29 / 30
29 謁見
しおりを挟む私は女官だったが、王族の方と直接言葉を交わすことはなかった。
陛下や王子殿下、そしてレイモンド殿下と言葉を交わせるのは基本的に爵位持ちの人間か、その部署の責任者だけだ。
私のいた部署では室長が王族に謁見して仕事内容を聞いていた。
だから、実際に謁見の間に入るのは初めてだ。
城には謁見の間が3つある。一つ目はホールのように大きい。
主にみんなの前で栄誉を与えられたり、外国からの要人を招く場合に使われる。
そして、二つ目は会議室くらいの置きさだ。ここは高位貴族の方々や、数十人と会うといった時に使われる。
三つ目は普通の執務室くらいの大きさだ。
おそらく室長たちも毎回ここで、陛下や王子殿下と夜会の打合せをしていたと思われる。
私たちの中では第三謁見の間と呼ばれている。
ちなみに実際はそんな名前ではない。
「リカルド、よくやってくれた!!」
信じられないことに、リカルドと一緒に謁見の間に入った途端に、陛下がリカルドの手を取って、ぶんぶんと振り回しながらお礼を言った。
(……陛下? イメージと全く違う!!)
私はこれまで威厳に満ちた陛下の姿しか知らなかったので、驚いてしまった。
リカルドは穏やかな顔で微笑んだ。
「いえいえ、これくらいお安い御用です。さぁ、陛下、これで威信は保てます。胸を張って下さい」
「ああ。そうだな……そうそう。この前、もらった香辛料は美味であった。もうないのか? 追加購入したい」
陛下はわくわくしながら言った。
「ん~~どの種類でしょうか? 後で陛下に贈ったものを確認します。また追加購入可能かも確認します」
陛下は「よろしく頼む」と言った後に、リカルドに恨みがましい目を向けた。
「リカルド、そなた……レイモンドとも取引しておるな?」
リカルドはにっこりと笑って、「大変申し訳ございませんが、お答えできかねます」と答えた。
すると陛下は不貞腐れたように「王命じゃ」と言った。
(ええ~~こんなことで王命!? 陛下……本当にイメージと違う!! 仕事出来る感じの指示書が回ってくるから、てっきり陛下はもっと冷静沈着な方だと思っていたわ……)
王命とはこの国では絶対だ。こんなことで王命を使う意味がわからない。
私は内心困惑していたが、一方リカルドが困った顔をしていたが動じることもなく答えた。
「王命なら仕方ありません。はい、レイモンド殿下とも懇意させていただいております」
正直に言って……私は生きた心地がしなかった。
例え王命とはいえ、王族のレイモンド殿下との秘密を話していいのだろうか?
「ふん、どうせ、余より先にあやつと絡んでおるのだろう? あいつは鼻が利くからな」
さらに不貞腐れたように言う陛下に向かって、リカルドがにこやかに……かなりキツイことを言った。
「その通りですので、いい加減仲直りして一緒に国政をされたら良いのではありませんか? レイモンド殿下が陛下を影ながらお支えしているのはご存知なのでしょう?」
(レイモンド殿下が陛下を支える!? え!? そうなんだ!!)
レイモンド殿下と陛下の兄弟仲が悪いのはかなり有名な話だが、私の聞いた話では、レイモンド殿下の方が一方的に陛下を嫌っているという話を聞ていた。
だが、お二人が一緒に立たれることもあるが、王太子殿下を挟んで一言も話をしない。
ちなみに王太子殿下は陛下のお子様ではなく、王家の次男だ。陛下はご結婚をされていない。
「ふん、あいつが余にあやまってきたら……許してやらんこともない」
リカルドが眉を下げながら言った。
「それ、レイモンド殿下も同じことをおっしゃっていましたよ……陛下」
「なんだと!?」
「でも、いいではないですか、レイモンド殿下は国は大切なので、これからも陛下を影ながら支えるおつもりのようですよ」
陛下は眉をしかめて「んんん」と唸っていた。
すると、突然リカルドが若干目が笑っていない笑みを浮かべた。
「ああ、そうそう、イザベラ様は第三子がお生まれになり、大変お幸せに暮らしているとのことです」
「言うな!! 言わないでくれ、リカルド!! まだそのことは聞きたくない」
陛下が突然耳を塞いで身体を揺すった。
一体、どんな情報だろうか?
イザベラ様とは一体誰なのだろうか?
頭の中に疑問が浮かぶがさすがにここでは聞けない。
リカルドは、慈愛に満ちた瞳を陛下に向けながら言った。
「陛下、いい加減前を向いて下さい。そうすれば素敵な方と巡り合えますよ。私のように!!」
陛下がジト目でリカルドを見ながら言った。
「余の前で惚気るな!!」
「はは、申し訳ございません。幸せなものでして……」
リカルドが陛下を煽るようなことをいうので、ハラハラしていると、陛下は肩を落としながら言った。
「ふん、まぁ船もいつまでの名前がないというのも困る。そろそろ余も……前を向く時が来たのかもしれぬな。リカルドでさえ、結婚したのだしな。あの、リカルドが!!」
(陛下随分とトゲのある言い方だな……)
「そうですよ。私でも……」
リカルドは陛下の嫌味をものともせずに笑顔で答えた。
そんなリカルドを見て陛下は息を吐いて、少し笑った。
「はぁ、もうよい。下がっていいぞ。船、感謝している」
「光栄にございます」
そして私はリカルドと、二人で深く頭を下げて謁見の間を出た。
帰りの馬車の中で私は気になっていたことをリカルドに尋ねた。
「あの、陛下とレイモンド殿下ってどうしてケンカしていらっしゃるのですか? お答えできなければ答えなくてかまいません」
リカルドはすぐに答えてくれた。
「ああ、あの二人な……小さい頃から、イザベラ嬢に惚れ込んで『どっちが彼女と結婚するか』で散々勝負してたんだよ。だが……101戦目。お互い50勝、50敗となった記念すべき戦いの最中に、イザベラ嬢が男爵位の男性と結婚したんだ」
私は目を大きく開けた。
「え!? そんなことが許されるのですか? 王族二人に求婚されて? 別の男性と結婚!?」
私としては二人の王族に求婚されながら別の男性を選んだイザベラさんの行動が信じられない!!
するとリカルドが笑いをこらえるように言った。
「ああ、ここからが笑い話、いや、悲劇なんだけどな、あの二人どっちがイザベラ嬢に結婚を申し込むかで何年も何年も争っていたから、当のイザベラ嬢は二人に想われていたなんて全く知らずに、さっさと恋人作って結婚したってわけだ」
私はさらに驚愕して目を大きく開けた。
「え!! そんなことが?」
何年も同じ女性が好きで争っていたのに、当の本人はそのことを知らない!?
え?
どういう状況!?
それって、まずは……イザベラ嬢に言うべきだったのでは……?
「そう、笑える……悲しいすれ違いだろう? だが、イザベラ嬢は、幸せそうって評判だからなあの二人と結婚せずに済んで幸運だったぜ。どっちもかなり、ひねられているからな……」
普通に考えて何も言われなければ、まさか王族が自分のことが好きで、ましてや争っているなんて思わない。
だから、イザベラ嬢は平和に恋をして、結婚して子供を作って何も知らずにのんびりと生きているのだろう。
リカルドの言う通り何も知らない方が絶対に幸せだ。
いや、誰かに聞いても冗談だとしか思わない話だ。
(もしかして、そんな理由で陛下たちって仲悪いの!?)
いや、考えようによっては何年も二人で101戦するくらい正々堂々戦っているのだから、仲が凄くいいのかもしれない。
二人とも突然イザベラさんが結婚した時は、さぞ驚いたことだろう。
だが、どうしようもない感情をイザベラさんにぶつけることも出来ずに、お互いにぶつけあって解消したという感じだろうか。
(うん、やっぱり仲いいよね……)
リカルドが頭をがしがしかきながら言った。
「ったく、こっちは陛下とレイモンド殿下に挟まれて大変だぜ。王太子殿下は面倒だからかかわらないってスタイルだしな……早くあの二人が手を組めば、レッグナードだって好き勝手出来なくなるんだし、早くなんとかしてほしいぜ、切実にな……」
リカルドは深いため息をついた。
夫婦ケンカは犬も食わないというが……兄弟ケンカも同じよう言うのだろうか。
「仲直りできるといいですね」
「本当にな……」
リカルドも深くうなずいたのだった。
そして馬車は停泊中のラーン伯爵家の船に到着したのだった。
857
あなたにおすすめの小説
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。
櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。
生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。
このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。
運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。
ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる