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71 三上、倒れる
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「…………はやと?……おい、勇人!」
「ン……んン……どし、た?」
「どした? じゃねぇよ。お前、かなりうなされとったぞ」
俺が、か――?
「……あ、そーいやぁ、夢、見てたような……」
夢?――今、見てたんは夢やったんか?
ほんまに?
瞼が開かない。頭が重くて、ようけ回らん。
気持ち悪い……。
「―― うっ」
「マオ、車止めろ!」
運転しているマオ=浜尾に日向英明が声を張り上げ車を路肩へ停めさせ。
三上が車外へ転がるように降り立ったと同時に、自分も外へと飛び出した。
背後から勇人の体を支える。
う、ううっ……しんど……。
「飲み込むな! 吐き出せ」
ぐふっ――ゲホッゲホッ。
吐き出したのは真っ赤な鮮血。
「せ、専務……」
車内から事の成り行きを凝視しているマオは顔面蒼白だ。
「なんじゃこりゃ!? 血ぃやないか」
「うっせえ、耳元で騒ぐな。若いもんがビビっちまってるじゃねぇか」
ゴボッ。
再び、咳と一緒に吐き出した。
「マオ、このまま親父のとこへ行くぞ。大至急だ」
「んなの、大した事ねぇ」
「バカヤロ、喋るな」
「てめぇは騒ぐな」
三上を半ば抱えるようにして車内へ戻ったヒデが叫ぶ。
「マオ、早く親父のとこへ向かえ」
頭が重い。
めっちゃ気持ち悪い……。
ハラん中が燃えるように熱い。
絢音の夢を見た。
思い出したくもない夢。
胸が張り裂ける残像が未だ脳裏にこびり付いてる。
グニャリと歪んだ白い空間にまだ気持ちは囚われている。
「……マオ、屋敷へ帰る」
「はぁっ?? お前気ぃでもちがったんか」
「頼む。屋敷へ、行ってくれ」
「血ぃ吐いてんのやで、このまま帰れるかっての」
「頼む」
「――ちっ」
舌打ちしたヒデが険しい顔を正面へ向けた。
「――マオ、親父には屋敷へすぐ来いと伝えろ」
「へい」
*にウインカーを出し、大通りから脇道へ逸れながら携帯で八木へ連絡を取った。
*** *** ***
マンションへ着くと、八木が待ち構えていたように飛び出してきてドアを開けた。
「専務っ」
「絢音は? 絢音は何処におる?」
「彼女ならまだ会社ですが」
「……俺が迎えに行く」
「しかし……その恰好で、ですか?」
八木が眉をひそめ、そしてため息をついた。
「どうせ、お止めしてもお出でになるんでしょうから止めません。ただ、その服で行くのはやめた方がよろしいと思います。襟と袖口に血が付いてます。絢音さんが気付かぬハズはありませんから」
「……」
「絢音さんの事を気にしているんですね」
「……」
「彼女を迎えに行ってきたら、日向先生の診察を受けて頂きますよ?」
「あぁ、分かった」
ヒデも八木も充分承知している。
三上が優先すべきものが絢音だという事に。
少し動くとハラの中の熱が沸き上がってくる。
「ぐっ――」
「専務……」
ゴホッ。
競り上がってきたもんをまた吐き出した。
グラリと傾いた体を八木が支えて苦笑いした。
「そのようなお体でも、まずは絢音さんですか?」
「ああ」
口許の血を手の甲で拭った。
夢が……ただの夢であったとこの目で確かめるまでは。
美しい碧眼の瞳が俺の姿を反射して、柔らかな笑みをうかべるまで。
この目で絢音の無事を確かめるまでは。
「動けば命の保証はしないと、言われたとしてもあなたは絢音さんの所へ行くのでしょうね」
「ああ」
「彼女――絢音さんを、愛しているんですね?」
三上は静かに目を伏せた。
―― あぁ、そうだ。心底あいつにベタ惚れや。
「俺の、大事な女なんや」
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
さっきと同じくマオの運転する車でオアシスエンタテインメント京都本店へ向かう。
社屋の玄関前に車を寄せる前にマオが絢音へ電話を掛けた。
「絢音さんは・・会があるとのことで、あと10分ほどで出てくると思います」
「ああ」
時間が流れるのが遅い。
無事な姿を見るまではと消えそうになる意識を繋ぎ止める。
夢で見たものが現実ではないと確かめたい。
「しっかりせぇ勇人」
「あ、あぁ……大丈夫、や」
背もたれに体を預けて社屋を見上げる。
夏の暑さが厳しくなって日に照り返されて燃えるような社屋。
次々と帰社する営業帰りらしい社員たち。
「専務」
「絢音……」
.
社屋から出てきた絢音はスクールバックを右手に持ち、その隣には最近絢音に急接近して来たという先輩男子社員の姿が当然のようにあった。
「あいつ」
ヒデが舌打ちをする。
2人の並んでいる姿など見たくないのに現実は残酷だ。
それでも2人から目が離せない。
いつもと変わらない絢音の表情。
見たものは夢幻だった。
そう安堵したはずなのに、絢音の隣に当然のように立つ他の男を見たら、また息苦しさが込み上げた。
「うっ」
「専務、大丈夫ですか?」
「こんくらい、なんちゃねぇ」
熱く込み上げる塊を飲み下して息を整える。
「またあいつか」
ちっ、
「ヒデさん」
面白くない顔をしたヒデが舌打ちしマオが諌めた。
社屋から2人並んで歩いてきて、目の前で先輩男子社員に手を振った絢音が
マオが開けたドアから乗り込んで来た。
ちら。
窓の外は挑戦的な瞳がある。
「車を出せ」
長居は無用だ。
絢音の無事を……と、気張っていた勇人はその絢音の無事を確認した途端、絢音の体へ凭れるようにして意識を失った。
「ン……んン……どし、た?」
「どした? じゃねぇよ。お前、かなりうなされとったぞ」
俺が、か――?
「……あ、そーいやぁ、夢、見てたような……」
夢?――今、見てたんは夢やったんか?
ほんまに?
瞼が開かない。頭が重くて、ようけ回らん。
気持ち悪い……。
「―― うっ」
「マオ、車止めろ!」
運転しているマオ=浜尾に日向英明が声を張り上げ車を路肩へ停めさせ。
三上が車外へ転がるように降り立ったと同時に、自分も外へと飛び出した。
背後から勇人の体を支える。
う、ううっ……しんど……。
「飲み込むな! 吐き出せ」
ぐふっ――ゲホッゲホッ。
吐き出したのは真っ赤な鮮血。
「せ、専務……」
車内から事の成り行きを凝視しているマオは顔面蒼白だ。
「なんじゃこりゃ!? 血ぃやないか」
「うっせえ、耳元で騒ぐな。若いもんがビビっちまってるじゃねぇか」
ゴボッ。
再び、咳と一緒に吐き出した。
「マオ、このまま親父のとこへ行くぞ。大至急だ」
「んなの、大した事ねぇ」
「バカヤロ、喋るな」
「てめぇは騒ぐな」
三上を半ば抱えるようにして車内へ戻ったヒデが叫ぶ。
「マオ、早く親父のとこへ向かえ」
頭が重い。
めっちゃ気持ち悪い……。
ハラん中が燃えるように熱い。
絢音の夢を見た。
思い出したくもない夢。
胸が張り裂ける残像が未だ脳裏にこびり付いてる。
グニャリと歪んだ白い空間にまだ気持ちは囚われている。
「……マオ、屋敷へ帰る」
「はぁっ?? お前気ぃでもちがったんか」
「頼む。屋敷へ、行ってくれ」
「血ぃ吐いてんのやで、このまま帰れるかっての」
「頼む」
「――ちっ」
舌打ちしたヒデが険しい顔を正面へ向けた。
「――マオ、親父には屋敷へすぐ来いと伝えろ」
「へい」
*にウインカーを出し、大通りから脇道へ逸れながら携帯で八木へ連絡を取った。
*** *** ***
マンションへ着くと、八木が待ち構えていたように飛び出してきてドアを開けた。
「専務っ」
「絢音は? 絢音は何処におる?」
「彼女ならまだ会社ですが」
「……俺が迎えに行く」
「しかし……その恰好で、ですか?」
八木が眉をひそめ、そしてため息をついた。
「どうせ、お止めしてもお出でになるんでしょうから止めません。ただ、その服で行くのはやめた方がよろしいと思います。襟と袖口に血が付いてます。絢音さんが気付かぬハズはありませんから」
「……」
「絢音さんの事を気にしているんですね」
「……」
「彼女を迎えに行ってきたら、日向先生の診察を受けて頂きますよ?」
「あぁ、分かった」
ヒデも八木も充分承知している。
三上が優先すべきものが絢音だという事に。
少し動くとハラの中の熱が沸き上がってくる。
「ぐっ――」
「専務……」
ゴホッ。
競り上がってきたもんをまた吐き出した。
グラリと傾いた体を八木が支えて苦笑いした。
「そのようなお体でも、まずは絢音さんですか?」
「ああ」
口許の血を手の甲で拭った。
夢が……ただの夢であったとこの目で確かめるまでは。
美しい碧眼の瞳が俺の姿を反射して、柔らかな笑みをうかべるまで。
この目で絢音の無事を確かめるまでは。
「動けば命の保証はしないと、言われたとしてもあなたは絢音さんの所へ行くのでしょうね」
「ああ」
「彼女――絢音さんを、愛しているんですね?」
三上は静かに目を伏せた。
―― あぁ、そうだ。心底あいつにベタ惚れや。
「俺の、大事な女なんや」
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
さっきと同じくマオの運転する車でオアシスエンタテインメント京都本店へ向かう。
社屋の玄関前に車を寄せる前にマオが絢音へ電話を掛けた。
「絢音さんは・・会があるとのことで、あと10分ほどで出てくると思います」
「ああ」
時間が流れるのが遅い。
無事な姿を見るまではと消えそうになる意識を繋ぎ止める。
夢で見たものが現実ではないと確かめたい。
「しっかりせぇ勇人」
「あ、あぁ……大丈夫、や」
背もたれに体を預けて社屋を見上げる。
夏の暑さが厳しくなって日に照り返されて燃えるような社屋。
次々と帰社する営業帰りらしい社員たち。
「専務」
「絢音……」
.
社屋から出てきた絢音はスクールバックを右手に持ち、その隣には最近絢音に急接近して来たという先輩男子社員の姿が当然のようにあった。
「あいつ」
ヒデが舌打ちをする。
2人の並んでいる姿など見たくないのに現実は残酷だ。
それでも2人から目が離せない。
いつもと変わらない絢音の表情。
見たものは夢幻だった。
そう安堵したはずなのに、絢音の隣に当然のように立つ他の男を見たら、また息苦しさが込み上げた。
「うっ」
「専務、大丈夫ですか?」
「こんくらい、なんちゃねぇ」
熱く込み上げる塊を飲み下して息を整える。
「またあいつか」
ちっ、
「ヒデさん」
面白くない顔をしたヒデが舌打ちしマオが諌めた。
社屋から2人並んで歩いてきて、目の前で先輩男子社員に手を振った絢音が
マオが開けたドアから乗り込んで来た。
ちら。
窓の外は挑戦的な瞳がある。
「車を出せ」
長居は無用だ。
絢音の無事を……と、気張っていた勇人はその絢音の無事を確認した途端、絢音の体へ凭れるようにして意識を失った。
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