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NADIA 川上

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俺って、そんな軽く見えるのかなぁ……

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 数日ぶりに定時で実家の最寄り駅に降り立つと、
 駅前ロータリーの噴水の所にお下げ髪の女の子が
 佇んでいた。

 思わず立ち止まってしまう。

 彼女は高校時代の同級生で、1年前あった
 同窓会の2次会のあと、偶然帰り道が一緒になり
 ……その、なりゆきで、男女の関係を持って
 しまった。


「木村さん……」

「えへっ ―― 会えて良かったぁ……研修医って
 勤務時間が超不規則だって聞いてたから、あと
 30分待って来なかったら、帰ろうと思ってたんだ」
 

 その声は心なしか疲れているように聞こえた。

 彼女・木村沙奈は、自分から倫太朗に近づくと
 その身体を抱きしめた。


「ちょっ ―― 木村さん……」

「ふふ ―― 可笑しいね。アレは1度きりにする
 つもりやったのに、そう思おうとすればするほど、
 桐沢くんの事が頭に浮かんできて、仕事どころ
 じゃなくなってさ……」

「けど、キミは高橋と――」

「あ、知らなかった? 陽太とは別れたの」

「まさか、俺との事が ――」

「陽太が言うには、あたしみたいな”ヤリマン・
 ビッチ”にはもう付き合い切れないって。
 ったく、よく言うよ。そのヤリマン・ビッチと散々
 いい事して来た癖にっ」

「……話し相手になら幾らでもなるけど、エッチは
 しないよ」


 沙奈は自嘲気味に微笑んだ。


「随分とはっきり言ってくれるじゃん。やっぱ
 桐沢くんも他の野郎共と一緒? 擦れっ枯らしの
 あたしなんか抱く価値もない?」

「そうは言って ――」

「じゃあこれからすぐホテルに行ってヤろ。この間の
 桐沢くんホントに良かったわ。またあの時みたく
 あたしに天国見せてよ」


 (もう1年も前の事なんて、いい加減忘れて
  くれよっ!!)

 沙奈の豊満な体は確かに魅力的だが、
 倫太朗は落ち着いた動作で自分の腕から
 沙奈の腕を離した。

 沙奈はその腕をまた倫太朗へ絡め直した。


「頼む、離してくれ。ただの性欲処理でも、
 その場限りの関係でも、キミとはセッ*スしない」


 『もう、いい加減にしろ沙奈』

 その声は2人の後方から聞こえてきた。

 振り返ると、ヨレヨレの作業衣姿の若い男が
 足早にやって来る。

 間近に立ち止まった所で倫太朗はやっと
 その若い男が沙奈の元(?)彼氏の
 高橋陽太だと気が付いた。

 1年前の同窓会には欠席だったが、
 確かこの男は星蘭大の政経を主席で卒業し
 大手広告代理店に入社したと聞いた。
 そんな男が何故……エリートの見る影もないくらい
 ヨレヨレの姿になっているのか……。


「帰るぞ」


 と、高橋は倫太朗の腕から沙奈の腕を離した。


「やだぁ。あたしは倫太朗と浮気するんだからぁっ!」


 (浮気ってなぁ……)


「倫、悪かったな。この埋め合わせはいつかするから」

「あぁ、気をつけてな」
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