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レオンSIDE 婚約破棄までの舞台裏
愛する人の婚約破棄まであと【5日】
しおりを挟む私は今日、学園に来て良かったと心から思った。
なぜなら、事態は私の想像以上に深刻だったからだ。
――有り得ない。アルベルト殿下はこれほどまでに愚かだったのか?
私が学園に行くと、丁度卒業舞踏会のリハーサルが行われていた。そこで私は信じられない光景を見た。アルベルト殿下も、エディも、クイールも、あの伯爵令嬢に本気になっているようだった。
しかも殿下に至っては、これほど多くの来賓が来る場で、婚約者のロゼッタを迎えに来ないばかりか、あの伯爵令嬢と踊りたいと駄々をこねていた。
これまで私は、ロゼッタが殿下が好きだという想いを考慮して遠慮していた。
だが……。
「(殿下、あなたがロゼッタ嬢を大切にしないのあれば、私はもう遠慮はしません)」
私は、怒りを抑えながらロゼッタを侯爵邸まで送った後に、すぐに城のリシウス侯爵の元に向かった。
「失礼します」
「おお、レオン殿。いかがでした?」
私が侯爵の元を訪ねると、侯爵は多忙そうだったが、すぐに会ってくれた。私は、怒りを抑えられないままに侯爵に話をした。
「侯爵のおっしゃる通りです。あの男にロゼッタ嬢はもったいない。修道院の件、私が調べてみます。ですのでどうか侯爵から陛下に、調査の許可を取ってもらえませんか? 調査は私が致します。徹底的に調べますので、陛下の許可をもぎ取って頂きたい」
恐らく、アルベルト殿下はロゼッタの予想した通り修道院に送ることも考えているかもしれない。だとしたら、徹底的に調べ上げて、確実に止める!!
そのためにある人物を問い詰めたいので、絶対に陛下の許可が必要だった。
侯爵はじっと私を見た後に、口を開いた。
「わかりました。許可をむしり取りましょう!!」
「父にも話をします。我が伯爵家も他人事ではありませんので!!」
こうして、私は侯爵と共に宰相である父の元に行った。話を聞いた父も同行して、3人で陛下から調査許可を貰ったのだった。
陛下に許可を貰った私は許可状を持って、殿下の執務室に向かった。
――アルベルト殿下の忠臣、側近のフォアルドと対峙するために。
「失礼致します。ご無沙汰しております、フォアルド殿」
私は殿下の側近であるフォアルドの元に向かった。フォアルドは子爵家出身で若くして側近になった。とても優秀だが殿下にとことん甘いことで有名だった。陛下は余りにもフォアルドが甘やかすので、何度か側近を変えようとしたが、殿下はフォアルドを決して手放そうとはしない。今回のことだって、絶対にこの男が関わっているはずだ。
「申し訳ございませんが、私がお伝えできることはございません」
案の定、フォアルドは殿下がかなり酷いことをしようとしているというのに、隠そうとしていた。
私は、彼に陛下からの書状を突き付けながら言った。
「ここに、陛下の許可状があります。それにいいのですか? あなただって、王妃殿下が、ロゼッタ嬢を溺愛しているのはご存知でしょう? もしロゼッタ嬢に何かあれば、王妃殿下は殿下のみならず止めなかったあなたを処罰することだって有り得ますよ?」
「処罰ですか……あの方が……王妃殿下から処罰を……」
フォアルドは殿下が王妃殿下から罰を受けるということに反応した。フォアルドは大きく息を吐くと、カギの付いた机の引き出し書類を差し出した。
「レオン殿。こちらが、書類になります。殿下は、卒業舞踏会の後にロゼッタ様をゲッシュロッセン修道院に入れる手続き、またそこにお連れする馬車の用意などをされております。こちらがその写しでございます」
「拝見します」
私は書類を見て愕然とした。
まさか、あのゲッシュロッセン修道院に入れることを考えていたなんて!!
あの場所がどういう場所か知らないわけではないはずだ!!
私は、フォアルドを睨みながら言った。
「他にもありますよね?」
「……こちらが、アルベルト殿下に指示されて作った婚約破棄の書類です」
私はその書類を見た。
婚約破棄の条件は至って普通だったが、ただ一つ『今後一切、城に近付かない』という酷い条件が書かれていた。彼女のような優秀な女性が城に近付かいないというのは不可能に近い。こんな条件を彼女に承諾させるとは殿下は何を考えているのだろうか?
「これはこれは、随分と一方的な条件での婚約破棄の証明書ですね……殿下の印があれば婚姻関係は承認される……なるほど……これも陛下に提出致します」
殿下は自分が婚姻関係を任されているということもあり、こんな無茶な条件で婚約破棄の書類を用意していた。私は、怒りのままにフォアルドを睨みながら言った。
「こんな残酷なこと!! なぜ、止めなかったのです?! それを止めるのがあなたの仕事ではないのか?!」
フォアルドは息を吐きながら言った。
「修道院は、あくまで彼女が婚約破棄に同意しなかった時のための最終手段です。婚約破棄に応じてくだされば、あの方だって本気で修道院に送るつもりなんてない」
「責任感の強い彼女が簡単に婚約破棄に応じられるはずがない!! そんなこと少し考えればわかるはずだ!!」
私がさらに声を荒げると、フォアルドが疲れた表情で私を見ながら言った。
「あの方だって、そんな手段を使わなければならないほど、追い詰められているのですよ」
「何か言いたいのです?」
フォアルドは自嘲気味に笑ったあとに呟くように言った。
「あの方だって、傷ついてるということです。幼い頃からロゼッタ様のような優秀な方と比較され、王妃殿下は、ロゼッタ様ばかりを可愛がる。周りは優秀なロゼッタ様と比べて、殿下に厳しいことばかりおっしゃる。殿下は、ロゼッタ様から離れたかったんですよ。彼女の側にいると息が出来ないと倒れることもありましたから」
「……え?」
衝撃だった。
まさか殿下が、ロゼッタの側にいると息が出来ないと言うほどに苦しんでいたというのは全く知らなかった。
「ロゼッタ様には大変申し訳ないですが、私はあの方の……アルベル殿下の味方です。ロゼッタ様の修道院行きを止めて下さることは有難く思います。ですが……あの方とロゼッタ様とのご結婚は止めた方がいいと思いますよ。お互い傷つくだけだ。あと、婚約解消はおすすめしません。どうせ婚約解消をしたところで、うるさい大臣共が優秀なロゼッタ様とくっつけろと、圧力をかけて復縁させるに決まっていますから」
私は息を吐いて、フォアルドを睨みつけた。
「そうですか……ご忠告感謝します。ですが、彼女だって、努力していたのですよ!! 幼い頃から泣きながらね!! それだけはお伝えしておきます」
「ロゼッタ様が……その弱さをあの方に見せて下されば少しは変わったのかもしれませんが……もう全てが手遅れです」
フォアルドも私を睨み返しながら言った。その瞳が、ロゼッタの修道院行きを無くすなら、殿下とロゼッタの結婚話を止めろと如実に訴えていた。そこまで側近が切羽詰まっているほど、殿下は彼女から離れたかったのだろうか。
「……殿下とロゼッタ嬢を結婚させるつもりはありません」
「そうですか、さすがレオン殿ですな」
フォアルドがほっとしたような顔をした。
私は「失礼する」と告げて殿下の執務室を出た。
――彼女に婚約破棄を承諾させる必要がある。
リシウス侯爵の執務室に戻って、報告すると侯爵は予想通り怒り狂った。
「ゲッシュロッセン修道院だと?! あのクソガキ!! だが、これだけの証拠があるのだ。陛下に会って、すぐに婚約解消を……」
立ち上がる侯爵を前にして私は慌てて声を上げた。
そして、先ほどの殿下の側近のフォアルドの予想を伝えることにした。
「お待ちください! 婚約解消では、復縁することが可能です!!」
「……」
頭のいい侯爵はその言葉だけで事態を理解してくれたようで、黙って椅子に座った。
「なるほど婚約解消では、何かあった時に王妃教育を終えたロゼッタが、あの男の尻ぬぐいのために担ぎ出されるということか」
「はい。その可能性は高いです。ですが婚約破棄なら、一度婚約を破棄した相手と再び婚約することも婚姻を結ぶこともできません。婚約解消ならすぐに出来るかもしれない。だが、彼女は王妃の資質がある。アルベルト殿下の資質不足に嘆いた周りからの圧力で王妃に戻る可能だってある。彼女を確実に解放するためには、殿下の用意した婚約破棄の舞台に上がった方がいいかもしれません」
「ふむ……ロゼッタが……素直に婚約破棄などに応じるだろうか……ああ見えて、娘のロゼッタは責任感が強い。しかも殿下を好きだとすると……婚約破棄は、当人の意思がなければ出来ない」
どうやら、侯爵も私と同じことを思ったようだった。
婚約解消は親でもできないこともない。だが、婚約破棄はさすがに殿下もロゼッタも成人しているので、2人の意思が必要だった。そのくらい、二度と同じ相手と結婚できなくなる婚約破棄というのは大変なのだ。
私は、まっすぐに侯爵を見た。
「彼女を説得してみます」
「レオン殿が?」
「はい」
侯爵はじっと私を見た後に、息を吐いて言った。
「お願いします」
「はい。ですから、今は陛下に彼女の修道院行きのみを取り消してもらったらいかがでしょうか?」
「そうですな……それがいいのかもしれない」
その後陛下にフォアルドから受け取った書類を見ながら話をすると、陛下は直接ロゼッタに謝罪したいと言った。
陛下と話をした後に私は、明日ロゼッタと話をするために手紙を書いたのだった。
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