ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

16 三時間目社会科見学

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「晴れてる……」

 次の朝起きると空は晴れ渡っていた。
 昨日ライナスが言った通り天気は回復していた。朝日を浴びて輝く海や街並みは光をまとい、礼賛するしかなかった。私がベッドを出て街並みに見とれていると、リリアが声をかけてくれた。

「おはようございます、クローディア様」

「おはよう、リリア」

 それから私は、朝の身支度を済ませると、ラウルとアドラーを呼んだ。「おはようございます」とあいさつを交わして、四人で食堂に向かっているときに大切なことを思い出した。

「あ!! 今日は朝日が昇るのを見ることが出来なかったわ……見たかったのに……」

 私がしょんぼりと肩を落としていると、リリアが「明日は早く起こしましょうか?」と言ってくれたのでお願いした。そして、明日はみんなで朝日を見ようと約束した。
 それから食事を済ませて、ブラッドやガルド、アドラーにラウル、ジーニアスにヒューゴにリリアと一緒に港に船を見に行くことになった。
 港にはとても大きくてクラシカルなガレオン船のような汽船があった。

 凄いわ……昔の船を舞台にした映画のセットみたい。

 てっきり豪華客船というので、屋上にプールがついているような巨大な船を想像していたが、よく考えたら、私の考えていたような船だったらオーバーテクノロジーになってしまうので、違うのも当然だと思い直した。

「クローディア殿。これが最新鋭の汽船だ」

 ブラッドが船を見上げながら言った。

「最新鋭……」

 私にとってはクラシカルな雰囲気だと思ったのだが、これが最新鋭のようだった。
 船首には『クイーンイザベラ号』と書かれていた。

 そうか……今の王妃様のお名前はイザベラ様。この船は彼女の名前なのね。

 私はあくまで王妃代理だ。船の名前に女性王族の名前が採用されているのに、お披露目式に誰も女性王族が姿を見せないわけにはいかないので、私が参加することになったのだろう。そうでなければフィルガルド殿下が出席するというのだから私が出席することはない。
 自分の名前が大きく書かれた船を見るというのはどういう気持ちなのだろうか。
 私は恐らく王妃になる前に王族ではなくなるから、私の名前が船に書かれることはないだろうが、それでも想像すると途方もないプレッシャーだと思えた。

 私が船を見上げた後に周りを見ると、港の人々数十人で汗を流しながら『クイーンイザベラ号』の半分よりも小さな船をいくつも鎖のような物で繋げる作業をしていた。

「しっかり繋げよ~~」

「はいよ」

 私は隣に立っているブラッドに尋ねた。

「ねぇ、ブラッド。どうして船同士を繋げているの?」

 私の素朴な疑問に、ブラッドは無表情に答えてくれた。

「昨夜の雨で波が高くなっているらしくてな、船の揺れ防止に、周りの船を繋げて揺れを防いでいるそうだ」

 そういえば、昨日の夜はずっと雨が降っていた。波が高くなると言うのもわかる。船を繋げれば揺れがおさまるというのなら、それは良い考えかもしれない。

「大変そうだけど、正直船が揺れないのは有難いわ」

 船酔いは本当につらいというのは体験したことがあるので、私は有り難く思った。

「次は船内を見ておこう」

「そうね」

 私は、ブラッドたちと船内の入口に向かったのだった。





 入口には、ライナスが待っていてくれた。

「ようこそ、先に屋敷を出てしまって申し訳ございませんでした。船内をご案内致します」

「お願いします」

 私たちはライナスと共に、船内を見て回った。大きなダンスホールに、豪華な船室。船の中とは思えないほど豪華な内装に言葉もなかった。さらに操舵室にも見せて貰えた。大きな木製の舵を見ると心が踊る。

 ああ、誰も近くにいなかったら舵の前に立って『面舵いっぱ~い』って言いたい!!

 私はそんなことを思いながら船の中の視察を終えたのだった。船の中は今日の披露式の準備で忙しそうだったので、私たちはお昼前には船を出た。
 船を降りる時に私は揺れをほとんど感じないことに気付いた。

「凄いわ……それに全く揺れないのね」

 ブラッドも頷いてくれた。

「そうだな……あくまで念のために船を連結させるのだろうな……」

 まだ周りの船の連結作業は終えていなかったので、てっきり船の内部は揺れるのかと思っていたが、あまり揺れは感じなかった。

「大きな船だったわ……」

 船から少し離れた馬車乗り場に向かう途中に思わず呟くと、ブラッドが口を開いた。

「構想から10年は経っているからな」

「10年も……」

 私はもう一度船を振り返った。10年後、私はどうなっているのだろうか?

 そんなことを思いながら船を眺めていると、ヒューゴが口を開いた。

「クローディア様、アメどうされますか?」

「ああ。いいわよね?」

 私はブラッドの方を見ながら尋ねた。

「ああ。問題ない」
 
 私はブラッドに許しをもらって、ヒューゴを見上げながら言った。

「私にもアメをくれるかしら?」

「はい、どうぞ。今日は一日効果があります」

 私はヒューゴにアメをもらって口の中に入れた。
 ハッカのような爽やかな香りと甘さが口の中に広がった。なるほど、甘い物を滅多に食べないブラッドがよく食べたな、と思っていたがどうやらこの爽やかさのおかげでブラッドもこのアメを食べることが出来たようだった。

「クローディア殿、一度シーズルス領邸に戻りお披露目式の準備をしよう」

「そうね」

 私もすぐに馬車に乗り込んだのだった。
 そして、船のお披露目式のためにシーズルス領邸に戻ったのだった。







 クローディアがシーズルス領邸に戻り、化粧や着替えをしている頃。
 ジーニアスはヒューゴの部屋を訪れていた。

「どうされました? ジーニアス殿」

 ヒューゴは目が笑っていない笑顔でジーニアスを出迎えた。

「少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい」

 ヒューゴが、ジーニアスを部屋に迎え入れた途端に、ジーニアスはヒューゴをじっと見つめながら言った。

「私は、以前あなたにお会いしたことがあると申し上げましたよね? ようやく思い出しました。私があなたにお会いしたのは――私がイゼレル侯爵の書記官として、 ダラパイス国に行った時です。あなたはダラパイス国の国王陛下の第四秘書として、交渉の場に同席されていましたよね?」

 しばらく無言で見つめ合った後にヒューゴは、ジーニアスを見ると困ったような顔をした。

「あの交渉の場には私以外にも大勢の人間がいました。しかも私は後ろの方の末席に座っていた……髪も目の色も服装なども違いますが……よくわかりましたね」

 ヒューゴは『なんのことですか?』と、とぼけることも出来た。だが――そうはしなかった。
 ジーニアスは真剣な顔で答えた。

「笑い方ですよ。クローディア様もおっしゃっていらしたでしょう? 目が笑ってないって。笑えないのでしょう? 色ガラスを目に入れているせいで」

 ヒューゴは、驚きながら言った。

「それもご存知でしたか……」

「はい。私が記録書記官として同行した当時、ダラパイス国は高いガラスの加工技術を活かして、試作段階と言っていましたが眼鏡ではなく、直接目に入れるガラスがあるとお話していたでしょう? ただ目にそのガラスを入れてしまうと表情が乏しくなると聞いていました。そのことを思い出して、記憶を辿ってようやくあなたのことを思い出しました」

 ヒューゴは、ジーニアスを見ながらあきらめた表情で言った。

「あなたは随分と優秀な記録書記官殿のようですね……私を……捕えますか?」

 ジーニアスは、静かに首を振った。

「……いいえ。あなたの目的が『クローディア様を守る』というのは明白です。あなたが解毒薬を侍女たちに配ったのは、いざと言う時にクローディア様をお守りするためなのでしょう?」

 ヒューゴは、驚きながら言った。

「ジーニアス殿がこんな話を私にされるということは――ブラッド様もご存知ということですよね?」

 ジーニアスは真剣な顔をして言った。

「はい。一つ確認します。あなたがブラッド様に見せた、あの脅迫状は本物ですか?」

 ヒューゴは大きく頷きながら眉を下げた。

「はい。本物です。しかもダラパイス国では以前、王妃殿下に仕える侍女たちが毒を使われ危険な目にあっております」

 ジーニアスは、ヒューゴを見据えながら言い放った。

「そうですか……ではブラッド様からを申し付かって参りました。聞いて頂けますか?」

 ヒューゴの背中に汗が流れた。全ての事情を把握しているレナン公爵子息からの
 厄介なことには違いないが、自分は断ることはできないだろうとも思った。

「話を聞かせて……頂けますか?」

 ヒューゴは真っすぐにジーニアスを見ながら答えたのだった。



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