7年目の本気

NADIA 川上

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第2章 東京編

和巴、ときめく

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「―― もー、ヘトヘトだよぉ……」


 自分にしか聞こえない程度の声で呟きながら、
 エレベーターホール脇の自販機コーナーへ
 ヨロヨロと歩いて行く ――。
  
  
「―― 大丈夫かぁ?」


 突然、後ろから声をかけられた。
  
 振り返ると同時に、こちらでも男性社員人気№1の
 笙野 智之しょうの としゆき課長から缶コーヒーを手渡された。
  
 いつも私が飲んでる銘柄のヤツ……。
  
  
「ま、だいじょぶです」

「あんまし根詰め過ぎてると、
 そのうちパンクしちまうぞ。適度に力を抜け。
 無理すんなよ~」
 
 
 キラキラ笑顔が飛び込んできた。
  
 勤務中のあまり愛想がない時とのギャップが……
 タイミング良すぎて……眩しすぎて……心臓が、
 ドッキン ドッキン 騒ぎ出す……。
  
 こんな時、こんなの反則だよ……。
  
 立ち去っていく彼の後ろ姿を缶コーヒー握りしめ、
 思わずじっと見つめてしまっていた。
  
  
 ***  ***  ***
 
 
「―― さっき、笙野さんから缶コーヒー貰ってた
 でしょ」


 部署へ戻ると早速、お隣の席の長谷川 麻紀が
 ”待ってました!”とばかりに、声をかけてきた。
  
 彼女、年はタメだけど大学は3年でドロップ
 アウトし、お父さんのコネでこの会社に入社した
 ので、一応先輩。
  
  
「うん、貰ったけど」

「クールビューティ・笙野から缶コーヒーって
 凄すぎっ! もしや、社内初の統括お気に入りなんと
 ちゃう?」
 
「んな、大げさな……課長は私のあまりに余裕なさに
 呆れて、見るに見かねただけだよ」
 
「意外と和巴のその超鈍感、ドジっ子ぶりにヤラれた
 のかもよ~」


 やけに楽しそうに、麻紀ちゃんは続ける。
  
  
「けど、くれぐれも気を付けなさいよ? 
 笙野課長狙ってる女子はかなりいるんやから」
 
 
 出たっ! これが社内スキャンダルってやつ?
  
  
「うん、ありがと麻紀ちゃん」


 麻紀ちゃんからの忠告を頭の中にとどめていたのは
 ほんの束の間。
 すぐに私は目の前の仕事に忙殺されいっぱい
 いっぱいになっていった。
  
  
 ***  ***  ***
 
 
「お疲れぇ、和巴ぁ」

「あ、お疲れ様ぁ」


 就業後、ロッカールームで同期入社の
 通称”ノン” こと金城法子かねしろ のりこと一緒になった。
 いつもは入ってるシフトが別々なので、
 こうして顔を合わせたのは久しぶり。
  
 ノンは営業課推進部に所属している。
  

「仕事はどう? 上手くいってる?」

「ん、まぁ ―― ボチボチと、ね。ノンはどうよ?」

「結構イイ男が多くてさ、
 どの人のお誘いを受けるかで、毎日困ってる」
 
「アハハハ……」


 ノンらしい。
  
  
「そうなんだぁ……ノンはめっちゃモテそだもんね」

「今頃になって学生時代の反動が出たのかも」

  
 小学校から短大まで一貫教育の女子校だった、という
 ノンは苦笑い。
  
 けど、何かと観察眼の厳しい同性から熱烈な支持を
 得られたって事は、それだけ異性にも好感を
 持たれ易いって事なのかも、と、思った。   
 
 
「いよいよ明後日は営業会議だね~。各支社からの
 営業さんも集まるから、すっごく楽しみぃ」
 
「だねー」

「和巴はどうなのよっ。うちの部の足立さんとか
 北見さんとか1度一緒に食事がしたいって
 言ってたよ」
 
「ん、今んとこ仕事だけで手一杯やから、
 落ち着いたら考えてみる」

「んな事いってると、あっという間にお局様よぉ。
 ま、和巴がそうなる前にこの私がイケメン探し
 といてあげるからまっかせなさぁい」
 
「あ、う ―― うん、その時はよろしゅう……」


 この勢い、ついていけんわ……。
  
 とは言え、ノンらしい生き方に、
 ほんの少し共感を覚えた。
  
 さぁて、明日も頑張らなきゃ。
   
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