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とある朝 ②
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エディは、いつものように別邸を後にし、
我が居城であるカーライル城の研究室に向かって
歩を進めた。
リーフと過ごしたこの休日は、
思いがけず楽しいものだった。
遠い異国から届く海風にそよぐ黄金にも似た
亜麻色の髪。
色白の少し汗ばんだ艶っぽい首元。
あの項に吸い付いたらどんな味がするの
だろうか ――
そう考えると体が強張り自然と力が入った。
以前の自分なら微塵の躊躇もなく、速攻で
この旨そうな果実を味見していただろう。
が、いくらリーフが魅力的で、
どんなに淫らな想像を掻き立てたとしても、
今のエディにリーフを男として接し口説き落とす、
なんて勇気はまるでないのだ。
そんな早まった事をして万が一、彼女にフラレたら
と、考えると、溜りにたまった欲望は自分で
処理した方がいい、という事になる。
エディはそんな自分に苦笑して脳裏から
リーフの可愛らしい顔を拭い去ると、
勝手知ったる回廊の突き当たり右側の部屋の扉を
開いた。
そこはエディ専用の実験・研究設備の他に
寝泊まりも出来るようにベッドや簡単なテーブル
セットなども置かれている。
すると彼がこの部屋に入るのを待ち構えていたか
のように、片隅のカウチソファーに座っていた
銀髪の美しい女が微笑みながら近づいてきた。
「おはよ。お兄様」
「キャス、お前か…」
キャスと呼ばれた女はエディの隣に寄ると、
爪先立ってその頬にちゅっとピンク色の
唇を寄せた。
「昨日たまたまアカデミーで見かけたけど、
とっても可愛らしいお嬢さんね」
「…………」
エディは何も答えずに服をバサバサと脱ぎ捨てると
研究用のスクラブ白衣に着替える。
「ところで今度の彼女はちゃんと仕事をしてくれる
かしら? 今までのようにまるで脳なしじゃなければ
いいのだけれど」
「言ったろ? キャス、お前はこの件にもう口は
出すな。俺に任せていれば良い。分かったらさっさと
自分の部屋に戻れ」
「あら、だって、お兄様がこのままだったら、叔父上に
王位を奪われちゃうんですのよ? お兄様に近しい
母上や私、古株の家臣達は良くて幽閉。
運が悪けりゃ永久島流しか処刑。最早お兄様だけの
問題ではないの」
「そんな事は絶対させない。たとえ俺の病が
治らなくともだ。お前は未だ古(いにしえ)の
言い伝えを信じているようが、俺は ――」
「お兄様、それ以上はおっしゃらないで。
……もし、今回もダメだったらと思うと
堪らなく胸が苦しくなるの」
「……すまない。自分のエゴだけ主張してしまった」
「いいえ、かまわないわ。お兄様が愚痴を溢せるのは
このキャサリンくらいですもの」
キャサリンは兄が何故か珍しくイラついているのを
少し不審に思いながらも肩を竦ませ、
部屋を出て行った。
双子の妹・キャサリンが出て行ったのを
確認すると、今さらながら自分の不甲斐なさに
情けなくて重苦しいため息を吐いた。
キャスと自分は双子ではあるが二卵性のため、
似ているのは漆黒の髪と碧眼だけだった。
”生命の灯火”の呪いが解ける唯一の乙女が
異界に御座(おわ)す” という、古い言い伝え
から、先読みの力を駆使してリーフの居場所を
割り出し、彼女が水の近くへ接近するよう
お膳立てをし、半ば無理矢理リーフをこの国へ
呼び寄せたのがキャスだ。
ったく、これでリーフも人違いだったら
とんだ笑い話だな。
我が身に降り掛かった悪しき呪いを解く
唯一の方法……。
くそっ ―― んっとにどうすりゃいいんだ。
今のところ呪いの事実を知るのは、
母・キャス・ベネット・宰相のテイラー、だけで。
他の家臣達には、俺が少年の姿でいるのは
単なる酔狂だと思われているようだ。
しかし問題の解決が長引けばキャスも言ったよう、
いずれ叔父に秘密を知られ失脚されかねない。
そうさせない為にこの呪いを解く唯一の
方法が、少年の姿の俺が彼女・リーフを抱き、
彼女のナカへその御印(みしるし)を注ぎ込め、
というのだが……。
(要するに、リーフとナマでヤッて中出ししろ
って事だ)
俺の事、弟か後輩くらいにしか考えてない
女の事、いきなり押し倒せるワケないじゃん。
エディはともすれば、容易く折れてしまいそうな
心を奮い立たせるよう。
鏡に映った気弱そうな自分をじっと見つめた。
その鏡の中にだけ、本来の、
フォン・カーライル卿エドワード、25才が
映し出されている。
我が居城であるカーライル城の研究室に向かって
歩を進めた。
リーフと過ごしたこの休日は、
思いがけず楽しいものだった。
遠い異国から届く海風にそよぐ黄金にも似た
亜麻色の髪。
色白の少し汗ばんだ艶っぽい首元。
あの項に吸い付いたらどんな味がするの
だろうか ――
そう考えると体が強張り自然と力が入った。
以前の自分なら微塵の躊躇もなく、速攻で
この旨そうな果実を味見していただろう。
が、いくらリーフが魅力的で、
どんなに淫らな想像を掻き立てたとしても、
今のエディにリーフを男として接し口説き落とす、
なんて勇気はまるでないのだ。
そんな早まった事をして万が一、彼女にフラレたら
と、考えると、溜りにたまった欲望は自分で
処理した方がいい、という事になる。
エディはそんな自分に苦笑して脳裏から
リーフの可愛らしい顔を拭い去ると、
勝手知ったる回廊の突き当たり右側の部屋の扉を
開いた。
そこはエディ専用の実験・研究設備の他に
寝泊まりも出来るようにベッドや簡単なテーブル
セットなども置かれている。
すると彼がこの部屋に入るのを待ち構えていたか
のように、片隅のカウチソファーに座っていた
銀髪の美しい女が微笑みながら近づいてきた。
「おはよ。お兄様」
「キャス、お前か…」
キャスと呼ばれた女はエディの隣に寄ると、
爪先立ってその頬にちゅっとピンク色の
唇を寄せた。
「昨日たまたまアカデミーで見かけたけど、
とっても可愛らしいお嬢さんね」
「…………」
エディは何も答えずに服をバサバサと脱ぎ捨てると
研究用のスクラブ白衣に着替える。
「ところで今度の彼女はちゃんと仕事をしてくれる
かしら? 今までのようにまるで脳なしじゃなければ
いいのだけれど」
「言ったろ? キャス、お前はこの件にもう口は
出すな。俺に任せていれば良い。分かったらさっさと
自分の部屋に戻れ」
「あら、だって、お兄様がこのままだったら、叔父上に
王位を奪われちゃうんですのよ? お兄様に近しい
母上や私、古株の家臣達は良くて幽閉。
運が悪けりゃ永久島流しか処刑。最早お兄様だけの
問題ではないの」
「そんな事は絶対させない。たとえ俺の病が
治らなくともだ。お前は未だ古(いにしえ)の
言い伝えを信じているようが、俺は ――」
「お兄様、それ以上はおっしゃらないで。
……もし、今回もダメだったらと思うと
堪らなく胸が苦しくなるの」
「……すまない。自分のエゴだけ主張してしまった」
「いいえ、かまわないわ。お兄様が愚痴を溢せるのは
このキャサリンくらいですもの」
キャサリンは兄が何故か珍しくイラついているのを
少し不審に思いながらも肩を竦ませ、
部屋を出て行った。
双子の妹・キャサリンが出て行ったのを
確認すると、今さらながら自分の不甲斐なさに
情けなくて重苦しいため息を吐いた。
キャスと自分は双子ではあるが二卵性のため、
似ているのは漆黒の髪と碧眼だけだった。
”生命の灯火”の呪いが解ける唯一の乙女が
異界に御座(おわ)す” という、古い言い伝え
から、先読みの力を駆使してリーフの居場所を
割り出し、彼女が水の近くへ接近するよう
お膳立てをし、半ば無理矢理リーフをこの国へ
呼び寄せたのがキャスだ。
ったく、これでリーフも人違いだったら
とんだ笑い話だな。
我が身に降り掛かった悪しき呪いを解く
唯一の方法……。
くそっ ―― んっとにどうすりゃいいんだ。
今のところ呪いの事実を知るのは、
母・キャス・ベネット・宰相のテイラー、だけで。
他の家臣達には、俺が少年の姿でいるのは
単なる酔狂だと思われているようだ。
しかし問題の解決が長引けばキャスも言ったよう、
いずれ叔父に秘密を知られ失脚されかねない。
そうさせない為にこの呪いを解く唯一の
方法が、少年の姿の俺が彼女・リーフを抱き、
彼女のナカへその御印(みしるし)を注ぎ込め、
というのだが……。
(要するに、リーフとナマでヤッて中出ししろ
って事だ)
俺の事、弟か後輩くらいにしか考えてない
女の事、いきなり押し倒せるワケないじゃん。
エディはともすれば、容易く折れてしまいそうな
心を奮い立たせるよう。
鏡に映った気弱そうな自分をじっと見つめた。
その鏡の中にだけ、本来の、
フォン・カーライル卿エドワード、25才が
映し出されている。
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