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72 ヒデの父親・日向医師の内科医院
しおりを挟む看護師は三上の空になった点滴の薬剤を取り外して、点滴針を抜いた痕に小さなカットバンを貼ると付き添いの絢音に軽く会釈して出て行った。
ここはヒデの父親・日向医師の内科医院。
本来、この病院は完全看護なので付き添いは不要なのだが、自分の為にここまで体を持ち崩した三上を想って、
絢音は看護師長へ無理を言って三上の意識が戻るまでと、付き添いを許可してもらったのだ。
絢音は三上の寝汗でベトついたパジャマを脱がせてお湯を絞ったタオルで汗ばんだ三上の体を丁寧に拭いてやる。
厚い胸板がゼェゼェと上下する。
絢音は三上に新しいパジャマを着せた。
チッチッチッ ―― と時計の音だけが部屋に響く。
少ししては三上のおでこに当てられた熱冷シートを貼り替えた。
「……」
「ん……なに?」
ハァハァと荒く息をつきながら三上はうなされている。
「……あ……や、あ……」
”勇人さん……”
「絢音……」
そう言って掛け布団を握る三上の手を絢音は上からぎゅっと握った。
三上が薄目を開ける。
うっすらと誰かが自分の手を握っていることに気づいた。
「あ……や?」
「なぁに? 勇人さん。私はずっとココにいるから」
三上はほぅーっと息を吐き、安心したように再び眠りにつく。
数時間後ふと三上は目を覚ました。
「そうだ。俺、絢音と……」
三上は自分の手が温かい小さな手に包み込まれていることに気づく。
通勤用の服のまま三上の手を握り椅子に座ってベッドに伏せって眠っている絢音。
三上は握られていない方の手で、そっと絢音の髪を撫でた。
レースのカーテンから優しく注ぐ朝の日差しに包まれ、三上の天使が目を覚ました。
「……オハヨ」
絢音はすぐさま三上のおでこの熱冷シートを剥がして、そのおでこへ自分のおでこをあてがって熱を診た。
「あぁ、良かった、熱、下がったよ」
「そっか、絢音が寝ずの看病してくれたおかげやな。おおきに」
「そんな……寝ずの看病だなんて大袈裟。私にはこんな事くらいしか出来ないから」
絢音の手首へ伸ばした三上の手が、華奢な指に五指を絡めて繋がれ、そのまままだやや青ざめている頬に当てられた。
「絢音……もう少し……ここにいてくれるか? もう少しでええから……」
若さに似合わず、どんな苦境にも臨機応変に対応できる何事にも動じない三上が、どこか弱気になっていることが感じられ、されるがままに、ここにいます、と答えた。
「かんにんな……明日には、ちゃんと元気になるよって……心配、せんで……」
また眠気が襲ってきたのだろうか。
三上は、瞼が自然に下がろうとするままに任せた。
その時、目を閉じた己の唇に、何か、覚えのある柔らかくて甘いものが押し付けられたのを感じて思わずぴくっと反応したが、目を開けることはしなかった。
代わりに、覆いかぶさる頭の後ろに手を回して、もっとと促すように力をこめると、角度を変えてまた唇が重ねられた。
眠気もなりを潜めてしまい、グミのような柔らかな肉を楽しんで、そっと舌を差し入れ、不意に逃げを見せる絢音の舌を絡めとる。
疲労で、体温が下がっているのか、絢音の口腔は、ひどく熱く感じられた。
やがて絢音は、艶めいた吐息とともに、ゆっくりとその唇を離した。
「また、熱が上がっちゃうかも」
「そしたら、また、絢音が癒やしてくれよ」
横たわって点滴をしたままの三上は、片手で器用に絢音を引き寄せ抱きしめた。
「はい。よろこんで」
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