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成功条件は、もちろん婚約破棄の阻止!
Ⅴ
しおりを挟むそれから数か月後の午後。
私は一仕事終え、伸びをしていると、カルが楽しそうに話しかけてきた。
「しかし、まさかあのグラソン殿がここまで好意的になるとは思いませんでしたね。」
そして昨日、アリエッタと共に出席した夜会の様子を思い出した。
「そうだな・・。
この分ならアリエッタ発案の水路の建設はスムーズに議会を通るだろうな。」
「ふふふ。そうですね。
グラソン様がこちら側なのです。問題ないですよ。」
ここ数カ月、アリエッタが繋いでくれた縁や、アイディアのおかげで、私の王宮や議会での地位は、うなぎのぼりだった。
すると、カルが楽しそうに笑い出した。
「初め、あのメモの『不特定多数の方と遊び回る』との文字を見た時は肝が冷えましたが、まさかここまで顔繋ぎにご尽力頂けるとは夢にも思いませんでした。」
それを聞いた私も思わず、笑ってしまった。
「ははは。そうだな。
だが、これも私との婚約破棄のためなのだろうか?
そう思うと悲しいな・・。」
するとカルが穏やかな顔をした。
「アリエッタ様は、殿下のことがお嫌いなわけではないと思いますよ?
ただ、このように目的を設定してしまったので、それに突き進んでいるだけかと思いますよ?」
「ああ。おまえのその言葉を信じて、彼女が頑張っている今は見守るよ。」
「それがよろしいかと。」
「早く彼女に触れたい・・・。
夜会の時のエスコートだけなど耐えられない。」
すると、カルに鋭い顔で睨まれた。
「ダメですよ。アリエッタ様のお邪魔です。
殿下。王妃教育は大変なのですよ?
それに皆様との顔繋ぎも大変です。
それに公務までお手伝い頂いております。
歴代の王妃様はここまでされておりません。
アリエッタ様だからこそ、ここまで殿下をお助け出来るのですよ?
ですから、アリエッタ様とお約束された卒業式までは絶対に手を出してはなりません。
そんなことしたら、不義理と見なされ、婚約破棄の阻止なんて出来ませんよ?」
私は思わず頭を抱えた。
カルのいう通り、彼女を応援している者たちは大勢いる。
今や、国内だけではなく、国外でも彼女を支持する者は多い。
その全てを敵に回してしまったら、いくら王太子の私と言えども、世論には勝てないだろう。
それだけ彼女は頑張っているのだ。
「わかっている!!
だからいつだって我慢しているだろ!!
どんなに彼女の唇が魅力的でも、髪が気持ちよさそうでも、肌が吸いつくようにすべすべでも耐えているじゃないか!!
少しくらい私の忍耐を褒めろ!!」
「殿下も偉いですよ。その調子です。」
「あ~なぜ卒業式などと言ってしまったのだ・・私は・・3年・・長い・・。」
思わず弱音をはく私にカルが気を使ってくれた。
「何かお飲み物を持ってきて貰いましょうか?」
「ああ。甘めのミルクティーを頼む。」
「はい。」
そして、私はアリエッタに触れるのを3年も耐え忍んだのだった。
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