神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番

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第1章 2度目の人生の始まり

第19話 まさかの全員参加

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 家に帰ると、俺は父とアルフィーにこの屋敷でお茶会を開くことを伝えた。
 父は静かに頷き、アルは目を輝かせながら言った。

「この屋敷でお茶会!! それでは、何か皆様に喜んでもらえることを考える必要がありますね!!」

 アルは嬉しそうなので助かるが、正直俺は頭を抱えていた。

「招いたのは俺だが……あの方々に喜んでもらえそうなことが、思い浮かばない!!」

 野菜のケーキなどと斬新なおもてなしを受けた後で俺ができることなど思いつくはずもなく「う~ん」と唸っていると、アルが顔を輝かせながら言った。

「そうだ!! あの現在生産量を増やしている蜜の花はどうです? 確かムトもかなり増えたって言ってましたよ? 今回のお茶会で振舞うくらいの量ならもう生産出来ているはずです」

 蜜の花?
 そう言われてしばらくしてようやく、思い浮かんだ。

(庭師が改良してできたあの花のことか!! そういえば、オリバーが食用としての認定通知が届いたと言っていたな……)

 俺はすぐに頷いた。

「ああ!! それはいいな!!」

「ええ。では、エリーに蜜の花に合うお菓子も考えてもらいましょうか? ああ、そうだ。ギョームやアンリに相談してもいいかもしれません。彼らはとても面白い考えをしています。それに……」

 アルは次から次に使用人の名前を上げて、その人物が得意なことや出来ることなどを教えてくれた。

(すでにこの屋敷の人間の能力はすでに把握しているのか……)

 領主として、適材適所に人員を配置できるというのは素晴らしい能力だった。

(ああ……アルが将来、領内の視察を始め、地域の特性や、皆の能力を知るようになれば、この領はもっと発展するだろうな……)

 以前領主をやって身に染みて感じたことだが、領とはつまり人なのだ。
 どんな人間がいて、どんな生活をしていて、どんな思考をしているのかを把握することが政策に繋がる。
 一部の人間の理想論だけで動かして上手くいくほど、人の暮らしというのは単純ではないのだ。だからこそ地道な視察や現場との話し合いが必要なのだ。
 それを若干8歳で実行する人材が側にいる。俺は嬉しくなってアルの頭を撫でた。

「アルは凄いな。では、今回のメインは蜜の花!! お菓子はエリーとアイリと料理長に任せ、会場の設営はギョーム中心に任せよう。皆への依頼はアルに任せてもいいだろうか?」

 アルは嬉しそうに俺を見ながら言った。 

「もちろんですが……私の考えをそのまま認めて下さるのですか?」

「ああ。正直、俺はよくわからない。普段から彼らと接しているアルに任せたいと思う。アルはきっと素晴らしい領主になれる」

「領主になるのは兄上ですが、お褒め頂いたことは嬉しいです!! これからもお役に立てるように頑張ります!!」

「ああ」

 それから俺はアルと共にお茶会の準備を始めた。


+++


 学園に行くと、俺はノア様とアレク殿下とリアム様に招待状を渡した。
 ノア様だけにお渡ししようとかと思ったが、お2人にも腕が不自由な時に随分と助けてもらったので招待状をお渡しすることにした。

(お二人ともお茶会は苦手だと言っていたし、お忙しいだろうからな。断られるだろうが……)

 きっと、アレク殿下とリアム様には断られるだろうが形式的にでも渡そうと思ったのだ。
 招待状をお渡しすると、ノア様が嬉しそうに笑いながら言った。

「ああ、わざわざキャリーの分までありがとう。もちろん有難く招待を受けさせてもらうよ!!」

 俺も笑顔で答えた。

「はい。ありがとうございます。お待ちしております」

 ノア様と笑い合っていると、リアム様も口を開いた。

「レオ、私も招待を受ける」

(え? リアム様もいらっしゃるのか?!)

てっきり断れると思っていたので驚いたが、俺はそれを顔に出さないように答えた。

「ありがとうございます、リアム様。お待ちしております」

 するとアレク殿下が申し訳なさそうに言った。

「レオ………すまない」

 やはりアレク殿下はお忙しいようで、参加は出来ないのだろう。気にせず断ってもらうために返事をしようとすると、アレク殿下が口を開いた。

「当日は、私の他に後1人、客人を連れて行ってもいいだろうか?」

「え?」

 てっきり断られると思っていたが、アレク殿下の口から出た言葉は、予想もしていなかったことだった。

(え? お客様? アレク殿下の?? そんな方を招いていいのか?)

 不安に思っていると、アレク殿下が慌てて言った。

「ああ、心配しないでくれ、このお茶会が内輪だけのお茶会というのは知っている。私も客人の参加をおおやけにはしたくはないからな。このお茶会の招待客は、キャリーを含め私たちだけなのだろう?」

 俺は頷きながら答えた。

「ええ。そのつもりです」

「実はこのような機会を探していたのだ。私が動くとどうしても大袈裟になってしまうからな……レオ、そんなに恐縮しないでくれ。だが、私を助けると思って、ぜひ、頼む」

 アレク殿下に頼まれれば、断ることも出来ずに俺は頷いたのだった。

「はい。では、アレク殿下のお客様もぜひ、お待ちしております」

「ああ、感謝するレオ。私も友人宅での知り合いだけのお茶会など滅多にないから楽しみだ」

 ふと、みんなの顔を見ると、お世辞ではなく本当に楽しみにしているようだった。

(お誘いしてよかった……)

 皆が予想外に喜んでくれて、俺もほっとしたのだった。



+++


 家に戻り、お茶会の参加者を報告すると屋敷の者が皆、驚いた顔をしていた。

「ということで、ノア様たちだけではなく、アレク殿下やリアム様も出席して下さるそうだ。さらに当日はアレク殿下がお客様を連れてみえる。人数が増えてしまったがよろしく頼むな」

 だがアルは誇らしげに言った。

「さすがは兄さんの主催のお茶会ですね!! 私には初めから皆様、参加されると思っておりました……アレク殿下がお客様を連れて来られるというのは気になりますが……」

 アルはまるでわかっていたというように言ったが、俺は胃が少し痛くなっていた。

「あ、いや……私主催なのは間違いないが……これはただのお礼だから」

「殿下や公爵子息様に、宰相家の御子息……レオナルド様!! このギョーム、誠心誠意皆様をおもてなし致します!!」

「私たちも全力を尽くします!! これは、家族に自慢できますね」

 執事長だけではなく、料理長まで息まいていた。
 それほどまでに彼らにとって、アレク殿下やリアム様やノア様というお方は雲の上のお方なのだ。
 正直なところ俺としては、今回のお茶会に参加されるのはノア様とキャリー様だけだろうと思っていた。

 ノア様とキャリー様ならここ数ヵ月、一緒にお茶を飲んだりしていたので少しだけ気が楽だったが、アレク殿下やリアム様とは初めてご一緒するのでとても緊張していた。

 アルはここ数ヵ月、鞄を持ったり食事を手伝うために俺の教室にもよく顔を見せていたので、アレク殿下やリアム様やノア様とも随分と親しくなっていたようだった。
 当日は俺と共に皆様をもてなすために活躍してくれるだろう。

「では、みんな頼んだ」

「畏まりました」

 こうして俺たちはお茶会の準備を始めた。


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