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しおりを挟む明るい朝に光と、鳥の鳴き声。
そして、部屋中に漂う……お酒の匂い。
(あ、朝か……お酒、かなり匂うな……起きて少し換気をしようかな……)
起きようとしたが、相変わらずリカルドに抱きしめられているため、動けない。
(リカルド……一晩中私を抱きしめてたのかな?)
結婚式を挙げてから一緒の寝室で寝ようと約束したが……お酒の力によって、一緒に寝ることになってしまった。
だが、やっぱりリカルドと一緒にいるのが嫌だとは一切思わなかった。
でも、この状況はリカルドも本意ではないだろう。出来ればリカルドに気付かれないうちにベットを出たいところだ。
(ん~~動かない、リカルド……力強いな……)
私がごそごそと動いたからか、隣でリカルドの声が聞こえた。
「ん~~ん~~」
そしてリカルドが低い声を上げた。
「う……頭痛ぇ……」
リカルドが起きるまでに、ベッドから出ようと思っていたが、どうやら私の計画は失敗したようだ。
仕方なく私はリカルドの方を見て尋ねた。
「大丈夫ですか?」
リカルドは目を閉じたまま弱々しく言った。
「ん~~大丈夫じゃ……ん?」
そしてリカルドの大きな紺色の瞳が開いた。
「え!? イリスさん!? どうしてここに?」
そして今度はリカルドが私を見た。
「俺……イリスさんを……悪い!!」
そう言って、リカルドの方からすぐに離れた。そして、ベットから飛び降りると、辺りを見回した。
「あれ? ここ、俺の部屋……だよな……」
そしてリカルドが困惑しているというより、パニックになっていたので、私は昨日の夜のことを伝えた。
「マーサさんが、そろそろ休んだ方がいいとおっしゃって、こちらに案内して下さいました。ここはリカルドの部屋だったのですね」
物もほとんどなくシンプルな部屋だったので、てっきり私のために用意してくれた部屋なのかと思っていた。
リカルドが、はっとしたように言った。
「ああ、そうだが……そう言えば……まだイリスさんの部屋に案内していなかったな……マーサは俺とイリスさんがすでに結婚しているからここに連れて来たのか!! すまねぇ、イリスさんの部屋は二階の日当たりのいい部屋を用意してあるんだよ」
リカルドが顔を歪めて苦しそうな顔をした。
もしかしたら、二日酔いでつらいのかと持って声をかけようとするとリカルドが絶望した顔で言った。
「っく!! せっかくイリスさんが隣で寝てたのに、寝顔見れなかった!! しかも、気が付いたら抱きしめてやがるし、寝ている俺が羨ましい!! あ~~全然抱きしめて寝た記憶がねぇ~~」
どうやら、二日酔いでつらいわけではなさそうだ。
じっと乱心気味のリカルドを見ていると、リカルドは頭を抱えたまま絶望的な顔で私を見た。
「俺、昨日、イリスさんに何もしなかったか?」
私はリカルドを見ながら尋ねた。
「正直に話してほしいですか?」
「もちろんだ、頼む!!」
真剣な顔のリカルドに向かって、私は昨日のことを伝えた。
「一晩中、リカルドに抱きしめられていました」
リカルドは青い顔で苦しそうに言った。
「くっそぉ~~全然覚えてねぇし、感触さえも残ってねぇし、匂いも……酒の匂いしかしねぇ!!」
リカルドはしばらく悶えた後に、まるですがるように尋ねた。
「他には? 他には何かやらかしてねぇか?」
「そうですね。8回……」
「8回?」
リカルドが首を傾けたので、私は彼を見て自分の唇に人差し指を当てた。
するとリカルドの顔色が段々と悪くなり、震えながら口を開いた。
「まさか、俺……イリスさんの口に……しちまったのか?」
「はい。お酒の匂いと味がしました」
リカルドは、とうとう床に崩れ落ちて、頭を抱えた。
「嘘だろ? 昨日せっかく、1回で我慢したのに!! 台無し!! 酒、怖い。しかも遠慮もせずに8回も!! 本能に忠実過ぎる!! さらに酒の匂いと味……最悪だ~~!!」
私は歩いて行って、リカルドの前に座って尋ねた。
「リカルド、昨日のことは全然、覚えていないのですか?」
リカルドは、肩を落としてしょんぼりしながら答えた。
「覚えてません……全然……少しも……」
そしてリカルドが顔を上げて、私を見た。
「イリスさん」
「はい」
リカルドがごくりと息を呑んだ。
「やり直ししてもいいですか?」
私は「お酒の匂いのしない時がいいです」と言うと、リカルドが両手を床について、床をどんどんと鳴らした。
「ああ、どうして俺は昨日、あんなに酒を飲んでしまったんだぁ~~」
なんだか可愛くて、私はリカルドの頭を撫でた。
リカルドは顔を上げると、私を見た。
「じゃあ、今度……酒の匂いがしない時にやり直してもいいか?」
私はリカルドを見て答えた。
「やり直し……私はリカルドとのキスが増えるので、やり直しにはなりませんけど……」
「確かに、くっ!! ずっと追いつけない!! しかも、イリスさんにとって二度目のキスは酒の匂いと味。さらに、俺に至っては記憶も感触もねぇ……」
悪いとは思うが絶望して叫ぶ、リカルドを見て私はどんな風になぐさめればいいのかわからなかったが、必死で彼をなぐさめた。
「今度、お酒を飲んでいない時に……」
リカルドは私を見て、「俺はもう酒は飲まねぇ!」というと立ち上がった。
「はぁ~~とにかく、昨日の自分が死ぬほど羨ましくて殴りてぇが、そうも言っても仕方ねぇ。イリスさんはここで着替えて、食堂に行ってくれ。俺は別の部屋で着替えて食堂に行く。その後は、昨日親父たちが交換してきた物を確認するから、一緒に来るだろ?」
私は笑顔でうなずいた。
「はい、見たいです」
それから私は、着替えて食堂に向かった。
リカルドの父親は二日酔いで起きることが出来ないようで、私とリカルドだけ席についたが……リカルドは飲み物だけで、私だけが美味しい朝食を堪能した。
朝食が終わると、ここに来た時に見た講堂のような広い部屋に入った。
昨日はガランとしていた部屋の中にはたくさんの珍しい物で溢れていた。
「こんなに!!」
昨日は気付かなかったが、こんなに広い部屋に所狭しと交換した物が並ぶほどたくさんの物と交換したようだ。
(確かにこれはすごいわ……)
そして、この部屋には各分野の専門家のような人も多く来ていた。さらにガイやロダンやライドもいて、どんな物があるのかを記録していた。
「イリスさん、こっちから順番に見ようか」
「はい」
私たちが一番手前の織物を見ようとした時だった。
「若、結婚おめでとう!!」
そして私たちは、織物を見ていた男性に声をかけられた。
リカルドは男性を見て嬉しそうに笑った。もしかして以前話を聞いたリカルドの贔屓にしているお店『アティラン』で働いている幼馴染の方だろうか?
「ああ、紹介する。こいつが以前話をした俺が服を頼んでいる店の職人アランだ」
やはりそのようだ。
「はじまして、イリスと申します」
名前を言うと、アランは目を大きく開けた。
「イリス? イリスだって!? 凄い、運命だな!!」
「おい、イリスさんを呼び捨てするな……」
リカルドが声を上げると、アランは困ったように言った。
「ああ、悪い。あまりに運命的なんで驚いちまった」
「運命的ってどうしてだ?」
リカルドの言葉に、アランが答えた。
「そうだな。ラーン伯爵領にはねぇんだが『イリス』っていう花があるんだよ。その花の色がな、まさにリカルドの瞳のように濃い紺色なんだよ」
「え!? イリスさんの名前が俺の瞳の色と同じ色を持つ花?」
(イリスって花の名前だったんだ……)
私も知らなかったことを知って驚いているとアランが楽しそうに言った。
「こりゃ~~結婚式は純白だろうが……披露宴はイリスの花の色でドレスがいいかな……親方に言ったら興奮して紺色の生地ばっかり仕入れそうで怖ぇな!! でも、紺しかねぇんじゃねぇか?」
「イリスさんはどうだ?」
リカルドとアランがキラキラとした瞳で私を見たので私もうなずいた。
「素敵です!! ぜひ、その色で作ってほしいです!!」
まさか、自分の名前が花だとは思わなかったし、ましてやリカルドの瞳の色と同じだとも思わなかった。
なんとなくリカルドを見上げてると、リカルドも私を見て微笑んでいた。
その後、ゆっくりとどんな物があるのか確認した私たちは、後を専門のみんなと、ロダンだちに任せて建物を出た。
「さてと、各領に船が着いたから分配すると連絡を入れるか」
リカルドが手を伸ばしてた時だった。
歩いていると前からリカルドの父親が凄い勢いで歩いて来た。そして、リカルドを見つけるなり声を上げた。
「いた、リカルド!! どういうことだ!?」
「何だ?」
リカルドは手を降ろしながら、父親を見た。
何か問題があったのかと私も真剣な顔でリカルドの父親の顔を見た。彼はとにかく急いだ様子で言った。
「いや、ほら、庭に……」
「庭に?」
リカルドが、ゆっくりと聞き返し、父親も息を整えて口を開いた。
「庭に、幻の黒いバラがあるんだが!?」
リカルドは力なく言った。
「ああ、あれはレッグナードが結婚祝いだって贈りつけてきて……」
「なんだと!! 素晴らしい!! 実はガンズ族という部族がいてな。そこでは質のいい琥珀が採取できるのが、『貴重な物だから黒い花ではないと交換はしない』というのだ!! これを今度持って行ってもいいか?」
私はリカルドと二人で顔を見合わせた。
「まさか、レッグナード様……このことをご存知だったのでしょうか?」
私がリカルドに尋ねると、リカルドが全力で手を横に振った。
「いや、絶対に知るはずがねぇ」
そしてリカルドがニヤリと笑った。
「はは、あいつ、とんでもない物寄越してくれたな。まさに巨万の富だ。くっくっくっ、ああ。最高だ。もしも、嫌がらせで贈ったバラが、貴重な琥珀と交換したと知ったら……くっくっくっ、あいつ頬をピクピクさせながら悔しがるだろうな」
リカルドは上機嫌に笑った。
私としても、少しだけ胸がすっとした。
「親父、好きなだけ持って行ってくれ」
「ああ。そうする」
それから1ヶ月後、リカルドの父親は『結婚式までは絶対に戻る』と言って、再び外洋航海に出た。
もちろん、あの黒いバラを持って……
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