神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番

文字の大きさ
10 / 46
第1章 2度目の人生の始まり

第10話 高位貴族のお作法

しおりを挟む


「今週末にお茶会をするのだけれど、レオも来ない?」

 新学期が始まって数日経った頃。
 俺はノア様にお茶会に誘われた。

「私がお伺いしてもよろしいのでしょうか?」

 自慢ではないが、俺は伯爵家以上の家のお茶会に参加したことなどない。
 ノア様の家は侯爵家だ。しかも宰相家でもあるので、公爵家程の力を持つ家柄だ。

(はっ!! マナーは大丈夫だろうか!?)

 父に相談してマナーの講師を短期間で雇ってもらう必要があるかもしれない。
 俺がそんなことを考えていると、ノア様が笑いながら言った。

「今回は気軽なお茶会だから、マナーはそこまで気にしなくていいよ」

 『気軽なお茶会』侯爵家が主催するお茶会でそれはまず有り得ない。
 以前の俺なら本当に気軽に参加していたかもしれないが、領主となり、少なからず高位貴族の内情を知っている今、これは伯爵家の子息である俺にとって戦場へのお誘いとも同義だった。

(行くのは怖い……が断るのはもったいない!!)

 さらに高位貴族からの誘いを断るにはそれ相当の理由がいる。そして、ただの学生である今の俺にそんな大層な理由があるはずもなかった。

「ありがとうございます。嬉しいです。では、遠慮なくお伺いいたします」

 俺は内心、不安で心臓が大きく脈打ちながらも笑顔で答えた。

「お茶会でそんなに喜んでもらえると嬉しいな~。アレクもリアムも『行かなきゃダメか?』なんて言うんだよ?! 誘い甲斐ないよね~~~!!」

 ノア様がリアム様とアレク様をジト目で見ながら言った。

「では、ノアは私がお茶会に招いたら喜ぶのか?」

 リアム様の言葉にノア様はにっこりと笑った。

「冗談!! 断れるなら断るに決まってるよ♪」

「どうして自分はそう答えるのに俺たちを責められるんだ?」

 リアム様が首を傾げると、アレク殿下が溜息をついた。

「はぁ~茶会には出席すると言っているんだ。喜ぶことまで強要するな」

 アレク殿下の言葉に、ノア様が頬を膨らませながらぼやいた。

「それは感謝してますよ。アレクとリアムが来なかったら、僕一人が大変な目に合うので! でも少しくらい楽しんでくれる人がいないと、悲しくなるでしょ? お茶のお菓子だって毎回結構趣向を凝らして出してるのに、みんな手をつけてくれないしさぁ~」

「まぁ……その気持ちはわかる」

 リアム様も頷いた。するとノア様が俺を見て嬉しそうに笑った。

「で・も♪ レオは楽しそうにしてくれてるから、誘った僕も嬉しい~~!! 楽しんでねレオ!! 赤いケーキがあるんだけど、それ僕が考えたケーキなんだ♪」

 てっきりお茶会は、執事長などが取り仕切ると思っていたが……

(なるほど……高位貴族の方々はこんなに幼い頃から御自分でお茶会を計画し、内容まで考えておられるのか……)

 俺は一度もお茶会を開いたことはない。
 だが、少しでもお茶会などと開いて人脈を広げたり、社交を学んでいれば大きな失敗をすることもなかったはずだ。
 これまでの自分がいかに貴族の子息としての責務を怠っていたのかを思い知った。
 俺はこんなに幼いのに、お茶会のお菓子まで考えているノア様に尊敬の念を抱きながら言った。

「ノア様が……それは凄いですね! 楽しみにしていますね」

「ふっふっふん♪ あと、緑のケーキは前回妹が考えて、僕も好きなケーキなんだ!」

(ノア様、とても楽しそうだな~あ、もしかしてノア様はケーキが好きなのか?)

「ノア様はケーキが好きなのですか?」

 するとノア様は驚いた後、少し恥ずかしそうに笑った。

「ケーキが好きというよりも、ケーキを食べて喜んでくれるのが嬉しいのかも? それにお茶会で出されるお菓子ってどれも似たような物で飽きちゃうでしょう?」

(ああ、なるほど……やはり、こんな幼い頃から問題点と解決策を意識されているのか……勉強になるな~~)

「ノア様のお茶会楽しみにしてます!」

「うん!!」

 ノア様が嬉しそうに笑いながら返事をしてくれた。するとそれを見ていた殿下が小さく笑った。

「そうか。レオは楽しみなのか! 確かにレオが楽しそうにしているのに水を差すのはよくないな。では私は今回はお茶会を楽しむレオを楽しみに参加することにしよう!!」

 アレク殿下が俺を見て笑った。

「え?」

(――楽しむ俺を楽しむ?? 待ってくれ……それはさらに、参加するハードルが上がったのではないか?)

 俺は決して楽しみにしていた訳ではない。敢えていうなら、腹をくくっただけだ。だが、俺は他人からは随分と楽しみにしているように見えたようだ。

「ああ、確かにそれなら行く気になるな。私もレオの喜ぶ様子を見に行くとしよう」

 するとリアム様が大きな目を細めながら言った。

(俺が喜ぶ様子を楽しみに参加されるなどと……そんなことを楽しみにされるとは、どれほど過酷なのだ!  高位貴族の方々のお茶会とは?!)

 俺はとんでもない招待を受けてしまったことに震えてしまったのだった。



+++



 家に帰り宰相家の『お茶会に誘われた』と告げると、父と秘書のオリヴァーが目を丸くした。
 二人はすぐに俺の茶会用の服と、マナーの講師を手配してくれた。
 
 そして、万全の状態で当日を迎えた俺は……

(おお~!! このお菓子美味しいな~~!! ノア様……凄いな)

 マナーは大丈夫だろうか、あいさつは問題ないだろうか、馴染めるだろうかと散々心配ながら臨んだお茶会だったが……

 ――結果。

 俺は侯爵家のお茶会を誰よりも楽しんでいた。
 文字通りお茶会だ。
 美味しいお茶とお菓子に舌鼓を打っていた。

 そうここで重要なのは、ということだ!!

 いや、初めは色々な方にあいさつをしようと思っていた。
 令嬢がたくさんいるし、あわよくば美しいご令嬢と仲良くなれたら……とも思っていたが……

 ご令嬢はアレク殿下と、ノア様とリアム様以外に興味はなかったのだ。そして中には以前、名前のわからなかったカラバン侯爵家の令嬢の姿もあった。彼女はどうやらノア様に夢中のようでノア様から離れようとしない。さらに言うと、俺の方を見ることさえなかった。
 
(幼い頃は皆、高位貴族の方々にしかご興味はないよな……)

 そういえば俺に声をかけてくれたのは、彼女が学園を卒業してからだ。学園で高位貴族の方々と懇意になれず、領地に戻り『伯爵家の俺でいいか』と声をかけてくれたのだろう。

(今ならもう少し上手く立ち回れるかもしれないな……まぁ、もう名前を覚えたから問題ないな。彼女はシンディ様。本日いらっしゃっているご令嬢の家とお名前はすべて手帳に控えた。問題ない)

 俺は一人だったので、その隙に手帳に令嬢の情報を書き込んだのだ。
 そして過去のことを少しだけ思い出した後に、再びノア様の提案したという赤いケーキを食べていた。
 何のケーキなのか皆目見当はつかないが、少し酸味があって甘すぎずに胃が重くならないためいくらでも食べられそうだ。

「まだまだたくさんあるし……もう一つ頂いてもいいかな?」

 俺は『私は全くお茶会を楽しめていないだろう』と言っていたアレク殿下に視線を向けた。

「グルシア殿下~、わたくし殿下のためにドレスを新しくしましたの~」
「あら、それでしたら、わたくしも新しいドレスでしてよ」

 本名アレクサンダー・グルシア殿下。愛称アレク殿下。
 アレク殿下の周りには常時7人から8人の令嬢が側についていた。
 令嬢と令嬢の隙間から殿下と目が合ったので、俺は優雅にお茶の入ったカップを持ったまま微笑んだ。
 すると殿下が小さく笑った。だがすぐに令嬢に隠されて殿下が見えなくなった。

 今度はリアム様の方を見た。リアム様も常に5人から6人の令嬢に囲まれていた。

「ネーベル様、わたくし最近経営の勉強を始めましたの、わからないところがあるので2人で教えて頂けませんか?」
「まぁ!! ネーベル様、私も学んでおりますの! ぜひ私にも」

 本名リアム・ネーベル。
 リアム様とも一瞬目が合って、俺はにっこりと笑った。
 するとリアム様が一瞬ほっとしたような顔をしたが、やはりすぐに令嬢によって隠されてしまった。

 そしてノア様の方を見た。ノア様もやはり5人から6人の令嬢に囲まれている。

「クラン様、お庭美しいですわ~。案内して下さいませんか?」
「それなら私もぜひ~~」

 本名ノア・クラン。
 ノア様とも目が合ったので、俺は楽しんでいることを伝えようと、ノア様にひらひらと手を振って、赤いケーキを見せて笑顔を見せた。
 するとノア様は一瞬驚いた後、嬉しそうに片目を瞑ってくれた。

 今回のお茶会は、令嬢は20人程招待されていたが、男性は俺を含め4人だ。
 これは、令嬢たちにとっての非公式な高位貴族との出会える貴重な場だったのだ。
 つまりこの会は侯爵家主催のお茶会という名のお見合いパーティー。

(なるほどな。たまにアレク殿下やリアム様やノア様にお会いして、学園に入学した時に一気に距離を縮められるようにしていたのか。高等部までにある程度相手を絞り込んでおいた方が、令嬢の方も学園に入った時、他に目を向けられるから合理的だよな。)

 俺は伯爵子息で貴族としては地位の高い方だ。
 だがアレク殿下やリアム様やノア様と比べるとかなり家柄は下だ。
 今日集まっている令嬢の年は私と同じが少し上か少し下の令嬢ばかりだ。
 まだまだ高位貴族の方の奥方になれる可能性は大いにあるので、私のような伯爵に話しかける者はいないのだ。

 そして俺は、ノア様の妹さんが関わったという緑のケーキを口に入れた。

(ん?? 苦味を感じるのに、爽やかで甘さが引き立つ!! 美味しい!! さすがノア様の血縁者センスがいいな~)

 俺はお菓子を食べながら感動していた。そのくらい美味しかった。

「もう一つ食べたいな……」

 思わず呟くと、近くから声が聞こえた。

「そんなに美味しいの? それ?」

 声のした方を見ると、先程まで1人だったテーブルに知らない令嬢が座っていた。

(嘘だろ!? ケーキに夢中で全く気が付かなかった!! あれ……このご令嬢、ノア様に紹介された令嬢の中にいらっしゃらなかったよな?)

 俺は不思議に思ったが急いで口を拭きながら答えた。

「失礼いたしました。ケーキに夢中で……あの、質問のお答えですが……とても美味しいです! このケーキは大変、斬新かつ繊細で大変素晴らしいケーキですよ」

「ふ、ふ~ん。苦くない?」

 令嬢は素っ気ない様子だが、どこかそわそわしながら返事を待っているようだった。

「少し苦味は感じますが、その苦味が甘さを引き立てていて、私は凄く好きです!」

「え? 好き?」

 すると、令嬢は小さな声でぶつぶつと何かを言っていた。

「(困ったな……男の人に、す、好きだなんて……初めて言われた……嬉しい!! 待って、でも……これ、すぐに受けてもいいの?? あ、でもお姉様は『殿方は少し焦らしなさい』っておっしゃって……)」

 何か言っているようだが、あまりに小声で聞こえなかった。
 俺は不思議に思いながらも、目の前のケーキを食べることに集中した。
 屋敷に戻ったらアルに報告し、明日にはノア様にケーキの感想をお伝えしなければならないのだ。ケーキの感想と言えど手は抜けない。

(ん~やっぱりこの緑色のケーキも美味しいな~)

「いいわ!!」

「え?」

 突然、先程までぶつぶつと独り言を呟いていた令嬢が立ち上がって俺の方を見た。

「今から、剣の勝負をしましょう! あなたが勝ったら私はあなたの思いに答えるわ!!」

「え? え? え?」

(なんだ? 今、とんでもない言葉が聞こえなかったか? 勝負!? 俺、そんなに不敬なことを言ったのか~~!?)

 俺が戸惑っていると、令嬢が歩き出した。

「さぁ!! ついて来て!!」

「え? え? はい……」

 状況はよくわからないが、今日ここにいらっしゃる方々は皆様、高位貴族のご令嬢だろう。
 揉め事を起こして、折角招待して下さったノア様の顔を潰すわけにはいかない。

(逆らわない方がいいんだろうな~~令嬢って……やっぱり怖い!!)

 俺は震えながら令嬢について行った。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...