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5 強制力は華麗にスルーで!
しおりを挟むゲームでよく見ていた先生が、教壇に立つと、なんだか言いようのない感動を覚えた。
(ああ、アイク先生だ! めっちゃ便利キャラのアイク先生だ!)
困った時のアイク先生、話を進める時のアイク先生、場面展開するときのアイク先生。実は乙女ゲームの中で最も忙しい脇役は、現在、教壇に立っているアイク先生なのだ。
一部のファンの間では『アイク先生働きすぎ』『めっちゃ頑張ってるアイク先生にも救済を』とアイク先生の幸せになった姿が見たいと騒がれている。
アイク先生はこの世界では、一般的な薄い茶色の髪と目。丸眼鏡をかけ、いかにも人の良さそうな出で立ちだ。
ゲームでは、40代くらいかと思ったが、三次元になると、ゲームよりも若く30代前半と言った印象だが、いい人そうなのは変わらなかった。
「皆様、おはようございます。本日は、授業の前に文化交流祭で、ダンスを披露する方を決めたいと思います」
キタァ~~~~~~~~!!
文化交流祭!! 略して、化流祭!! え、そこ略する? というツッコミはよくわかる。だが、公式でそう略してあるのだから、ファンとしては従うしかない。
この化流祭は、各クラスから一組づつ選ばれた男女が、学園内審査の場でダンスを踊り、そこで最も優美なダンスだと評価された3組のみが、王室で行われる周辺諸国約、8カ国合同で開催される文化交流祭に出場できる。学園審査をクリアして、最終的な候補者に選ばれた者は、国から報奨金が送られ、文化交流祭に出場したとなれば、貴族としては素晴らしい栄誉となる。
ちなみにゲームでは、このクラスの男子の代表は、ルジェク王子が他薦で決定。
そして、女子は……『ルジェク王子殿下のお相手を、この私以外のどなたが出来るというの?!』と言って、立候補によって、フォルトナに決まった。
だが、フォルトナは、過度な練習で足を痛めた結果、階段で足を踏み外し、結果、ヒロインのクレアが出場することになる。そして、フォルトナよりもレベルの高いダンスを披露したヒロインは、社交界で『文化交流祭で、素晴らしいダンスを披露したことにより、ルジェク王子殿下の婚約者としても認められるのだ』つまり、フォルトナは、主人公をより輝かせるためだけの完全なる当て馬だ。
私も素敵な男性を見つける必要があるので、ヒマではないのだ。こんな茶番に付き合う気はない。
「それでは、まずは男性の出場者から、どなたか推薦をお願いいたします」
「はい」
アイク先生の言葉に、侯爵家の次男のイートラが手を上げた。
「では、イートラ様」
「ルジェク王子殿下をご推薦いたします。ルジェク王子殿下の優美なダンスでしたら、きっと他国の者を圧倒することが出来るはずです」
教室内に大きな拍手が鳴り響いた。どうやら、決まりのようだ。
「他に、推薦はありませんか?」
「…………」
教室内がシーンと静まり返った。すると、アイク先生が、丸眼鏡をくぃっと上に上げると、ルジェク王子に向かって言った。
「ルジェク王子殿下、いかがでしょうか?」
ルジェク王子は、颯爽とよ通る声で答えた。
「構わない」
「では、このクラスからは、ルジェク王子殿下を代表といたします」
大きな拍手が鳴って、やはりルジェク王子殿下に決まった。
「それでは、今度は、女性の出場者を決めたいと思います。 どなたか推薦をお願いいたします」
アイク先生がそう言った瞬間、みんなが一斉に、私を見た。
どうやら、ルジェク王子殿下が選ばれたので、私が立候補すると思っているようだ。
まぁ、ゲームでは、フォルトナが強引に代表になったが、私はそんなことはしない。そもそも、初めから、ダンスの上手なヒロインのクレアが踊ればいいのだ。
私が無言で前を見ていると、おずおずと、伯爵令嬢のライラが手を上げた。
「……はい」
アイク先生がライラを見ながら言った。
「ライラ様どうぞ」
「はい……フォルトナ様を……ご推薦いたします」
ライラがそう言って座ると、みんな、一応拍手をしていた。『推薦したい訳ではないが、後が怖いから一応賛成しよう』というみんなの雰囲気が漂ってきた。
ゲームの強制力というのが、あるのだろうか? 私が手をあげなければ、私にはならないと思ったが、そうではなかったようだ。だが、このままでは、足をケガまでして、当て馬という奉仕活動をしなければならない未来が、やって来る。私だって、自分のことでそこそこ忙しいのだ。
(仕方ないか………)
「はい」
私は手を上げて、アイク先生を見た。アイク先生は、私を見ながら言った。
「は、はい、フォルトナ様、受けて頂けるのですか?」
私は、立ち上がり、アイク先生をじっと見つめながら言った。
「いえ、その件に関しましては、辞退いたします。代わりに、クレアさんを推薦いたします」
辺りが急にざわざわと、うるさくなった。『え? どうしてクレアさん?』『クレアさんってどなた?』みんなだって、クレアの実力は知っているはずなのに、どうしてそんなにざわざわしているのだろう?
すると、兄が、小声で尋ねた「クレアとは誰だ? なぜそんな者を?」私は、そう尋ねられて、初めて気付いた。そういえば、ゲームでは、ケガをして出場出来なくなったフォルトナが、『私の代理を自分で見極めるわ!!』と騒いで、クラスの女生徒全員のダンスを見た時に、初めて、クレアのダンスが上手いことがみんなに知れ渡ったのだ。
(あ~~~ヤバい。シナリオ、前倒しした弊害が……)
だが、こうなったら、少し早いがネタバレするしかない。私のいちゃらぶのためにも強制力などに構っていられない。こうなったら、自己流フォルトナになりきって、この状況を乗り切るしかない!!
「皆様は、ご存知ないのかしら? クレアさんは、元ジルコル男爵家のご出身。ジルコル男爵ご夫妻は、この国で唯一、四年連続で、文化交流祭に出場し、現国王陛下と王妃様のダンス指南もされた方々……そんなダンスの天才ジルコル男爵夫妻の娘であるクレアさんを差し置いて、私が出場することなどできません。私は、絶対にルジェク王子殿下に恥をかかせるようなことは出来ないのです。このクラスに彼女がいる以上、文化交流祭の女性出場枠は、彼女しかありえませんわ!!」
私が、席に座ると、ルジェク王子が颯爽と立ち上がり、クレアの前まで歩いて行って、彼女に尋ねた。
「今の話は本当なのか?」
ヒロインのクレアは、驚きながらもしっかりと答えた。
「は、はい。確かに私は昨年、伯爵家の養子になりましたが、私を産んで育ててくれた両親は、ジルコル男爵と、その夫人です」
「では、ダンスも彼らに?」
「はい」
教室内はシーンと静まり返った。皆、ルジェク王子の一言を待っているようだった。
王子は、クレアに優しい瞳を向けながら笑顔で言った。
「では、クレア嬢。私の相手をお願いできるだろうか?」
「はい!!」
その途端、教室内が大きな拍手で包まれた。
本来なら、アイク先生が尋ね決まるのだろうが、教室のなんとも言えない空気を打ち破るために、王子が代わりに決めたのだろう。こういう咄嗟の判断力と、決断は未来の王に相応しいと思う。
現に先程まで青い顔でオロオロしていた、アイク先生がほっとした表情を浮かべている。
(うん、いいね、さすが、ルジェク王子!!)
『上から目線で王子を褒めて、お前は一体、何様だ?』と言われてしまいそうだが、推しの活躍は素直に嬉しいのだ。私が、ルジェク王子を見ていると、一瞬ルジェク王子と目が合った気がするが……推しと目が合ったのは大抵勘違いであることが多いので、きっと勘違いだろう。
こうして、私は、見事にゲームの強制力から逃げたのだった。
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