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しおりを挟む『彼氏を作る』と決意した瞬間、推しのルジェク王子が、真剣な顔をした。
急にどうしたのだろうか?
私は、少し緊張しながら、ルジェク王子の言葉を待った。
「フォルトナ……。今日は、私と一緒に学園に行かないか?」
王子が、急に真剣な顔になったので、何を言われるかと思えば、『一緒に登校しよう』という、ライトなお誘いだった。どうせ、これから同じ場所に行くのだし、それに……。
――推しに誘われたら…………行くよね?
「はい、ぜひ」
断る理由などない。
私は、特に考えることもなく、本当に軽くルジェク王子の誘いを受けた。
「ルジェク王子殿下からのお誘いなど、初めてですね」
兄が、とても驚いた様子で、ルジェク王子を見ていた。兄は、『どういう風の吹き回しだ』と、不審そうな顔だ。
――初めて?
兄に指摘されて、私はフォルトナの記憶から、急いで過去を引っ張り出した。そういえば、フォルトナは、ルジェク王子にどこかに『一緒に行こう』と誘われたこともなければ、話かけられたことさえ、ほとんどない。パートナーとして夜会などに出席した時でさえ、現地集合で、パーティーの間も、事務的な会話しかしていなかった。
「フォルトナは……いつも忙しそうだったからな……」
『忙しい』、すなわち、『心』を『亡くす』と書いて、忙しいという。
フォルトナは王妃候補として、恥ずかしくないように、精一杯だった。結果、婚約者であるルジェク王子が、こんな単純なお誘いも戸惑うほど、他の者を寄せ付けない空気が漂っていたのだろう。
それに引き換え私は、『素敵な彼氏が出来るといいな~』などと、以前のフォルトナでは考えられなかったほど、ゆる~く生きている。王子も私が暇そうだったので、声をかけてくれたというわけだ。
まぁ、私もルジェク王子の妻になるというなら、フォルトナのようになっていたかもしれない。
だが、ルジェク王子は、ヒロインのクレアと結ばれるのだ。
それは、本当に賛成だ。私はそれについて、なんの悲しみもない。
だから、これほど、ゆる~く日々を過ごしているのだ。
「お気遣いありがとうございます。今後は、何かありましたら、お気軽にお誘い下さい」
私は、あまり深く考えず、社交辞令で、そう言った。
すると、ルジェク王子も微笑みながら、社交辞令で返してくれた。
「そうか、では、何かあったら、誘うことにしよう」
「ええ」
兄は、先ほどから、ずっと、何か言いたげな瞳だが、何も言わなかった。
もうすぐ学園に着く。
今日は、どんな一日になるのだろうか?
私は、少し胸を弾ませていたのだった。
☆==☆==
「おはようございます……え? フォルトナ嬢?!」
「おはようございます。殿下……おや、これは珍しい、フォルトナ嬢と、コルネリウスも一緒でしたか……」
学園に着くと、攻略対象のカイルと、ダイアンが待っていた。
そうか、ルジェク王子と登校するということは、朝からこの二人とも絡むことになるのか……。
私は、突然の攻略対象の登場に驚いたが、やはり二人ともかなりのイケメンだ。
正直、目の保養だ。
「ああ、おはよう。今日は、フォルトナの屋敷に寄ってきたのだ」
ルジェク王子が、カイルとダイアンに向かって言った。
カイルと、ダイアンは、私にどういう態度を取ればいいのか、迷っている様子だったので、私からあいさつをすることにした。
「おはようございます。カイル様、ダイアン様」
二人の瞳孔が心配になるほど開いたと思ったら、カイルが人懐っこい笑顔を見せた。
カイルのこの忠犬のような耳と尻尾が見えるほどの笑顔は本気で可愛い。
「お、おはようございます! まさか、フォルトナ嬢にあいさつをしてもらえるとは思いませんでした。嬉しいです。フォルトナ嬢は笑うと可愛いですね」
ん~~~?!
すっごい!!
一瞬で落ちそう。
本当に、カイルの笑顔とストレートな褒めは心が潤う~~!!
「カイル、そのような言い方は、失礼ですよ。申し訳ございません。私たちは、フォルトナ嬢と、言葉を交わしたことがなかったので、驚いてしまったのです。失礼をお許し下さい」
そう言って、ダイアンは、私の手を取ると、手の甲にキスをした。
うっわ~~~。キザ~~なのに、似合うぅ~~~~!!
これ、ゲームではよく見るけど、現実でやられたら、引く~~と思ってたけど、引かない、引かない。むしろ、ときめく!! あ~~~よくわからないけど、恋愛リハビリになってる気がする!!
私が、ダイアンのイケメン過ぎる仕草に、ボーとなっていると、なぜか、兄が私の前に立ち、ダイアンの手を私の手から離したと思ったら、ルジェク王子が私の腰を抱き寄せて、ダイアンから距離をとらされた。
「ダイアン!! キスは止めろ!! フォルトナは嫁入り前だ」
兄が、眉間にシワを寄せて、低い声で言った。
「ダイアン……私もしたことがないのに……くっ!! フォルトナに不用意に触れるな!!」
ルジェク王子も不機嫌そうに言った。
え?
ええー。
ちょっと、二人とも何言ってるの??
ほら、ダイアンも、カイルもポカンとしてるじゃん!!
ちなみに、手へのキスは、この世界ではあいさつだ。
大切なことなので、もう一度言うが……手の甲へのキスは、あ・い・さ・つだ。
ダイアンは、私を見ながら妖艶に微笑み片目を閉じながら言った。
「申し訳ございません。……今度は、二人の時にいたしますね」
お~~、さすが、乙女ゲームチャラ男担当。
軽いな~~でも、本当はすっごく照れてて、今頃、心臓高速回転してるんだろうな~~。
ああ、チャラピュアダイアン、ときめく~~~!!
私も少し、ピュアダイアンも見たいと思って、小悪魔対応をしてみることにした。
「ふふふ。機会があれば……ぜひ」
「え?」
すると、ダイアンが耳まで真っ赤になった。
あ~~可愛い~~チャラピュア属性可愛い~~!!
「ダメだ!!」
突然、ルジェク王子に抱き寄せられた。
「フォルトナ!! ヤツは危険だ。教室に向かおう!!」
兄が、私の視線からダイアンを隠すように言った。
あ~もう少し、ピュアダイアン見たかったのに……。
私は、そう思いながらも、ルジェク王子と兄に連れられて、教室に向かったのだった。
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