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成功条件は、絶対に婚約阻止!!
3 側近カルの婚約事情
しおりを挟む私が『影』の皆様にプライベートを調べられ、恨みがましく思っていると、大きな声が聞こえてきました。
「ダメ!! 絶対ダメ!! お父様、もしカルに婚約者なんて見つけてきたら、口きかないから!!」
「え゛!!」
殿下がこの世の終わりかというくらい絶望的な顔になり、泣きそうです。
私がどうフォローするべきか考えていると、ベアトリス様がしゃがんだままの私に抱きついてこられました。
「カルは私と結婚するの!! 絶対、誰にも渡さないんだから!! だから今回だって未来の旦那様の素行調査だったんだもん」
「素行調査?! ど、どこでそんな言葉を!!」
殿下が驚くと、ベアトリス様は私に抱きついたまま首だけを殿下に向けて不思議そうにおっしゃいました。
「お茶会に行くようになったら、男性の話も多くなるから困らないようにって先生が教えてくれるのよ~」
「なるほど……女性の世界か……それはよくわからないな」
殿下が、困った顔をして私に抱きついているベアトリス様を見ています。
私はベアトリス様の柔らかくで撫で心地の良い髪を優しく撫でながら口を開くことにしました。
「光栄です。ありがとうございます。ベアトリス様が大人になって今と同じ気持ちだったら、もう一度言って下さいね」
私が微笑ましくて笑いかけると、ベアトリス様は、私の首にネックレスをかけてくれました。
「じゃあ、カル、これ貰ってくれる?」
「はい。ありがとうございます。一生大切にします」
ーーチュッ!!
唇に柔らかい物が触れたと思うと、それはベアトリス様の唇でした。
私が驚いて、ベアトリス様を見ると、ベアトリス様は無邪気な笑顔で恐ろしいことをおっしゃいました。
「ふふふ。とりあえず、カルのファーストキスが誰にも奪われなくてよかったわ」
ベアトリス様の言葉に私は固まってしまいました。
「……」
(え? え? 私がキスさえまだなことなど誰にも言っていないはずなのに?!)
私は幼い頃から殿下の側近として、常に何かを学んでいました。
殿下と違い、子供成すことも強制はされていないので、女性と親しくなる機会も必要もほとんどありませんでした。
言い訳のようですが、これは別に私だけではなく、城の文官や騎士など結婚するまで女性経験のない男性というのは一般的なことです。これは男性だけではなく女性にも同じことが言えますが。
ただ舞踏会などで知り合った方と、キスくらいは済ませている人は多いようですが……。
「『影』に調べてもらったのよ『カルのファーストキス』はまだだって♪」
(くっ!! 王族の影め……普段は有難い存在なのに、調べられる側になるとこんなにつらいのなんて……!! 何も6歳の女の子に私のキス経験がないことを教えなくてもいいでしょ?!)
私は肩を落としながらベアトリス様にお願いした。
「あの……今後は『影』などにお願いせずに、聞きたいことは直接聞いて下さい」
「いいの?」
「……(調べられるよりは)いいですよ」
ーーチュッ!!
するともう一度ベアトリス様に唇を奪われてしまった。
「ありがとう、カル……私もお父様とお母様以外ではファーストキスだからね!! ではお父様!! 失礼致しました。」
ベアトリス様は嬉しそうに笑うと、護衛騎士と共に去って行かれた。
私はわけもわからないまま、ぼんやりとベアトリス様の去っていたドアを見つめた。
(まぁ、私も、ベアトリス様が生まれた時からお傍にいるからな~。家族枠のキスだったのだろう)
私が先程のキスに深い意味はないだろうと思っていると、すごく複雑そうな顔をした殿下と目が合いました。
「本気だろうか?」
「ふふふ。まさか、きっと今だけですよ。さっきのキスも幼い頃から側にいる私は身近なのかもしれませんね。光栄なことです」
私は笑いながら立ち上がると自分の机に戻りました。
殿下はなぜか深刻な顔で何かを考えておられた。
「カル。少々婚期が遅れてもいいだろうか?」
「そうですね~~。後数年で、殿下は即位されるでしょうから………。
今の私は結婚をしている場合ではないのは確かですが、まさか殿下……恐ろしいこと考えていませんよね?」
なんだかイヤな予感がして私は殿下をジロリと見ました。
「ん~私はカルなら嫁に出してもいい。カルの元に嫁に行けば、近くにいてくれるしな。どこか遠い領地に嫁に行かれるよりずっといい♪」
(出た!! 究極の親バカ~~~~~!!)
私は思わず溜息をついてしまいました。
「殿下、心配せずとも、今だけですよ。そのうちベアトリス様にも年齢に合った好きなお相手がおできになりますよ」
殿下は眉間に皺を寄せて呟かれた。
「そうだろうか?」
「そうですよ。いくつ年が離れていると思っているのですか? では、殿下続きをお願い致します」
私は自分の執務机に広げたままになっている書類に目をうつしながら考えた。
赤ちゃんの頃から側にいるベアトリス様は私にとっても娘のような大切な存在だ。
そんな彼女が誰かの元に嫁ぐ日を想像すると、寂しいような、感慨深いような不思議な気持ちになったのでした。
(ふふふ。これはベアトリス様の結婚式で泣くのは殿下だけではないかもしれないな……)
その後すぐに3人目のお子さんが生まれたとの報告があり、私たちはすっかり生まれた子供に夢中になっていたでした。
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