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瓢箪(ひょうたん)から駒
しおりを挟む創業 昭和22年、料亭 祇園・華川。
4世代続く、京懐石の超人気店。
―― ここが、お見合いの舞台となる。
”スコーン!”
鹿威しの突き抜けた音が、
否が応でもその席の緊張度を上げていく。
窮屈この上ない振り袖を着せられ ――、
おまけに慣れぬ化粧を施されて、
和巴は不機嫌の極みだった。
隣に座った叔母・妙子も一張羅に身を包んでいて、
まるで自分の見合いのような緊張ぶりだ。
「有名企業の幹部だか、成功してる実業家だか
知らんけど、わざわざこんな高級店で見合いなんて
あからさますぎよね」
「まぁ! 和ちゃんったら、なんて事を……」
やがて廊下に人の気配 ――、
『お連れ様がお着きになりました』
「いい? 和ちゃん、お淑やかにね?」
「はぁ~い……」
そして、ススゥーっと障子が開かれ、
女将直々の案内で現れた、その男(宇佐見)を
見て、和巴は妙子からの”お淑やかに”なんて
言葉はキレイさっぱり忘れ去った。
先方の付き添い人はこの縁談を仲介した
西園寺婦人。
妙子とは10年来の生け花友達だ。
「―― お待たせしました。早速ですが、こちらが
先日ご紹介した、宇佐見匡煌さんです」
「宇佐見です。初めまして宜しく」
「まぁ ―― こちらこそ~。ほら、和巴、なに
ぼや~っとしてるのよ、きちんとご挨拶なさいっ」
(なにが ”初めまして~”よ)
「和巴っ」
「……ども、小鳥遊 かずはでーす」
と、言いつつVサイン。
(ま、確かに、あの容姿と精力漲るアソコは、
”ワンナイト・ラブ”で終わらせるには惜しい!
って思ったけど……)
婦人と妙子がとりとめのない世間話しに
花を咲かせている間、お見合いの2人は
時々 『ご趣味は ――』とか、
『お好きな食べ物は ――』とか、
大して興味もなさそうな事を聞き合っている
程度で
全く会話は弾まず……、
目の前に展開されていたお料理が
やっとデザートになった頃。
こういった席での定石なのか?
”後は、お若いお2人で ――” なんて
2人を庭方面へ追い立てた。
※
外へ出た事でさっきの気まずいムードからは
逃れたが、それで和巴の気分が好転したワケ
ではなく
和巴は”あぁ、早く終わんないかなぁ”と、
そればかりを考えていた。
「……もういい加減、ご機嫌直して頂けませんか?
和巴お嬢様」
宇佐見のそんな人を食ったような口調が、
余計に和巴の機嫌を損ねる。
「べ、別に私は不機嫌なんかじゃないですけどー」
宇佐見は”プッ”と、小さく噴き出した。
「嘘ばっか……和ちゃんってば、考えてる事は割りかし
すぐ顔に出るタイプでしょ~」
「お、大きなお世話ですっ。そんな事より、もしかして
私の事調べました?」
「は?」
「だって、あんな偶然出来過ぎてます。実際の
お見合いで顔を合わせる前にバーで鉢合わせて、
しかも ――」
和巴は、日向の店で宇佐見との激しい交わりを
思い出してしまい赤面、言葉を止めた。
「……しかも?」
「いえ、何でもありません」
「いきなり初対面でセッ*スまでしちゃって?」
「!!なっ ――」
「アハハハ ―― 照れてる和ちゃんもめっちゃ
エロいな」
「……」
「ね、知りたい?」
「はい?」
「俺がー、キミの事を事前に調べたか? どうか」
「も、どうでもいいです」
そう。どうでもいい。
この男とは、この場限りの付き合いだから。
「あーっ。今、どうせ俺とはこの場限りだからって
考えたりせんかった?」
”げっ!” と、目を見開く和巴。
「言っとくけど、俺、キミとの仲をこの場限りに
しようなんてコレっぽちも考えてないから」
(君子危うきに近寄らず。
この男はキケン過ぎるわ……)
「―― って事でぇ」
と、自分の下半身の昂ぶりへ和巴の手を導いた。
「ぎゃっ! 何すんのよっ! この変態」
「お前が傍にいるだけでこんなになっちまった、
なぁ、責任取れよ」
「この料亭、離れの特別室は泊まる事も出来るそうよ。
デリヘルでも呼んだら?」
「実はさー、お前とヤッて以来、お前じゃなきゃ
勃たねぇんだ」
「あ~ら、そのお年でEDなんて可哀想ー。
さっさとそのスケベったらしい手をどけて」
「嫌だ」
和巴はニッコリ微笑んだ。
「……忠告はしたわよ?」
「あー?」
次の瞬間、和巴は大胆にも着物の裾を
ガバっとたくし上げたと同時に
スッと体を後ろへ引いて、
思い切り宇佐見の股間を蹴っ飛ばした。
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