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51 ルームツアー? 箱入り娘の暴走 ②

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「ねぇ、早くしてよー」


 藍子が有利を振り返る。


「あ、あぁ……すまん」


 ホックを見ないように顔を背けて瞼を閉じて、恐る恐る手を伸ばし何とかファスナーを上げきった!

 チラ見だが、藍子の背中はすんごいキレイだ!

 やばい!やばい やばい! 息子よ、どうか耐えてくれ。


「飲み物きたし、リビングに戻ろう」


 バスルームを先に出ようとする有利に藍子が、


「有利の分もあるのよ」

「へ?」


 嬉しそうにクローゼットへ向かう。


「男子って言ったら、やっぱ学ランでしょ」


 コレって、あたらしいごっこ遊び?


「どうしても着ないとダメ?」

「私がお願いって、頼んだらー?」


 あぁ ―― 参った、いつの間に有利はこんなにも藍子が大好きになってしまったんだ?

 彼女が望む事なら、出来る限り叶えてやりたい。


 しかし、藍子のセーラー服姿が似合いすぎて……鼻血が出そうだ……。

 藍子から視線を外し、言われた通りに学ランを着た。


「うわぁ ―― 凄い。まるで、あなたにあつらえたみたい」


 そう言った藍子の言葉に、自分自身も驚いていた。

 既製服にしてはサイズぴったりで、ほんと有利にあつらえたみたいだったから。


「どう? 似合う?」


 ノセられ易いアホな有利は嬉しそうに笑ってしまったが、気を取り直して藍子をソファーへ座らせ、アイスコーヒーを手渡す。


「それを飲んだら出ようか。そろそろ、レイトショーの開演時間だろ?」

「……有利はそんなにここを早く出たいの?」


 藍子が急に哀しそうに瞳を翳らせ有利を見る。


「あぁ、そうだ。早く出よう」

「どうして?」

「どうしてって……」

「変な気分になるから? 私は構わないのよ? 付き合う始めあなたに言った通り、私は……」

「それは絶対にしないって言っただろ」

「私の事が嫌い?」

「大好きだよ」

「じゃあ抱いて」

「それは出来ない」

「どうして? 私に婚約者がいるから? だから抱いてくれないの? ダメなの? やっぱり私の事が嫌いなんだ……」


 藍子が有利に抱きついてきた。

 でも有利は、藍子を抱きしめ返す事は出来なかった。


「……んなワケねぇだろ……あいは……男の ―― 雄の本性を知らなさ過ぎる。男ってのは、1度喰らい出したが最後、とことん喰らい尽くすまで止められない、俗物なんだ」

「それでも私は、あなた ―― 成瀬真守になら、初めてをあげてもいいと、抱いて欲しいって思ったの……大好きよ、有利」


 このコスプレセーラー服は超薄々デザインで、下着のシルエットが物凄く露骨に見える。

 それを証拠に愛のふくよかな胸の感触がシャツ越しにはっきり伝わってくる。

 う”、うわぁ……や、やばい……息子が……。緊急事態!!
 

「私は有利が好き。だから抱かれたい」


 ソファーの上で有利の身体を倒して、耳たぶを噛んだ!

 そんな事、一体どこで覚えたんだ?!


「やめろって、藍子っ」


 最後の理性で突っぱねる。


「どうして?」


 耳元で囁く藍子の吐息がかかり、身体がゾクリと鳥肌を立てる。


「気持ちいいんでしょ?」


 また耳元で囁いた!
 身体を離そうとするが、がっちりと抱きついてきている藍子はビクともしない!


「頼む、離れてくれ藍子……っ」

「いや……」

「藍子!」


 何とか引き剥がして、座り直した。


「出よう」


 自分が限界だ!
 

「いや」


 頑として譲らない藍子はソファーに座って憮然と有利を見上げる。


「いい加減にしないと本気で怒るぞ」


 やがて泣き出してしまった藍子の頭を撫で宥めようとしたけど、それだけでは身体の震えまで止められない。

 仕方なく有利は藍子を抱きしめた。

 藍子も、有利に縋り付くよう泣いている。

 もっと強く抱きしめたい……

 でも、そんな事をしたら、自分の感情を抑えられなくなるのが分かる。
  
 昔っからの許嫁か、何だか知らねぇが、
 都村晴彦って野朗はピッツバーグでもニューヨークでも知らぬ者がいないって程の女っタラしだ。
 そんな野郎と結婚しても、幸せになんかなれっこないなのに!

 あの男が必要としているのは、おそらく……衆議院議員・二階堂絹子の後ろ盾だけ。

 要は、権力者の子孫なら誰だって構わないのだ。

 こんなに近くに……自分の腕の中に居るのに。
 彼女の存在が遠い。

 遠すぎて、もっと近くに藍子を感じたくて、有利は抱きしめる腕に力を込めた。

 彼女の身体が痙攣した事で、我に返る。


「少しは落ち着いた?」


 有利は声をかけ、身体を離す。


「ごめんなさい、泣いたりして……」


 藍子はハンカチで涙を拭いた。


「もう、大丈夫」


 そして、有利を見て笑った。

 その笑顔に ―― 心臓を直撃された……


「……有利?」


 藍子が有利の目じっと見つめる。

 有利はその目から、視線が外せない……藍子は俺を不思議そうに見ている。

 駄目だ……見つめ返しては駄目だ。

 でも……恥ずかしくても、怖くても、必死にアプローチしてくる。
 そんな藍子がものすごく愛おしい。


「……エッチしよ? 有利」


 そのひと言で、有利のか弱い理性は粉微塵にぶっ飛んだ。

 男の見栄で、やっぱ初めては横浜とか神戸辺りの夜景が抜群に綺麗なホテルでしたかったが、こうも可愛い彼女に煽られたのでは、見栄なんかどうでもよくなった。

 2人とも無我夢中で抱きしめ合い、深く口づけを重ね合った。

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