【12月末日公開終了】令嬢辞めたら親友認定

たぬきち25番

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第1章 幼少期を変える!!

13 ケガの功名??

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「はい、これでいいでしょう。今後は宮廷医師が引き継いでくれるとのことです」

 私は腕を数針縫ってもらった。
 服にかなり血が飛び散っているのでかなり重症に見えるが、それほど深い傷ではなかったようで数週間で完治するようだった。

「わかりました。お世話になりました」




 町の病院で腕の治療をしてもらって診察室を出ると、廊下にはアルフレッド殿下とランベール殿下が待っていてくれた。
 私が診察室から出た途端に、泣きそうな顔のアルバート殿下とランベール殿下が弾かれたように顔を上げた。
 そしてアルフレッド殿下が声を上げた。

「ジェイド!! 大丈夫か!?」

 そしてランベール殿下は私を見た途端、目から大粒の涙をこぼした。

「ジェイド、すまない。本当にすまない。俺を助けたばかりに……ケガを……俺は……傷一つないのに……」

 私は首を振りながら言った。

「いえいえ、ランベール殿下が無事でよかった……」

 私の言葉にランベール殿下はますます涙を流しながら言った。

「すまない……ジェイドがいなかったら……私の命はなかったかもしれない」

 そしてアルフレッド殿下の目からも涙がこぼれてきた。

「ジェイドが一人倒してくれたと聞いた。それにジェイドが攪乱してくれたから応援が間に合ったとも聞いた……もしお前がいなかったらと思うと……本当にすまない、ジェイド!!」

 アルフレッド殿下が泣きながら私に頭を下げた。

「頭を下げるのは止めて下さい。お二人とも無事でしたし、私もすぐに治るそうですのでもうお気になされないで下さい。それにアルフレッド殿下がデニス隊長の剣術指導に呼んで下さったおかげで大したケガではありません。つまり、アルフレッド殿下のおかげで私も助かったのでおあいこです」
 
 私はデニス隊長に徹底的に相手の攻撃のいなし方を叩きこまれた。そのおかげで、傷は負ってしまったが結果的に致命傷は免れた。

 「ジェイド、本当にすまない」と何度も言う二人をなだめながら、ふとゲームの中にアルフレッド殿下のセリフを思い出した。


――私は……自分の思慮の無さが原因で……弟を……死なせてしまった……あの時……町に行こうなどと……言わなければ……弟は!!


(あれ? どうして今まで忘れていたんだろう……もしかして……これって……アルフレッド殿下が心を閉ざして完璧な王子を演じることにしたきっかけになった事件なんじゃ……)

 そう言えばゲームのアルフレッド殿下のルートは、殿下の亡くなった弟の仇を取るために盗賊団の根城を壊滅させるために動くことで仲を深めるというストーリーだった。
 主人公ブランカとアルフレッド殿下は過去の事件を調べるためにかなり危ないことをするのだ。
 そのせいでかなり多くのBADエンドと遭遇する。
 あまりにもBADエンドが多いのでハッピーエンドを探すのに夢中で、なぜ盗賊団を壊滅させようとしていたのか理由が頭から抜けて落ちていた。

(アルフレッド殿下の弟って……ランベール殿下だよ!!)

 二人は同じ年だし、顔も性格も似ていないので忘れていたが、国王陛下にランベール殿下が引き取られて養子になったのだから兄弟だ!!

(もしかして……ゲームでは今日、ランベール殿下が亡くなっていた?)

 そう考えると、急激に身体が冷たくなっていくように感じた。
 私は大粒の涙を流すランベール殿下を見た。
 ふと、私はランベール殿下の頬に触れた。

「ジェイド?」

 ランベール殿下が驚いた顔で私を見ていた。
 殿下の顔はあたたかい。
 頬を濡らす涙も……あたたかい。

 生きてるんだ……ランベール殿下は生きてる。そして……アルフレッド殿下は弟を失っていない……

「……本当に無事でよかった」

 心の底からほっとして呟いた。
 そして次の瞬間、私はランベール殿下に抱きしめられた。

「お前だって!! 本当に無事でよかった。心配したんだ……本当に心臓が……止まるかと思うほど……怖かった……」

 そして、ランベール殿下の腕の上からアルフレッド殿下にも抱きしめられた。

「本当に……二人が無事でよかった!!」

 なんだか、急に私もみんなでこうして話ができることに喜びを感じて涙が出て来た。
 その後私たちは、城からの迎えの人たちの声をかけられるまで3人で大きな声で泣いてしまったのだった。










 その後、私たちは憲兵から連絡を受けた城の人々が迎えに来てくれた。そして病院の支払いも済ませてくれた。
 城に戻ると王子殿下たちは国王陛下に呼ばれたが、私は城の宮廷医師に診てもらうことになった。
 城の宮廷医師はとても若い男の先生だった。
 医師は傷を見ると何気なく、とんでもないことを言った。
 
「ん~~傷は問題ないけど……君って女の子でしょう?」

「え!?」

 この部屋には先生と二人だけ……

(バレた!!)

 腕を見せるだけだからバレないと思っていたが認識が甘かったようだ。
 医師は目を細めながら言った。

「どうして女の子が男の子の格好で王子たちに近づいてるのかな~~? 話してくれるよね? わかってると思うけど、君に拒否権はない」

 私は項垂れながら本当のことを話したのだった。



 事情を話すと、医師は大きく息を吐いた。

「なるほど……確かに伯爵家がその状況で王家の誘いを反故すれば大変なことになるだろうね……」

 私がびくびくしていると医師が溜息をついた。

「……そっか、まぁ、医師としては病人に無理をさせるわけにはいかないっていうところはかなり共感するし、君の事情はわかった」

 医師は困ったように私を見ながら話を続けた。

「でも……いつまでもこのままではいられないよ? 君だって今は、見た目の体型は殿下たちとそう変わらないかもしれないが、そろそろ女性的な体つきになる。それに学園に行けば婚約者を見つける必要があるだろう? 男性の姿で結婚相手を見つけるのは無謀だと思うけど……それとも学園に入る前に令嬢だったって殿下たちに言うの??」

 私は両手を握りしめながら言った。

「いえ、令嬢だとは一生明かすつもりはありません。生涯、リンハール伯爵子息のジェイドとして接します。学園に通うことは伯爵位を頂戴している貴族の義務ですので務めを果たすためにも入学し、卒業します。しかし、卒業後は領地にて平民の方と結婚するつもりです。家の名前を捨てれば、二度と殿下たちにお会いすることもありませんし、貴族令嬢としての未練もありません」

 医師は驚いた顔で言った。

「へぇ~~そこまで覚悟を決めているんだ」

「……はい」

 私が驚いて顔を上げると、医師が楽しそうに言った。

「俺の名前は、フィリップ。何かあったら相談においでよ。君の怪我も完治するまでは僕が担当するから。もう決めたし、陛下にもそうやって進言する」

「え?」

 驚いていると、フィリップ先生から薬を貰った。

「今日はたぶん熱が出ると思う。つらかったら使用すること。そして次は3日後に見せに来ること」

「あの……どういうつもりですか? ……失礼ですが、完全に善意ってわけではないですよね?」

 宮廷医師など本来なら、私のような伯爵家の人間が診てもらえるわけがないのだ。それなのに私をわざわざ陛下に頼んでまで診るという意味がわからない。
 フィリップ先生は楽しそうに言った。

「君、警戒心強いな~~もっと素直に『ありがとう、嬉しい~~、大好き~~』って言えないの?」

「……」

 私がジトリと疑いの眼差しで見ていると、フィリップ先生が困ったように言った。

「とにかく、次は3日後!! いいかな?」

 私はフィリップ先生に頭を下げた。

「では……お願いします……」

「いいよ~~。じゃあ、とりあえず着替えて。カーテンの裏に侍女が君の替えの服を用意してくれたから」

「はい」

 私は頭を下げると、執事が用意してくれた恐ろしく高級そうな服に着替えた。
 そして着替える時に私は兄にもらった万年筆がないことに気付いた。

(あれ? ない……)

 よく見ると万年筆を入れていた胸ポケットはナイフで引き裂かれていた。

(もしかして……これのおかげで、胸は無事だったの?)

 腕だけで済んだのは兄からもらった万年筆のおかげかもしれない。

(家に戻ったら、謝ろう……そして、守ってくれてありがとうって言おう)

 私は兄に感謝して着替え終えた。
 着替えが終わるとフィリップ先生はベルを鳴らし執事を呼んだ。執事が迎えに来るとフィリップ先生はゆるい雰囲気で言った。

「治療は終わりました。薬は本人に渡してあります」

 執事は「ありがとうございました」と言った後に私を見た。

「ジェイド様。こちらへ」

「はい」

 私は執事に案内されるまま廊下を歩いたのだった。
 窓からは夕焼けが見えた。

(無事に治療が終わったことを報告したら、急いで家に戻らなきゃ……みんな、心配してるだろうな……)

 私は小さく息を吐いたのだった。
 
 
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