成功条件は、まさかの婚約破棄!?

たぬきち25番

文字の大きさ
25 / 28
成功条件は、絶対に婚約阻止!!

3 側近カルの婚約事情

しおりを挟む

私が『影』の皆様にプライベートを調べられ、恨みがましく思っていると、大きな声が聞こえてきました。

「ダメ!! 絶対ダメ!! お父様、もしカルに婚約者なんて見つけてきたら、口きかないから!!」

「え゛!!」

 殿下がこの世の終わりかというくらい絶望的な顔になり、泣きそうです。
私がどうフォローするべきか考えていると、ベアトリス様がしゃがんだままの私に抱きついてこられました。

「カルは私と結婚するの!! 絶対、誰にも渡さないんだから!! だから今回だって未来の旦那様の素行調査だったんだもん」

「素行調査?! ど、どこでそんな言葉を!!」

殿下が驚くと、ベアトリス様は私に抱きついたまま首だけを殿下に向けて不思議そうにおっしゃいました。

「お茶会に行くようになったら、男性の話も多くなるから困らないようにって先生が教えてくれるのよ~」

「なるほど……女性の世界か……それはよくわからないな」

 殿下が、困った顔をして私に抱きついているベアトリス様を見ています。
 私はベアトリス様の柔らかくで撫で心地の良い髪を優しく撫でながら口を開くことにしました。

「光栄です。ありがとうございます。ベアトリス様が大人になって今と同じ気持ちだったら、もう一度言って下さいね」

 私が微笑ましくて笑いかけると、ベアトリス様は、私の首にネックレスをかけてくれました。

「じゃあ、カル、これ貰ってくれる?」

「はい。ありがとうございます。一生大切にします」


ーーチュッ!!

 唇に柔らかい物が触れたと思うと、それはベアトリス様の唇でした。
私が驚いて、ベアトリス様を見ると、ベアトリス様は無邪気な笑顔で恐ろしいことをおっしゃいました。

「ふふふ。とりあえず、カルのファーストキスが誰にも奪われなくてよかったわ」

  ベアトリス様の言葉に私は固まってしまいました。

「……」

(え? え? 私がキスさえまだなことなど誰にも言っていないはずなのに?!)

 私は幼い頃から殿下の側近として、常に何かを学んでいました。
殿下と違い、子供成すことも強制はされていないので、女性と親しくなる機会も必要もほとんどありませんでした。
 言い訳のようですが、これは別に私だけではなく、城の文官や騎士など結婚するまで女性経験のない男性というのは一般的なことです。これは男性だけではなく女性にも同じことが言えますが。
 ただ舞踏会などで知り合った方と、キスくらいは済ませている人は多いようですが……。

「『影』に調べてもらったのよ『カルのファーストキス』はまだだって♪」

(くっ!! 王族の影め……普段は有難い存在なのに、調べられる側になるとこんなにつらいのなんて……!! 何も6歳の女の子に私のキス経験がないことを教えなくてもいいでしょ?!)

私は肩を落としながらベアトリス様にお願いした。

「あの……今後は『影』などにお願いせずに、聞きたいことは直接聞いて下さい」

「いいの?」

「……(調べられるよりは)いいですよ」


ーーチュッ!!


するともう一度ベアトリス様に唇を奪われてしまった。

「ありがとう、カル……私もお父様とお母様以外ではファーストキスだからね!! ではお父様!! 失礼致しました。」

ベアトリス様は嬉しそうに笑うと、護衛騎士と共に去って行かれた。
私はわけもわからないまま、ぼんやりとベアトリス様の去っていたドアを見つめた。

(まぁ、私も、ベアトリス様が生まれた時からお傍にいるからな~。家族枠のキスだったのだろう)

私が先程のキスに深い意味はないだろうと思っていると、すごく複雑そうな顔をした殿下と目が合いました。

「本気だろうか?」

「ふふふ。まさか、きっと今だけですよ。さっきのキスも幼い頃から側にいる私は身近なのかもしれませんね。光栄なことです」

 私は笑いながら立ち上がると自分の机に戻りました。
殿下はなぜか深刻な顔で何かを考えておられた。

「カル。少々婚期が遅れてもいいだろうか?」

「そうですね~~。後数年で、殿下は即位されるでしょうから………。
今の私は結婚をしている場合ではないのは確かですが、まさか殿下……恐ろしいこと考えていませんよね?」

なんだかイヤな予感がして私は殿下をジロリと見ました。

「ん~私はカルなら嫁に出してもいい。カルの元に嫁に行けば、近くにいてくれるしな。どこか遠い領地に嫁に行かれるよりずっといい♪」

(出た!! 究極の親バカ~~~~~!!)

私は思わず溜息をついてしまいました。

「殿下、心配せずとも、今だけですよ。そのうちベアトリス様にも年齢に合った好きなお相手がおできになりますよ」

殿下は眉間に皺を寄せて呟かれた。

「そうだろうか?」

「そうですよ。いくつ年が離れていると思っているのですか? では、殿下続きをお願い致します」

私は自分の執務机に広げたままになっている書類に目をうつしながら考えた。

 赤ちゃんの頃から側にいるベアトリス様は私にとっても娘のような大切な存在だ。
そんな彼女が誰かの元に嫁ぐ日を想像すると、寂しいような、感慨深いような不思議な気持ちになったのでした。

(ふふふ。これはベアトリス様の結婚式で泣くのは殿下だけではないかもしれないな……)

その後すぐに3人目のお子さんが生まれたとの報告があり、私たちはすっかり生まれた子供に夢中になっていたでした。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

本当に現実を生きていないのは?

朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。 だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。 だって、ここは現実だ。 ※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...