93 / 145
【エリック】(真相ルート)
4 日常が非日常
しおりを挟む「……あっ…ン…お、お兄……様……もう、これ以上は……無理です」
私は痛み耐えながらお兄様を潤んだ瞳で見つめた。
「もう少しだ……こんなに硬くなってるんだ……ほら、ベル……息を止めるな、ゆっくりと息を吐け」
「んっ……は……はぁ……お兄様……ダ…メ……もう……」
「ベル……もう少し……もう少しでいける……」
お兄様がゆっくりと腰を支えてくれていた。
「くっ……はぁ……うう」
「いく!! いけるぞベル!! ……いけた!!」
「やった~~!!」
ようやく私は用意された台に足を曲げずに手をつくことができた。
皆様!! こんにちは!!
私は昨日、クリス様の婚約破棄の書類にサインをして正式にクリス様の婚約者ではなくなりました。まさかあんなに無理だと思っていた婚約破棄がこんなあっさりと、信じられないですよね?
え? 今、何をしていたか?
ああ、今ですか?
現在私とお兄様は、儀式の練習をしています。なんでも近々隣国の女王陛下に謁見するとのことで、その時に必要な前屈のように腰を90度くらい曲げてする礼を練習していたのですが、私は身体が硬くて、90度も曲げられなくて、兄と一緒に訓練してようやく曲げられるようになりました。
柔軟体操だと思っていただけるとわかりやすいと思います。
「ベル!! よくやった!! では次はキスをするか!! 昨日は20分キス出来たからな。今日は30分を目指そう」
そう言うと、兄は私の腰を抱き寄せてきた。
「お、お兄様!! お願いです。少し休ませて下さい。そもそも、本当に世の恋人たちはそんなに長い間キスできるようにキス呼吸の練習をしているのですか?」
私たちはキスの間の呼吸のことをキス呼吸と命名して、その特訓(?)に励んでいた。
「ベルさえ出来れば、練習の必要はないのだが……私は問題ないしな……」
兄がふっと笑った。
「うっ!!」
まるで兄の言葉が矢のように私の胸に突き刺さった。
「いざという時つらいのはベルだと思うのだが……私はすでにできるしな」
「ぐっ!!」
またまた、言葉が突き刺さった。
「こんな赤子のキスより、私としてはもっと大人のキスをしたいが……」
そんな兄の言葉に私はもう開き直るしかなかった。
「わかりました!! 頑張ります!! キスしましょう!! キス呼吸マスターしましょう!!」
その途端、兄は私の唇に自身の柔らかく手入れされた唇を押し付けてきた。
最近の兄は、いつでもとこでもキスの練習をしてくるので困ってしまう。最初は顔を赤らめていた侍女たちも、次第に『またキスしてるわ~』という感じになり、最近では私たちがキスをしていても特に問題なしというように平然としていた。
(なんだか、恥ずかしがっている私がおかしいみたいな空気じゃない? 最近?)
腑に落ちないまま、兄とキスをしていると、執事は至って普通な様子で声をかけてきた。
「お取込み中申し訳ござません。お客様がお見えです」
「……んっ……、ふぅ~。誰だ?」
兄は名残惜しそうに唇を離すと、執事の方を向いた。
「コンラッド様でございます」
予想外な名前に私も驚いてしまった。コンラッド君は、私たちの次の年に入学した2期生で入学した当時からヴィオラ科の不動のトップだった。だから私ともよく一緒に演奏していた。だが、私はどうやらコンラッド君に嫌われているらしく、個人的な付き合いは一切ないので、コンラッド君が家に来るのは意外だったのだ。
「……え? コンラッド君? どうしたのかな?」
私はチラリと兄を見た。
(お兄様と仲がよろしいのかしら?)
すると、兄が大きな溜息をついた。
「わかったすぐに行く」
兄は私の腰から手を離すと、エスコートをするように腕を差し出した。
「ベル。行くぞ」
「は、はい」
私は兄の腕を取ると、コンラッド君が待つサロンに足早に向かったのだった。
+++
「こんにちは、ベルナデット様」
サロンに行くとコンラッド君が優雅に立ち上がって私の手を取った。そして兄の方をついでのように見た。
「エリックも」
「ああ」
兄が少しだけ困った顔であいさつをした。
「こんにちは、コンラッド君どうしたの?」
私はあいさつを返すと、急いでコンラッド君に尋ねた。するとコンラッド君は美しい顔でまるで輝くような笑顔を作って見せた。
「ベルナデット様、婚約破棄おめでとうございます!! これでひとまずあなたを他所に出さずに済んだことに安然致しました。」
「え? あ、ありがとう? ……でいいのかしら??」
婚約破棄をおめでとうと祝われるとは思っていなかったので、私はどう答えたらいいのかわからずに戸惑ってしまった。
「つきましては、ベルナデット様の今度の卒業演奏のパートナーを仕方ないから引き受けてあげようと思いましてね? エリックもそれが一番いいでしょ?」
コンラッド君の言葉に兄は眉を寄せて苦しそうな顔を作った。
(え? どういうこと?)
私は1人訳が分からずに立ち尽くしていたのだった。
52
あなたにおすすめの小説
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた
たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。
女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。
そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。
夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。
だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……?
※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません……
※他サイト様にも掲載始めました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる