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第4章 クラウスルートを強制攻略!?
1 社交へのお誘い
しおりを挟む馬車の中から見える外の天気は晴れ。
暑くも寒くもなく快適な気候。
そんな中、長距離移動用の豪華絢爛な王家の馬車の中で、私は恐ろしく着心地のいい服に身を包まれて恐縮していた。
「あの……移動中にもこんな素敵な服を着る必要がありますか?」
私はとても機嫌のいいアルフレッド殿下を見ながら言うと、殿下が声を上げた。
「仕方ないだろ? ランベールもジェイドの服を選びたいと駄々をこねたのだから……」
すると隣に座っていたランベール殿下も声を上げた。
「フレッドばかりズルいだろ。動きやすい普段着を選んで我慢したんだ。移動でも、普段でも遠慮せずに着てくれ」
実は私は、今回の社交で着る服を全てアルフレッド殿下とランベール殿下に用意してもらった。
夜会用の服も、普段の服も、寝る時に着る服も――全てだ。
貰う理由がないと、アルフレッド殿下とランベール殿下には言って断ったが、今度はルーク王太子殿下から直々に『ジェイド、頼むから全部受け取ってくれ』と書かれた書状を貰って有難く受け取ることにしたのだった。
(こんな豪華で着心地最高の服が、普段着……さすが、王家)
ランベール殿下はとても嬉しそうに私の顔を覗き込みながら言った。
「(自分が選んだ)良い服を着ているジェイドを見るのは気分がいい」
私はその言葉を聞いてはっとした。そういえば、おしゃれをするのは、周りの人のためだという言葉も聞いたことがある。
(私がいい服を着ていると、周囲も安心する??)
そうでなくとも、私はアルフレッド殿下とランベール殿下と一緒にいて不審がられているはずだ。そんな私が少し古びた兄のお下がりを着ていたら、周囲から浮くのかもしれない。
つまり二人は、社交に慣れていない私を周囲の目から守るためにいい服を用意してくれたのだろう。
つまりこれは――BADエンド回避策!!
私はランベール殿下の腕に抱きついた。
「ランベール殿下、本当にありがとうございます!!」
「え!? そんなに喜んでくれるのか!?」
驚くランベール殿下、そして前からアルフレッド殿下の声が聞こえた。
「ジェイド、私は夜会の服を選んだぞ!?」
私はアルフレッド殿下を見ながら言った。
「アルフレッド殿下も本当にありがとうございます!!」
するとアルフレッド殿下が両手を差し出した。
「そんなランベールの腕に掴まりながら言われてもな、ジェイド、私もハグを要求する」
私はランベール殿下の腕から離れると、アルフレッド殿下の両手を両手で包んだ。
「本当にありがとうございます。馬車の中での座席移動は危険ですので、これでご勘弁を」
「仕方ないな」
どうやらアルフレッド殿下も納得してくれたようだった。すると隣からランベール殿下の低い声が聞こえた。
「フレッド、長い。いつまで手を握っている!! 馬車は揺れる、危ないぞ(折角ジェイドから抱きついてくれていたのに、邪魔して)」
「あ、そうですね」
私は急いでアルフレッド殿下から手を離した。
「たった、数秒で……心が狭いな、ランベールは……」
「危険だと言ったんだ!!」
「それほど揺れてはいないだろう!!」
「そんなの結果論だ。揺れるかもしれないだろ!?」
「私にあたるな!」
「フレッドが空気を読まないからだろ!!」
(うん、今日もアルフレッド殿下とランベール殿下は、大変仲が良い)
私はまるでじゃれ合うように言い合いをする二人をほのぼのとした気持ちで眺めていたのだが、馬車の中から見える景色が変わって窓の外を見た。
のどかな田園風景から、整備された街路樹が続く高級別荘地帯に入った。
小川に掛かる小さな桟橋や、その周りに植えられている綺麗な草木。
ベンチなどもあり、ここがまるで別世界だ。
「綺麗だな……」
思わず呟くと、アルフレッド殿下が窓に近付き私に顔を寄せて来た。
「ほう……やはり社交シーズンだと随分と整備に気合が入っているな……一体、どれほどの人員を導入したのか……まぁ、この辺りの領民にとっては臨時収入となるだろうからいいのだろうが……」
さらにランベール殿下も私にのしかかるように顔をくっつけて外を見た。
「そうだな……随分と資金を投入しているな」
私は美しい庭を見てとても現実的なことを言う二人を前にして思わずため息をついた。
「はぁ~~お二人とも……それ、令嬢皆様の前では言わない方がいいですよ。こんなに綺麗な庭を見て、人員だの、資金だのと言われたら、ロマンの欠片もないのでがっかりされます」
すると二人は同時に私を見た。そしてランベール殿下が慌てて声を上げた。
「ジェイドもがっかりしたのか?」
「……がっかりというより心配ですね」
「心配?」
「はい。これから社交で令嬢とお話することも多いでしょうから、お二人が仲良くなりたい令嬢にがっかりされたらと思うと心配です……」
「ジェイド……随分と、令嬢の気持ちがわかるのだな……バーバラ嬢と数日一緒にいたからか? おい、フレッド、ジェイドを令嬢の前に出して本当に大丈夫か? 令嬢の気持ちがわかるのだ、大変なことになるのではないか?」
ランベール殿下が謎の心配を始めた。
どうして令嬢の気持ちがわかる私を心配するのだろうか?
普通は逆ではないだろうか?
「……確かに心配だな……」
アルフレッド殿下まで眉を寄せた。
(え? 何で? どうして??)
「ジェイド、いいか? 絶対に俺たちから離れるな」
ランベール殿下の言葉に私は首を振った。
「いえ、無理ですよ。お二人の社交の邪魔になります」
「社交など、どうでもいい。どうせ、3人でのんびりとする口実だ」
「そうだ。社交など気にするな」
「気にします。絶対に社交第一です!! 全く、何をおっしゃっているのですか!! 社交をしっかりとされないのなら、私は二度とお二人とは出掛けません。友人としてお二人の足を引っ張るわけにはいきませんから……」
アルフレッド殿下もランベール殿下も目に見えて、しゅんとなった。無いはずの耳としっぽが見えた気がして急いで声を上げた。
「すまない。社交第一だ。うん」
「ああ、そうだな……社交第一だな」
二人の言葉を聞いて私はほっとした。
その後、馬車が停まり外を見ると、大きな屋敷の門の前にいるようだった。
「着いたようだな」
「ここが王家の別荘ですか……凄いですね……」
門の前には森が広がっているように見えて、まだ屋敷が見えない。余程広大な土地なのだろう。
「ん? ジェイドには言っていなかったか? 我々が宿泊するのは、シュテルン家の別荘だ」
「え? シュテルン家!?」
シュテルン家と言えば、クラウスの家だ。
(クラウスがいるとは限らないけど……)
「そう言えば、ジェイドには着いてからのことばかりで、別荘に泊まるとしか言っていない気がするな……」
ランベール殿下が口を開いた。
「ああ、そういえば……そうかもしれない。何かあるのか?」
アルフレッド殿下に聞かれて、私は説明した。
「学園でよく話をする方の家です」
「ジェイド、モーリス以外にも仲のいい男がいるのか!?」
アルフレッド殿下が声を上げたが、仲のいい男というと若干の違和感を感じるのは私だけなのだろうか?
「はい……鉱物の授業を取っているのでよく話をします」
そんな話をしている内に馬車が大きな屋敷の前に停まった。
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