユラはそのまま思った事を口にしてくれて構わないわ。無理に取り繕わなくても、その方が貴女らしい感じがするから」
私の言葉にユラは少し驚いたように目を丸くさせると、またすぐ無表情になり、私にありがとうございますと言ってお辞儀をした。
今まで私の周りには兄上達や大人達しか居なくて、同性の同い年くらいの子が居なかった。だから仲良くなりたいのよね。
前世でも同級生の友達が一人も居なかったから、ユラは侍女だけども何でも相談したり出来る関係になれたらなと思っていた。
剣術の時間になり、私はユラを連れて稽古場へ向かった。
「さあ、着いたよ!剣術は兄上達と一緒に鍛錬しているの」
「リディ、隣に連れている子は?」
「父上が言っていたリディの専属侍女かい?」
「そうよ。ユラと言うの」
「お初にお目にかかります。今日からローレンス家にお世話になります。リディアお嬢様の専属侍女になりました。ユラでございます」
先に来ていた兄上達に、ユラを紹介するとユラも私の後に続いて、兄上達に自己紹介をして深くお辞儀をした。表情は相変わらず無表情だけどね。
「僕はリディアの兄で、アルヴァス・ローレンスだ」
「僕がルドウェル・ローレンスです。双子なので見分けが付かないと思うけど、宜しくね」
「よろしくお願い申し上げます。お声まで同じなのですね」
「よく間違えられるよ。父上すら今だに間違えるからね」
「そうだね。でも何故かリディは見分けられるんだよね」
「そうなのですか?お嬢様」
「ええ!百発百中よ!」
ユラは全く同じ顔をした兄上達が見分けられないみたいで、兄上達も笑って答える。私は簡単に兄上達を見分ける事が出来るので、ドヤ顔で胸に手を当てて答えると、ユラは呆れた顔をしていた。
ディールもやって来た所で、練習を始める。ユラは少し離れた所で見学をしていた。
「お嬢様、こちらを」
「あら、ありがとう。ユラ」
練習を終えると、ユラが私の元へ来てタオルを差し出してくれた。途中で居なくなっていたのは、タオルを取りに行っていたのね。私はお礼を言って受け取ったタオルで汗を拭く。
「僕等はこれから父上に呼ばれているから、また後でね。リディ」
「ユラも、リディをよろしくね」
そう言って、兄上達は私とユラの頭を優しく撫でるとその場を後にした。隣でユラは無表情のまま兄上達に深くお辞儀をしていた。
「アルヴァス様とルドウェル様は変わっておられますね」
「そう?まあ、シスコン気味ではあるけど」
「しすこん?とは何か存じ上げませんが、アルヴァス様とルドウェル様だけではなく、旦那様や奥様、ローレンス家で働く使用人の方々も仲が良いのですね」
ユラはそう言って胸に手を当てる。表情は相変わらず能面のようなんだけど、でも少し戸惑っているような嬉しいような感じが伝わって来た。
孤児って言ってたから、両親は居ないのよね?人の優しさ暖かさが慣れていないのかな。だったら、これからゆっくり慣れればいい。
嫌でも、この家の者達は優しく甘えさせてくれる。ユラだってまだ子どもなのだから、そんなに気を張り詰めなくてもいい。
「皆ね、家族みたいに接してくれるのよ。悪い事は悪いと怒ってくるし、良い事は良いと褒めてくれる。貴女も今日からローレンス家の一員…家族なのだから、私の事は姉と思って接してくれても構わないわ!」
「あっ、結構です」
「そ、即答!」
私の熱弁も虚しく即答でユラに断られ、結構ショックを受けた。
「お嬢様、私はお嬢様よりも年上なのですよ」
「年上と言っても、一つ違うぐらいでしょう?」
「見た目でよく間違われるのですが、私は10歳です」
ユラが私よりも年上であるという新事実を知り、驚いてユラを二度見してしまった。ユラの背丈は私と変わらない。私は5歳の割には背が高い方で、レティシアは私よりも低い。ユラの顔はまだ幼さが残っているし…6、7歳と言われても納得出来る。…いや、待って!!
「兄上達と同じ年じゃない!!」
「そうなりますね。お嬢様は5歳にしては大人び過ぎるのですよ」
それは否定出来ない。寧ろ、中身は17歳だからね。どれだけ頑張っても年相応の考え方になってしまう。
「ま、まあ、淑女だからね!」
「…嬉しかったです。お嬢様のお言葉…改めてよろしくお願い致します。リディアお嬢様」
私の言葉はスルー!!
私のドヤ顔で言った言葉はスルーして、そう言ってユラはお辞儀をし、頭を上げるとここに来て初めての笑顔を見せてくれた。ほんの少しだけ。
すぐにまた無表情に戻ってしまったけど。
「ユラが初めて笑ったわ!可愛い!」
「………」
「このツンデレめ!」
笑顔を見れた事に私は興奮して、思わずユラに抱き着くとユラはあからさまに眉を潜めて嫌な顔をしたけど、拒んだりはしなかった。
その次の日から、ユラも私と一緒に早朝の筋トレに参加すると、筋トレを終えたユラは髪を乱しながら息を荒げ、私に「お嬢様は脳筋馬鹿です!」と言われた。
周りの使用人達も、ユラに賛同する様にうんうんと頷いてたけど、見なかった事にしようと思う。
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