生き抜きたいのなら「刻」をみがけ

たぬきち25番

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52 やっと始まった作戦会議

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 2人とも不毛な争いだと思ったのか、鉄の話題に乗って来た。
 宗は薬草茶を飲み干すと、景時を正面から見据えた。
 囲炉裏の中の炭がパチリと小さくはぜた。

「景時殿・・もう日が暮れた。俺は、遠回しなのは苦手なんだ。単刀直入に用件を言ってはもらえないでしょうか。」

 宗が相変わらず直球で景時に尋ねた。すると、景時もニヤリと笑った。

「いいね。私もその方が助かる。じゃあ、簡潔に願おう。源九郎義経殿を逃がしてくれ。」

(九郎殿ってのは、あの鎌倉殿の弟君の源義経殿だったのか・・。ん? ってことは、京にいた時、五条大橋であのどうしようもない山法師崩れを従えたってのは、鎌倉殿の弟君だったか・・。)

 すると、宗は大きな声で笑った。

「景時殿が改まって話があると申されるので何かと思えば・・。やはり鎌倉殿も弟の九郎殿を失いたくはないのですね。わかりました。お助けしましょう。」

 宗は楽観的に返事をしたが、鉄は景時の瞳が揺れるのを見てしまった。

 鉄は思わず怪訝な顔を景時に向けてしまった。
 景時が鉄を見て、目を細めた。
 鉄は、景時に挑むような視線を向けた。

「逃がすってのはどういうことだい?」

 宗が、慌てて説明してくれた。

「鉄!そんなの決まってんだろ? 平家との戦で、九郎殿が危険な目に合いそうになったらお守りするって意味だろう? 何言ってんだ!」

 鉄が、景時に鋭い視線を向けた。

「そうなのかい?景時殿?」

 もし本当に宗の言ったように九郎殿の危機に命を助け逃がす役目であれば、わざわざ宗がすることはない。
 あちらには、義盛殿や、義時殿が待機しているのだ。
 それに本当にあの五条大橋での話が本当なら、一緒にいるのはかなりの手練れのはずだ。
 当時、腕の立つ連中がこぞって大切な刀を奪われたと憤っていたのを鉄は見ていたのだ。

 それなのに、なぜ部隊も持たない宗にわざわざ、依頼するのか?
 すると景時が乾いた笑いを浮かべた。

「やはり鉄殿は一筋縄ではいかないか・・。」
「宗は俺の上客なんでね。そう簡単に失うわけにはいかねぇんだ。腹割って、全てを話してくれ。」

 鉄と景時の会話を聞いていた宗が怪訝な顔をした。

「どういうことだ?」

 景時は一度目を瞑ると、宗を見た。

「九郎義経殿は恐らく、壇ノ浦で殺される。」
「え?」

 宗が驚いた声を上げたが、景時は話を続けた。

「これまでの戦局を鑑みて、あちら側の出方を見ていると、恐らく平家との最後の戦いの場所は、壇ノ浦だ。」
「随分と西だな・・。」

 鉄が呟いた。
 景時は頷くと、目を伏せて囲炉裏を見つめた。

「九郎殿はあまりにも敵を作り過ぎた。多くの方に、この舞台から平氏と共に退場することを願われている。」

(退場・・。つまり、平氏と一緒に始末されちまうってことだな・・。)

・・・・・。
・・・・・・・。

 沈黙の中、景時が小さく呟くように言った。

「だが、あの方に壇ノ浦で死んでもらっては困るんだ。」
「そりゃ・・。鎌倉殿の弟だしな・・。」

 いつの間にか宗の景時殿への丁寧な言葉使いが普段のように変わっていた。

「九郎殿には平泉まで逃げてほしいんだ。」

(平泉・・・。八っさんが先日行ったっていう、あそこか・・。)

 宗が戸惑ったように口を開いた。

「待ってくれ。平家との決着は壇ノ浦でつくんだろ? 一体誰から、九郎殿を逃がすんだ?」

 景時が宗を真剣な目で見つめた。

「義時殿や義盛殿からだ。」
「な!!義時殿と義盛殿から逃がすなど、不可能だ!!」
「これは鎌倉殿のご意向でもある。だが・・・。」
「・・・鎌倉殿の・・。」

 宗は驚ていたが、鉄はどこか納得していた。

 なぜなら義時殿の言葉を思い出したからだ。

『なぜ、鎌倉殿は九郎殿を捨て置くのだ?』

 そう言った時の、義時殿の九郎殿への怒りは相当なものだった。

 壇ノ浦というと、京からさらに西だった記憶がある。
 そんなところまで、九郎殿の山賊のような戦い方が伝わってしまったら、きっと義時殿は黙っていないだろう。

(宗に義時殿と、義盛殿の敵に回らせるなんてそんな危険なことは出来ない。なんとか・・・。)

 そう思って、鉄が景時を見た。
 すると景時が、初めてここに鞘と刀の長さの違う物を持ってきた時と同じような、こちらの様子を伺う表情で宗を見ていた。

(ん?・・・もしかして、景時殿は宗を試してんのか?)

 鉄は口を挟まずに、暫く様子をみることにした。すると、宗が真剣な目で景時を見据えた。
 宗の眼光に鉄と景時は鳥肌がたつのを感じた。

(ああ。やはり宗には六波羅殿の血が流れているのか・・。腹を決めた宗は、本当に高貴で孤高な武士の顔だ・・。)

「それが鎌倉殿のご意向ならば、この平宗実、謹んでその任をお受け致す。」

 宗の言葉に一瞬、景時の口の端が上がった。

(なるほどな・・。宗が裏切らないか、試したのか・・本当に臆病で用心深いお人だな・・。だからこそ、今の景時殿があるんだろうが・・。)

 鉄が、薬草茶を一口飲むと、景時に視線を向けた。

「景時殿・・・その辺りでいいんじゃないのか?」

 鉄の言葉に景時殿が苦笑した。

「はぁ~。あっさり見破るのは止めてくれないか? 研師殿?」

 宗が困惑した表情を見せた。
 鉄が、宗の湯飲みに薬草茶を注ぐと、景時に言った。

「ほら、景時殿、さっさと策を披露してくれ。宗がこれ以上いい男になったら、面倒だ。早くしなきゃ、俺は宗のために命を投げ出してしまいそうだ。」

 そう言うと鉄は目を細めた。

「あるんだろ? 宗があのお二方と直接、敵対しなくて済む策が。」

 鉄の言葉に景時がニヤリと笑った。

「もちろんだ。そのために鉄殿を巻き込んだのだからな。それに私は、宗のことは以前から気に入ってる。鉄殿まで巻き込むなら尚更死なせるわけにはいかない。
 こんないい研師殿を失うわけにはいかないからな。
 ははは。だが、やはり鉄殿はただの研師だけにしておくのは惜しいな。どうだ? 私の部隊に入らぬか?」
「お誘いは有難いが、辞退させてもらうよ。」

「???」

 宗だけが一人状況がわからず混乱していた。


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