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41 懇親会 ②

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「――Yo(よお)勇人」

「おぉ、時継お前も来てたのか」


 三上さんの事を”勇人”と、下の名前で呼び捨てにした人物は、年の頃なら三上さんと同年代位、スラっと背が高くて、そのスタイルに仕立ての良い上品なスーツが似合いの男性。

 三上さんから”時継”と、親し気に呼ばれたその男性は三上さんと挨拶代わりの軽いハグと握手を交わし、私を見た。


「―― 彼女がうわさの?」

「ああ、和泉絢音だ ―― あや? 俺の従兄弟で蛯沢 時継えびさわ ときつぐ

「初めまして、和泉です」

「八木さんから話しには聞いていたけど、ホント可愛らしいって表現がしっくりくる子だね」


 うそっ! 私 褒められてるっぽい?


「勇人にはもったいない ―― 和泉さん? 勇人のお守りは骨が折れるでしょう」


 その言い方があまりにも実感がこもっていて、私は思わずプッと小さく吹き出した。
 
  
「時継、あまり余計な事は吹き込むなよ」


 って、拗ねたように頬を赤らめた三上さんも何だかお茶目。

 トゥルルル~~、三上さんのスーツの内ポケットから優しいオルゴールの音色。

 三上さんは”ちょっと失礼”と、そのポケットから出したスマホの対応をしながら人気の少ない方へ行ってしまった。

 で、しばし私は初対面の蛯沢さんと2人きりに。

 こんな形で初対面の人と急に2人きりにされてしまうと、緊張で何を話したらいいか分からない。

 そう、三上さんと初めて食事した時のよう……。

 すると意外なことに、気まずかったのは蛯沢さんも同じだったようで、急に思い出したようスーツの胸ポケットから取り出したカードホルダーから1枚の名刺を抜き取って私へ差し出した。


「申し遅れましたが、私こういう者です――」


 その名刺に記載されている会社名と蛯沢さんの肩書(役職)を見た私は、カオが一瞬フリーズした。

 ?!へっ……オアシスグループ??

 しかもこのお若さで本部長なんて……す、凄すぎる。

 素直に驚いて、頭の中へ浮かんだ言葉をそのまま口に出してた。


「―― 凄っごぉい、本物のビジネスエリート……」

『クッ――クククク……っ』


 私の庶民的つぶやきに、ちょっと恥ずかしそうに蛯沢さんは苦笑した。


「あっ、す、すみません、わたしったらつい……」

「いいや、いいんだよ。でも、そう凄くはないんだ。ほとんど家業のようなものだから」

「家業?」

「曽祖父が創業者で今現在の経営者は伯父なんだ」

「じゃ、その蛯沢さんと従兄弟って事はあの、三上さんって……」

「ああ、勇人の父親がグループのトップだ」


 ひぇ~~っ、知らなかったぁ……あの人ってそんなお坊ちゃんだったの!


「本来なら勇人が跡継ぎなんだが故あって10代の後半で実家から飛び出してしまってね、で、急遽私に白羽の矢が立てられたってわけ」


 そこで三上さんが戻ってきて、蛯沢さんと私の話しは中断した。


「2人してなぁに熱心に話し込んでたんだぁ?」


 ?! ギクゥッ――


「なぁに、他愛もない世間話さ。あ、そうそう、チーズが結構旨いよって
 和泉さんへもお薦めしてたとこ。今日のパーティー、プロデュースは勇人が任されたんだって?」

「あぁ、まぁな」


 へぇ、そうだったんだぁ。


「道理で、ワインとおつまみのセレクトがイイと思った」

「毎度ホテルのケータリングじゃ味気なさすぎるだろ」
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