【12月末日公開終了】令嬢辞めたら親友認定

たぬきち25番

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第1章 幼少期を変える!!

16【第1章最終話】確実に変わった幼少期

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 数日後。
 私の腕の傷もほとんど治った頃。
 リンハール伯爵家に、デニス隊長が来るとの連絡が入った。
 家のみんなは『なぜ騎士団の隊長がブランカに会いに!?』と、かなり動揺していたが、私は思い当たることがあったので冷静にデニス隊長を迎えた。

「デニス隊長。ご無沙汰しております」

 私は腕を怪我してしていたので、ずっと剣術訓練をお休みしていたのでデニス隊長に会うのは久しぶりだったのだ。

「ああ、久しぶりだな。腕はどうだ?」

「フィリップ先生にもほとんど完治していると言われました」

 私は傷をずっとフィリップ先生に診てもらっていたのだ。

「そうか、よかった。早くジェイドが剣術訓練に復帰するのを二人の王子殿下が楽しみにしている」

「ありがとうございます」

 デニス隊長と世間話を終えた頃、隊長が真剣な顔をした。

「ジェイド……あれから騎士団で事件の調査を行ったのだ。ジェイドが賊から掴んだ情報は正しく、盗賊団の根城を特定した。そして、かなり厄介な連中だったからな、騎士団総出で討伐した」

「騎士団総出? それほど大規模に動かれるほど人数が多かったのですか?」

 私が真剣な顔で尋ねると、デニス隊長もまた怖いほど真剣に言った。

「ああ。人数もだが……実は今回我々が捕まえた盗賊団のメンバーは、隣国で懸賞金がかかっていた賞金首集団が率いる集団だったのだ」

「隣国の賞金首集団!?」

「ああ。かなり厄介な連中だったが、なんとか捕まえて隣国に引き渡し、あちらの国王から感謝された」

 私はアルフレッド殿下のhappyエンドは見ていないので、盗賊団について詳しいことは知らなかったのだ。だが、まさか相手が賞金首集団だったとは……

(ゲームでは学生が賞金首集団を相手に奔走してたんだ……無謀過ぎる!! そりゃ~~BADエンドばっかりになるよ……よかったぁ~~私、直接対決しないで……)

 3年もゲームよりも早かったが、盗賊団はすでに組織されていたようだ。
 私が胸をなでおろしていると、デニス隊長が表情を緩めて私の頭を撫でた。

「ジェイドのおかげだ。彼らは巧に根城をカモフラージュしていて、ジェイドが賊から場所を限定して聞いていなければ、特定は不可能だった。それほど巧妙に隠されていた」

 ゲームでも根城を特定するまでに主人公ブランカは何度、危険な目にあってBADエンドを迎えたことだろう?   
 一体、何通りのBADエンドを繰り返しただろう……

(ああ……頑張ってよかった……多くのむごいBADエンドに耐えてよかったぁぁぁ~~~)

 鬼畜ゲームでさえ投げ出さずに頑張ってよかったと心から自分を褒めたいと思った。
 そんな私にデニス隊長が笑いながら言った。

「そこでだ、騎士団からジェイドに感謝状が授与されることが決まった」

「え!? 騎士団からの感謝状……??」

 私が驚いていると、デニス隊長が再び私の頭を撫でながら言った。

「騎士団からだけではないぞ? 国王陛下もジェイド殿に感謝状を贈りたいとのことだ」

「国王陛下からの感謝状……え、凄い……でも……私だけの力では……」

 私が想像する以上に今回のことは大変なことになっていて恐縮していると隊長がいい笑顔で言った。
 
「胸を張れ!! 誇っていいぞ、ジェイド。お前は王子殿下の命を守り、盗賊団の話を聞き、騎士団に情報を提供し、市民の安全を守った英雄だ!!」

 私はデニス隊長を見た。
 デニス隊長と一緒にいるのにBADエンドではない。
 むしろとても喜ばしい話だ。

「……わかりました。では、胸を張ります。ところで、デニス隊長。もう……盗賊団は壊滅したと考えてもよろしいのでしょうか?」

 私は念のために尋ねた。しつこいと言われようととても気になったのだ。
 デニス隊長は、困ったように言った。

「んん~~実はな……捕えた者に話を聞くと、ヤツらの中で一番懸賞金の高かった『ハーヴェイ・ロダン』を取り逃がしてしまいまったようだ。だが心配するな、あの辺りは定期的に騎士団が見回ることになっている。再び賊を率いて根城にすることは不可能だ」

 一番懸賞金が高い人物を取り逃がした??
 
(え……それって……本当に大丈夫なのかな?)

 少し不安になったが、ランベール殿下が生きていて、盗賊団を壊滅させ、騎士団が定期的に見回ってくれるのなら、アルフレッド殿下のBADエンドは大方回避されたと考えてもいいかもしれない。
 私がそんなことを考えているとデニス隊長がいい笑顔で言った。

「ジェイド、一度騎士団から、ましてや国王陛下からの感謝状を貰った者は、騎士団の試験に合格すれば護衛騎士への推薦状をもらったと同義になるぞ?」

「え?」

 私はじっどデニス隊長を見つめた。

「私は今回のことで騎士団の副団長に就任することが決まった」

「それは、おめでとうございます!!」

 ゲームではデニスは騎士団の団長だったが、副団長に就任するようだった。

「ああ。ありがとう。だが、副団長になれば殿下たちやジェイドに訓練を付ける時間がなくなってしまうのだ。だからジェイド、卒業したら騎士試験を受けろ。騎士団内部でなら存分にお前に剣技を教えることができる。それにお前は筋がいいし、頭もいい。何より、王子殿下たちから絶大の信頼を置かれている。私はお前が騎士になればすぐにでも護衛騎士に配属しようと思っている」
 
 護衛騎士――それは多くの騎士の憧れ。
 王族の護衛として……二人の側で、二人をずっと守ることができるかもしれない。
 それが叶うのなら……どれほど……幸福だろうか……

(ああ……私は本当に――なぜ、女性に転生したのだろう……)

 もう私は女性だとか男性だとか、そんなことはどうでもよくて、あの心優しく聡明な王子殿下たちを守りたいと……二人と一緒にいたいと心から思っていた。
 この感情は、友情なのか、恋心なのか、憧れなのか、忠誠心なのか……
 自分でも判断ができない。
 私はデニス隊長に頭を下げた。

「お言葉……感謝いたします」

 その後デニスは「待っているぞ」と言って微笑むと颯爽と帰って行った。
 私はその後ろ姿をいつまでも見つめていたのだった。








 デニス隊長から感謝状の話を聞いた一ヶ月後……

 私は父が清水の舞台から飛び降りる覚悟で作ってくれた超高級なオーダーメイドの服を着て、謁見の間に立っていた。

「ジェイド・リンハール、この国のため尽力してくれたことに感謝する」

「はっ!!」

 私は謁見の間で、国王陛下と騎士団長から直々に感謝状を頂戴した。
 式典が終わって、国王陛下と王妃様が個人的に「そなたには苦労をかけるかもしれぬが、これからもアルフレッドと、ランベールをよろしく頼むぞ」とのお声がけをしてもらって、私は震えながらも「はい」と大きな声で返事をしたのだった。




 
 そして式典が終わった後、私はアルフレッド殿下とランベール殿下に呼ばれていつもの応接室にいた。

「ジェイド、おめでとう!! そして完治おめでとう!!」

 アルフレッド殿下が顔をくしゃくしゃにして笑いながら私をお祝してくれた。
 私はアルフレッド殿下のこんな笑顔を始めて見たかもしれない。

「ありがとうございます!!」

「腕の傷跡が少し残ってしまったが、綺麗に治って本当によかった。ジェイド、おめでとう」

 ランベール殿下も嬉しそうに笑った。
 私にとっては二人からのお祝が一番……嬉しかった。

「ありがとうございます!!」

 私が二人にお礼を言うと、ランベール殿下が木箱を取り出した。

「ジェイド……開けてみてくれ」

「え? はい……」

 私は木箱を受け取って、蓋を開けて思わず声を上げた。

「うわ~~綺麗……これって!!」

 私がランベール殿下を見ると、アルフレッド殿下がランベール殿下の肩に腕を乗せながら得意気に言った。

「いいだろ? それ?」

 箱の中には透明な碧いガラス製の万年筆が入っていた。
 しかも……

「いいですね!! もしかして……先の部分って……二人の目の色ですよね?」

 万年筆の持ち手部分が薄いブラウンに金色が混じっていて、碧を引き立ててかなりセンスがいい。

「ああ、そうだ」

 ランベール殿下が笑いながら言った。
 これは紛れもなく兄にもらって無くしてしまった万年筆と同じ店で作られたものだった。
 そしてランベール殿下が申し訳なさそうに、ガラスのケースを差し出した。
 中には、兄にもらった万年筆の欠片が入っていた。

「すまない、ジェイド……万年筆は欠けてしまった。だが、ジェイドの兄が作ったと思われるガラス工房を特定して新しいのを作らせたのだ」

「え!? わざわざ見つけてくださったのですか!?」

 私が驚いて声を上げると、アルフレッド殿下がニヤリを笑った。

「ああ。覚えているか? 25番通りの裏のトミーの工房」

 私は少し考えた。

「25番通り……ああ!! あの視察で見つけた露店!!」

 そしてアルフレッド殿下とランベール殿下がおもむろに内ポケットに手を入れると、精巧なガラスのケースに入った万年筆を取り出した。

「あれ? お二人の持っている、それ、私のと同じですか!?」

 ランベール殿下が嬉しそうに笑いながら言った。

「ああ、そうだ。俺たちも同じ物を作ってもらった。ちなみにこのガラスケースはもちろんジェイドの分も作ってもらった」

 アルフレッド殿下も嬉しそうに言って、私の分の万年筆のケースを渡してくれた。

「トミーには少々無理させてしまったが、これで表通りに店が出せると喜んでいたからな。双方にとって幸運だった。さらにこれがきっかけで我が国にガラス技術が発達すれば特産になる可能性もあるからな、国にとってもいいことだ」
 
 その話を聞いて私は再び万年筆を見た。
 兄に貰った万年筆もかなりお高いだろうと予想していたが、殿下たちに貰った万年筆は、碧だけではなく、金とブラウンの三色が使ってある。かなり高度な技術で作られていることが伺える。
 しかもそれを三本……
 さらにトミーは殿下たちが購入したことで、王室御用達の看板を掲げることが出来る。
 これで商人が知れば貴族にも普及する可能性がある。
 貴族が目を付ければ市場が拡大する。
 市場が拡大すれば新しい技術の普及する。

 アルフレッド殿下のお忍視察はもしかしたら、とんでもない繁栄をもたらすかもしれないと思って胸が震えた。
 
「ふふ、凄い一品ですね……」

 私はじっと万年筆を見つめた。
 するとアルフレッド殿下が楽しそうに言った。

「この万年筆は本当に美しい。トミーに確認したら砕けた万年筆を作ったのはトミーだった。ジェイドの兄のジーク殿は本当に物を見る目があるようだ。今後、何かあったらジーク殿に相談するのもいいかもしれないな、その時はジェイド、橋渡しを頼むぞ」

「はい!!」

 私は砕けたガラスケースに入った兄に貰った万年筆を見つめた。
 壊れてしまったが、兄が私にこれをくれたことで私は助かり、新しい技術を持つ職人の未来を救い、国の発展までもたらすかもしれない。

(いいものを見つけてくれて、そしてこんな素敵な物をプレゼントしてくれて、ありがとう……あ兄様……)

 私は兄に心の中でお礼を言った。
 それに……この万年筆の色は本当に二人の目の色と同じだった。

「どこにいても、お二人を思い出せそうで嬉しいです」

 この万年筆は大切にしまっておこう。
 そして、遠い未来で離れて二人のことを想ったら取り出して眺めようと思った。
 するとランベール殿下が私の顔を覗き込みながら言った。

「まぁ、思い出すなどという言葉が必要ないほど、側にいるつもりだがな……ずっと――」

 ずっと――
 私は嬉しさで泣きそうになるのを堪えながら笑顔で返事をした。

「そうですね!」

 私たちは3人で笑い合ったのだった。



【一章 完結】


――――――――――――――――

一章が完結しました!!
ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございます。

次回からは、いよいよゲームの舞台に入ります。




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