7年目の本気

NADIA 川上

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第2章 東京編

『ジゼル』記者会見

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 一番の気がかりだったゲネプロも無事終わり。
 
 前日のスチール写真及びポスター撮影に続き、
 今日はWDCの玄関エントランスホールで
 記者会見だ。

 今日の会見に出るシゼルのメインダンサー3人と
 会見で進行役を務める宗方は、
 控室となっている事務局で静かにその時を待つ。


 ホールの一隅に設置された特設席前には
 既に大勢の報道陣が詰めかけている。

 ちょうどその裏側にある事務局から
 宗方が現れると、
 一斉にカメラフラッシュが光り、
 記者たちの後方にずらりと並んでスタンバイ
 していたカメラマン達も、テレビカメラの
 スイッチオンで宗方の姿を追う。

 宗方は全部で4席ある特設席の最端に座り、
 テーブル上の卓上マイクを通して報道陣達へ
 呼びかける。

  
「―― 皆様、本日はお忙しい中お越し下さり
 誠に有り難うございます。早速ですが11月9日
 初日を迎える覇王映画社創立記念公演 
 ミュージカル”ジゼル ”の主役を踊る3名の
 ダンサーを紹介させて頂きます」


 九条、薫、そして、藍子が、
 事務局から出てきてその順番で着席する。


「まず、皆様方より向かって右に着席しております
 のが、メインでジゼルを踊る浅霧薫」


 薫、立ち上がって堂々とした貫禄で
 報道陣へ向かってお辞儀する。


「次にその隣、Wキャストでジゼルを踊る
 神宮寺藍子」


 薫と入れ違いで立ち上がった藍子は、
 こういった状況には場慣れしているが
 コチコチに緊張し、笑顔もぎこちない。

 それに、Wキャストがジゼル役の方だと
 この時初めて知らされた報道陣達は
 驚きでざわつきがなかなか収まらない。


「――アルブレヒト、九条勇人」


 やはり、九条の存在感は他2名――薫・
 藍子をも遥かに圧倒しており、
 それまでざわついていた報道陣達も
 無言の眼力で鎮まらせてしまった。


 藍子、薫、九条、
 個別及び3人揃っての記念撮影会の後。

 いよいよ報道陣達お待ちかねの質疑応答
 (Q&A)タイム。



「――月刊<プレステージ>の田中と申します。
 まず初めに、今回に限り初日間近に主役を
 Wキャストにされた意図をお聞かせ下さい」

「本番、2人のジゼルをご覧頂ければよくご理解
 頂けると存じます」

「――週刊<パートナー>西川です。
 浅霧薫さんにお尋ねします。一部情報通の間
 ではあなたが今回の配役に関して不平たらたらだと
 言われていますが?」

「とんでもない。とてもいい刺激になりますし、
 演劇業界に於きましても実力のある新人さんに
 活躍の場を与えるのはとても有意義な事でしょ」

「週刊<スポットライト>真加部です――神宮寺さん、
 初舞台でいきなりの主役、Wキャストといっても
 さぞプレッシャーがおありと思いますが、今の
 ご心境はいかがですか?」

「はい……でも、宗方監督のステージへ立つ事は
 幼い頃からの夢だったので、共演の皆さんの足を
 引っ張る事のないよう頑張ります」


  <パートナー>の西川が再び質問。


「我々の事前調査で、そちらにおられる共演者の
 九条さんとかなり親密なご関係がおありとか――」


 うんざりとした表情で宗方が答える。


「その件に関しましては――」


 さらにそれを九条が遮って、最も報道陣達が
 待っている答えを出す。


「付き合ってます」


 一同がどよめいたと同じく、
 渋顔の宗方としれっとした表情の九条の視線が
 一瞬絡んだ。

 それから後は、藍子と九条が中心で
 カメラフラッシュの餌食となり、
 2人の親密交際に関してテレビのワイドショー
 並みの、かなりプライバシーに迫った
 きわどい質問が相次ぎ。

 さすがに閉口した宗方がほぼ強引に、
 混乱のまま会見を終了させた。



 そんな記者会見を舞台端で見守っていた和巴は
 九条の”付き合ってます”発言の辺りから
 会場後方に現れた利沙の姿が気になって。
 
 大混乱にはなってしまったが、
 事務局内へ戻ってきた4人にお茶を出すと、
 急いで利沙の元へ向かった。
 
 
「何かあった?」

「あったどころじゃないわよ。とにかく付いて来て」 
 

 そう言った利沙に付いて行った所は ――
 2階の談話室。
 
 片隅のテレビで映されている
 見慣れた建物の映像が飛び込んできて、
 2人の視線はテレビの画面へ引きつけられた。
  
 今、そのテレビで放送されているのは、
 昼のニュース。
  
 株式会社”世良不動産”特別背任事件の
 主犯として、25日未明 ”世良不動産”
 営業部勤務の世良忍(23才)が逮捕された、
 というニュースが報じられている。

 レポーターが熱っぽい口調でまくし立てる
 事件の概要はこんな感じだ ――


 ”一昨年、世良不動産が世田谷にある骨董品店
  『松緑堂』から時価の約3倍の値段で焼き物や
  掛け軸など数点を購入、その際、世良不動産側の
  取引き責任者だった世良忍容疑者は不正な取引き
  の見返りとして骨董品店から1千万円を受け取って
  いた”

  
 現場から生中継のレポーターの背後に映っている
 会社も世良の自宅も、薄いモザイクがかけられて
 いるが良く見知った人間には一目瞭然だった。
  
 それを見た瞬間、何かの不安に駆られた和巴は
 階段へ小走りに向かった。 
 
 
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