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第1章 2度目の人生の始まり
第20話 裏を知り表を敬す
しおりを挟む「失礼いたします」
「入ってくれ」
返事をすると料理長が部屋に入って来た。ワゴンには美味しそうなお菓子が並んでいる。どうやらお茶会のためのお菓子を考えてくれたようだ。
料理長は俺たちの元まで来ると少し緊張した様子で言った。
「レオナルド様、今度のお茶会にお出しするお菓子、このようなものはいかがでしょうか?」
木の実を使ったものや、フルーツを使ったもの。
種類もタルトにビスコンティ、マドレーヌにパイにスコーン。
ノア様の出して下さった野菜のケーキほどインパクトがあるわけではないが、それでも料理長のセンスと腕が光っている。
俺はスコーンを手に取った。
通常の物よりも小さめだ。確かにこれながら食べやすいかもしれない。
そして口に運んだ。
小麦粉が香ばしくいい匂いだ。食感も申し分ない。添えてあるジャムもなんのジャムかわからないが美味しい。
「うん。美味しい。文句なしにいいな。ところでこのジャムはなんだ?」
俺が頷くと、料理長がほっとしたように言った。
「ありがとうございます。このジャムはルバーブです。当日はこれに飴細工で飾り付けいたします」
ジャムの原料を聞いてみたがよくわからなかった。
だが、この味で飴細工で飾ってもらえるなら、もてなしとは問題ないだろう。
「飴細工か……それは楽しみだ。頼むぞ」
「かしこまりました」
そして俺は、先程まで一緒にテーブルクロスの色を話し合っていたエリーに視線を向けた。
「当日はこのお菓子を飴細工が彩るのか……それならば、できるだけ引き立つように配置を調整しよう。エリー、話は聞いていたな? その辺りの配置は任せてもいいか?」
「はい。レオナルド様。お任せを」
俺がお菓子や会場についての話し合いをしていると、大きな音と共に扉が開いてアルが入ってきた。
「兄さん!! ようやく、皆様にお出しするお茶候補が決まりました!! これらは全てあの花の蜜によく合うお茶です。飲んでみてください!!」
アルがアンリと共の数種類のお茶を持って入ってきた。
俺は料理長を見ながら言った。
「一緒に試飲してくれるか? 花ももちろんだが、お菓子にも合わせたい」
料理長は微笑みながら言った。
「はい。かしこましました」
「皆さん、こちらです!!」
俺たちはアルに促されて、お茶の試飲の用意がしてあるテーブルへと向い、数種類のお茶を飲んだ。どれも華やかな花の蜜を引き立てる、繊細で上品な茶葉だった。
「うん。いいな! さすがだな。どれもいいな」
俺がアルを褒めると、アルも嬉しそうに笑いながら言った。
「ふふ。ありがとうございます。それで、兄さんはどれがいいと思いますか?」
「ん~~~。このお茶の華やかな香りはいい。だが、こちらのお茶の後口はすっきりしていていいし……蜜の甘さを引き立てるなら、この少し味に深みがあるのもいいが、こっちのお茶も甘さをしっかり感じていいな……困ったな……」
「そうなのです。俺たちも決めかねてしまって……」
アルも眉を寄せた。
俺は料理長を見た。
「どう思う?」
料理長は、すべてのお茶を試飲して三つのカップを差し出しながら言った。
「この三つでしたら、どれも菓子とも合います。他は、香りが強かったり、主張が強いように思いますので単独で楽しむのに向いているかと……」
俺はその話を聞いて声を上げた。
「では、この三つにしよう。そして、当日にそれぞれお客様に決めていただくのはどうだろか? 当日にお茶の特徴を説明するのは大変だろうか?」
俺がアンリに尋ねると、アンリがにっこりと笑った。
「いえ。問題ありません!!」
「では、当日お客様の好みで決めていただこう」
「はい!!」
俺たちはお茶会の準備を進めた。
お茶会の準備というのは俺の想像以上にとても大変だった。
正直なことを言うと、お茶会の準備がこれほど大変だとは知らなかった。
(以前は、お茶会など開きもしなかったな……)
誰かを招くために準備するのはとても大変だ。
だが大変だからこそ、普段話をしない屋敷の人ともたくさん話をした。
結果的に、俺はこの屋敷にどんな人物がいて、何が得意で、どういう人柄なのかを今更ながらに知ることが出来た。
(これが本当のケガの功名というやつだな……)
大変だったが、少しだけ自分の世界が広がったことが嬉しくて小さく笑ったのだった。
+++
そしてお茶会当日……。
俺はエントランスに立って皆様をお迎えする準備をしていた。すると、クラン家の馬車が見えた。
「ノア様とキャリー様だ」
俺は隣に立っていたアルに小声で告げた。するとアルが俺に確認するように言った。
「では、俺はあいさつが済みましたら段取り通り、お2人を先に会場にご案内致します」
「ああ。頼んだ」
馬の泣き声と共に馬車が止まると、馬車の中からノア様と、リアム様に手を引かれてキャリー様が出てきた。
(ん? リアム様、ノア様とキャリー様と一緒に来られたのか……)
てっきり、リアム様はお1人で来られると思ったが、ノア様とキャリー様とご一緒されていたようだ。
「レオ様~~。本日はお招き頂きありがとうございます♪」
キャリー様が花のような笑顔を向けたくれた。
「これはキャリー様。ようこそお越しくださいました!!」
俺があいさつをすると、ノア様が口を開いた。
「レオ。今日はお招きありがとう」
「ノア様、お待ちしておりました!」
「私は、レオの家に来るのは初めてだったからね。ノアに同行させてもらったよ」
リアム様が笑いながら言った。
「リアム様。ようこそおいで下さいました。お気遣い感謝致します」
正式なお茶会などでは、エスコート以外で乗り合わせなどはしないが、友人同士の気楽なお茶会では、ゲストを迎えるホストの迎えの手間を省くために乗り合わせをすることがよくある。
きっとリアム様は俺に気を遣ってくれたのだろう。
(リアム様は公爵家の方なのに……乗り合わせなど……有難いな)
俺は、隣にいるアルを皆様に紹介することにした。
アルはケガをした俺の手伝いをするためによく俺の教室に顔を出しているので、すでに皆様には紹介済みだった。キャリー様も医師に見せた後、家まで送って下さる時によく同行してくれていたので、何度もアルに会ったことはある。
だからこれはただの形式とも言えたが、念のために紹介することにした。
「皆様、ご存知かとは思いますが、改めてご紹介いたします。弟のアルフィーです」
アルが、懸命にお辞儀をした。
「こんにちは。レオナルドの弟、アルフィーです。本日は皆様を会場までご案内いたします」
するとノア様が楽しそうに笑った。
「ああ、よろしく頼むね、アル」
「いつも、レオにべったりだからな~~一度話をしてみたかった。今日はよろしく頼む」
リアム様がアルを見ながらニヤリと笑った。
「え? レオ様にべったり?!」
リアム様の言葉になぜか、キャリー様が反応した。
「ああ、最近はそうでもないが、手をケガしていた時は、登下校も昼食も常にアルが一緒にいたな」
リアム様がニヤリと笑いながらキャリー様を見ながら言った。
「そうなのですか?! ずるいですわ!! アル様!!」
(なんだ? この空気は?)
なんだか不穏な空気になり俺が戸惑っていると、アルが美しく笑った。
「手を怪我した兄の手伝いをするのは当たり前です。私は弟なので」
(あれ? なんか……アル、目が笑ってないような?)
「ん~~、なんかレオ争奪戦??」
「あはっ! リアム、僕らも参戦する?」
リアム様の言葉にノア様が楽しそうに笑いながら言った。
これはきっと皆様の冗談……だよな?
俺は背筋を伸ばして、アルに向かって言った。
「アル。お客様の案内を頼む」
俺が空気を変えるために、アルに案内を頼んだ。
「はい!! 皆様、こちらです」
するとアルが姿勢を正して皆様の案内を始めた。
「じゃあ、レオ、先に行ってるね」
ノア様が片目を閉じた。
「はい、ごゆっくり」
俺はノア様に笑顔を返した。
皆様の姿が見えなくなった頃、執事のギョームが小声で言った。
「レオナルド様。王家の馬車が見えました」
「わかった」
俺は姿勢を正して、アレク殿下を待ったのだった。
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