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第1章 幼少期を変える!!
15 これはゲームではないので確実に
しおりを挟むあたたかさを感じて目を開けると優しい声が聞こえた。
「おはよう……ジェイド」
至近距離でランベール殿下の声が聞こえて今の状況を確認した。私は信じられないことに、抱き枕のようにランベール殿下に足を巻きつけて寝ていたのだ。
(私、寝相悪すぎだよ!!)
「ランベール殿下、おはようございます。寝相悪くて申し訳ございません!!」
私が慌ててランベール殿下から足離すと、殿下は不機嫌な様子もなく優し気に言った。
「気にするな。それよりも熱は出なかったようだな……」
ランベール殿下に微笑まれた。寝起きでぼんやりとしていたこともあり、ランベール殿下の甘やかで優しい笑顔を見て心臓に悪いと思うほど鼓動が早くなった。
「……はい。つらい思いをすることもなく……ランベール殿下に巻き付いても気付かなかったくらいぐっすり眠れました」
動揺を隠して返事をすると、ランベール殿下が楽しそうに笑った。
「ははっ。今日はよだれを付けられなかったからな、そんなに気にするほどではない」
それを聞いてはっとした。
「確かに……よだれをつけなくてよかった!! 本当によかった!! あ、こんなに大きな声を出すとアルフレッド殿下が起きてしまいますね……」
私たちが話をしている横で、アルフレッド殿下は寝相よくぐっすりと眠っていた。
それにまだ外はそれほど明るいというわけではなかった。
「フレッドは、そう簡単に起きない。気にしなくていい」
「そうなのですか?」
てっきりアルフレッド殿下は目覚めもよく、爽やかなのだろうと思っていたので意外だった。
それにしても眠っているとアルフレッド殿下のまつ毛がとても長いことがわかる。
(ランベール殿下は生きているし……もう3年後に『盗賊団を壊滅させる!!』なんて危ないことは言わないよね?)
そう思ってはたと気づいた。
本当に言い出さないだろうか?
怪しくないか?
アルフレッド殿下は市井に興味深々だ。何かのきっかけで盗賊団の存在を知ったら……
ゲームでブランカとアルフレッド殿下が協力してこの事件の盗賊団を潰そうとするのは3年後。
3年で盗賊団はかなり人数も増えて凶悪さも増したのではないだろうか?
結局、昨日のように3人で調査すると言い出すのでは……?
(危ない!!)
ゲームの知識があるので、私は盗賊団の根城を知っている。
ただ……まだゲームよりも3年前なので本当に盗賊団の根城が存在しているのかわからない。
(今のうちに言った方がいい? でも、誰に??)
アルフレッド殿下とランベール殿下に言ったら二人が『確認に行く』と言い出す可能性だってある。
誰か……相談できる人はいないかな……
「そんなにフレッドを見つめてどうした?」
私がアルフレッド殿下を見つめながら、盗賊団のことを考えていると、背後からランベール殿下に声をかけられた。
「いえ……アルフレッド殿下、まつげ長いな、と思って……」
盗賊団のことを考えていましたとは言えないので、私が当たり障りのないことを言うと、ランベール殿下が無邪気に笑った。
「ジェイドだって長いだろ?」
「え? そうですか?」
「ああ……」
私たちが話をしていると、「ん~~」という声が聞こえてアルフレッド殿下の方を見た。するとアルフレッド殿下の目が開いて、アルフレッド殿下と目が合った。
「おはようございます」
私があいさつをすると、アルフレッド殿下が眠そうな目で「おはよう」と言った後に小さく笑いながら言った。
「ところで、ジェイド……おまえ、寝相悪いな……突然お前に抱きつかれて何事かと思ったぞ……ランベールが引き離してくれたが……」
信じられない!!
どうやら私はアルフレッド殿下にも抱きついていたようだ。
「え!? 私、アルフレッド殿下にも抱きついていたのですか?」
「にも? ということは、ランベールにも抱きついていたのか?」
アルフレッド殿下が首を傾けたので私は素直に答えた。
「はい……朝起きたら」
アルフレッド殿下は寝起きだというのに楽しそうに笑い出した。
「ははは、では、ランベールがジェイドの寝相の生贄になってくれたのだな……おかげでゆっくり眠れた。それで、体調はどうだ?」
「熱もなく、すこぶる快調です。腕も痛くありません」
「そうか……だがあの寝相で腕は痛まなかったのか……昨日は左腕が痛かった私の方に寝返りをうって抱きついたのだろうが……ランベールに抱きついて痛くなかったのか?」
アルフレッド殿下にそう言われて、私はランベール殿下の方を見た。
ランベール殿下と私の寝ていた場所の丁度腕と背中の辺りに寝る時にはなかったソファーに置かれていたクッションが置いてあった。
「このクッション……?」
私がクッションを手に取ると、アルフレッド殿下が思いついたというように得意気に言った。
「わかった、もしかしてランベール……私からジェイドを引き離して、自分に抱きつくようにしたんじゃないか? クッションを持ってきてジェイドの腕の傷の負担にならないようにしたのだろう?」
「え!? そうなのですか?」
私がアルフレッド殿下にくっついていたのを剥がしてくれただけではなく、クッションまで用意して寝返りまで打てるようにしてくれた??
ランベール殿下は困ったように言った。
「まぁ……ジェイドが私に触れていてくれれば熱が出た時、すぐにわかるからな……みんなゆっくり眠れると思った。それにクッションがあれば、ジェイドも腕が痛くないだろうと思ってな」
私は思わず感動してしまった。
「優しい……」
するとアルフレッド殿下も言った。
「確かに優しい……」
ランベール殿下は顔を真っ赤にしながらベッドから出た。
「別に、俺は元々ジェイドを一晩中見張るはずだったんだ。二人でくっついていれば、体温の変化がわかりやすくて楽だと思っただけだ!!」
アルフレッド殿下はくすくすと笑いながら言った。
「だから、それが優しいのだろう? 照れるな、ランベール」
耳まで真っ赤になったランベール殿下の背中に向かって言った。
「ありがとうございました、ランベール殿下」
するとランベール殿下は振り返ると、「気にするな、それよりデニス隊長が話を聞かせて欲しいと言っていただろう? 支度をするぞ」と言っていた。
(デニス隊長に話?)
私はそれを聞いて目の前が明るくなった気がした。
(そうだよ……どうして気が付かなったの??)
ゲームではデニスはBADエンドの使者と呼ばれていた。つまり、始めから私たちではなくデニスが動いていれば、苦労はなかったのではないだろうか?
(もしかして、ここでデニス隊長に盗賊団の根城を教えてしまえば、アルフレッド殿下ルートのBADエンドはほとんど回避できるんじゃ……)
私は姿勢を正すと二人を見ながら言った。
「デニス隊長に話……私も早く隊長にお伝えしたいです」
二人は私の雰囲気が変わったのを感じたのか真剣な顔で「そうだな、支度をしよう」と言ったのだった。
◇
その後私たちは、騎士団のデニス隊長から昨日のことの事情聴取をされることになった。
私たちの話を聞いて、デニス団長が眉を寄せた。
「ふむ……では始めは1人の盗人を追っていたが、ヤツラは他にも仲間がいたと……」
「そうです」
ランベール殿下が答えると、デニス隊長が私を見ながら尋ねた。
「その話を聞くと、昨日捕えた者だけではないような……組織的な犯行のように思えますな……実は、同じような事件が近隣の町や村でも複数件確認されているのです。他に何か気づいたことは?」
組織的な犯行!?
私は拳を握りしめて、デニス隊長に向かって言った。
「デニス隊長!! もしかしたら西の門を超えて、二つ目の村の外れにある見捨てられた教会……そこが彼らの根城かもしれません!!」
デニス隊長が驚いた顔で私を見ながら尋ねた。
「ジェイド、なぜ彼らの根城を知っている?」
ゲームの中で知っていたとは言えないので、かなり言葉を濁して言った。
「え? あ~~話をしているのを聞いたので……」
嘘ではない。
ゲームで聞いたのだ。
「わかりました……私が責任をもって調査いたします」
私は「お願いします」と言って深々と頭を下げたのだった。
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